MRP10日目。
作戦の終了まで半分を切ろうというそのタイミングで、またもマリスセル出現の報が鳴る。
「ほえる、早く出ないと」
「ちょっと待ってー! 今服着てるからー!」
丁度入浴の時間に招集がかかり、ほえるはまだ準備が整っていなかった。
先に上がった北斗を待たせつつも、ようやくほえるが出てくる。
「よっしゃ行こー!」
(Tシャツ逆だけどここは黙っておこう)
「全員揃ったか…状況に応じてすぐ行動できるようにしておくように」
光貴から注意を受け、ほえるが顔をゆがませる。
「兎角…ライドスフレ、発進だ」
ライドスフレがそれぞれ発進し、マリスセルの進攻するエリアへと到着する。
久しぶりにほえると合流し、北斗が駆け寄る。
「ほえる、また一緒に戦えるね」
「うん、行こう北斗ちゃん」
《PersonaPhantom》
《ImagineerIce》
「変身!」
《Project Start…PersonaPhantom───Change The Wolmoke》
《Project Start…ImagineerIce───Change The Rappol》
ヴォルモークとラポールが変身完了し、アルファタイプの軍勢へと走り出す。
が、鎖が彼女らの動きを阻み、周りの敵を胴から切り落とす。
「っ…この鎖…!」
「八雲さん!」
彼女らの横に、アトラクネが立っている。
「ウぉぉ…ブッ殺す…!」
「えっなんか怒ってない!?」
「あの人いつも怒ってるじゃない」
アトラクネが怒りに任せて振るう鎖に翻弄される2人だったが、突如飛来したドローンの射撃によって鎖が弾かれていく。
「大丈夫ですか…!」
「陽廉さん」
ラポールらのもとにルキフスが合流する。
アトラクネを追ってここまで急行してきたらしい。
「ここは私が…!」
「待ってください陽廉さん、あなたを八雲と戦わせるわけにはいきません」
それ以上の攻撃を制止するラポールにルキフスはその手を払いのける。
「…やらせてください、あいつは……あいつには!」
「どうしてそこまで八雲に……もしかしてあいつに、大切な方が」
ルキフスの様子から推測するラポールに彼女はうなづく。
「通して…ください!」
ラポールを押しのけ、ルキフスがドローンを操作してアトラクネに攻撃を続ける。
「陽廉さん!」
ヴォルモークもアルファタイプを
だがルキフスは止まらない。
「八雲! 私はここにいる…!」
「テメェ……!」
アトラクネが鎖をルキフスに放ち、拘束する。
「散々オレの邪魔しやがってブチ殺す!!」
身動きの取れなくなったルキフスの顔面を殴りつけ、怒りを発散させる。
「今までうぜェ動きチマチマしやがって! カスがよォ!」
「陽廉さん!」
ヴォルモークとラポールがルキフスを助けに向かうが、アルファタイプが大量に出現し、彼女らの道を阻む。
「っ! 急に出てきた…!?」
「とにかく切り開こう、北斗ちゃん!!」
《FatalFang》
《Project Start…FatalFang───Change The Wolmoke》
ヴォルモークがその姿を変え、腕に取りつけられた刃でアルファタイプの群れを切り裂いていく。
「っ…まだこんなに!」
「陽廉さん!」
一方の陽廉はアトラクネからの攻撃を受け続けていたかに見えたが、アトラクネの元にドローンが近付く。
そのドローンはアトラクネのベルトに触れると、電撃を放った。
「ッッ!?」
電撃を受け
「なんだ…解けやがッ…!」
鎖が消滅し、体の自由が戻ったルキフスが手繰の首を絞める。
「この瞬間……この瞬間のために、私のベルトを解析して、変身解除するプログラムを作った……!」
手を震わせるルキフスは、手繰を絞殺できないまま、アルファタイプの軍勢へと投げこんだ。
「……お前は…アルファタイプに、なすすべの無いまま……死んじゃえばいい!!」
「ふざ…けんなァ!」
アルファタイプの波にのまれる手繰に、ヴォルモーク、ラポールが助けに入る。が、ドローンの攻撃が彼女らに直撃する。
まさかルキフスが自分達を攻撃するとは思わず、2人が驚愕する。
「お願いです…邪魔しないでください」
「……そうじゃないでしょ、陽廉さん!!」
思わずヴォルモークが叫ぶ。
「そう…じゃない?」
「ヒトを殺すのは違うよ陽廉さん! それは、やっちゃいけないことだもん!!」
「そうです、やっちゃいけないことです…だから
マリスセルに囲まれ、声ともつかない怒号を浴びせる手繰の醜い姿を見て、ルキフスは決意を固める。
「……違います、陽廉さん。本当に奴に復讐したいのならば、法にのっとった手段で裁きを下すことが、あなたが不幸にならずに奴を行くべき場所へ連れていくことが最良の手段だと思います」
ラポールの発言にルキフスが手を止める。
「陽廉さんは人を殺したいんですか、八雲のように」
「…いいえ」
「血と叫びを見るのが楽しいですか、八雲のように」
「いいえ」
「力無き他者を蹴落として見る今の光景は美しいですか」
「いいえ!」
ラポールがルキフスの肩を抱く。
「八雲を倒すために、八雲になってはいけません。引っ込み思案で、謙虚で、人のことを思える陽廉さんとして、
「……
うなづくラポールに、ルキフスは周りを見わたす。
未だアルファタイプに追いかけられる八雲の姿を見て、ルキフスは自身がやったことだと改めて実感する。
「朝比奈さん…いいや、いや───華…華……華ァ!」
ルキフスが走り出すと、あらかじめ入手していたメディックシグナルを起動させる。
《CrimeChain》
《Project Start…CrimeChain───Change The Luxhus》
アトラクネも使用していたクライムチェーンを装備したルキフスが手繰の周囲にいたアルファタイプを粉々にする。本来は彼女に対抗するための力として用意していたものだったが、本来想定していた用途にはならず、ルキフスは落胆するようなため息をついた。
自分を
「八雲手繰…お前なんかこれっぽっちも助けたくなんかない、でも! ……殺すときは、自分の手でやるから」
決意を固めたルキフスに、手繰は狂気的な笑みを返す。
「なんだソレ? ちょー面白ぇなオマエ…」
ルキフスの顔を掴み、手繰は彼女に向いた興味を殺意で返す。
「お前殺したくなってきた、なァ、“そんなの”ナシでやろうぜ、なァ」
途端、手繰がルキフスの腰に装備されていたダリングエッジを引き抜く。
手繰はその武器を振るい、ルキフスのベルトを引き裂く。
「あっ…!」
ベルトがちぎれ、ルキフスの変身が解除される。
「ほえる!」
ラポールがヴォルモークを呼び、生身となった2人を守るため走る。
その場に残存するアルファタイプをなぎ倒しながら、ラポールが陽廉の元へと駆けつける。
「陽廉さん!」
が、一瞬遅かった。
手繰が陽廉を押し倒し、ダリングエッジを顔面へと突き立てる。
陽廉は恐怖のあまり顔を青くし、涙を流す。
「陽廉さんを離して───」
ラポールが手繰を引き剥がそうとするが、アルファタイプがその道を阻む。まるで彼女らに近付かせないように動くアルファタイプに、ラポールは焦りを覚える。
一方のヴォルモークもアルファタイプに囲まれ、まだ陽廉を救出できないでいる。
「どいて! どいてよ! じゃないと陽廉さんが……ッ!」
「…運のいいことにガヤが離れてやがんな、今の内に…楽しもうぜ」
「~~~ッ!」
陽廉の首筋を舐め、恍惚に震える手繰に、陽廉は言葉を失っていた。
だが、友もこうやって苦しんでいたと思ったとき、陽廉の体は動いていた。
「ハァ…お前のカラダ、見せてみろよ───」
手繰を突き飛ばし、彼女の右腕に噛みついて武器を奪い、今度は手繰へ刃を立てる。
その瞬間の行動に陽廉自身が驚き、手繰は感動を覚えていた。
「暴力ってのはこうでなくちゃな…殺せよ、血で塗りたくれよ、テメェのその手をよォ!!」
「ーーーーーッ!!」
陽廉の顔が返り血でまみれる。
だが、その刃は手繰を傷付けてはいなかった。
手繰が背後から、マリスセルに刺されていた。
「は…あ……?」
心臓が貫かれ、血相を変える手繰が見たのは、腕に大きな
そのベータタイプは脱力して倒れ込む手繰を拾い上げると脇に抱えてそのまま退去する。
目の前で
その様子を見ていたヴォルモーク、ラポールも絶句したまま、アルファタイプを蹴散らして陽廉のもとへと辿り着く。
「今のは…なんですか」
ヴォルモークの問いに陽廉は首を横に振る。
何も分からない3人は役目を終えたように引き上げていくアルファタイプを眺めることしかできなかった。
と、光貴から連絡が入る。
「時間だ、残ったルキフスの装備を回収しつつ撤収しろ」
いつも通りに帰還を命令される面々だったが、ヴォルモーク、ラポールは陽廉の
「陽廉さん…」
ラポールの呼びかけに陽廉は何も答えない。
「とりあえず、帰りやしょ?」
「……うん」
変身できなくなり、帯の裂けたベルトとメディックシグナルを抱える陽廉を放ってはおけず、屋敷に帰還するまで2人は彼女のそばにいた。
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「陽廉さん! その血!?」
ガレージにて合流した碧が陽廉を見るなり駆け寄って慌てふためく。
「陽廉さんの血じゃ…ない」
「ああ、またも犠牲者が出た」
動揺する碧に被さるように光貴が呟く。
それを聞いた楽歌、いぶも驚きの表情を隠せない。
一方の真希は参加者を確認して、あっ、と口漏らした。
「あのちっちゃな怖い人、死んじゃったんですね☆」
「……八雲手繰、仮面ライダーアトラクネだ」
凶悪な殺人犯である彼女の死に、楽歌といぶ、碧が目を丸くする。
「マリスセルに本人は拉致され、厳密には行方不明ではあるが、心臓を貫かれている。あの損傷からして恐らく死亡しているだろう」
「は…あの極悪殺人犯、仮にもベータとやりあってたんじゃ…」
「ベータタイプの亜種と見られる個体に刺された。奴らは今でも進化し続けている」
うろたえる楽歌に言葉を返す光貴に、真希を除く一同は息を呑む。
ほえる、北斗もその事実を実感して改めてマリスセルの恐ろしさを感じる。
「MRPが開始してから新たに現れた個体、ベータタイプが既にさらなる派生を生み出しているとは…正直思ってもみなかった。そして連中はマリスセルの抗体を持つMRP参加者…八雲に加えリミディウムドライバーとメディックシグナルを回収した……すなわち」
光貴が奥歯を噛みしめ、話を続ける。
「すなわち…我々の技術がマリスセルに研究される」
今までに見たことない形相の光貴に、それぞれ危機感をかき立てられる。
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参加者らが解散し、執務室に戻った光貴は、パソコンを操作しながら、大量の機械に繋がれたメディックシグナルらしきアイテムに語りかける。
「“悪性”のマリスセルがさらなる進化を遂げました。これ以上は人類の手では対処の余地が無いかと」
《分かりました、新たなメディックシグナルの開発データが完成いたしましたので、これを彼女らに》
「……奴らの進化と同様のタイミングですか」
《学習の頻度は当然彼らと変わりありませんから。それよりも鳳さま、実装をお急ぎください》
「承知しております、これ以上……やらせる訳にはいきませんから」