仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#22 かこ

 2054年1月。

 東京湾沿岸で謎の怪物の動画がインターネット上にアップロードされると、またたく間に拡散された。

 それと同時に動画が撮影されたとされる沿岸部を中心に怪物の発見事例、警察への通報が爆発的に増加し、それが“パンデミック”であるのだと人々が周知するのに時間はいらなかった。

 

 30年以上前に流行した感染症の経験からパンデミックに対する必要最大限の対策と共に緊急事態宣言が発令され、怪物らはマリスセルと命名された。

 

 だが、従来のウイルス、細菌に見られなかった人型をなした感染性の怪物を前に人類にできることは限られていた。自衛隊が出動しマリスセルの排除を実行したが、その物量によって東京は徐々に人々が居住できない地域が出てきた。

 

 2054年4月。東京都は首都機能を埼玉県に移動、『臨時東京市』と名を変え、マリスセル対策の起点となる『臨時東京市庁衛生対策委員会』を設立。マリスセルという大きな課題に挑戦する研究者らを集った。

 

 2054年8月。衛生対策委員会にて『企画部』が創設され、マリスセル対策に関するさまざまな対抗策を練るための組織が組まれた。そのうちのひとつ、第9企画はマリスセルの正体策定とそれにともなう除去手段を講じるための部署となった。そこにはかつての東京都総務局防災管理課に属していた鳳光貴がリーダーとして配置され、生物学者、警視庁公安部のサイバー犯罪対策用人員など(くせ)の強いメンバーを筆頭に複数の職員が配属された。

 

 

「というわけで、君たちはこれからマリスセルの正体に迫り、新たな対抗策を導き出すための希望となるのだ。私は企画部長を務める鳳だ、よろしく頼む」

 

 はりきった挨拶を告げる光貴だったが、白衣を着た小柄な女性が昆虫かごをながめながらあくびをする姿に眉を動かす。

 

「君はたしか…東城大学理学部生物学科助教の───」

百舌鳥(もず) 蜜璃(みつり)ッス、あくびしてスンマセン」

 

 緩慢とした口調で名乗る百舌鳥に光貴がため息をつく。

 

「君の進化学を(おも)にしつつも、包括的に生物学を(おさ)める天才的頭脳は評価している。マリスセルの生態解明に貢献してくれることを期待しているからな?」

「まーかせてくださいッス~あっでも『ルキフス』にゴハンあげてから開始でいいッスか?」

「…まぁ自由にやれと上からは言われているから、いいだろう。だがルキフスというのは、そのかごの?」

「ゴキブリッス」

 

 光貴が驚いて腰を抜かす。

 その様子に集まっていた職員たちも思わず笑う。

 

「君ゴキブリ飼ってるのか! 学生時代何度アイツらに“挨拶(あいさつ)”されたか…!!」

「あ~くれぐれも殺さないでくださいッス! 一応ペットなんで!!」

 

 光貴をなだめる百舌鳥に、スーツ姿の男性職員がため息を漏らす。

 

「はぁ…やっぱココって、適当に使えそうな爪弾(つまはじ)きモノが集まる部署なんですかね」

 

 そう言いつつ卑下(ひげ)するのは、烏羽(からすば) 一郎(いちろう)という警察官であった。

 

「君は烏羽一郎…公安のサイバー対策官だったな」

「ええ、どうもマリスセルが人にうつるサイバーウイルスっていう謎の仮説があって、それを証明するために俺が呼ばれたみたいですよ、ええええ」

「まぁたしかにマリスセルの電子生命体説は今でもまことしやかにささやかれている、いわば風説だが、それについて考えるのも必要な一歩だと私は考えている。くれぐれも腐らず、自分の仕事を(まっとう)うしてくれ」

「爪弾きが集まる場所ってのは否定しないんですか?」

 

 痛い所を突かれ、光貴は視線をそらす。が、彼の言っていることもあながち間違いではないゆえ、言葉を返す。

 

「正直そうかもしれんな、私も常々(つねづね)真面目すぎる堅物(かたぶつ)だと言われていたしな」

「私は変人ッスね絶対」

「俺は…ひねくれ者だな」

 

 じゃあ、と他の職員も自虐を交えた紹介を始める。

 その様子に光貴は笑うしかなかった。

 

「ははは、君ら、そんなに自分を悪くいうなよ、残り物余り物にも根性があると、ここの結果で証明してみせようじゃないか」

 

 光貴がそういうと、全員が意思が固まったような気がした。

 

「爪弾き者の集まりが、得意分野を活かしてマリスセルを(あば)いてやるんだ」

 

 

 第9企画が一丸となって最初に考え出したのが、マリスセルに免疫を持つ人間の研究だった。

 ワクチン開発を主とする第2企画から提供された試作型ワクチンを投与して、マリスセルへの免疫力を高めて奴らとその身で戦えるようにする計画が進み、代表として光貴がワクチンを投与した。

 結果、彼女はマリスセルに感染、2週間の隔離と絶対安静が必要になってしまった。その後百舌鳥が調査したマリスセルの培養と免疫作用の動きによると、この方法でアルファタイプの集団と相対することができるようになるまでに1年以上試作ワクチンの投与が必要になることが分かった。さらに言うなら、それまで光貴は何度もワクチンを打って何度もマリスセルに感染しなければならないのだ。

 

「気が遠くなる研究…だったな」

「と言いつつ継続してるんでしょ、鳳さん。あんまり無理しない方がいいですよ」

 

 烏羽に(さと)され、光貴が反省しつつ、鼻をすする。

 

「というわけで先に試したワクチンで補強しよう作戦はプラン1としまして、続くプラン2を考えたいッスよね」

「自衛隊とかの防護服を応用した抗菌戦闘服の開発とかですかね?」

「それしかないか……」

 

 烏羽の提案から構築されたのが、戦闘用装具、通称『仮面ライダー』の開発であった。

 陸上自衛隊の個人用防護装備が俗称で仮面と呼ばれていたこと、バイクでの現場移動を想定していたことからそのように命名された。ライダー仮面でもよいのではと一部職員からの意見もあったが、語呂を重視した百舌鳥によってこの名で押し通された。

 

「仮面ライダー、まぁ一言でいえばカッコいいんですけど、問題がいくつかありますね」

「ああ、まず技術的に装備する防護服を用意できない、バイクの免許が必要になる、戦力的に複数人が必要になる……出せばホワイトボードが埋まるな」

「つまり現実的じゃないってコトッスよね~…プラン3考えます?」

「それもやむなしだな」

 

 

 仮面ライダーの開発を諦めていた第9企画だったが、ある日、それは訪れた。

 電子生命体『ヴォルモシアン』。そう名乗るデータの集合体が烏羽のPCに出現し、マリスセルについてのあらましを語った。

 百舌鳥が実験用に使用していたマリスセルのサンプルを操作してみせたヴォルモシアンに、光貴は信頼を置くとともに希望を見出(みいだ)した。

 

「貴方には(うやま)いをもって接させていただきます。これほどの情報と技術があれば、人類はマリスセルに対抗できるかもしれないのです」

《お役に立てて光栄です、どうか私の持ち寄った技術をお使いください》

「それは大変にありがたいのですが、物質を生成するためにマリスセルそのものが必要になってくるのがネックになってきますね」

 

 マリスセルの構造を変換して新たな物体に変化させるヴォルモシアンのテクノロジーは非常に画期的ではあったが、それだけマリスセルを要求するため、結局戦闘せざるを得ないのだ。

 

「プラン2に活かせると思ったんスけど……マリスセルのデータがそれだけ必要って本末転倒じゃないですかぁ~!」

「…そうだな、少し考えてみよう」

「何か手でもあるんですか?」

 

 事態が好転ともいかず悩む一郎に、光貴がうなづく。

 

「第5企画部が自衛隊と共同してマリスセルの回収をおこなっているらしい。そこで得られたサンプルをこちらでも拝借できるようかけあってみよう」

「本当ッスか!」

「ああ、これで烏羽の考えてくれたプラン2に着手できるかもしれない」

「そしたらそしたら、仮面ライダーのデザイン原案、ワタシに任せてもらえませんか! 動物モチーフのヒーローとか中々イカすと思うんスよ!」

 

 いいだろう、と光貴が笑うと、早速百舌鳥が作業にとりかかる。

 

 2054年12月。マリスセルの進攻が続く中で、第5企画と自衛隊の協力により東京都江東区でのマリスセルの掃討作戦が開始された。これによりアルファタイプが多数殲滅(せんめつ)され、マリスセルのサンプルを自由に採取できる比較的安全な地域が確保できたが、裏腹(うらはら)に何人もの自衛隊員、職員がマリスセルの犠牲になってしまった。

 多くの命を払って得られたその地は各企画部も立ち入りが可能となり、それぞれの研究に活かされることとなった。

 同時に第9企画が確認したヴォルモシアンの情報が認知され、それらをもとにした新たな活動にかかる部署も現れた。

 

「鳳くん、君らが遭遇したヴォルモシアンなる生命体の情報は確固たる決定的意見だとこちらでも認識している。だからこそ、君らの今後の展開には期待しているのだ、ヴォルモシアンを預けているのもそれが所以(ゆえん)だ。仮面ライダーとやら、楽しみにしているよ」

「はい、多くの人々の努力によってひらかれた土地で、さらなる計画の発展につとめます」

 

 衛生対策委員長からの直々の言葉に光貴は緊張しながらも淡々(たんたん)と応える。

 第5企画と自衛隊の尽力で得られたサンプルで、ヴォルモシアンに装備を開発してもらう。それこそが光貴の悲願であった。

 

 

 同月。マリスセルの少なくなった江東区に降り立った第9企画職員らが、のちにメディックシグナルと呼ばれる小型端末に格納されたヴォルモシアンを連れて計画の実行に乗り出す。

 

《…これだけの量であれば、設計図にあった装備を実装できます》

 

 ヴォルモシアンがそう告げると、周囲のマリスセルを集積させ、新たな形へと変化させる。

 それはベルト型のアイテムと、小型の端末だった。

 

「これが仮面ライダーを装備するための道具か…」

「設計はそこにいる白鳥さんにやってもらって、命名とデザインは百舌鳥さんにお願いしてあります」

「仮面ライダー第1号……名付けて『ヴォルモーク』!」

「ヴォルモーク───どんな意味だ?」

 

 ヴォルモーク。ヴォルモシアンに似たその名前に光貴は由来を問う。

 それに対して百舌鳥は自信満々に語る。

 

「ここまで協力してくれたヴォルモシアンさんからもじった、もくもくーっと霧の戦士ってことでヴォルモーク。安直ッスけどカッコよくないですか」

「ヴォルモークか…」

 

 光貴が少しはにかむと、その場でよろけて倒れてしまった。

 意識はあるが息が荒く体の重さに負けてしまっているようだった。

 

「鳳さん!?」

「もしかしてまだワクチン打ち続けてたんですか!」

 

 心配する百舌鳥と烏羽に光貴は笑う。

 

「これで私に抗体ができれば、プラン1とプラン2を合わせて、現状の仮面ライダーを装備できる人員がいない問題を解消できると考えてな。だがまぁ、何度も続けて体がもつモノではないな」

「いいからさっさと撤収しましょう、こんなマリスセルだらけのトコ!!」

「百舌鳥さん運ぶの手伝ってください!」

 

 第9企画全体に撤収指示が下り、総員がその場から離れる。

 が、彼らの前にはアルファタイプが立ちふさがっていた。

 

「…マリスセル!?」

「このへんのは全部倒したハズじゃ……!」

 

 焦る烏羽たちが光貴を抱えて移動してきたバンへと走る。

 が、アルファタイプが方々(ほうぼう)から出現し囲まれる。

 

「……百舌鳥さんは鳳さん連れて逃げてください、俺が引き付けます」

「何バカなこと言ってンスか! 突破口探してみんなで! 逃げるンスよ!!」

「じゃあその突破口は、俺が作る───」

 

 そう言っているうちに烏羽のまわりにアルファタイプが群がり、感染させんと襲いかかる。

 何も手を出せないまま彼がマリスセルに囲まれている間に、渋々(しぶしぶ)百舌鳥が光貴を運び出す。

 

「…烏羽さん……!」

「百舌鳥さん! …俺はいいから! 早く…!」

 

 アルファタイプに飲まれる烏羽を背に、百舌鳥らは走る。

しかし烏羽のかせいでくれた猶予(ゆうよ)は短く、アルファタイプが彼女らを追いかける。

 

「百舌鳥…私は、もういいから置いて走れ…そうすればバンにたどり着くだろ」

「…嫌ッス! 烏羽さんだけじゃなくて、鳳さんまで、失いたくないッス!!」

 

 走るのが得意ではないであろう百舌鳥が全速力で()ける。

 必死の逃走が実をむすび、ようやくバンへと到着するが、開けた場所に置いていたためかアルファタイプが他の場所からも出現する。

 

「まだこんなに数が…ッ!」

 

 光貴を投げるようにバンに乗せると、百舌鳥がアルファタイプに組み付かれる。

 

「いやっ!」

「…百舌鳥!」

 

 光貴がバンから出て百舌鳥を助けようとするが、他の職員に止められ、そのままバンが発進してしまう。

 

「何やってるんだ!? あそこには百舌鳥が!」

「もう……間に合いません!」

 

 バンの後部から百舌鳥のいた場所を見るが、そこにはもうアルファタイプしかいなかった。

 

「百舌鳥はマリスセルになったのか!?」

「……」

「私が、マリスセルを回収しようとしたばかりにか!」

 

 力が入らないその拳を窓に叩き付けて光貴が叫ぶ。

 

「私の…せいだ」

 

 部下を失い、光貴は自分の非力さを(なげ)く。

 

──────────────────

 

 2055年1月。

 百舌鳥が残したデータには、彼女が生前育てていた動物や、これから触れあってみたい動物のリストが書かれてた。

 そのリストにはそれぞれ名前が振られており、仮面ライダーに動物の意匠を宿したデザイナーでもある百舌鳥の意志がそこに詰まっているような気が光貴にはしていた。

 

「ヴォルモーク、ラポール、ルキフス、アトラクネ、ティオーロ、俊鼠、ケトシィ、エイブ、プロシオン───こんなに仮面ライダーを用意する予定だったのか、百舌鳥は」

 

 短い間だったが、共に研究をおこなった部下の忘れ形見(がたみ)に光貴が複雑な感情を覚える。

 と、最後にプラン1についての追記がなされていた。

 

「…私がマリスセルに抗体を持つようになった場合に使用する仮面ライダーも考えてあった…と。百舌鳥め、そこまで」

 

 文章を読み進めると、鳳の名から取った光貴のための仮面ライダー、フェクシアの草案が記載されていた。

 

「私が世界を救う人になると……百舌鳥は信じきっていたのか……なんて無謀な期待なんだ」

 

 データを残したタブレットに涙がしたたり落ちる。

 

「必ず……必ずマリスセルを滅ぼし、人々を、東京を救ってみせる…! 君らの命は無駄にはしない……!!」

 

 

 それから、光貴による試作ワクチンの投与によるマリスセル抗体の着手が繰り返されるが、決定的な効果は見られないまま、プラン1と2を継続するのみになり、第9企画への期待度は低くなっていった。

 が、ある知らせと共に彼らに白羽(しらは)の矢が立った。

 マリスセルを克服し、その後の検査でマリスセルに対する完全な抗体作用を確認された少女が現れたのだ。

 

「……君が、大神ほえるだな」

「はい! また新しい検査ですか? たしかに大変っちゃ大変ですけど、私が唯一無二の被検体だってなるとねぇ~、いやぁ~やる気に───」

「君に頼みたいのは、マリスセルと戦う任務だ」

「はへぃ?」

 

(なんの因果(いんが)か、神の奇跡か。ついに仮面ライダーとなれる人間が現れた…今度こそ…百舌鳥の、烏羽のプランを……遂行させる)

 

──────────────────

 

 光貴は、いつの間にか自分が眠っていたことに気が付き、体を起こす。

 

「久々に…夢を見たな」

 

 手元にあった水を勢いよく飲むと、光貴は今日までに亡くなった部下たちのことを思い出す。

 

「百舌鳥蜜璃、鳥羽一郎、鷹尾健(たかおけん)燕山翔子(つばめやましょうこ)羽田直美(はねだなおみ)大空飛馬(おおぞらひうま)

 

 犠牲となった部下たちの名を呼んで、タバコを吸う。

 光貴にとってその煙は、亡くなった誰かを想うときの儀式のようなものだった。

 まるで“反魂香(はんごんこう)”だと自嘲(じちょう)しながら光貴は、まだ明けない夜の月をながめた。

 

「みんなが託してくれた力で、絶対にマリスセルに勝利してみせるさ」

 

 

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