「光貴さん、急に呼び出しなんて珍しいですね~」
「貴様に聞きたい、いや、伝えておきたいことがあってな」
光貴のために用意された執務室にほえるが顔を出す。
昨日行われたマリスセルの戦闘、そこで彼女は単独でアルファタイプとの戦闘をおこなっていた。
「小根墨がその場を離れてから、貴様はたった一人で時間まで戦闘を継続していたな」
「はい、やっぱこの仮面ライダーって強いんだな~って実感しますよね」
「これからの話に仮面ライダーの性能は関係ない。私が気になっているのは、お前のいるところにだけマリスセルが集中していたことだ。言うなら以前からもそうだ…まるでマリスセルがお前に引き寄せられているようだ」
ほえるが押し黙るが、光貴は話を続ける。
「マリスセルの集中と、お前の特質性である人類初のマリスセル抗体保持者である事実、これらに関連があると…私は考えているが」
「…はあ」
「貴様自身、何か思い当たる節はあるか?」
「うーん、なんかパッとは思いつかないですね!」
「そうか」
残念そうな光貴の声にほえるが苦笑いを返す。
「もう戻っていいぞ」
「失礼しましたー」
「一ついいか」
振り向くほえるに、光貴が睨みをきかせる。
「隠し事はするな、貴様のバイタルや戦闘状況は常に確認できる。無論貴様が単独でアルファタイプを殲滅せしめた記録も保存してあるからな」
「…私ウソつけないヒトですからねっ? 北斗ちゃんにも聞いてみてくださいよ、きっと“ほえるは顔に全部書いてある”って言いますよ!?」
あまり似てない北斗の真似に光貴もそうか、と答える他なかった。
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「これありがとう」
北斗がほえるにフェイタルファングを返す。
「北斗ちゃんのお役に立てて何よりだよ~」
「ところでほえる、昨日は鳳さんに何を聞かれたの?」
「え~と? 朝食にヤ〇ルトつけた方がいいか? みたいな?」
無理してはぐらかすほえるに北斗はいつものような無表情で彼女を見つめる。
「…昨日の戦いのこと? ほえる、1人で戦ってたから」
「……」
図星をつかれ、ほえるは何も言い返せなくなる。
「ほえるは顔に全部書いてある」
「やっぱり…?」
ため息をつくほえるに北斗は無言の圧力をかけ、光貴との会話を聞き出そうとする。
「なんか私の方にだけマリスセルが集まってるみたい。私はみんなやっつけてたから気にしなかったけど、そのことについて光貴さんに聞かれちゃって、私も何も分からないんだけどね」
「そう……ところで」
何? とほえるが口をとがらせて振り向く。
「ほえる、強すぎない?」
「へへぇ~それほどでも~」
「いや褒めてるんじゃなくて───」
なぜあれだけの戦闘をこなせるのか、ほえるに問いただしたい気持ちはあったが、彼女の笑みを見ていると、北斗は質問する気を失くしていた。
「まぁ、いいか…それより朝ごはんだね」
「早く行こっ、北斗ちゃん!」
朝食のために広間へ足を運んだ2人だったが、目の前の光景に目が点になった。
「ねぇ~~すきすき~」
「……」
「楽歌ちゃんはぁ、私のこと、すき?」
「ノーコメント…」
いぶが楽歌につきまとって、食事の邪魔になっていた。
「おはようございます、楽歌さん」
「……」
「一体コレどうしちゃったんですか?」
首を傾げるほえるに、北斗が昨日のことを思い出してできるだけの説明をする。
「昨日、猫宮さんは楽歌さんに助けられたの。あの狩屋さんが裏切って、いぶさんが変身せず危機に瀕していたのを楽歌さんが救出した」
「あのときアンタもいたでしょーが、なのになんでアタシが…コイツにつきまとわれてんのよ!?」
「えー? だって北斗ちゃんいくつよぉ?」
「17です」
「未成年はお断りなの私」
「それだけでアタシにひっついてんの?」
違うわよぉ、といぶがはにかんで手を払う。
「まさかマジでアタシに
「そのまさかだけどぉ?」
楽歌が大きなため息をついて、暗い表情を浮かべる。
「あっ女同士の恋愛ってキライ? でもそういった性差を超えた愛があったって私はいいと思───」
「そういうことじゃ、ないのよ。ただ……うーん、いや、なんでもないけど…あんまアタシにつきまとわないでほしいのよ」
困った顔を見せるいぶをよそに楽歌は茶漬けをすする。
「猫宮さん、あなたの恋情は否定しませんが、相手の迷惑をかえりみないことがあなたの愛なんですか?」
北斗からの指摘にいぶは口をつぐむ。
「それと楽歌さん…過去に何かあったと推察しますが、話したくないんですよね?」
「…話したくないってよりは、話しても面白くないだろうし、話したところでそこの粘着女は一層私にくっついてきそうだから突き放してんの。話す価値が無いコトなのよつまりは」
食事を平らげると、楽歌は下膳のためテーブルから離れる。
「じゃあ…あんましアタシ追ったって面白い情報ないから、あっでも───」
楽歌がいぶと目を合わせる。
「金をもらえりゃアタシはアンタの用心棒。困ったときはいつでも誘ってよ」
それだけ告げると、楽歌は行ってしまった。
「怒らせちゃったかしらぁ」
「気さくに去ったように見えましたが、楽歌さんは何か抱えて生きているようにも見えました」
推測する北斗の口をいぶが押さえる。
「!?」
「なんだか詮索するのも良くないわよねぇ…好きだからこそ知りたいけど、知ろうとすればするほど嫌われるモノだからねぇ」
「そういう、ものですか…」
いぶからの言葉に、北斗は自分の現状を示し合わせる。
ほえるのことが気になってしょうがないのに、それを聞いたら相手から嫌われてしまったり、これまでの仲に変化が起きてしまうのではないか、そうした不安感がほえるとの距離感を生んでいた。
そしてそれを認識していながらも、何もしてあげられない自分の無力さに落胆してしまうのだ。
「いつか、お互いに分かりあえるといいですね」
「! 北斗ちゃん私の
「そういう意味で言ったつもりではなかったのですが…」
北斗をからかういぶに、ほえるは後ろで微笑む。
「なーんか仲良しだね! 2人共!」
「言ってる場合じゃないでしょ、それに私は…」
「この3週間だけの付き合い? それだけじゃつまらないわよぉ。マリスセルと戦って、それから、生きる! 生活能力ゼロでも生きてみせる! それが私の夢なのよぉ!!」
北斗が気圧されつつもその言葉を胸に響かせる。
「生きる…夢……」
「北斗ちゃん?」
「ほえるは、MRPが終わったらどうしたい?」
「そうだね~、パフェ食べたい!」
「…質問を変える、マリスセルがいなくなったらどう生きたい?」
「……」
その質問にほえるが答えあぐね、あごを手につける。
「……そうだね、きっといつも通り、おいしい物を食べて、きれいな場所を見に行って、自分の楽しいって思えるものを探し続ける───多分」
「多分?」
「…まだ分からないことだらけなのさっ、人生はね!」
そういっていつもの調子で笑うほえるに北斗は少し安堵する。
「ほえるらしい答えだと思うよ」
「北斗ちゃんは?」
「志望の大学入って、一流企業に入社して、順当に業績上げて昇進かな」
「つまんな~」
ほえるからの辛辣な一言に北斗はえっ、と声をもらす。
「つまんな~」
さらにはいぶからも同様の一言を受け、ショックを感じる。
「それでも、盤石な未来は今後の希望になりうると私は確信しているから…故に努力と下積みは糧となって───」
「あー北斗ちゃんが壊れちゃったー」
「ごめんねぇ! お姉さんが悪かったよぉー! こんなお姉さんみたいになっちゃダメだもんねぇ~~~」
「ちょっと目を離してたら何をフザけてんのよ……」
しばらく様子を見ていた楽歌はため息をつきながらその場を去る。
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碧の私室。
入って間もないゆえか非常に質素で、ビジネスホテルの一室を思わせる空間に部屋の主である碧と、陽廉が腰を下ろした。
「お、おじゃじゃ、お邪魔しましゅ…」
「それで、早速なんですけど」
碧が話しかけると、陽廉がうつむきながらもうなづいた。
「……私の親友が、八雲に殺されたんです───」
陽廉の告白に碧は目を丸くした。
「クロっち! 今日のプリント届けに来たよっ」
1年前。その快活な少女は、陽廉のただ一人の親友と言える相手だった。
「ありがとう、
「いいって、クロっちといると楽しいし。それより! 私のことは『
朝比奈 華。彼女は体調不良で学校を休みがちだった陽廉のためにほぼ毎日家へ寄ってくれていた。
いつも明るくて友達の多い彼女が自分に時間を割いてくれることが申し訳ないと思っていた陽廉だったが、それと同時に彼女の優しさが嬉しかった。
「どうして、朝比奈さんは私に構ってくれるんですか?」
「いやさ、クロっちってなんか気を遣わなくていいのよ。色んなこと知ってて、謙虚っていうのかな、すごい優しくて…なんか説明難しいなぁ、とにかく一緒にいてこんなに楽しいって思えたの初めてなんだ」
「趣味とか、違うじゃないですか…」
「なんか同じ物が好きとかじゃないよ、私の知らない世界を知ってるってのがなんか強いし」
「強い……」
そうして華はいつも笑顔で自分と会ってくれた。学校でも話しかけてくれたことが嬉しかった。遊びに誘ってくれて、陽廉が途中で疲れてしまっても一緒に帰ってくれた。彼女は自分に自信が持てなかった陽廉の唯一の誇りだった。
「…それじゃあ、気を付けて帰ってください、朝比奈さん」
「だから華でいいってば! 明日こそはそう呼んでね?」
「明日……はい、また明日」
2人が交わしたささやかな約束は、果たされることはなかった。
陽廉の家からの帰り、華は変わり果てた姿で発見された。
度重なる性加害の末に殺されたことが分かる、無惨な遺体となっていた。
犯人は連日
傷跡と衣服の損傷、刺傷箇所、使用された凶器から彼女であると断定されたのである。
人は突然にいなくなる、それがどれだけ大事な人であっても。陽廉に突きつけられたその現実に彼女は打ちひしがれ、誰かと親しくなることが怖くなってしまった。
まるで全てを奪われたような気持ちだった。
いくら時間がたっても八雲は逮捕されず、哀しみは蓄積されるのみ、そしてその事件はマリスセルの蔓延でさらに風化していき、きっと今頃は華のことを知らぬ人は誰もが忘れてしまっただろう。
「───八雲はマリスセルの群集する東京の湾岸地域にいるとみんな思ってました。でも警察はマリスセルを恐れて捜索できずにいたと聞きます。後回しにされたんです、華の無念が」
ようやく心を交わせた友を亡くしたばかりの碧はその話を聞いて涙を流した。
「お友達を失った気持ち、少しだけ分かる気がします」
「…だから飯沼さんに、話しました。分かってもらえるような気がして」
少しの沈黙のあと、陽廉が意を決して口を開いた。
「八雲を…殺すのに、協力してくれませんか」
碧は目を泳がせ、答えを出し渋る。
「私は…猿堂さんの死を、八雲のせいだと思ってます。あいつの行動さえなければ猿堂さんは───」
「確かに、そうかも知れません」
陽廉の意見を肯定する碧だったが、その一言には含みが感じられた。
「…でも、私は人の命を奪うことに賛成できません。私は……悪い奴にはなりたくないから」
「八雲を殺したって、悪い人には…ならないですよ」
「それは違います! ……違うと、思うから」
根拠を語れずとも、自分の中の意志を表明した碧に、陽廉は折れる。
「分かりました、こんなこと、無理強いできませんから」
そういって微妙な笑みを浮かべた陽廉は碧に頭を下げる。
「話を聞いてくれてありがとうございました。誰かに話せて、良かった気がします」
陽廉が立ち上がり、部屋を出ていく。
「あの、陽廉さん」
「はッはい!」
「陽廉さんは…優しい人だから……本当は人を殺す、なんてしてほしくないです」
「……」
「陽廉さんまで、悪い人になってほしくないから…!」
「悪い、人…」
陽廉がつぶやくと、重たい表情のまま部屋を出る。
その姿に碧は