仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#21 ほきゅう

 日がのぼり、太陽を背に輸送機が飛行する。

 それは戦闘が終了したのえるたちの元に降下し、防護服を着た2名の人員を降ろした。

 

「お待たせしました、鳳主任」

「ああ、見ての通り周辺のマリスセルは撃退した。屋敷は壊滅したが、MRP参加者に犠牲者は出ていない」

 

 防護服の人員がメモを取りつつ、持ってきていた機器を展開する。

 

「これから簡易的な除菌作業を始めます、しばし辛抱ください」

 

 淡々と言い放つ彼らは、機器から展開したシャワーをのえるたちに振りまく。

 

「急に何!?」

「あばば…除菌ですってば」

「口の中苦いです☆」

 

 除菌を済ました5人を輸送機に格納すると、他の参加者らと合流するため発進する。

 

「……」

 

 輸送機に初めて搭乗した北斗は緊張しながらあたりを見回す。

 

「北斗ちゃんって飛行機は初めてじゃないよね?」

「うん、旅行で乗ったことはあるけど…こういうなんていうか、本格的なのは初めてかな」

「私はね~、ヘリコプター乗ったことあるよ~!」

「ライドスフレが実装できていなかった頃の話だな。ヴォルモークを運用する際は基本空から移動させていた」

 

 珍しく話に乗る光貴に、そういえば、と楽歌が話を持ちかける。

 

「アンタは仮面ライダーになったのよね? つーかアレは何?」

「MRPの最終段階とおっしゃってましたけど、どういう意味なのでしょうか☆」

 

 真希も加わって問いただされ、光貴がふむ、と押し黙る。

 

「…まずは他の参加者と合流してから説明させてくれ、その方が整理しやすいだろう」

「いまさら隠すことはできないでしょうが、話さなかった情報とかも開示するんですね」

 

 北斗から念押しされ、光貴はうなづく。

 

 と、輸送機が高度を下げる。

 他の参加者との合流地点に到着したらしい。

 

「やっとみんなと会えますね!」

 

 のえるが輸送機から降りると、陽廉が駆け寄ってくる。

 

「ほえ…のえるさん! 無事でよかったです…!!」

「陽廉さん…それにみなさんも元気そうでよかった!」

 

 陽廉に続いていぶ、碧ともまみえ、ようやく生存したMRP参加者と光貴がそろった。

 

「さて、こちらの説明の前に休憩を取りたいところだが、あいにく屋敷が壊滅的被害にあってしまったからな。どうするか」

「どうするかって!」

 

 いつになく頼りない光貴の発言に楽歌がつっこむ。

 が、それを見越してか陽廉らを案内していた防護服の人員がタブレットを取り出す。

 

「屋敷が襲撃された時点で今後のMRP参加者の処遇(しょぐう)は我々第8企画部に委託(いたく)されていました。屋敷の代替となる施設もすでにご用意しています」

「助かる、我々はともかく生存した職員の確保を優先してくれ」

「はい、現在第9企画部のみなさまをお連れしています」

 

 そうか、と光貴が安堵の息を漏らすと、MRP参加者へと向き直す。それと同時に輸送機が再度飛び立つための準備を始める。

 

「我々はこれより拠点を移す。そこで所定の時間待機し、それより諸々の説明をする……施設につき次第、よく休め」

 

 光貴から労いの言葉が出てきて、一同が驚きつつも了解する。

 

 北斗が輸送機から外をのぞくと、そこには東京湾をのぞむ臨海都市が広がっていた。

 それらはマリスセルのいなかった頃と何ひとつ変わらない様相で、この付近で戦っていたとは思えないほど綺麗だった。

 

「…まるで今でも人が住んでいるみたいだろう」

 

 光貴がつぶやく。

 

「だが分かっている通りこの一帯はマリスセルの感染リスクが高まり、(みな)避難していった。我々が戦っているうちにマリスセルの感染範囲も広がり、東京都全体がゴーストタウンと化している」

「鳳さんは、東京に思い入れでも?」

 

 北斗の問いに光貴がなぜだ? と眉をひそめる。

 

「光貴さん、すごくさみしそうに街を見てるから、何かあったのかなーってことだよね」

「うん」

「そうだな…思い入れか───ああ、あるな。昔、お台場から水上バスに乗った…潮風に当たり気持ちが良かった。東京タワーにも登ったな、塔を形づくる鉄骨の鮮やかさは今でも記憶に残っている───」

 

 つらつらと思い出を述べる光貴の姿に、全員が(ほう)ける。

 

「光貴さん、やっぱり東京好きだったんですね」

「ま、まあそうだな、生まれも育ちも東京で、その…本当に思い入れのある場所なんだ。だから…今“臨時東京市”と呼ばれていることもまだ納得できていない。マリスセルから、早く東京を奪い返してやりたいんだ……この力で」

 

 そうつぶやくとアタッシュケースに格納されたヴォルモシアンドライバーと7つのメディックシグナルをながめる。

 

「なんかアンタも人間っぽいところあって安心したわ、いっつもムスッとしててアタシらよりも仮面してる感じしたし」

 

 そういって茶化す楽歌に光貴はなんだと、と口をへの字に曲げる。

 

「私がこういう態度を取っているのは任務のためであってだな…それにアンタという呼び方は気を付けろ、私には鳳という名があるのだからな」

「わーったわよ、鳳……光貴でいい?」

「社会を舐めるなよ」

「ここは光貴さんで統一しましょうか」

 

 仲介に入ったいぶの提案に楽歌が渋々うなづく。いぶが光貴へと目を配ると、彼女も不服そうにうなづいた。

 

「なんだか光貴さんって、怖いイメージありましたけど、なんだかそれだけじゃない気がしてきましたね」

 

 そういって笑う碧に陽廉が首を縦に振る。

 

「そのように振る舞ったのは間違いないからな、だが飯沼や陽廉のような素直で若い参加者にまでこのような態度を取ってしまったのは、正直すまないと感じている」

「だったらそういうのやめちゃったら? 今更光貴サンに圧かけられないと動けないヤツいないでしょ」

 

 楽歌からそういわれ、光貴は素の自分がどんな口調だったかを思い出す。が、中々口に出ない。

 

「…今の口調が馴染んでしまったらしい。他に貴様らと対話する態度が見つからない」

 

 高圧的な態度が抜けない光貴に一同は苦笑いする。

 と、輸送機が高度を下げ始める。

 

「もうすぐ施設に到着します」

 

 職員からの案内とともに施設のヘリポートに着陸する。

 指示にしたがいつつも参加者らが外へと出る。

 

「ん~~中狭かったからようやく羽を伸ばせるわぁ~」

「羽どこにあるんですか?☆」

「そういうたとえよ」

 

 とぼける真希にいぶが肩を落とす。

 

「よし、ここからは職員の案内で私室にて待機しろ。集合の際はまた放送を流す」

 

 光貴からの通達を受け、各人が用意された私室へと入る。

 廊下からもそうだったが、部屋も以前使用していた屋敷と様相が変わらず、短い間を共にしたあの空間そのままだった。

 その部屋を見たことで、それぞれが“MRPはまだ終わっていない”と実感させられた。

 だがそうした気分の落ち込みよりも各員が強く感じていたのは、体の疲れだった。

 

「なんだか長い、戦いだったような気がする…」

 

 そうつぶやいてベッドに倒れ込んだ北斗は、そのまま眠ってしまった。

 

 次に彼女が目覚めたのは、光貴からの放送が流れてきたときだった。

 

「全員広間に集合しろ、間取りは以前の屋敷と同じにしてあるゆえ、場所はわかるだろう」

「随分投げやりだな…」

 

 起きがけでそう一言悪態をつくと、北斗は重たい腰を起こして広間へと向かう。

 

「あっ、北斗ちゃん!」

 

 真っ先に到着していたのえるが北斗へと手を振る。

 どうやら北斗は彼女に続いて広間へ着いたらしい。

 

「のえる、さっきぶり。時計見てなかったんだけどここ着いてからどのくらいたってる?」

「? 1時間くらいだね」

「そう……疲れてて寝ちゃって…のえるは眠くないの?」

「流石にマリスセルでも疲れはあるよ!? あっでもなんでかな…あんまし眠くないかな」

 

 たしかにマリスセルは活性化があったことから疲労と補給があったことが考察される。ではマリスセルはどうやってエネルギーを補給していたのか。そこまで考えたところで北斗は首を横に振って思考を中止した。

 

「北斗ちゃん、のえるちゃんやっほ☆」

「2人とも早かったわね」

 

 真希と楽歌が続いて広間に集まる。

 と、陽廉、碧、いぶもやってくる。

 

「またみんな集まって何を話すのかしらね」

「屋敷が壊されたから今後どうMRPを進めるのか、でしょうか…」

「もうこりごりですけどね」

 

 

「全員集まったか」

 

 最後に光貴が到着して、ようやく話が始まる。

 

「さて、今回はMRP進行中に起きた数々の情報を整理し、“君”らに伝える」

「ちゃんと口調直してきてますね」

 

 のえるの指摘に咳払いをしてから光貴は話を続ける。

 

「まず伝えておく情報がある……MRPの実施短縮だ」

 

 全員の背筋が伸びる。

 

「MRP、すなわちメサイアライダーズプロジェクトは、人類にとって救世主となりえる兵装の開発が主目的であった。つまり私が変身した仮面ライダーフェクシアの完成こそがMRPにとってのゴールラインだったのだ」

「じゃあ私らは用なしになったってこと? 計画が完了したから」

「乱暴に言えばそうなるな、君たちが率先して戦う必要はなくなった…訳では無いが、協力を得ずともマリスセルと戦える手段が整ったのだ。言葉を加えるなら、君らの戦闘は強制ではなくなった。やめてくれても構わない」

 

 それを聞いて一同が沈黙し、自分たちが戦わなくてもよいことを噛み締める。

 

「あの、だったら…MRPを脱退することもできる、ということでしょうか…?」

 

 碧の質問に光貴がああ、と答える。

 

「手続きはこれから間もなくできるようにしてある。保護者への通達をしていた参加者は連絡ができるように調整した」

「…なら、私、MRPやめたいです」

 

 碧の思いきった一言に対して、誰も言葉を返せない。

 

「了解した。MRPで獲得した現金と…君が預かっている猿堂の遺品を受け渡すので準備する。本日中に帰宅する手筈(てはず)でいいか?」

「はい、猿堂さんのご家族に…猿堂さんのことを伝えます」

「一応死亡確認時にこちらで連絡しておいたが…行ってくれるか、飯沼」

「はい、じゃないと…私が整理つかなくて」

「……念のため言っておくが、それで君が傷つくことがあるかもしれない。遺族への伝言はつらいものになるだろう」

 

 覚悟の上と言わんばかりに碧が強くうなづく。

 

「───他にMRPを脱退する者はいるか?」

 

 光貴が見回すと、北斗が手を挙げていた。

 

「熊谷も脱退か───」

「いえ、仮面ライダーとして継続して戦うつもりです。ただ、家族にこれまでのこと、これからのことを伝えなくちゃいけないので、一度会わせてほしいんです」

 

 そうか、と光貴が一拍おくと、その、と彼女らしからぬ口ぶりで話を切り出した。

 

「熊谷の家族のことなのだが……連絡が、取れなくなった」

「───え?」

 

 急な一言に北斗が間の抜けた声を漏らしてしまう。

 

「あの、連絡が取れないっていうのは」

「今日のことだ、君の住んでいた地域がマリスセルに占拠された」

「そんな……」

 

 北斗は頭が回る方である。だからこそ光貴の言いたいことが理解できる。

 彼女の家族は、マリスセルに襲われた。

 

「どうして早く言わないんですかッ!? とにかく行かせてください!」

「周辺にて自衛隊が戦闘と捜索をおこなった。その結果、君のいた埼玉県草加市は、マリスセルのみ確認されている」

 

 マリスセルの噛みつきによる接触感染が起きた場合、人もマリスセルに変化する。

 すなわち、北斗の家族を含めた周辺住民はみな、マリスセルになってしまったと推測されるのだ。

 

「だから、とにかく、行かせてください!」

「…もとより君を故郷へ一時帰宅させるつもりだった。仮面ライダーの準備完了次第ライドスフレで向かってくれ」

「それなら私も行きます、戦力として申し分ないですよ!」

 

 のえるが進言し、それに続いて楽歌といぶが光貴へと声をかける。

 

「MRPを脱退しない人はどうなるワケ? また仮面ライダーに変身して敵を倒すの?」

「だったら草加市にワラワラいるっていうマリスセルを倒すべきなんじゃないかしら?」

「……未成年以外のMRP参加者のうち、こちらに残ることを選択した場合、東京市の公務員として我々対策委員会第9企画に編入され、対マリスセル戦力として今まで通り働くことを想定していた」

 

 なら、と2人が声を重ねる。

 

「アタシは残って草加で金稼ぎするわ」

「私もライダーになってヒモ脱却よん」

「マリスセルは強くなっている、覚悟はできているのか」

「覚悟なんて、変身したときから既にできていました」

 

 北斗が立ち上がって言い放つ。

 それに全員がうなづく。

 

「北斗さんは弱い私に協力してくれた恩人です。私も自分の用事が済み次第仮面ライダーに復帰させてください」

 

 碧からの申告に光貴が言葉をつまらせる。

 

「……」

「生きることが一番大事だと思っていますが、誰かの不幸に背を向けながら生きる奴にはなりたくないんです!」

「…わかった、君の報告を待ち、プロシオンを待機させておこう」

 

 焦る北斗をのえるが落ち着かせると、ようやく腰を下ろす。

 

「熊谷、仮面ライダーのエネルギー補充までしばらく待ってほしい。それまでにこちらの作業を終わらせる…まず熊谷は現状仮面ライダーとして戦い続け、ご家族が発見された場合はどうする」

「一度話をつけてからここに戻ってきます」

「…一応聞いておくが、ご家族が発見できなかった場合は?」

「継続して仮面ライダーとしてみんなを守ります」

 

 了解した、と返すと今度はのえるへと今後のことを問う。

 

「大神も同様に草加の状況以後、家族に会って話をするか?」

「そうですね…今は私に体を貸してくれてるほえるちゃんの快復(かいふく)を待ちます。きっとその方が、説明しやすそうなので」

「わかった、こちらもまだマリスセルが意識を占有している複雑な事情を説明できていない。きっとご家族を混乱させるだろうが、任せていいな」

「はい!」

 

 次は、と光貴は陽廉へと視線を向ける。

 

「陽廉、君はこれからどうする」

「戦います」

 

 いつもの(おび)えた様子から一転して、迷いなく答える陽廉に一同が驚きの表情を見せる。

 

「猫宮もそうだったが、君も戦闘を忌避(きひ)していたはずだったが」

「鳳さんがアトラクネデルタと呼んでいた…八雲だったモノ……アレは私が戦います。もう二度とあいつには人殺しなんてさせません」

 

 覚悟と怒り、哀しみのこもった陽廉の眼差(まなざ)しに光貴はうなづくほかなかった。

 

「狩屋はどうする」

「残って北斗ちゃんの助けになります☆」

「ティオーロとして戦い続けるということでいいか」

「はい☆ “MRP参加者が危機に(ひん)したら助けてやれ”って光貴さんが言ってたことですから☆」

「……」

 

 全員の処遇が決まり、これからの各自の行動について光貴が整理する。

 

「飯沼を除いたMRP参加者はこれより第9企画所属の“エージェント”として、計画参加者ではなく業務提携者としてマリスセル殲滅(せんめつ)にあたってもらう」

 

 

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