仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#3 はじまり

「───ほえる、本当に戦うの」

「───わたしは、ヒトのために、マリスセルと戦う。そう決めたから!」

 

 狼のような風貌の戦士となった親友の姿に、熊谷(くまがい) 北斗(ほくと)はただ唖然とした。

 

「いっくよ~、みんなを守るんだ!」

「待って、ほえる───」

 

 北斗の制止を聞かず、ほえる───『仮面ライダーヴォルモーク』は眼前の敵へと駆ける。

 

 

──────────────────

 

 

「―――これにより我が国の首都は埼玉県に遷都し、臨時東京市として社会機能を維持した訳ですが───」

 

 親友との再会からさかのぼること数時間前。

 オンライン授業に飽きた北斗はあくびをかいた。

 

「…と、いけない」

 

 自制しながらも彼女はタブレット端末の前で気を落としてしまう。

 念願の高校生活もマリスセルの蔓延で誰とも会えずじまいとなってしまったからだ。

 

(それに───)

 

 心の中で言葉を続けようとした北斗だったが、首を横に振って授業に集中する。

 

(マリスセル、要は人類史上初の人に感染するゾンビウイルス。フィクションじゃない、リアルに起きている本物のパンデミック)

 

 ノートを取る手を止めて、北斗はため息をつく。

 

「こんなモノ、無ければ良かったのに」

 

 

 と、自宅の玄関チャイムが鳴った。

 訪問者に心当たりのない北斗は視線を玄関へ向けながらも、家族が対応するだろうと授業に戻る。

 しかし玄関先の問答が続く。どうにも家族が訪問者と揉めているらしい。

 状況が気になり、一旦カメラをオフにして授業から抜ける。

 

「母さん、一体どうしたの」

「北斗! あなたは部屋に戻ってなさい───」

「あなたが熊谷北斗さんですね」

 

 そう問うのは、防護服を着た複数人の作業員だった。胸には東京都のマークが入っており、主要な土地を失った東京が臨時で創設した衛生対策委員会であろうことは察しがついた。

 だが、彼らが何のために熊谷邸を訪問しているのか、北斗には全く見当がつかなかった。

 

「私に用ですか? 急ぎってことは、マリスセルの何かですか」

「そうです北斗さん、あなたが参加した定期検査でマリスセル感染の疑いがあり、即刻隔離入院することになりました」

「急な話ですね、それに私症状が出てないんですけど」

「無症状での感染報告もあります。とにかく命にかかわる事態ですのですぐこちらの用意した隔離施設へ」

 

 問答無用で北斗が連行される。

 救急車に拘束され、1時間ほどの走行を経て洋風の屋敷と思しき場所に連れて来られた。

 

「ここが隔離施設ですか、随分と豪華な場所ですが」

 

 北斗と同行した職員らは何も答えず、ホテルの一室らしき部屋に案内される。

 

「今後はこちらでお過ごしください」

「お過ごしくださいって……一体どのくらいここに隔離されるんですか」

 

 不安が募る北斗に、部屋のスピーカーから音声案内が聞こえてくる。

 

「熊谷北斗、移送は済んだな。部屋に置いてあるVR機器を装着し、説明を受けろ」

 

 高圧的な女性の声が聞こえるが、北斗は表情を変えず機器を手に取った。

 頭に機器を装着すると、そこにはこの施設と同様の装飾が施された広間があった。

 広間の中心では大きなテーブルを9人の女性が囲む形で座っており、その奥には今回の“首謀者”らしき女性が足を組んで座っていた。

 先ほどの声の主であろう高圧的な様相が威圧感を(かも)し出し、緊張感が漂う。

 

「操作は出来たか。ならばここに座れ」

 

 その女性が目を配る先には、一つだけ空席があった。

 

「…こんなことをして、何のつもりですか」

「それを説明する。座れ」

「そうやって何も情報開示しないのがイチバン信用無くすんじゃない?☆」

 

 他の女性から指摘され、高圧的な女性は眉をひそめる。

 

 確かに彼女の言う通り、何も言われずただ指示に従うのは不服だったが、北斗はとりあえず不和を避けるために椅子へと歩を進める。

 すると、自分の隣に座す少女の顔を見て言葉を失った。

 

「―――」

 

 

 大神(おおかみ) ほえる。

 小学校からの北斗の幼馴染で、去年肺炎で入院していたと言われていた無二の親友であった。

 

「あれ? 北斗ちゃん? 北斗ちゃんだー!」

 

 以前と変わらない大声で北斗の名を呼び、抱き付こうとする。だがここはVR空間ゆえ、触れることはできない。

 

「なんでほえるがここに…」

「それも今説明する。貴様らが立ち話していては話が進まん」

「…ごめんなさい」

 

 女性の殺気にも似た声色にほえるは一気に顔を八の字に曲げる。一方の北斗は謝罪しつつも微動だにせず着席する。

 

「……これで全員揃ったな、待たせた」

 

 そう告げると、女性が背後にスクリーンを用意し、スライドを開始する。

 そこには『メサイアライダーズプロジェクト』と書かれていた。

 

「私は(おおとり) 光貴(みつき)。今回貴様らに参加してもらうマリスセル排除作戦、メサイアライダーズプロジェクト、通称MRPの責任者だ」

 

 何それ、と問うような参加者たちの表情に光貴は理解を示すようにうなづく。

 

「貴様らやその家族には“マリスセル感染の疑い”としてここまで来てもらったが」

(来てもらったというより拉致では)

 

 北斗が心の中で突っ込むと、まるで考えを見透かされているように咳払いを返される。

 

「実際のところは違う。貴様らにはマリスセルに対する抗体が遺伝子検索により発見された。これを有利に使い、ゾンビのように蔓延したマリスセル・アルファタイプを排除してもらう」

「え…アレと戦えってことですか…?」

 

 他の参加者から問われると、光貴が大きくうなづく。

 

 場がどよめく。

 見るからに危険な生物と化してしまっているものの、相手は"人間"である。

 彼女らにそれができる勇気は無い。

 

「面白ぇじゃねぇか」

 

 そう発し、口角を上げるのは、1人の小柄な女性だった。

 常人離れした凶悪な表情から放たれる言葉の1つ1つが、恐怖をかき立てる。

 

「怪物と戦うような物だ、恐れるのは理解できる。だが、奴らは抗体を持つ貴様らを狙い続けている。いずれ戦うことになるのは避けられないだろう」

 

 参加者の一人が悲鳴を上げる。

 一方の北斗は、状況を整理できずにいた。

 

「どうしても…私たちが、マリスセルと戦わなくちゃいけないんですか?」

「マリスセルは抗体を持つ者から先に感染させようと学習している。どのみち貴様らは戦わなければ死ぬだけだ」

 

 そんな、と北斗の口から漏れる。

 戦いも何も、彼女にはそんな心得も経験も無い。それをいきなり訳の分からない場所に連れて来られて戦えと言われても、ただ戸惑うことしかできなかった。

 だが、隣にいる親友はいつもと変わらぬ笑顔で理解を示しているようだった。

 

「ほえるは、こんなこと言われて驚かないの…?」

「うん、だってもう戦ってるし」

 

 北斗を含めた参加者が一斉にほえるを見つめる。

 

「…彼女は、貴様らよりも先に発見された抗体保持者として、先んじてMRPに参加している。最初は彼女についてサポートを受けることを許可する」

「ちょっと待って、ほえる……あのマリスセルと…戦ってるってこと?」

 

 軽くうなづくほえるに、北斗は戸惑う。

 

 

 と、広間に警報が鳴り響く。

 

「マリスセル活性化反応! 仮面ライダーはただちに出動してください!」

「…悪くないタイミングだ」

 

 そう呟くと光貴が手元の端末を操作し、出動準備を始める。

 同時にVR機器の接続が途切れ、一面が真っ暗になる。

 

 北斗が機器を外すと、今後の行動を指示する放送が流れる。

 

「これよりMRP参加者は端末を持って部屋の外へ出て、案内に従え」

 

 放送に促され、北斗が端末を取ると、これからの移動場所に関する情報が端末より与えられた。

 廊下を進むと、先ほどのVR空間でも顔を合わせた他の参加者と合流していく。

 

「あの…これ何なのか―――」

「分からないわよねぇ? お姉さんも何も聞かされないで連れて来られたからぁ…」

 

 丁度近くにいた妖麗で長身の美女に話しかけてみたが、どうも状況は北斗と同じらしい。

 参加者の多くが不安そうな面持ちなのを見るに、ここまでの境遇は誰も大体変わらないであろうことは察した。

 だが、どうにも事情の異なりそうな参加者が幾人かいることを、参加者全員の集まるガレージにて北斗は痛感させられた。

 

「離せェ…早くやらせろォッ」

 

 防護服の職員によって拘束された小柄な女性が昂っている。

 マリスセルと戦うという苦難を“面白い”と一蹴してみせた彼女は、どうやら戦闘したくて(うず)いているようだった。

 その様相に参加者の一部が震えている。

 北斗自身も冷や汗が出てくる。

 

「北斗ちゃん、大丈夫?」

 

 ほえるが到着すると北斗の肩を叩いて心配そうに見つめる。

 事情が異なるといえば、ほえるもそうだった。

 この状況の中で落ち着いており、戦闘にも既に参加していると発言しているのだ。

 

「ほえるは怖くないの? あんなウイルスと戦って」

「あっ厳密にはウイルスじゃないよ、ヒトみたいな形してるんだもん」

「…本当に怖くないの」

「うん、私…ヒトを守るのが大好きだから」

 

 かつてのほえるは、そこまで他人の安寧を願う子だっただろうか。

 そうした疑問が頭をよぎりつつも、この状況下でも平常運転を続ける彼女の姿に北斗は励まされていた。ゆえに、あまり追及しないことにした。

 

「でも、ほえるは病み上がりなんだからあまり無茶はしないで」

「だいじょーぶ! 私いま絶好調なんだから!」

 

「私語は(つつし)め、これよりマリスセル・アルファタイプの排除にあたる。各員ガレージにある既定の番号の移動装置に乗り、現場に急行してもらう。なお、こちらの指示する戦闘行為を拒否する参加者は別の形でのデータ採取に応じてもらう」

「へ…へぁの……データ採取って……」

 

 気弱そうな女性が挙手をして質問すると、指示を下す光貴は鼻から吐息を漏らした。

 

「…詳しく話すと長くなるが、マリスセルと戦うより痛いぞ」

「へぁっ!?」

 

 質問していた女性はそれを聞いて腰を抜かす。すかさず北斗が彼女に寄り添い起立を支えるが、完全に足がすくんでいた。

 

「チッ、奴ら江東区まで侵入しようとしているな…あそこにはまだ住家があるというのに」

 

 参加者の端末に移動装置に関する情報が共有され、案内図が示される。

 

「人々の安全がかかっている、急げよ貴様ら」

(なんて高圧的なんだ)

 

 心の中で悪態をつきつつも、北斗は介抱していた参加者と共に案内図を見る。

 

「私たち、番号隣みたいです」

「あっ…あでも、これ以上ご迷惑は…」

「大丈夫です、私も分からないことばかりですが、なんとか一緒に頑張りましょう」

 

 北斗が励ますが、全く変わらない表情に気弱な女性は萎縮しているようだった。

 

「北斗ちゃ~ん! 私もお隣だよ!」

「ほえる」

「そこのお姉さんも! 私についてきてください! みーんな守っちゃりますからね!」

「ありゃがとぉござぃます……」

 

──────────────────

 

「全員移動装置(ライドスフレ)に座したな。一応言っておくが、それを使ってこちらに戻ってきた者も戦闘拒否として実験台だ」

 

 まるでバイクのようなその移動装置───『ライドスフレ』は、現在開発中の新型マシンらしく、下部から浮力を発生させて猛スピードで目的地まで駆ける。

 加えて、AIによる自動操縦を可能としており、搭乗者の免許を必要とせずに動くのだ。

 

「全員の着座を確認、ライドスフレ…射出」

 

 光貴の号令により、ライドスフレが一気に発進する。

 前面が覆われる形状によって搭乗者は現在地点の把握できぬまま、目標への到達時間を見つめ続ける。

 およそ1分ほどで到着するらしく、マシンが速度を上げていく感覚のみが伝わる。

 射出から20秒ほど経過した頃には速さすら感じず、ただどこかへと移動しているような気分だけが残った。

 

(一体何に乗せられているんだろう…今後これにも慣れろっていうの───あの鳳って人は鬼なのか)

 

 北斗がため息をついている内に、どうやら目的地に到着したらしい。

 マシンの前面が展開し、ようやく降りられる。

 

「なんだかアレに乗っているだけで疲れたな…」

「いやいや、北斗ちゃん。ここからが本番だよ」

 

 ほえるがいつになく真面目な口調で前を見据えている。

 彼女の見つめる方向へと北斗も視線を移すと、大量のマリスセルが海の方向から群がってきていた。

 

「ひぃやぁぁぁああ!!」

 

 同行していた気弱な彼女が悲鳴を上げる。最早案の定とも言える反応だったが、北斗の体は咄嗟に動いていた。

 

「大丈夫ですか」

「や、やっぱり戦えまひぇん…」

 

 嗚咽を上げながら泣き始める彼女を北斗が庇うと、その前にほえるが立つ。

 

「さっすが北斗ちゃん。この状況で誰かのために動けるの、本当にカッコよくて大好きだよ」

「言ってる場合じゃないでしょ」

「てへへ……それじゃあ私は、みんなを守るために戦っちゃうから、2人はここで待ってて!」

 

 そう告げると、ほえるはライドスフレに搭載されていたアタッシュケースからベルトと小型アイテムを取り出した。

 

《RemediumDriver》

 

「各員、対マリスセル用装備の扱いは端末に届いているはずだ、それを確認しつつマリスセルに対処しろ。子供でも扱えるほどに操作は簡略化されているから苦労はしないだろう」

 

 光貴からの通信と同時に、ほえるがウインクしてみせる。

 

「こっちは私がレクチャーしますねっ…えーと、ベルトは今つけたから…次はこの『メディックシグナル』!」

 

《PersonaPhantom》

 

 スイッチを押下してメディックシグナルを起動させると、ベルトである『リミディウムドライバー』に装填する。

 

「それで、声で認証してるから合言葉を言うんだよ!」

「合言葉…?」

「合言葉は───変身!」

 

 ほえるがそう告げて再びメディックシグナルを押下、それにより変身のシークエンスを完了しその姿を変容させる。

 

《Project Start…PersonaPhantom───Change The Wolmoke》

 

「変身完了! これが私の戦う姿……『仮面ライダーヴォルモーク』!!」

「仮面、ライダー?」

「仮面を被って、マシンに乗って、戦う。だから仮面ライダー。私も、北斗ちゃんだってそうなんだよ」

 

 ほえるの言葉で、北斗もまたこの場に立ち会う当事者であることを実感し、息を呑む。

 

 

「───ほえる、本当に戦うの」

「───わたしは、ヒトのために、マリスセルと戦う。そう決めたから!」

 

 狼のような風貌の戦士となった親友の姿に、熊谷(くまがい) 北斗(ほくと)はただ唖然とした。

 

「いっくよ~、みんなを守るんだ!」

「待って、ほえる───」

 

 北斗の制止を聞かず、ほえる───『仮面ライダーヴォルモーク』は眼前の敵へと駆ける。

 

 

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