手繰が死亡した衝撃が忘れられないまま、陽廉はガレージで立ち尽くしていた。
「陽廉さん、とりあえず体を洗いましょう。きっとそのままじゃ大変です」
北斗に風呂まで誘導される陽廉だったが、彼女の足は動かない。
「……怖かった、ですよね。人が死ぬのは」
自分もそうだと説く北斗に、陽廉が首を横に振る。
「ごめんなさい…その、違って……私、八雲を…殺せなかったのが、嫌、だった…悔しかった? みたいで……」
「……」
どんなことがあっても、陽廉の復讐心は消えない。
例えマリスセルによって無惨に殺された相手であっても、親友を手にかけた仇であることに変わりはなかった。
「なんか…ズレてるんです、私。北斗さんみたいに、人が死んだのを…怖いって思えなくて」
「それは…」
「誰であろうと、です。自分がこんな人間だったなんて…人を傷付けられるって…知らなかった、から」
赤く染まった陽廉の頬を、涙がつたう。
自分の持つ残虐性を知り彼女はうろたえることしかできなかった。
「それって、そんなにおかしいことでしょうか」
そう問うのは、朱李への報復を考え続けてきた碧だった。
「人ってやられたらやり返すものだって、私は思います。私も猿堂さんに傷付けられたから、逆に傷付けてやろうって。結構そう考える人いると思いますけど…」
「…でも私は、八雲を殺そうと……」
「そりゃ殺人犯だし、それもやられたらやり返す論じゃない?」
楽歌が会話に加わると、陽廉も反論できず少し困ったような表情でうつむく。
「それに、武力で解決しようとすることを恐れていたら、私はどうするんですか」
そう問いかける北斗に陽廉はあっ、と声を漏らした。
「戦うのが怖いって言ってたのに、結局マリスセルと戦って日夜武器を手にしている、言われてみれば私も自分の突発的な暴力性に駆られていたのかもしれません」
「…そんなことは」
「大体あってると思いますが」
「大体あってる気がします」
「大体あってるわよ」
北斗、碧、楽歌に詰め寄られ、陽廉が肩を落とす。
「だから、陽廉さん。自分だけがおかしいんだと落胆して、思いつめないでください。話せばスケールの大小あれど同じように考えている人もいるでしょう…だから、よければ、話してください、あなたのこと」
北斗からの言葉に陽廉は目を潤ませる。
「あの───」
「ちょっとストップ! 略してちょとップ! その前に…お風呂入りませんか?」
話を聞いていたほえるが一度会話を止めて陽廉を入浴へ誘う。
少し気が楽になったからか陽廉も先ほどとは態度が軟化し、恥ずかしそうにうなづいた。
「なぁ~んなら、お姉さんと洗いっこしましょうか?」
「えっへぇ!?」
陽廉の手を握るいぶに、彼女も困惑してしまう。その反応はいつものシャイで緊張しがちな陽廉そのものだった。
「じ、自分で洗いますから!」
「え~? い・け・ず」
「ちょっとアンタ節操とか無いワケ?」
楽歌に耳を引っ張られ、いぶが引き離される。
「陽廉ちゃんだっけ? 大学生くらいなら守備範囲内よぉん」
「陽廉だっけか? コイツ風呂に沈め行くわよ」
賑やかないぶと楽歌に陽廉は少しだけ笑顔を取り戻す。
「…みなさん、ありがとうございます…」
──────────────────
「で、なんで大勢で風呂入るってコトになるワケ?」
気付けば参加者全員で大浴場にいる現状に楽歌が突っ込む。
「リンスインシャンプーって効率的ですよね☆」
「アンタの面の皮の厚さは見習いたいわね!」
何気にしっかりとその場にいる真希に楽歌もツッコまざるを得ない。
「女体見放題でまるで天国ねぇ」
「もう黙ってなさいよ」
いぶの
「……私、八雲に親友を、殺されたんです。私と反対で、明るい女の子でした。根暗な私にも優しい、本当にいい子でした」
湯船に浸かりながら陽廉がつぶやく。
他の面々も彼女の独白に黙って耳を傾ける。
「私の唯一の友達、でした。彼女が…華がいなくなったとき、私は空っぽになった気が、しました…だから、華を奪った人を許せないと思いました……でも、それでも自分には何もできないって、思ってました」
陽廉が一旦口を閉じ、華と手繰の姿を思い出す。
「仇が目の前にいて、戦うことができるってなったとき、自然と、あいつを殺せばいいって、思ったんです。同じ目に合わせたいって……だから私は、戦いました、武器を突きつけました。そんな自分が、怖くて、でも、嬉しかった…
そこまで言って、陽廉は湯で顔をすすぐと、そのまま両手で顔をおおった。
「こんな風に思える自分を、どうしても、認められない…私は、
自分の行動をとがめる陽廉に、同じく湯船にいたほえると北斗が距離をちぢめる。
「……?」
「陽廉さんは、優しいから力に任せちゃったことがイヤ、だったんだよね」
「…はい」
「でもそれって、誰かのために戦えた、お友達さんの心を守るために戦えたんじゃないかって、私は思います」
ほえるの解釈に陽廉が目を見開く。
八雲に刃を向けたことは自分のためでしかないと考えていた陽廉にとっては、その考えはまさしく盲点であった。
「そんな…私は…自分が満足するために───」
「では、ご友人のことは全く考えていなかったんですか?」
今度は北斗から問いただされ、陽廉は口をつぐむ。
「私は今、ほえるのために戦ってます」
「あら、キマシ?」
「ちょっと黙ってなさい」
「マリスセルと戦うって決めたほえるを放っとけない、大切な人が立ち向かっていて、私にも同じ力があるなら、その力で一緒に立ち向かってあげたい。その一心で、私は戦うことを選びました」
「……」
「あなたの力は、大切な人のために使えたと思います」
ほえると北斗のかける言葉に、陽廉は胸がいっぱいになる。
心が満たされるうちに、手繰と戦えた自分をようやく受け止められた。
「うっ、うっ……うぅ」
陽廉が大粒の涙をこぼす。
「…陽廉さん、一旦湯船から出た方が」
「びえええええあええええッ!!!」
感情を爆発させ陽廉の涙と鼻水が
「あちゃー……」
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「落ち着きましたか」
「あのまま入ってたらのぼせちゃいそうだったもんねー」
脱衣室で北斗とほえるに介抱されながら陽廉がうなづく。
「おふたり…それにみなさんのおかげで……楽になれました」
共に浴場から出ていたいぶ、楽歌、碧が微笑む。
「こんなときに、その…なんですが……ほえるさん、北斗さん……その、お友達、に…なって───」
「もう友達!」
「一緒に戦ってるんだから、戦友ですかね」
2人の優しさに陽廉はまた瞳を潤ませる。
「じゃっじゃあ……!」
「もう、友達です!」
笑顔で返す碧に陽廉も笑う。
「えっと…」
「猫宮い、ぶ♡ 恋のお悩みならいつでも乗るわよ」
「猫宮さん…!」
「……!」
「私は友達代取るから」
「いくらですかッ!?」
「…冗談よバカ」
照れながら楽歌がそっぽを向く。
「えっと…その……」
「お友達になるとどんないいことがありますか?☆」
「陽廉ちゃん、そのコはいいわよ」
「えっあっそのっ」
今度は真希に挨拶しようとしたものの、いぶに止められ陽廉は気まずい雰囲気に耐えかねうつむく。
「狩屋真希さん、アイドルを目指す…変なヒトです!」
フォローにならないほえるの紹介に北斗が軽くチョップする。
「今すぐ仲良くなろうとしなくても、挨拶とかからでいいと思うから」
「ぅへぇ、北斗さん、ありがとうございます」
笑う陽廉に碧が話しかける。
「あっ、あの、陽廉さん…あとみなさん、私も、碧で!!」
気に乗じて身を乗り出す碧に陽廉らが快諾する。
「私たちもほえる&北斗で名前呼びでいいですよー!」
「はいはぁい、私はいぶお姉さんって呼んでねぇ」
「……」
全員が押し黙る。
その静寂の中でいぶは渾身のセクシーポーズを披露する。
「───いぶさんにしますね」
北斗の提案に一同がうなづく。
その雰囲気にいぶは自分の妖麗な仕草が流されていることに気付き、肩を落とす。
「これでみんな、お友達ですね!」
「お気楽ね、私たちはここに集められただけの関係じゃない」
冷淡な反応を見せる楽歌だが、ほえるはううん、と首を横に振る。
「たしかに集められただけかも知れませんけど、一緒にマリスセルと戦うなら、そこに絆があってもいいと思いますよ」
「…まぁアンタらならいいかもしんないけど……」
楽歌が真希を睨む。
「アンタ、他人と協力関係とか築けんの?」
「協力したらアイドルになれますか?☆」
「……アイドルのことは知らないけど、協力してイベントを成功させんのがアイドルじゃないの? 協力する相手を裏切るのがアイドルではないと思うんだけど」
それを聞いて真希がうつむく。
「…わかりました☆ 協力します☆」
「えっ何その含みのある間は」
楽歌が真希の協力を不安視するが、その瞬間、脱衣室の扉が開く。
「貴様ら、まだいたのか。新型のメディックシグナルについての説明をおこなう、さっさと広間に集まれ」
機嫌の悪そうな光貴に一同が返事をする。
「ところで光貴さん、今回からVRじゃなくて実際に集まってもいいですか?」
「なぜだ?」
「うーん、交流を深めて、さらに強い“チーム”になれる気がして!」
ほえるの進言に光貴が少しだけ閉口したものの、提案を飲む。
「いいだろう、だが私語は
ほえるの意見を了承した全員がうなづくと、光貴は先に広間へ向かう。
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ほえる達が広間に着くと、テーブルの上にメディックシグナルが7個置かれていた。
「集まったな、とにかく座れ。新たな装備を全員に1個ずつ配布する」
参加者らが座すと、職員によってそれぞれの手元にメディックシグナルが置かれる。
「ベータタイプの出現に合わせ、こちらでも奴らに対抗しうる新型装備を用意した。今回は参加者の戦闘データをもとに相性の悪くならないであろう装備を選定し、各員に譲渡することとする」
メディックシグナルを包む包装には操作を説明するメモが同梱されており、変身後の武装箇所や基本的な立ち回りが記されていた。
「ただし、大神に渡したメディックシグナルは時間やリソースの関係上1個のみの配備となった。そのため転送システムを改良し共用可能にしてある。大神、その点は留意しろ」
「それだけスペシャルなアイテムってことですか?」
「まぁそう捉えてくれて構わん」
へぇ、と感嘆しながらほえるは目を輝かせる。
「兎角、新型メディックシグナルを訓練で実際に使用し、自身の戦闘スタイルとの相性を調べ、戦いを有利にできるように考えながら練度を上げるようにしろ」
「そういえば私…ベルト壊されちゃったんですけど…」
「修復しておく、その間に陽廉は操作説明を熟読しておけ」
「へっ、へぅい!!」
戦闘時に使えるようメディックシグナル本体を職員に預けたのち、光貴の指示で私室に戻った参加者らは、VR機器を取り付け例の如く訓練を開始する。
新たなメディックシグナルを手にしたほえるは、その端末が持つ特別な形状に思いを馳せていた。
(Xのかたち───『ゼノクロス』。これは一体、どんな力なんだろう……)
訓練が始まり、仮面ライダーたちは新たな鎧へと身を包んでいった。