除菌とシャワーを済ませたのえる、北斗と真希が出くわす。
「北斗ちゃん、それにのえるちゃん…戻ってたんですね☆」
「はい、ついさっき戻りました」
北斗が答えると、真希が含みのある表情をして、のえるを見る。
「……真希さん、ようやくゆっくりお話できますかね」
「はい☆ わたしものえるちゃんとお話したいことがあります☆」
それを聞くと北斗はその場から離れようとする。
「それじゃ、あとはお若い2人で」
冗談めかして言葉を残す北斗の手を真希が掴む。
「今日はのえるちゃんと北斗ちゃん、一緒にお話したいんです☆」
「……」
「それで、話ってなんですか」
広間で3人が腰を下ろし、緊張ぎみの北斗とのえるに真希が強いまなざしを向ける。
「───のえるちゃん…ごめんなさい!」
「えっ何ですか急に」
驚くのえるに、真希は今までにない真剣な表情を見せる。
「わたしは、のえるちゃんを殺した。それを謝りたかったの」
「……こういう言い方はなんですが、真希さんからまさか謝罪の言葉が出るとはですね」
北斗が口走ると、だよね、と真希が笑う。
「自分のやることはしょうがないことだと思ってた、どんな形であれそうすればわたしは輝きを見つけられると思ってたんだ」
「輝き?」
「でも、そうじゃなかったから、謝ってるんですよね」
北斗の問いをさえぎるのえるの言葉に真希がうなづく。
「わたしは北斗ちゃんの笑顔が見たい。でも、のえるちゃんを殺しちゃったら笑顔なんて見れないってわかったから」
「当然です、のえる、そしてほえるを傷つけるような人に笑顔なんて向けられないです。親友に痛い思いを味わせた人は許せませんから」
「…今でもわたしのことは、許せない?」
「これからの行動次第です」
「北斗ちゃんの笑顔が見たいって気持ちは変わらない。だから北斗ちゃんにとって大切なのえるちゃんを大切にするべきだった、わたしがやっちゃったこと、後悔してるんだ」
顔を曇らせる真希に、北斗とのえるは少し困惑する。
「それで…どうして私の笑顔にこだわるんですか?」
「えっとそれは……あぁ、そっか」
真希が何かを思い出したのか
「そうやって自分の興味のあることに本気になりたかったんだよ、わたし」
そうつぶやくと、真希は姉のことを思い出す。
「ちょっとわたしの話していい?」
「聞かせてください、真希さんのこと」
「ありがと、のえるちゃん…わたしね、お姉ちゃんがいたの───」
真希の姉、
厳しい道を突き進んだ先にある、舞台に当たるスポットライト。大衆の歓声と応援を力に、眩しいその世界の熱を浴びることが、真奈の夢だった。
「お姉ちゃん、アイドルってそんなに面白い?」
「うん☆ 大変だけど、輝いてるんだ…ずっと☆」
「なんか口調までキラキラしてるね」
「いつで私はアイドルでいられるように、輝き続けられるように、一瞬一秒を無駄にできないのよ☆」
へー、と当時中学生の真希は淡々と返すが、姉の熱心な思いに強く
「わたしもアイドル、なれるかな」
「つらい道だぞ☆」
「わたし、あの頃からやれって言われたことくらいしかやることもなくて、何かに必死になれるのっていいな、って思ってたの。だから、お姉ちゃんの真似をするようになったの…思えば剣道もお姉ちゃんの影響だったな」
「お姉さんが好きなんですね」
「好き…なのかな、そうかも☆ よく考えていなかったけど、お姉ちゃんが私の道になってくれていた気がする、死んじゃったんだけどね」
え、と思わず北斗とのえるから声が漏れる。
苦笑いする真希の目はどこかさみしそうだったが、口角を上げたまま話を再開した。
「自殺したの、お姉ちゃん」
真奈が死んだのは、“輝きが失われないように”だった。そう遺書には書かれていた。
アイドルとして輝きだした今の自分が一番美しかった、そしてその美しさが
姉を目標にして生きていた真希はその目標を失ったが、同時に姉の姿を追うようになった。
アイドルになれば、輝いている瞬間を切り取った姉の意図が、彼女の語った輝きがなんなのかが見えると思った。
だからアイドルになると真希は語った。今は形だけ、言葉だけであったが、いつか実現できると思って、姉の作っていた道を進んでいった。
「本当はわたしは空っぽだったから、お姉ちゃんを追いかけることで自分を埋めてたの。 お姉ちゃんの姿がうらやましくて、お姉ちゃんみたいに輝きを追いかけてみたいって思ってしまったから」
「それでなんでいぶさんやのえるの命を
正論を突きつける北斗に真希は目をそらす。
「なに目をそらしてるんですか!」
「まぁまぁ北斗ちゃん…」
「誰かの命なんてどうでもよかったの…わたしの中に他人はいなくて、自分しか見えてなかったから」
でも、と真希が続ける。
「今は北斗ちゃんがわたしの中にいるの。あなたのことが気になって、大事だと思うようになったから、他人を傷つけてはいけないことを理解できたんだ」
「じゃあ…もう誰かを傷つけるつもりはないんですね」
「うん、それが“手抜き”だって陽廉さんにも言われちゃったから」
手抜き? 首をかしげる北斗だったが、のえるは何かを理解したのか軽くうなづく。
「北斗ちゃんの困った顔を見るのに私を傷つけたのは、手抜き、だったんだよね」
「その手抜きっていったい…」
「自分にとって楽で、簡単な方法ってこと。真希さんは自分にとっての近道だからって誰かを傷つけた…それが手抜き───ってことですよね?」
うん、と真希がうなづく。
「わたしは自分だけがこの世界で輝くんだって思ってた。だけど本当はこの世界には北斗ちゃんが生きてて、のえるちゃんもいて、いぶにゃんも、陽廉さんも、楽歌さんも、碧さんも、光貴さんも」
(みんなの名前覚えてたんだ)
「みんな生きてるんだってやっとわかった。誰かのために何かすることもわかった、気がする」
そういって真希はのえるを見つめる。
「わたし、全然輝けてなかった。のえるちゃんを使ってわたしのやりたいことだけやろうとしてた……今は違うから、もう誰かを傷つけないから、絶対」
「私はわかりました、真希さん……そしたらもう一人謝ってほしい人がいるんです」
のえるがそう言い放つと、胸に手を当てて、目を閉じる。
「のえる…もしかして」
北斗が声がかけると、“彼女”は北斗の手を握って笑う。
「やっほ、北斗ちゃん」
「…ほえる」
「ほえるちゃん?」
真希が目を丸くする。
意識を取り戻したほえるは軽くうなづくと、真希のことをにらむ。
「のえるちゃんはあなたのことを許していたけれど……私はまだ許せてませんから」
「……ごめんなさ───」
ほえるが真希の
「のえるちゃんが力を使ってくれたから私は生きてますけど、本当だったら私はあそこで死んでいた、死んでいたんですよ」
ほえるはさらに真希の服の
「あなただって知ってるはずです。死んだら戻らない、その人の家族や友達は、一生その死が刻まれたまま生きなくちゃいけないんです。あなたは北斗ちゃんに一生消えない傷をつけようとしていた……分かってるんですか」
「わ、わたしは───」
「そんなあなたが北斗ちゃんの笑顔なんて語らないでほしいんですよッ!!」
北斗ですら見たことないほどの激しい怒りをぶつけるほえるに、真希は何も言葉を返せず、震えるばかりだった。
「怖いんですか私が? 私だって怖かった…あなたに刺されて、笑われて、その場に置いていかれて」
「ご、ごめんなさい…」
「謝れるなら、これから
ほえるの
「うぇ…ひっく」
「泣いちゃった」
ほえるへと視線を向けた北斗がさらに視線を真希へと向ける。
「びぇぇぇぇぇん!!」
幼い少女のように泣きわめく真希に、流石に北斗もあわてる。
真希の泣き声を聞いて他の面々も集まってくる。
「北斗にのえる……戻って
「楽歌さん…これには深い事情が」
「うわぁぁぁん!!」
泣いている真希に驚いた碧と陽廉が慌てていると、いぶがやってきて少しあたりを見ると、ほえるの近くに腰を下ろす。
「のえるちゃん? 何があったの」
「今はほえるの方です。それでなんですけど、真希さんが前に私を刺したことを謝るのでもう二度と誰かを傷つけないようにと怒ったらこんな風に…」
「そう、ほえるちゃんね、あなたは悪くないわ」
そういうといぶはほえるの頭をなでて真希の顔を持って目線を合わせる。
「真希にゃん、ちょっとこっち向いて」
「ぶわぁ!」
「人はね、生きてくためには謝って、誠意を見せなくちゃいけないの。そんなの知ったことじゃないかもしれないし、どうでもいいことかもしれないけど、必要なことなのよ」
いぶの言葉に真希が叫ぶのをやめる。
「誰かを好きになったんでしょ、真希にゃんはさ」
「好きってのはわかりません、でも北斗ちゃんは大事な存在なんです」
「だったら、真希にゃんは…許してもらえなくても謝って、北斗ちゃんの言うことをよく聞いて、自分勝手なことをしない。いいわね?」
「そうすれば、北斗ちゃんは笑顔になってくれますか?」
「わかんない、でも焦らないで。答えはすぐには出ないから、それまではさっきのことを守って」
いぶが語りかけると、泣きやんだ真希がうなづく。
「ずいぶん語るわね」
楽歌から投げかけられたのは茶化すような言葉だったが、その表情は真剣なものだった。
「うーん、今いった通りにできなかったから私捨てられたから…かしらね」
困った顔で笑ういぶの
「いった通りにして散々な目にあったんでしょ、ソイツに」
楽歌が真希を指さす。真希は何も聞いてなかったようで首をかしげる。
「ソレはソレ、コレはコレよん。大事にしたいものは手放さないって決めたから」
いぶの宣言に北斗、ほえる、陽廉、楽歌、真希が心を打たれる。
「それは…そうね」
楽歌がつぶやくと、一同がほほえむ。
───けたたましい警報音。全員の神経を
「こんなときにまでマリスセルが出るなんて……!」
「アイツら時と場合ってモンを知らないから」
走りだす楽歌といぶに続いて他のメンバーもガレージへと向かう。
先ほどまで泣いていた真希は、ほえるに声をかける。
「ほえるちゃん、わたし行ってるから」
だが、ほえるはその場でふらつき、倒れてしまう。
「ッ、ほえる!!」
北斗と真希が彼女を
(ずっとほえるでいると体調が悪くなるって言ってた……ウチにいたときも、ほえる、無理してたのかも)
冷や汗をたらす北斗の肩を光貴が叩く。
「大神を休ませておけ、現場には私たちで対処する。狩屋も熊谷に任せて向かうぞ」
「あの、だったら……」
そこまで言葉を絞り出して、北斗は口をつぐむ。
みんなと一緒にマリスセルと戦うつもりはあったが、ほえるのことが何よりも心配だった。
その場から動けないまま
「光貴さん……すみません」
「大神がすぐ起床したら来い。人手が足りないからな」
「は、はい」
「北斗ちゃん、ほえるちゃんをよろしく」
走る光貴と真希を見送ると、北斗はほえるの
「私……やっぱり行ってくるから」
ほえるに言葉を残すと、北斗はガレージへと向かう。