仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#20 ぱすふぁらうぇい

 フェクシア。

 そう名付けられた(だいだい)の仮面ライダーは、破壊音のする方を向き、飛翔する。

 

「大神を援護しながら周辺のマリスセルも片付ける。それでしばらくは貴様らも休めるだろう」

 

《YearningYouth》

 

 大腿部(だいたいぶ)に取り付けられたメディックシグナルを起動させると、全身に赤い粒子を放ち、凄まじい速度で目標へと飛ぶ。

 ラポールらもフェクシアに加勢するため動き始めるが、変身が解除されてしまった。

 

「しまった……バッテリーか…」

 

 光貴から都度告げられていた仮面ライダーの刻限に到達し、本当になすすべがなくなってしまった面々は、遠方の轟音を聞くことしかできなかった。

 だが、ただ一人北斗は腰を上げてフェクシアの飛び立った方向へと歩き始めた。

 

「ほ、北斗さん!?」

 

 驚いた陽廉が思わず北斗の手をとる。

 

「ま、丸腰でな…何しに行くんですか……危ないです」

「のえる…それにほえるも、あそこで戦ってるから……きっと一人で」

「北斗さん、陽廉さんの言うとおり危険です! 鳳さんが行ったんですから多分のえるさんだって大丈夫なはずですよ!」

 

 碧からも指摘を受け、うつむく北斗だったが、首を横に振って再び歩み始めた。

 

「北斗ちゃん」

「親友だから、大事なひとだから…ほっとけないんです……行かせてください!」

 

 止めるいぶに対して(がら)にもなく叫ぶ北斗の表情には焦りや不安が込められていた。

 

「どんなにのえるが強くても、鳳さんがいてくれても、私に力がなくっても……一緒にいてあげたい…違う、もう離れ離れになりたくないんです!」

 

 北斗の目に涙が浮かぶ。

 今にもこぼれ落ちそうな(しずく)をためながら北斗は陽廉の手をのける。

 

「これ以上ほえるが…遠くに行くのが怖いから……!」

 

 歩を進める北斗を陽廉、碧が止めようとするが、今度は彼女らを真希、楽歌が制止する。

 

「ほえるちゃんに会いに行くことが北斗ちゃんの笑顔につながるっぽいので、行かせてあげてください☆」

「北斗は多分止めても行く。だからアタシも行ってもしものブレーキ役になってやるわよ」

 

 真希、楽歌の発言に承服した2人は、北斗を見送る。

 

「北斗さん、のえるさんと一緒に…帰ってきてください」

「友達として、待ってますから!」

 

 2人に背を押され、北斗は楽歌、真希を連れ立って戦地へと向かう。

 

「楽歌ちゃん、真希…真希にゃん! ……北斗ちゃんを守ってね」

 

 いぶからの応援に2人が強くうなづいて応える。

 

「さ、ゆっくり行きましょ。まだ戦いは終わらないみたいだし」

 

 楽歌がそう言って微笑むと、北斗は少し口角を上げた。

 

「今笑った!?☆ ね、今笑ったよね☆」

「すごく嬉しかったので…笑顔になれたのかもしれません」

「それってわたしが一緒だから?☆」

「……それもあると思います、真希さん、楽歌さんも。一緒に来てくれてありがとうございます」

「───わたし、間違ってなかったんだ!」

「真希さん?」

「よかったんだね、これで。北斗ちゃんの笑顔を見るための方法☆」

「よくわからないですが、真希さんが誰かを傷つけないならそれでいいです。それと、真希さんにはまだ説明していませんでしたが、ほえるについて色々とありまして……」

 

──────────────────

 

 3人は歩きながら、ほえるがマリスセルの意識に動かされている状態であることを真希に説明した。

 彼女らしく興味のないことには反応が薄いようで、ほえるの正体を知っても特に驚く様子を見せなかった。

 

「ほえるちゃんはほえるちゃんじゃなかったんだね☆ 北斗ちゃんは、どんな顔をしてた?☆」

「よく覚えてないです。悲しかったような、でも、ほえるが無事で嬉しかったような……やはり無表情だったと思います」

「どうすれば北斗ちゃんは笑顔になれるのかなー☆」

「…きっと───」

「きっと大切な親友とまた、無事に再会できたときじゃないかしら」

 

 楽歌に言葉を当てられ、北斗が目を丸くする。

 

「なんで分かったんですか」

「大切な人とまた会えるって、それだけ嬉しいことだからよ」

「詳しいですね、小根墨さん☆」

「……アタシの話だけど、一度大切な人を…今でもずっと会いたいと思っていたる友人を、なくしたから」

 

 瓦礫(がれき)を踏みしめ、楽歌はかつてのことを思い出しながら語る。

 

 

 楽歌にはエミコという年上の親友がいた。

 当時高校生だった楽歌にエミコは社会人として愚痴を吐いたり、経験を語ってくれたりした。

 エミコの言葉が楽歌の時間を豊かにし、行動が楽歌の人生を楽しくした。

 誰にでも優しいエミコに、楽歌は()いてしまうときさえあった。

 だが、エミコの生きる社会は、彼女の優しさを利用した。

 

 エミコを連帯保証人として借金を借りていた会社の上司が取り立ての最中で彼女へと責任を押し付け逃げたのだ。

 その優しさから他人の負債(ふさい)にまで協力していた彼女の優しさが(あだ)となり、それ以来金融会社からの取り立てが始まったのだ。その額は2千万円。薄給(はっきゅう)の彼女が払うには厳しいその額面にエミコは絶望した。

 高校生の楽歌には彼女を助ける手が少なく、バイトの給料もあげようとしたが断られてしまった。そうした問答をするころにはエミコは仕事と借金返済に追われ、ひどく憔悴(しょうすい)していた。

 寝る間も惜しんで働いては、給与のほとんどを返済にあて続けた。

 結局、借金の返済を待たずしてエミコは自殺した。

 人への優しさによって自らの首をしめ、金への執着が彼女を変えてしまった。

 まだ高校生だった楽歌にとって、この一連の事態は自分の生き方さえ変えてしまうほど影響力のあるできごとだった。

 

 高校卒業を控えた楽歌はすぐに就活を始め、安定した収入と人に頼らない生活をもとめ奔走(ほんそう)した。

 就活の只中(ただなか)、楽歌はある出会いをした。就職希望の会社で人事部に所属していた女性が食事に誘ってくれたのだ。彼女から金銭をもらって同じ時間を過ごす。それが“ママ活”と呼ばれることを楽歌はあとになって知った。

 楽歌との時間はSNSのママ活界隈に広がり、楽歌と会いたい、お金を払いたいという女性が後をたたず、瞬く間に楽歌は“ママ活女子”としての才覚(さいかく)をあらわし、月に50万円相当以上の金品をもらうようになった。

 

 そうして生活するようになった楽歌は、エミコの残した借金を肩代わりしながら金によって人生を破滅させた親友のことを度々(たびたび)思い出しては、今の自分の資産を与えられたらと後悔し、人の情欲にまみれた財産を得ることで生きている自分の(みにく)さを自覚して、どこか冷淡(れいたん)な性格になってしまった。

 

 マリスセルの蔓延でママ活の誘いが減り返済資金にも困っていたころ、MRPに参加することとなった。

 友のためにも金が必要だと考えていた楽歌は、単純かつ簡単に戦いに身を投じたのだった。

 

「アタシがお金を欲しがるのは、あのときエミコにあげられればって、ずっと、別に意味もないのにそう思い続けてんのよ」

「それでも楽歌さんは、お金のためにって言いながら私たちを助けてくれてましたよね。私は楽歌さんがどんなことをしている人であれ、とても優しい方だと思い続けますよ」

「フ、やめてよ北斗。そんなこと言ったってアタシは汚いお金にありついて生きてきたんだから」

「お金にキレイも汚いとないとテレビで見ましたよわたし☆ アイドルがもらうお金はある意味搾取(さくしゅ)だと聞いたことがありますよ☆ えーと?☆ だから、きっと私がアイドルになるときには楽歌さんと同じになってると思いますよ☆」

「っは、ははは! ちょっと何! アンタが気ィ遣ってんの!? ハハハ!」

 

 真希なりに気を遣っていると気付き、楽歌は大笑いする。

 

「でも、ありがとう…真希。ちょっとでもアタシのこと思ってくれたんでしょ?」

「よくわかんないです☆ でも、北斗ちゃんの笑顔ってどうやって見るのかなーって考えたら、誰かに優しくするのが一番だと思って☆」

「今はまだ笑顔を見せられてないでしょうが、その通りです。その方が私は嬉しい、嬉しいってことは笑顔になれるってことです。私の笑顔のためでいいので、優しい真希さんでいてください」

「ほーい☆」

 

 明るく()()う真希に楽歌が微笑むと、轟音が鳴り止んだことに全員が気付く。どうやら戦闘がひと段落(だんらく)したらしい。

 

「そろそろ無駄話はおしまいね」

「のえるが無事か、確かめてきます」

「こうなればバッチコイよ、一緒に行くわ、北斗」

 

 北斗がうなづくと、かつて屋敷だった壁をへだてた先にいるライダーたちのもとへと向かう。

 

──────────────────

 

 オメガタイプと一対一での交戦を開始したヴォルモークは、ゼノクロスを装備して機動力でオメガタイプを圧倒しつつ、ダリングエッジを用いての接近戦を展開した。

 

「我々ト、違ウマリスセル、イラナイ、邪魔」

「邪魔なんかじゃないもん!」

 

《Xeno PersonaPhantom》

 

 オメガタイプの伸ばす触腕がヴォルモークを追って迫りくるが、ゼノクロスに付与されたペルソナファントムの能力で霧散、オメガタイプの背後を取って不意打ちを狙う。

 が、表面が以上に硬く、ダリングエッジでは歯が立たない。

 

「くっ!」

 

《Xeno FatalFang》

 

 今度は爪撃(そうげき)に特化したフェイタルファングで攻撃を繰り出すが、傷がすぐに修復され触腕に弾き飛ばされてしまう。

 まったく致命的な攻撃が与えられないヴォルモークは奥歯をかみしめてオメガタイプをにらむ。

 

「もうやめない!? ヒトを襲って自分の仲間にすることの何が楽しいの!?」

「ソレガ、ヤラナキャイケナイコト、ダカラ」

「それだけで命を奪っていい理由には……ならないよッ!」

 

 ヴォルモークがオメガタイプへとパンチを見舞う。

 顔面にあたる部位に拳を打ちこまれた衝撃でオメガタイプは一旦停止する。

 

「どう? 痛かった?」

「痛ミ、生物ノ持ツ、器官、我々ハ持タナイ、ダカラ、痛ミ、ナイ」

「そんなんだから学習が遅れるんだよ、おバカさん!!」

 

 ヴォルモークがさらにパンチの連撃を繰り返すが、オメガには効かない。

 

「学習、遅レテイル、デモ、アナタニハ、勝テル」

「煽りだけ上手くならないでよ!」

 

 オメガの触腕がまたもヴォルモークを襲うが、難なくかわす。

 しかし、触腕が分裂、オメガタイプと同型の上体を作り出し、ヴォルモークを拘束する。

 

「何そのキモい拘束!?」

「相手ガ動ケナイヨウニスル、コレガ、拘束」

 

 今度は片腕側の触腕をねじってドリル状に変形させ、回転させる。

 

「だからどこでそのキモいヤツ覚えてきたの!?」

「デルタ、イワク、死ネ、ブッ殺ス」

 

 拘束された状態のヴォルモークにドリルが接近する。身をよじってなんとか脱出しようとするが、拘束は頑丈で抜け出せない。

 

(これ、マジでマズい! ごめんなさい、ほえるちゃん───!)

 

《VigorousVolcano》

 

 万事休(ばんじきゅう)すのヴォルモークだったが、そこに強大な炎が立ちこめ、オメガタイプの触腕を焼き焦がし、橙色の戦士が蹴り飛ばした。

 フェクシアが到着したのだ。

 

《LinksLaser》

 

 フェクシアの腕部から放たれる光線がオメガタイプのドリル状触腕を焼き切った。

 

「無事か、大神」

「その声…光貴さん!?」

 

 ヴォルモークを抱え飛翔したフェクシアが一旦退避すると、近くの地面にヴォルモークを寝かせる。

 

「光貴さんがどうして、それ仮面ライダーですよね! 変身したんですか! えっどうやって!?」

「説明は追ってする。今は私に任せて休んでいろ」

 

 そう告げるとフェクシアはもう一度空へと舞い上がり、オメガタイプへと光線を浴びせる。

 

「来いオメガタイプ……救世主(フェクシア)が相手だッ!」

「アナタハ、ヒト、ヒトガドウシテ、ワタシトタタカエル」

「こうやって戦うっ!」

 

《QuestQuartz》

 

 左大腿部から起動させたメディックシグナルによってフェクシアが粒子状に分解される。

 それによりオメガタイプの攻撃を完全にいなし、一本の細い線となってオメガタイプの首へ巻き付き、断裂する。

 

 斬首されたオメガタイプだったが、触腕で頭部を拾い、そのまま腕に吸収させると、元の位置に頭部が再生した。

 

「アナタ、ハ、ツヨイ」

 

 元の姿に戻ったフェクシアへと触腕が迫る。先ほどのように自らの上体を形成して拘束しようとするが、フェクシアの新たな能力によって吹き飛ばされる。

 

《ReactRoor》

 

 轟音と共にエネルギーが周囲に放出されるその力で敵を寄せ付けないままフェクシアはオメガタイプの胸部へと噴火がごとき炎を当て続ける。

 

「これだけの再生力を持った敵ならば、どこにそれら能力を発動させる機関があるか、だ」

「そうだった、そうです光貴さん! 心臓です!!」

 

 ヴォルモークのバッテリーが消耗し、変身解除したのえるが叫ぶ。

 それを聞いてフェクシアはやはり、とつぶやくと、オメガタイプ内に潜む“核”を発見する。

 

「サセナイ」

「させないのはこっちだッ!」

 

《ReactRoor》

《VigorousVolcano》

 

 オメガタイプの防御を弾いて核へと炎を打ち出す。

 が、オメガタイプの消滅にいたるほどの時間火力を打ち出すことはできず、力が失われていく。

 

(…時間か……通常のライダーよりももたんのか!)

 

 なんとかフェクシアの攻撃をしのいだオメガタイプは、そのまま撤退する。

 

「ヒト、ツヨイ、学習シタイ、モット、学習、ホシイ」

 

 オメガタイプを逃してしまったが、奴らの進攻を阻止しきり、フェクシアが変身を解く。

 

「ッ…流石にこれ以上の戦闘は体がついてこないな」

 

 戦闘終了し、自分を守ってくれた光貴を労おうとのえるが近付くが、オメガタイプとの戦闘でマリスセルとしての本領を発揮しすぎていたことを思いだし、接近するのをためらう。

 

「光貴さん、早くここから離れてください! マリスセルに感染してしまいます!!」

「…わかっている! だが───!」

 

 光貴の巻くベルトが内部で何かを注射する。どうやらそれはマリスセルに対する免疫剤なのか、何事(なにごと)もないように光貴がのえるへと歩み寄る。

 

「私は大丈夫だ、貴様が提供したデータで、マリスセルに対抗する策が講じられている」

 

 と、戦闘を終えた2人の元に北斗、楽歌、真希が駆け寄ってくる。

 

「! のえる!」

「あっ北斗ちゃん近付かないで……力使い過ぎてマリスセルの量がエグいから」

 

 そう言われて楽歌と真希が北斗を止めるが、2人の手を払って北斗が走る。

 

「いいの、のえる。無事で良かった」

 

 北斗がのえるを抱きしめると、その温かさを腕いっぱいに感じた。

 

 

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