仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#23 かぞく

 仮面ライダーの十全な整備が完了し、各員がガレージに立つ。

 

「みなさん、どうかご無事で」

 

 碧の言葉に全員がうなづく。

 

「碧さんも、どうか元気で」

 

 北斗がそう告げると、ライドスフレに搭乗し、発進のときを待つ。

 同時にそれぞれが発進準備を整え、各機が勢いよく飛び出していく。

 

「おおと…光貴さんはみなさんと一緒に行かないんですか?」

「彼女らが草加市に出向したぶん、他の場所でのマリスセル殲滅(せんめつ)作業を私が(にな)う」

「そうでしたか……北斗さんがご家族の元に行けるように、ですか」

 

 さあな、と光貴が呟くと出動にそなえて待機する。

 

「君も行くんだろう、猿堂のご家族のもとへ」

「はい、悲しみを受け止める覚悟はできてます」

 

 そう告げると職員に案内され碧は猿堂の家族が暮らす場所へと向かう。

 

──────────────────

 

 猿堂朱李。

 MRPで仮面ライダーエイブとして戦った彼女は、碧をいじめてきた過去がある。だがそれは、自分の成績を認めてくれない親への執着心と、自分をまともに見てくれず、ただ虎の()()るだけのクラスメイトに囲まれた孤独感から逃げようとした証だった。

 その矛先(ほこさき)となった碧にとっては、すべてどうでもいい話であったが、彼女は見過ごせなかった。誰かが傷ついているのを無視するのは、自分を苦しめた朱李や、彼女を苦しめた人々と変わらない、最低な所業だと考えていたからだ。

 だから碧は、猿堂の死を(とむら)い、忘れず、彼女の家までやってきた。実娘(じつじょう)の死を伝えるために。

 

 心臓が張り裂けそうなほどに脈動させながら碧が猿堂家のインターホンを押した。

 応答がなかった。

 しばらく待ってみてもう一度インターホンを押すが、何も反応がない。

 空が曇りはじめ、碧の不安が(つの)る。

 

(今日、留守なのかな)

 

 何も伝えられないままその場をあとにするのは気が引け、碧が立ち尽くしていると、キャリーケースを引くにぶい回転音が聞こえてきた。

 

「ウチに何か用ですか?」

 

 夫婦と(おぼ)しき男女、そのうちの妻であろう女性が話しかけてきた。

 

「…猿堂さんですか」

「ええ、そうだけど……もしかして朱李のお友達?」

「は、はい───」

「そんなワケ無いわよね、こんなみずぼらしい子が、朱李と友達なんて笑えるわね。ただの同級生でしょ?」

 

 ただの言葉でこんなにも胸を刺されたような気持ちになるのかと、碧は朱李から受けた罵倒(ばとう)を思い出しながら感じ取った。

 だが、負けじと碧は答える。

 

「私は、猿堂朱李さんの友達、飯沼碧といいます。今日は朱李さんのことで大事なことを伝えに来ました」

「そう…じゃあ手短にお願い」

 

 実の娘のことにもかかわらず興味がなさそうに言い放つ朱李の母の言動に碧は緊張感を覚える。

 一方の父は家の開錠に徹して話を聞いてすらいない。

 

「……朱李さんが東京市で隔離入院になったことはご存知ですよね?」

「ええ、マリスセルなんかにかかって、私たちにうつさないでほしいわよまったく───」

「そこで朱李さんは亡くなられました」

 

 心を整理しながら淡々と告げた碧に、朱李の母は言葉をなくしていた。

 

(猿堂さんはお母さんと仲が悪かったようだけど、きっと大切だったから、だから───)

「あの子結局なんの成果も出せずに死んだのね」

 

 そういってため息をこぼす朱李の母を見て、碧は戦慄(せんりつ)する。

 

「お父さん、朱李死んじゃったって」

「そうか、だがもう2人目は望めないぞ、歳だしな」

「でもまぁあの子は(はく)をつけるための子供だったし、死んだら死んだでみんな同情してくれるわよ、どのみち勘当(かんどう)するつもりだったし逆にいいんじゃない?」

「あの、何をいってるんですか…?」

 

 思わず碧が問うてしまう。

 まるで朱李の死を悲しんでいない夫婦が、碧にとってはあまりにも異様だったのだ。

 

「朱李さんが亡くなられて……どうして箔の話をしてるんですか…?」

「別になんだっていいでしょ、人の家族の問題よ」

「どうでもよくなんか、ないです。私……私が、猿堂さ───朱李さんを、死なせてしまったから!」

「責めてないわよ、朱李が勝手に死んだだけでしょ」

「…どうしてそんな言い方が……」

「朱李はね、僕らの思った通りに生きてくれればそれでよかったんだ。賢い夫婦に賢い娘、賢い家庭であることで世間に優位でありたいからね」

 

 穏やかな顔でそう話す朱李の父に、碧は絶句する。

 

「それじゃあ朱李さんは、あなたたちの人形、みたいじゃないですか」

「別にどう言ってくれてもいいわよ、しょせん結果がすべてなんだから」

「まぁその結果が(かんば)しくなかったのだがね」

「朱李ったら、なんでこんなところでヘマをするのかしら…失望したわ」

 

 碧が荷物を抱きしめる。そこには朱李が(のこ)してくれたスマホや服が入っていた。

 せめて遺族のためにもと、碧が預かっていたものだったが、それもあの夫婦にとってはどうでもいいものなのだろうか。

 

 (しずく)が碧の肌を濡らす。涙と雨。同時に(したた)るその冷たさに碧は感情をおさえきれなくなる。

 

「失望したのは私の方です…どうして猿堂さんはこんな人たちと一緒に、生きなくちゃいけなかったんですか」

「?」

「猿堂さんはお化粧がしたいって言ってたんです、知っていましたか?」

「そんなの知らないわよ、禁止してたし」

「猿堂さんは学校でいじめをしていました。この事実は聞かされてましたか?」

「学校の先生からも聞かされてないし、初耳だね。そんなバカなことをしていたのか」

「いじめだなんて野蛮ね、そんなことをする子なんて最初から私たちの娘じゃなかったのかもね───」

 

 碧の平手が朱李の母親の(ほお)を打っていた。

 

「娘に見向きもせず、自分たちの勝手に扱って、ずっと、ずっと苦しめてた……猿堂さんが死んでもあやまちに気づかない…なんてッ!!」

 

 雨がさらに強くなり、朱李の父が2人を家に入るよう(うなが)す。だが、碧はそれを拒否する。

 

「猿堂さんの自由を踏みにじったあなた方のお家になんて上がれません! 猿堂さんが(のこ)してくれたものも───やっぱりお邪魔しますッ!!」

 

 そういうと碧は猿堂邸に上がりこみ、朱李の部屋を見つけるやいなや彼女が大切にしていたであろうものを次々と持参したバッグに詰め込む。

 

「ちょっとなに人ん家に勝手に上がって物色始めてんのよ!」

「猿堂さんの生きた証は私がもらいます! お前らなんかにはやらない!!」

「は、はぁ…?」

「君、たとえ娘のでも家財なのだからそれじゃ窃盗───」

「いつここにある物が、あなたたちの財産になった! 私にとっては、あの子と一緒に遊ぼうって、自由を、生きることをお願いされた私にとってはかけがえのない財産なのに……どうしてお前らなんかに! 猿堂さんのことを見てなかった親以下のクズに! 財産にされなくちゃいけないんだ!!」

 

 碧の気迫に夫婦は押し黙る。

 

「あと、猿堂さんを看病したことってありますか?」

「えっ何急に怖い」

「ありますか?」

「…病院には行かせてたわよ」

「面倒見たりとかは?」

「テレビは見せてたわよ、薬飲ませる以外にできることないでしょ」

 

「私のお母さんは、風邪をひいたときは寝てる私におかゆを作ってくれたり、様子を見に来て励ましてくれたりしました」

「あー……」

「どうしてやってあげなかったんですか」

「そんなの必要な子供は手がかかるだけのわがままでしょ?」

 

 朱李の大切にしていたであろう写真を見て、碧は手を震わせる。

 

「こんなクズでも、猿堂さんは…猿堂さんは……!」

 

 家族との笑顔の写真。幸せそうな家庭を切り取ったその一枚さえも、夫婦にとってはただの“箔”でしかなかったのだろうか。

 

「それ……」

「ここに写っている家族は、とても楽しそうで、幸せそうです。あなたたちにも…猿堂さんを愛していたときがあったんじゃないですか?」

「いつ撮ったんだっけ?」

「いや、こんなの撮った覚えないなぁ、いや、撮ってたのかな」

 

 よく見ると、その写真には違和感があった。

 

 それは、猿堂家の写真じゃなかった。

 どこかで印刷してきた家族の写真に、朱李とその両親の顔を切り取った写真が貼られているだけのコラージュだった。

 

 どこにも家族との思い出がない。

 立派なトロフィーや賞状に囲まれているのに、アルバムはない。

 努力の痕跡やたたえらえた結果はあっても、それを喜んでいた様子は感じられない。

 碧が奪い返さねばならないほど価値のあるものは、どこにもなかった。

 

「……お邪魔しました、もう二度と来ません」

 

 それだけ伝えると、碧は猿堂邸から足早に去る。

 そこには朱李を想う人など誰もおらず、彼女が歪んでしまった理由をただ思い知らされる下衆(げす)しかいなかった。

 

 本当は朱李の死を悲しんでほしかった。たとえ自分のせいだと口汚く責められようと、朱李の死を嘆いてくれる人がいると知りたかった。

 朱李を盾にして優位を築いていた者たちはきっと朱李がいなくなれば彼女の悪行を後になってから糾弾(きゅうだん)し、教師らも問題児がいなくなって清々(せいせい)するだろう。

 彼女の死に傷つき、受け止め、背負える者が、他にいるのだろうか。

 

 “味方が欲しいの…私…”

 

 朱李の言葉を思い出して、どしゃ降りの中を碧が歩く。

 

「猿堂さん……私だけは、味方だよ」

 

 光貴から渡された端末で碧は連絡を取る。

 

「光貴さん、今大丈夫ですか?」

「ああ、構わんが外か? 一旦屋内で頼む」

 

 そう言われると近くにあったバスの停留所に向かって再度話す。

 

「猿堂さんのご両親に一応、伝えてきました」

「苦労しただろう、君もつらかったと思う」

「伝えることは伝えられたので、大丈夫です」

「了解した。君はMRPを脱退するんだったな、今までよく頑張ってくれたな…ありがとう」

「はい……」

 

 少し落ち着いてから、碧は朱李のことを考え続ける。ずっといじめられていたあのときと同じように。

 

「私、いっつも猿堂さんのことばっか……それでも」

 

 それも悪くないと、碧は心の中でささやいた。

 

──────────────────

 

 埼玉県、草加市。

 マリスセルに占領されたその土地に、ライダーらが駆けつける。

 今もなお自衛隊が戦っており、戦地をラポール、ヴォルモーク、ルキフス、俊鼠、ケトシィ、ティオーロが駆け抜ける。

 

「はあああああッ!!」

 

 氷を大量に生成してアルファタイプの動きを止めつつ、ラポールが自衛隊員と接触する。

 

「その装備……東京の第9だったか!?」

「生存者はどこに避難していますか!」

「付近のホームセンターを一時避難所にしていますが…」

「ありがとうございます!」

 

 ラポールが避難所へと走るのを見つけると、ヴォルモーク、ティオーロが援護に回る。

 

「のえる、真希さん、私は避難所に行きます! ここは…お願いします」

「任せて!」

「余裕ですね☆」

 

 2人、そして続く他のライダーにマリスセルの打倒を任せ、避難所へとたどり着く。

 変身解除した北斗は避難所の入り口で防護服を着た男性職員に歓迎を受ける。

 

「もしかして君がさっき言われてた衛生対策委員会の? 若いね!」

「はい、第9企画所属、エージェントの熊谷です」

「熊谷…? ここに来たのってまさか…まぁいいや除菌してから入ってね」

 

 ありがとうございます、と頭を下げると除菌用の装置をくぐってから避難所の中に入る。と、そこで現場指揮をしているであろう中年男性が現れる。

 

「君が第9企画の…詳しくは聞かされていないが……とにかく、熊谷と聞いたが───」

「ここに父と母が!」

 

 ようやく希望が見えてきて、食い気味に問う北斗に、男性は口をつぐんだ。

 

「そうか、やっぱり君のご両親だったか」

 

 残念そうにつぶやく男性の姿に、北斗は血の気が引いていた。

 悪寒(おかん)が走り、全身が震える。

 

「…どうなったんですか」

「ここを封鎖する際に協力してくれて、それで、マリスセルに感染し、奴らと同じになってしまった」

「お父さんと、お母さんが、マリスセルに───」

 

 北斗の思考が停止し、全ての音が消え、視界も奥へと消えゆく。

 家族の安否を聞いた北斗の意識が、途絶えた。

 

 

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