全身に繋がれたケーブル類が取り外され、体の自由が戻った真希が、つまらなさそうに光貴を見つめる。
「終わりました?☆」
「ああ、ここまでの協力…貴様とはいえ感謝する」
ベッドから起き上がった真希が少し笑うと、光貴へと目の輝きを浴びせる。
「それじゃあまた北斗ちゃんに会えますか?☆」
「今後の素行次第だ。貴様はその無垢な興味で人の殺害行為にまで踏み切っているからな」
光貴ににらみつけられ、真希は押し黙る。
「ところで狩屋、ここまでの実験…痛かったか」
「痛かったです…☆」
「苦しかったか」
「超苦しかったです…」
「もう一度───」
「やりたくないです」
真希が実験の始終を振り返って光貴をにらむ。
だるさや吐き気、発熱に抜毛など副作用の強い実験薬を大量に飲まされ、何かあれば都度注射、風呂には入れず、食事も栄養のみ考慮した粗末なものであった。
「痛さや苦しさに種類はあれど、貴様は他者に苦しみを強いたことに変わりはない。その行動は他者との融和を遠ざけ、自身の困難にて
へ? と真希が首を
「人の痛みや苦しみを知ったのなら、誰かに同じことをするなといっているのだ。でなければ熊谷の笑顔など百年かかっても
「そうなんですか!?☆」
「他者を苦しめるような奴は人から笑顔を向けられる人間ではないからな」
真希が光貴の肩を掴む。
「どうすれば人を…北斗ちゃんを笑顔にできますか?☆」
「さぁな、少なくとも貴様が受けたような苦しみや痛みを他人にはするな。それとMRP参加者が危機に
光貴は肩に乗った真希の手を払うと、実験室をあとにする。
残された真希はようやく軽くなった体を試すように手を握ると、昔のことを思い出していた。
「……お姉ちゃん、輝きってどこにあるのかな☆」
──────────────────
一方、広間では陽廉が予備で購入していたノートパソコンが持ち込まれ、MRP参加者による会議がとりおこなわれていた。
「第1回!! “私”の名前を決めよう選手権〜」
ほえる(仮称)の音頭と共に間の抜けた表題が発表され、一同が軽く拍手をする。
「ちゅーわけで、みなさんには私とほえるちゃんとを区別するために名前を考えてもらいますよ〜」
「
「ハイ楽歌さんやる気出してくださーい」
あくびをかく楽歌にほえる(仮称)が注意する。
それを聞いた陽廉が苦笑いしながら一応パソコンに入力していく。
「と、とりあえず出た意見をこちらで書いていきます……調べたい言葉があったら、検索できるので…いってください」
「できるなら分かりやすい名前がいいわねぇ」
「なんか培養的な意味で、大神ふえる」
「楽歌さんのネーミングセンスに任せられませんね」
呆れる北斗に、楽歌が口をとがらせる。
「じゃあ北斗は何か妙案あるワケ?」
「そう、ですね……まだありませんが」
「あーでも、ほえるって名前にかけるの私は好きかもですよ」
ほえる(仮称)からの意見に楽歌が誇らしげに笑う。
「じゃあほえるって感じのニュアンスで名前つけてけばいいのねん…もえるちゃんとか?」
いぶの提案にほえる(仮称)がうなづくが、どうもまだ気に入らないらしい。
「いえる、とかどうでしょうか? ほえるさんが
「悪くないですね……でもなんかキュートさが足りないです」
ほえる(仮称)からのダメ出しに碧が肩を落とす。
するとそれぞれの意見を聞いていた北斗はある言葉を思い出し、陽廉を呼ぶ。
「陽廉さん、“ノエル”ってどういう意味でしたっけ」
「ノエル、ですか……えーと、クリスマスとか、そういう意味です」
「おっ、さすが北斗ちゃん、なかなかウィットに
ほえる(仮称)がにやけながら北斗を見ると、彼女はその名前について他にも考えがあるようだった。
「あとは“新しい太陽”とか“誕生”みたいな意味があると、前に聞いた気がします」
「…はい、北斗さんの言う通り…そんな感じのもありますね……」
それを聞いて北斗は軽くうなづく。
「どう、ほえるかっこかり?」
「かっこかりって……まぁそれは置いといて、いい名前だと思う! かわいいし」
「わ、私は…異論ありません」
陽廉がつぶやくと、碧といぶも微笑みながら同意する。
「楽歌さんもいいですね?」
「
「じゃあみなさん異論ナシということで」
ほえる(仮称)が持ってきたスケッチブックに新しい名前を書き込む。
「はい! というワケで、私の新しい名前は───『大神のえる』で~す!!」
「よろしく、のえる」
北斗から呼ばれ、のえるはまぶしい笑顔を向ける。
「のえるさん」
「のえるちゃ~ん」
「の、のえるさん…!」
他の面々からも名を呼ばれ満悦ののえるは、楽歌へと視線を向ける。
「楽歌さんも、呼んでください」
「のえるね、分かったわよ」
照れながらものえるの名を呼び、楽歌は腰を上げる。
「名前決まったんならアタシ戻るわよ」
「あ、待ってください。みんながいる間に、のえるに聞きたいことがあって」
そういって引きとめる北斗に、全員が視線を集中させた。
「どうしたの北斗ちゃん」
「盛り上がっているところ悪いのだけど、少し深刻な話で」
「も~私と北斗ちゃんの仲なんだからなんでも言ってよ~~」
「のえるとは短い付き合いでしょ…」
冗談を軽くいなし、北斗が咳払いをすると、話題へと入る。
「マリスセルについて、のえるに聞いておきたいの」
「ほえ?」
「私たちはマリスセルのことをよく知らない。肺炎性新病原生物とは聞いているけれど、どこから来たのか、のえるのように意思を持っているのか、もし意思があるなら目的があるのか───聞きたいことは沢山ある」
北斗からの問いに、のえるは閉口する。
「あなたの知っていることだけでいい、教えてのえる。マリスセルは…一体なんなのか」
「……きっと驚くよ」
「何を聞いたって驚くと思う」
たしかにね、とのえるが笑うと呼吸を整えてから遠くを
と、轟音が屋敷中に響きわたる。
「な、
同時にマリスセルの活性化を告げる警報が鳴りひびき、さらに一同を混乱させる。
「マリスセルが屋敷に出現した! MRP参加者はガレージに向かい、装備を回収して応戦しろ!」
光貴からの放送を聞き北斗らが廊下へと飛び出る。
「危ない!」
のえるが全員を引っ張ると、鎖が壁を破壊し、廊下を粉砕しながらアトラクネが顔をのぞかせる。
「殺シニ…来タゼ」
「最悪のタイミングで来たわねアイツ!」
たじろぐ楽歌だが、とにかく攻撃を回避してガレージへと向かう。
非武装の状態でアトラクネをはじめとしたマリスセルとの戦闘は死活問題になる。
まずは戦闘を極力避け、装備のあるガレージへの到着が優先される。
「とにかく逃げましょうみんな、今はあいつと戦えない!」
いぶの意見に賛同しつつ逃げる全員だったが、彼女らを逃がすまいとアトラクネが鎖を放つ。
と、救援に来た光貴の散弾銃が攻撃をはじく。
「無事か貴様ら!」
他の職員らもかけつけ、アトラクネに続いて湧いて出てきたマリスセルと交戦する。
「鳳さん…」
「おそらく敵にこの場所が拠点だとバレた、とにかくここは徹底的に襲撃されるだろう。各員は早く戦闘の準備を整えろ」
散弾銃をリロードしながら光貴が盾となって北斗たちを逃がす。
「びゃあああッ!!」
「うわああッ!!」
銃弾が飛び交う戦地を生身で走り、マリスセルに噛みつかれないようにただ逃亡する。
数週間前までただの一般人だった陽廉たちが遭遇するにはあまりにも壮絶なその現場に、彼女らはただ叫びながら目的地まで向かうしかなかった。
「下がって!」
職員が機関銃をかまえてマリスセルと応戦するが、アトラクネの鎖に貫かれ
その瞬間を眼前で目撃した北斗は言葉をつまらせ、目を見開いたまま硬直するが、楽歌に引きずられる。
「…止まってる時間はないからッ!」
「はっ…はい!」
「こっちです!」
のえるの案内を受け、ようやく面々がガレージへと到着する。しかし、そこはすでに大量のマリスセルと、ベータタイプが陣取っていた。
逃げ場はない。追いかけてくるマリスセルもいる。
完全に
と、ガレージの奥から
《Project Start…StraightSword───Change The Tioro》
その音声とともに、仮面ライダーティオーロが全員を助けたのだ。
「狩屋さん…どうして」
「ここにいる全員を助けてみせれば、北斗ちゃん笑ってくれるって鳳さん言ってましたから☆」
消滅するマリスセルから刀を引き抜いたティオーロが、ベータタイプを一瞬であしらい、二刀の斬撃で首を
「人手足りないんで変身お願いします☆」
「…ありがとうございます、狩屋さん」
北斗が礼をいうと、自分の装備が置かれているであろうガレージへ向かう。
「笑ってくれなかったなぁ…もうちょっと頑張ればいいのかな?☆」
ティオーロは続けてマリスセルと交戦を続ける。
もとより戦闘能力の高かった彼女はこの一対多数の状況においても心を乱さず、ただ敵をほふっていく。
彼女の強さが、他のMRP参加者の
ようやくアタッシュケースを見つけた面々が、ベルトを装着する。
「これさえあれば…私たちだって!」
《Project Start…PersonaPhantom───Change The Wolmoke》
《Project Start…ImagineerIce───Change The Rappol》
《Project Start…HasteHack───Change The Luxhus》
《Project Start…BlazeBullet───Change The Syunso》
《Project Start…FatalFang───Change The Caitsith》
《Project Start…NastyNest───Change The Procyon》
それぞれのライダーが変身完了し、マリスセルを圧倒していく。
「ここは一旦別れて職員のみなさんを助けに行きましょう!!」
先ほどの職員の死を思い浮かべ、残った人々の命を守らんとラポールが走る。
「北斗ちゃん☆ 私もお
「…狩屋…さん」
かつてティオーロ───真希がしたことは北斗も忘れていない。
のえるに手をかけ、そのときの北斗の表情を楽しんだ。
人の道徳心に欠けた真希の行動が、瞳を合わせた2人の間に想起されてしまう。
だが。
「北斗ちゃんを、ほえるちゃんを傷つけるコトして、ごめんなさい。自分がされたくないことを、痛いことを、人にはしちゃいけないんだよね」
「…はい、そんなことばかりでは、私はあなたに同じ顔しか見せられません」
ティオーロが目の前のマリスセルを切り払い、ラポールが職員の救助にあたる。
「人助けをしてください、誰かの笑顔のために戦ってください。そうすれば、私はきっと笑顔であなたにまた会える」
ラポールの告げる言葉に、ティオーロは黙ってうなづく。
「───戦うね、北斗ちゃんの笑顔のために」
2人がなんとかマリスセルを退けていると、負傷した光貴と合流した。
「鳳さん!」
「生きていたか、熊谷。その様子なら他の参加者も変身できたか」
「はい、それより早く手当てを」
「…そうしたいのは山々だが……」
「死ナス…ゾ、コラ」
鎖を引きずりながらアトラクネが出現し、一向を
「八雲……いや、マリスセルの危険性からベータ、ガンマを超え、デルタタイプ───『アトラクネデルタ』と呼称する。奴はもう、人類の敵だ」
「わかってますよ☆」
ティオーロが先だってアトラクネデルタと刃を交える。
「殺ス…!」
「殺したっていいことありませんでしたよっ!!☆」
アトラクネデルタの鎖がティオーロを締め上げるが、握っていた刀が鎖を切り裂く。
「意味ありませんよそんなの☆」
「殺スゾッ!!」
鎖がティオーロめがけて飛来するが、そのすべてを排除してアトラクネデルタの胸を突く。
が、アトラクネデルタは胸に刺さったまま刀を折り、退避する。
「パワーガ足リナイ……次コソハ殺ス」
なんとか強敵であるアトラクネデルタを退け、一息つく一向。光貴が各員に連絡したところマリスセルも退避してきているらしい。
「なんとか
ラポールがつぶやくと、別の場所で戦闘を継続していたヴォルモークが合流し、彼女らの前に立って警戒する。
「のえる?」
「まだだよ北斗ちゃん……一番マズいのが来る」
風が強くなる。
破壊された屋敷の
アルファタイプ以上に人型をなした、マリスセルと
それは、人々を見つけると、
「……コンニチハ」