ほえるの正体を問うつもりが、マリスセルによって中断された光貴が指令室へと向かう。
銃をつきつけられたままほえるも連れられ、戦闘状況を見守ることとなった。
「私を連れてきちゃってよかったんですか…?」
「良くはない。だが、貴様を放置する訳にもいかなくてな」
「…だったら、光貴さんがわざわざ指示なんかしないで取り調べした方がいいのでわ?」
ほえるに痛いところをつかれ、光貴は不機嫌そうな顔をする。
「今見れば分かる通り、人が少ないんだここは。戦闘が始まってしまえば私はここにいるしかない」
心配するほえるに銃口が押し当てられる。
「たとえ何といようとな」
「何とって……」
まるで自分を人間扱いしない光貴にほえるは複雑な心境を覚える。
(それに…みんなの戦いを見てるだけなんて……)
不安を抱えつつも戦況を見ていたほえると光貴だったが、ベータタイプ亜種との交戦を終えて一息つこうとした瞬間、その場に現れた相手に絶句した。
「え…あのヒトって───」
「八雲……」
動揺する2人だったが、
「全員退避だ! 恐らく八雲はマリスセルによる“改造”を
その
「連中、ライドスフレを狙ったか…!」
苦虫を噛みつぶしたような表情を見せる光貴に、ほえるがある決心を口走る。
「私を行かせてください!」
「…! …貴様を信用できない、今は待機しろ」
光貴の拳銃を握る力が強まる。
「私がどんな私であろうと、ヒトを守る使命は変わりません! それに、素性が分からないのは私を最初に仮面ライダーにしたときから、ずっとそうだったでしょーが!」
ほえるの発言に光貴が言葉を失う。
たしかに、マリスセルに抗体を持つという彼女の体質は異様でありながらも、それを信頼して光貴は彼女を戦わせた。
高校生の少女を戦闘に参加させた時点で光貴の取るべき行動は決まっていたのだ。
大神ほえるが何者であろうとも、仮面ライダーヴォルモークとして戦ってもらう。
それしか道はないのだ。
「それに、私の正体について…あそこにいた方が説明しやすいかもしれないんです」
そういってほえるがモニターに視線を送る。
彼女の戦場を見つめる姿に、光貴はしばらくの沈黙ののち、口を開いた。
「…いいだろう、戦闘を許可する。ただし、こちらの通信には必ず答え、絶対に帰還しろ。でなければ即刻貴様を処分する体制に移行する」
「うーんおっかない…でも、大丈夫です。ぜったい戻ってきますから…もちろん誰も死なせずに!」
フン、と鼻息を漏らして
「光貴さん、ありがとうございますっ!」
「とっとと行け」
職員からベルトとメディックシグナルを受け取り、ほえるがガレージへ走る。
──────────────────
その頃、マリスセルによる改造を受けたとみられるアトラクネと交戦せざるを得なくなった仮面ライダーらが苦戦を強いられていた。
「あの凶悪犯罪者! なんで帰ってきたと思ったら! 敵になってんのよッ!?」
悪態をつく俊鼠の足に鎖が絡みつく。そのまま引きずられていくが、ラポールの氷が鎖を凍らせ、砕く。
「楽歌さん、大丈夫ですか」
「えぇ、それよりも…なんなのよアイツ」
アトラクネがまたも鎖を伸ばすが、ルキフスが放ったドローンによって弾かれる。
「ここは私が食い止めます…みなさんはライドスフレを……!」
「一人じゃ無茶です陽廉さん!」
ラポールが援護に駆けつけ、臨戦態勢を取る。
「何デモイイ…ブッ殺ス…!」
アトラクネが叫ぶと、ラポールとルキフスめがけて鎖を飛ばす。
が、ラポールの発生させた氷壁によって勢いをかき消され、回避される。
それでもなお鎖を放ち続ける。
「今の八雲は完全に我を失い、思考も単純になっているようですね…」
「華を殺した相手が……まさかこんな」
複雑な思いを言葉にできずにいるルキフスに、ラポールが前に出て援護する。
「陽廉さんは下がってください、相手が悪いです」
「……大丈夫です、北斗さん。私は決めた、から…八雲からみんなを守るって!!」
《CrimeChain》
《Project Start…CrimeChain───Change The Luxhus》
クライムチェーンを装備し、ルキフスがアトラクネと同様に鎖を放ち、相殺させる。
しかし、1本だけ鎖が破壊しきれず、ラポールへと向かう。その方向は、ちょうど彼女の心臓を貫く位置だった。
(
回避が間に合わないことを悟ったラポールは、体がすくみ動けなくなる。
鎖の直撃を予感し体を硬直させるが、鎖は防がれていた。
「当たって…ない」
ダメージを
「危なかったね、北斗ちゃん」
「ほえる……」
ほえるの声を聞いて安堵したラポールがその場にへたり込むと、ヴォルモークの姿を見上げる。
「どうして、ここに」
「みんなを守るために…って言いたいところだけど、今回は実のトコ少し違うかも」
そう告げると、ヴォルモークは明らかな敵意をもってダリングエッジをアトラクネへと向ける。
「“アレ”は倒さないといけないから」
八雲であっても人に対しては温和な態度を取っていたはずのヴォルモークが一変してそう主張することに違和感を覚えたラポールが、弱々しい声色で彼女へと問う。
「八雲……じゃないの?」
「うん、私には分かるよ……アレは“人間”じゃない、ただの強い“マリスセル”だよ」
いつもとは全く違う、静かな雰囲気のヴォルモークに、ラポールは戸惑いを隠せず、彼女の手を握る。
「ほえるは……ほえるだよね」
「……」
何も言わず、ヴォルモークは優しくラポールの手を離すと、アトラクネへと歩いていく。
「ナンダ…? 新シイノカ……?」
ヴォルモークへと狙いを定めるアトラクネだったが、違和感に気付き動きを止める。
「あなたには分かっちゃうよね……もう隠し通せないや」
鼻をすすりながらヴォルモークが走る。
アトラクネが鎖を放つが、霧状の散り、回避したヴォルモークが彼女の真下に現れると、ダリングエッジを顎へと突き出す。が、寸前にかわされアトラクネは後ろへ引き下がる。
「オ前…ナンダ?」
「私は……」
ヴォルモークが押し黙った隙にアトラクネの鎖が彼女を拘束する。
動けなくなったところでとどめを刺さんとアトラクネが迫るが、ラポールの氷がその道をふさぐ。
「北斗ちゃん!」
「あなたがほえるか…分からなくなってきた、けど……見捨てる訳にもいかない」
「私はいいから、早く戻って!」
ヴォルモークの指示を聞きながらもラポールはその場を動かない。
氷を使ってヴォルモークを縛っていた鎖を破断し、救出するとアトラクネへと睨みをきかせる。
「私は、大丈夫だから!」
強い口調でラポールを逃げさせようと説得するヴォルモークだったが、彼女の背後にアトラクネが忍び寄る。
「死ネェェッ!!」
攻撃に巻き込まれないようにとラポールを突き飛ばしたヴォルモークの体が、鎖によって貫かれる。
執拗に金属をねじ込まれ、引き抜かれると、ヴォルモークは力なく倒れる。
「! ほえるッ!?」
ラポールが駆け寄るが、ヴォルモークに息はない。
激しい
「八雲……なんてことを」
「ハハ、ブッ殺シテヤッタ…ゼ……」
アトラクネの言葉が途切れる。それはラポールの後ろで起こっている現象を見ての反応だった。
その様子にラポールは後ろを振り向くと、先ほどまで倒れていたはずのヴォルモークが、再起していた。
「北斗ちゃん、あんま怒っちゃダメだよ。らしくないから」
全身にあったはずの傷は修復され、装甲まで元に戻る。
それはケトシィの有するオーバーホールオーブを超えた治癒力で瞬時に再生される、人間を凌駕した現象であった。
「北斗ちゃんには見せたくなかったけど、ごまかすのもうまくいかないみたい。だから、全部伝えるね」
完全に無傷の状態に戻ったヴォルモークは、驚くばかりのアトラクネを蹴り飛ばし、距離を取らせる。
「ここからは力を制限せずに戦うよ、北斗ちゃんは下がってて」
「ねぇ、それってどういう意味?」
「私は人間じゃないってことだよ」
淡々と言い放つヴォルモークに、ラポールはえ、と声を漏らして立ち尽くす。
ほえるの言葉を初めて信じられないと思った。
「何言ってるの急に、ほえるは、だって、マリスセルを克服して───」
「この星に生息する霊長類、つまりヒトを学習して進化した肺炎性新病原生物の独自強化個体、それが私」
そういうと、ヴォルモークはラポールを置いてアトラクネの方へと向かう。
「じゃあ…あなたは、ほえるじゃなくて」
「マリスセルの仲間だよ。大神ほえるちゃんの体は借りてるけどね」
去年までマリスセルに感染し闘病していたほえるは、克服などしていなかった。意志を持ったマリスセルによってその体を使って行動しているに過ぎなかったのだ。
ほえるはもう人の体ではない。それを証明するように屋敷で観測されるマリスセルの濃度は異常な数値を示していた。
「なんだこのマリスセルの放出量は……今までのベータタイプ、それを凌ぐ八雲を超えたおびただしい数───あんな所にいたら人はもたんぞ!!」
ほえるの告白を聞いていた光貴は現状の危険さを察知し参加者に早急な撤退を要請する。
「全員退避だッ! そこにいるだけで命に関わるぞ!!」
なんとかマリスセルからライドスフレを奪還した仮面ライダー達は即刻退避にかかるが、ラポール、ヴォルモークの身を案じてその場から離れずにいた。
「大神はマリスセルだ、人間と同化して今まで感知を逃れてきたんだ! 熊谷もあの場にいては助からん、貴様らだけでも逃げろ! でなければ抗体を持つ貴様らであろうと、マリスセルに感染する!」
いつになく冷静さを欠いた光貴の指示に、なんとか各員が動き出す。
「貴様もどうなるか分からんが、とにかくそこから離れろ!」
光貴からの連絡を受けたラポールだったが、ほえるの真実を聞いたショックで動けずにいた。
「北斗ちゃん、早く逃げて」
「でも、ほえるを置いていけない」
「私は大神ほえるじゃないッ!」
声を荒げるヴォルモークに驚いたラポールは、後ずさりをする。
「私はマリスセル。ヒトを学んで、その生活に溶け込んでいただけの、ヒトの敵。マリスセルはヒトの敵なの。大嫌いで、気持ちの悪い、この世界で頑張って生きてるヒトを
「ほえるは…」
「いいから行ってよ分からず屋ッ!!」
ヴォルモークがダリングエッジをラポールに向けて、退避するよう訴える。
何も信じられないラポールではあったが、ほえるの声で強く言われ、従うしかなかった。
「逃げ…られないじゃん」
「北斗さん!」
ルキフスがラポールのもとへ駆けつける。
彼女を後部に乗せると、ライドスフレを発進させる。
「いややっぱりほえるが!」
「ダメ北斗さん!」
戻ろうとするラポールをルキフスがおさえ、そのまま屋敷へと帰還する。
これによりその場にはアトラクネとヴォルモークのみが残った。
「みんな行った? これで心置きなくやれるね」
「ナンデモイイガ、殺ス!」
「かわいそうに、八雲さん。死んでしまったあとにマリスセルで培養されて人形にされてる……でももうマリスセルには悪用させない。だから、あと少しだけ、頑張ってね」
《XenoX》
《Project Start…XenoX───Change The Wolmoke》
ゼノクロスをまとったヴォルモークが、アトラクネの鎖を受け止める。
腕に何本も鎖が刺さりながらも、それをもろともせずそのまま引っ張ってアトラクネの態勢を崩す。
《Xeno FatalFang》
アトラクネを引っ張って空中に投げ飛ばしたあと、ゼノクロスに追加された爪で彼女の胴をつらぬく。
「グガァッ!!」
体を修復させながら空中でなお鎖を使って攻撃するアトラクネだったが、ダメージをいとわないヴォルモークにはすべての攻撃は無意味であった。
《XenoX End》
その音声と共に機動力が強化されたヴォルモークは空中から叩き付けるように飛び蹴りをおこない、アトラクネを遠方の海に沈める。
直下に着地し、誰もいなくなった海岸を見渡して、ヴォルモークはため息をついた。
「……こんなばっちい体で、帰れるわけないじゃん」
だが、光貴には絶対戻ると告げてここまで来た。その義理を果たす必要があると考え一応光貴に連絡する。
「あの~…私マリスセルなんですけど、本当に戻っていいんですかね?」
「たしかに貴様はマリスセルだと言ったが…体から放出される力は調整できるのか」
「? まぁできますけど」
「ならばその力を最低限まで抑えた上でこちらに帰還、除染後に話を聞こう」
「…帰ってもいいんですか」
「無論だ、貴様には聞きたいことが山ほどあるからな」
光貴からの指示は、ヴォルモークの想像していたものとは違った。
“もう戻ってくるな”、“人類の敵だ”、“排除する”、といった敵対的な言葉をつきつけられるものだと思っていたので、ヴォルモークは混乱すらしていた。
「あの、私ヒトの敵ですけど───」
「ではなぜ人類のために戦った。なぜマリスセルと化した八雲に刃を向けた。なぜ、人と共に生活したんだ」
「それは……」
言葉につまるヴォルモークに、光貴は再度指示を伝える。
「とにかく戻ってこい、話はそれからだ」
光貴からの通信が終了し、ヴォルモークは少し間を置いて仮面を手で拭った。
「…あ、拭けないや」
変身を解除してから目をこすると、ライドスフレに搭乗し、屋敷へと帰っていく。