なんとかマリスセルを撃退した仮面ライダーらが避難所に集まる。
北斗が倒れてしまい、寝かされているというのだ。
「北斗ちゃん!」
うろたえるのえるの肩を楽歌がつかむ。
「そっとしときなさい、きっとここまででかなり気疲れしてたみたいだから」
「話には聞きましたが…まさか北斗さんの、ご両親が……」
北斗の両親は避難所を封鎖する際マリスセルの群集に巻き込まれ感染してしまった。その結果彼らもマリスセルと化してしまったのだという。
「家族が…いなくなっちゃった…」
珍しく神妙な面持ちを見せる真希に、いぶが違和感を覚える。
「あなたも空気読めるのね」
「…わたしも家族が、お姉ちゃんが死んでるので☆」
「! ごめんなさい、そうと知らずに」
戸惑ういぶに真希が首を横に振る。
「今のわたしは北斗ちゃんの笑顔を見たいだけですから、気にしないでください」
「……」
「でもその北斗の笑顔、見れるかわからないわよ」
楽歌がつぶやくと、全員が北斗を見る。
家族との実質的な死別。それに耐えきれなかったのは言うまでもなかった。
そんな状態の彼女に、かける言葉が思いつかなかった。
「…マリスセルは、こうやって人の命をどうしようもない電子生命体に還元して、ヒトを消そうとしているんですよね」
「ヴォルモシアンの言葉通りなら、娯楽でね」
「そんな軽い気持ちで人の命を奪うことが…同じマリスセルである私には理解できません」
《これほどの悪逆ができるのも彼らに命がないからでしょう》
口を挟んできたその声は、各人の端末から聞こえてきた。
声色からしてヴォルモシアンであろうその音声は、驚く面々に触れることなく話を続ける。
《ヴォルモシアンは電子生命体として生まれ、生命や記憶、意識さえもデータとして管理できる環境にあります。それはいわば無限の命を持っていることになりますが、同時に命の尊さを忘れ、失ったともいえます》
「話はありがたいんだけど、私たちの端末から声がしてることはツッコむべきかしらぁ?」
《大変失礼いたしました。この音声はヴォルモシアンの私が意識をコピーし、各端末に転送したナビゲート用の複製体です。かつての時代における音声AIの知能をさらに高度化したようなものです》
そのたとえに陽廉が納得したのか首を縦に振る。
「そっか…た、助かります。それで…聞きたいことあるんですけど、マリスセルになっちゃった人は…戻せないんでしょうか?」
《脳や主要臓器がマリスセルに汚染された時点でヒトは死亡いたします。そこから回復する方法はヴォルモシアンの技術を用いても解明されておらず…いえ、もとよりヴォルモシアンはマリスセルを霊長を殺すための道具として使用していますからマリスセルからヒトに戻すことを想定して作られてすらいません》
「そんな…じゃあ北斗のご両親は…」
《生存していません、マリスセルになった時点でもうヒトではないのです》
静寂が流れる間に、皆が思ったことがあった。
「アタシたちが倒してきたマリスセルだって、ホントは人間だった奴もいるのよね」
「―――楽歌!」
つい怒気のこもってしまったいぶがごめんなさい、と頭を下げる。
「いや、アタシも言葉が過ぎたと思う。だけど、それを考えないで戦うなんて、もうできないわよ」
「今までは…ただ倒すだけって、自分も生きることに必死に、なってましたけど……そう言われると……」
「それでもマリスセルはマリスセルです。もう増やさないために私たちは戦うしかないです」
覚悟の決まっているのえるの言葉に一同が押し黙る。
「真希さんはどう、思いますか」
「わたしは北斗ちゃんの笑顔が見れるなら戦うかな☆」
「ブレないわね…」
「でも、マリスセルと戦っても北斗ちゃんは笑顔になれない気がしますよ☆」
全員がうつむく。
北斗もこの事実にぶつかり、それと同時に家族のことを必ず思い出すだろう。
「北斗ちゃんは…もう戦えないかもしれない」
いぶが北斗をなでると、悲しげにつぶやいた。
と、北斗がようやく目を覚ます。
全員が彼女へと向き、大事がないか声をかける。
「北斗ちゃん!」
「北斗さん…ぶ、無事でよかったです」
「北斗ちゃんまだ気分悪くない? お姉さんが添い寝―――」
「北斗、まだゆっくりしてろ」
「笑顔じゃない北斗ちゃんはイヤ、早く笑顔になってよ☆」
「あー、大丈夫、私は大丈夫ですから」
面々を押しのけて北斗がベッドから降りる。
「それより、マリスセルはどうなりましたか?」
「とりあえずこの一帯の連中は倒した…けど……」
言葉を詰まらせる楽歌に、北斗は思いを察する。
「その中に父や、母だったものもいたかもしれない、と」
「ごめん北斗、アタシたちは……」
「いえ、マリスセルになってしまえば、倒すしかありません。それは理解しています」
気丈に振る舞う北斗に、一同は心配しつつも、何か気の利いた言葉をかけられる訳でもなく、ただ次の行動を告げることしかできなかった。
「光貴さんに連絡したら、落ち着いたら施設に戻れとのことだったから…北斗ちゃんも」
「ありがとうございます、いぶさん。ただ一つやりたいことがあって」
いぶが首を傾げる。
「もう一回光貴さんに連絡させてください、その…一度自宅に戻りたくて」
「そういうことなら伝えておくから行っちゃいなよ」
いぶが再び光貴へと通話をつなげ、さっそく連絡している。
「北斗ちゃん、今日はひとりの方がいいかな?」
「…のえるも一緒の方がいいかもしれない」
「あっ店長さん別行動一人追加で、のえるちゃんね」
誰が店長だ、という光貴の突っ込みが聞こえてくる。
だが難なく許可が取れたようで、いぶがウインクする。
「じゃあこっからはのえると北斗がここに残って、アタシたちはあの施設に戻る感じね」
楽歌が状況を整理すると、避難所の前にバスが到着したと知らせを受ける。
「アレに乗って帰る感じですね☆」
「それでは、北斗さん、のえるさん。お気をつけて」
陽廉からの
「じゃあ私たちも…行こうか」
準備を整えた北斗たちのもとに現場指揮の男性がやってきた。
「もう行かれるのですね」
「はい、お世話になりました」
男性が
「あなたのご両親は大変
「ありがとうございます……私の父と母は、優しい人たちでしたが、きっと一生に一度しかない決断をしたと思います。2人の思いを
北斗がそういうと深く頭を下げ、避難所を後にする。
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エージェントらが乗り込んだバスの車内で、楽歌は大きなため息をついた。
「急にどうしたの、楽歌ちゃん」
「北斗、絶対無理してたなーって思って」
「たしかに、ご家族が亡くなられたのに、ずっと気を
陽廉の推測にそれよ、と楽歌が指をさす。
「陽廉みたいに気持ちをブワーッと打ち明けてくれれば助かるんだけどね」
「あぇっ、そっ、その
赤面する陽廉の肩を楽歌が叩く。
「アレでいいのよ、“仲間”からしたらね」
「仲間、ですか……」
「そうよ、私たちはもうマリスセルを倒すために集まっただけの仲じゃないわ。一緒に死線をくぐり抜けた仲間になったのよ」
「そうです☆」
「アンタは…仲間……?」
「のえるちゃん一回殺してるじゃない」
それは、と目をそらす真希を陽廉がかばう。
「それでもま、真希さんも今こうして協力してくれているから…仲間です!」
「陽廉ちゃんがいうならそういうことにしてもいいかしらね」
「私がしでかしたことは理解しているつもりです☆ 痛みも苦しみも、他人に与えてはならないって今は思うから絶対にしません☆」
説得力がない、という顔のいぶに真希が笑顔のまま汗をたらす。
「とにかく北斗のことだけど、のえるがいるから大丈夫、だと思いたいわね」
いぶが話を切り替えると、楽歌がまたも大きなため息をついた。
──────────────────
避難所から徒歩で行ける距離のマンションに熊谷邸は入っている。
この周辺がパニックであったことを示すように解錠されたエントランスを通ると、北斗が口を開いた。
「ここ、覚えてる?」
「ほえるちゃんの記憶だけど、ハッキリ覚えてるよ。よく遊びに来ていたみたい」
エレベーターに乗りながらのえるがほえると共有する思い出を語る。
「北斗ちゃんのお母さん、よくシチューを作ってくれたんだね」
「うん、すごいおいしかった」
「お父さんは仕事だったからあまり会ったことはないけど、いつも北斗ちゃんと遊んでくれてありがとうって、笑ってたのは覚えてる」
「私、あんまり笑えなくて友達少なかったから、ウチに来てくれるほえるが、すごく嬉しかったんだって、お父さんもお母さんも。よく大事にしなさいって言われたな」
エレベーターが停止し、熊谷邸のある階に着く。
「ほえるが学校に来なくなったとき、すごく心配だった。ほえるのお母さんに会いに行ったんだよ?」
「うん、ありがとう。でもマリスセルはそのとき未知の病気だからほえるちゃん隔離入院されてたんだよね」
「そういえばのえるも、お母さんのところ行かないとね」
「あー……説明するのが大変だからほえるちゃんが治ってからって思ってたけど───」
「なるべく早い方がいいよ。何ならこれから行く?」
のえるが北斗の
「冗談だよ、ごめんねのえる」
北斗がそうつぶやくと、自宅のドアノブに手をかける。
「鍵かかってる、緊急時なのにこういうところキッチリしてるの、お母さんらしいな」
持参していた鍵で扉を開けると、誰もいない自宅に足を踏み入れる。
「ただいま」
「お邪魔します」
静かな自宅に、北斗は脱力して玄関に座り込んでしまった。
「…あれ、なんで私ここに来たかったんだっけ」
「ただ、帰りたかったんじゃないかな」
北斗は泣いていた。
家族を失い、一人になった自分が、家にいることが、あまりにも大きすぎる喪失感を覚えさせていた。
「みんなには大丈夫って言っちゃったけど、そんな訳…ないね」
「北斗ちゃん」
「私はまだ子供だよ、お母さんとお父さんがいないと生きられないよ。さみしいよ、こわいよ。今度から何を食べればいいのかわかんないよ」
涙があふれ、止まらない。
生まれてから今まで、両親と触れ合ってきた時間が次々と思い起こされる。
迷子になったとき、探してくれた。
おつかいでお金が足りなかったときに店まで来てくれた。
卒園式や卒業式でいつも泣いていた。
高校の制服を見たとき、大きくなったね、と笑ってくれていた。
家族で笑っている時間が、好きだった。
「ひとりは…いやだよ……!!」
リビングまで走り、家族のいた証を見ながら北斗は壊れそうな心を守るように泣き続ける。
「北斗ちゃん…!」
のえるが北斗を抱きしめる。
「北斗ちゃんはまだ一人じゃないよ、みんないるよ!」
「ひとりに…しないで……一緒に…いて…」
「うん、一緒にいてあげる」
北斗は涙で目を
「どこにも…いかないで……」
のえるは目を閉じると、その意識をほえるに返す。その方がきっと、北斗に良い言葉をかけられると思ったから。
「北斗ちゃん」
「…ほえる」
「わかる? 嬉しいな」
「ほえる…ほえる!!」
途方もない孤独感を埋めてくれるほえるの存在に、北斗はただしがみつくしかなかった。
「ほえる」
「北斗ちゃん」
2人が唇を重ねる。衣服を
ずっと一緒にいられるようにと、祈るようにお互いを感じた。