仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#33 かいさん

「鳳さん」

 

 百舌鳥と烏羽が光貴を呼ぶ。

 重たいまぶたを開け、体を起こした光貴が彼女らの姿を見て安らかに笑う。

 

「私は死んだのか?」

「ギリギリッスね」

 

 懐かしい第9企画部の一室で笑う百舌鳥と烏羽に、光貴は口を閉じる。

 

「でもまだ鳳さんは死ぬべきじゃありません」

「私たちが見れなかった東京が復活する瞬間に立ち会ってもらわないと」

 

 2人が光貴の背中を叩く。

 

「生きてください、鳳さん」

 

──────────────────

 

 

 光貴が目覚めると、どこかの医務室にいた。

 

「! 鳳さん」

 

 衛生対策委員会の刺繡(ししゅう)がを胸につけた看護師が彼女の名前を呼ぶと、光貴はようやく意識をはっきりとさせる。

 

「……マリスセルは、どうなった」

「仮面ライダーが勝ちました」

 

 看護師が笑うと、職員らに連絡を始める。

 体の痛みを覚えながらも光貴は看護師を呼び止める。

 

「みんなは…無事なのか……?」

「みんな…仮面ライダーのみなさんですね、全員無事です。今は自室で寝ているところだと思います」

「そうか───」

 

 光貴が安堵(あんど)で笑みをこぼす。

 

 

 始終(しじゅう)を見ていた職員が医務室に着き、これまでの状況をまとめた書類を光貴に渡す。

 それらに目を通すと、光貴はベッドに横たわる。

 

「あんな凸凹(でこぼこ)たちが、東京を…世界を救ったのだな……」

 

──────────────────

 

 昼過ぎ。戦いから数時間たち、北斗が目覚める。

 時間を確認するため端末を開くと、光貴からのメッセージが届いていた。

 “全員起床後広間に集合しろ。今後のことについて話す”

 

 それを見て急いで支度(したく)を整えた北斗が広間へと向かう。

 

「お待たせしました…って…」

 

 そこには光貴のみが座っていた。

 

「今日は珍しく君が最初だ」

「まだ誰も来てないんですね」

 

 少し気まずい雰囲気の中、光貴と同じ大きなテーブルに腰かける。

 

「光貴さんはもう体、大丈夫なんですか」

「ああ、あれからの話も資料で知ったよ。君たちが私を助けてくれたんだな」

「いぶさんとのえるのおかげです」

「ああ───ありがとう」

 

 光貴からの素直な感謝の言葉に北斗が面食らう。

 

「まさか光貴さんからありがとうなんて言ってもらえるとは」

「そんなに不思議か?」

「はい、だって最初会ったときは本当に高圧的で、嫌な人だと思いましたから」

 

 そういうと北斗が微笑む。

 

「私も、君がそうして笑ってくれるとは思わなかったよ」

「お互いさまですね」

 

 北斗が冗談めかして言い放つと、光貴も笑う。

 

「お待たせしました!! ってあれ、2人だけ?」

 

 ようやく広間に来たほえるが問うと、北斗と光貴がうなづく。

 

「って、ほえる?」

「そうなの、のえるちゃんの意識が、なんというか、“抜けちゃった”みたいで」

 

 ほえるが説明すると、メディックシグナルを取り出す。

 

「というか、良く彼女が大神ほえるだと分かったな。どういう理屈だ?」

幼馴染(おさななじみ)の勘ですね。それよりも、ほえるの言ってることを詳しく聞きたいんだけど…」

 

 と、メディックシグナルから声が聞こえる。

 

《やっほ~、のえるだよ。メディックシグナルからどもです~》

「大神のえるか、これはどういうことだ?」

《ヴォルモシアンさんと同じ状態ですね、マリスセルの粒子をメディックシグナルの形で構築して、そこに私の意識を持ってきてます。というのも、これ以上ほえるちゃんの体にいる必要がなくなったので》

 

 ほえるの体は善性マリスセルを操作できるのえるによって完治(かんち)した。それにより、ほえるの体を借りる必要がなくなったのだ。

 ただしのえるは自分も存在できるようにとかつてのヴォルモシアンと同様の方法でこの場にとどまったのだ。

 

《マリスセルがヒトにやったことを考えると、私がいてもいいのかなって思ったけど……》

「いいんだよ、私はのえるにいてほしいから。パフェを食べに行こう、それでこれからの生き方を見つけよう」

 

《パフェ…! そうだ、面白いことを考えたよ!》

 

 と、メディックシグナルと化したのえるがさらに形を変え、白髪のほえると言った風貌(ふうぼう)に変化した。

 

「これでヒトみたいに過ごせるよ、どうかな?」

「ほえるが増えたみたい……」

 

 驚く北斗に、のえるが抱きつく。

 

「これでまた一緒にいられるね、北斗ちゃん!」

「ちょっと私の姿借りといて北斗ちゃんにくっつかないで!!」

 

 のえるを引き()がそうとするほえるに、北斗が困惑する。

 

「待って、私ちぎれるから…」

「マリスセルという新生物は不思議が多いな…」

 

 光貴が感心していると、楽歌がやってくる。

 

「えっなにこの状況」

「北斗ちゃんを取らないでー!」

「北斗ちゃんは誰のものでもないよー!」

「そろそろ離して…」

 

 いぶ、陽廉、碧も集合し、ほえるとのえるの姿を見て目を丸くする。

 

「これどういうことですか?」

「狩屋が来たら全員に説明する…今はほっといてやれ」

 

 (あき)れる光貴にしたがい、他の面々も痴話喧嘩(ちわげんか)を放置する。

 

「おはようございます☆ お昼ですけど☆」

「あっ真希にゃ来た」

 

 横ピースをしながら登場する真希だったが、じゃんけんをしているほえるとのえるの姿を見て、首をかしげる。

 

「誰です?☆」

「今から説明をする、諸君らそこに座ってくれ」

 

 そう言われて着席する一同が、MRP初日のことを思い出す。

 

「MRPが始まったときも、こうやってみんな座らされたわよねぇ」

「あのときとは…全然、雰囲気違いますね」

 

 陽廉が静かに笑うと、碧と楽歌、いぶも微笑む。

 

(なご)やかな空気になっているところ悪いが、説明させてもらうぞ」

 

 そうして光貴がのえるの現状について説明する。

 それぞれが渋い表情をしながらなんとか理解しようとする。

 

「ほえるさんの体が治ったから、のえるさんは体内で治療する必要がなくなったので外に出てきた……それで人間として生活できる容姿(ようし)に変化した、と」

 

 陽廉が整理すると、のえるが笑顔でうなづく。

 

「ヒトと同じ姿になって、おいしい物を食べて、きれいな場所を見に行って、自分の楽しいって思えるものを探し続けるんです!」

 

 未来に目を輝かせるのえるに、光貴が口角を上げる。

 

「君たちの未来…か。そうだな、これも伝えておきたかったのだが、我々は今日で解散だ」

「えっ」

 

 一同から声が上がると、光貴が説明を続ける。

 

「現在委員会の方で関東圏のマリスセルについて調査がおこなわれている。暫定的(ざんていてき)ではあるが、そこに散っている多くのマリスセルが善性化し、人にとって無毒な状態となっているそうだ。つまり、人類の敵は消えた。私たち仮面ライダーはお役御免(やくごめん)というワケだ」

「そっか、私たちが集まる必要は…なくなったんですね」

 

 うつむく碧に、陽廉が笑いかける。

 

「でも、これでさよならじゃ…ない、です。連絡先を交換すれば、また会えます」

「ああ、そういう提案もあると思って、全員分の連絡先を端末に送信してある。君たちの使っていた携帯もすぐ返却するゆえ、そちらに転送してくれ。端末はそのまま譲渡(じょうと)しよう」

 

 それを聞いて北斗、ほえる、のえるも笑みを浮かべる。

 

「また、みんなに会えるんですね」

「それは各々(おのおの)が決めてくれ」

 

 ところで、と楽歌がつぶやく。

 

「光貴サンの連絡先は入ってんの?」

「? どうしてだ?」

「楽歌ちゃん、また光貴さんと会いたいってことよん」

「違う!」

 

 照れる楽歌をいぶがからかう。

 それを聞いて光貴は自身の端末を操作して連絡先を全員に送る。

 

「私と連絡できるからといって面白いことなんてないだろうが、よろしく頼む」

「よろしくお願いします、光貴さん」

 

 北斗が端末を見て微笑む。

 

「また笑ったね、北斗ちゃん☆」

「はい、みなさんのおかげです。今まで友達ができなかった私が、こうして多くの人に囲まれて、楽しい場所にいられるんだって思って」

 

 北斗の言葉に真希がうなづく。

 

「北斗ちゃんの笑顔にこだわったの、そういうことだったんだね☆」

「真希さん?」

 

 なんでもない、と真希が笑うと、その場を離れる。

 

「真希さん? どうしたんですか」

「北斗ちゃんの笑顔はもういいです☆ 次はアイドルやらなきゃいけないんで帰ります☆」

 

 そう言い放つと、真希が広間をあとにする。

 

「真希にゃ、行っちゃった……」

「最後までワケわかんないヤツだったわね…」

 

 いぶと楽歌が呆然(ぼうぜん)とするが、“もういい”と言われた(とう)の北斗は笑顔のままだった。

 

 と、真希が戻ってくると、頭を下げた。

 

「北斗ちゃん、光貴さん、ほえるちゃん。お世話になりました」

 

 それだけ告げるとすぐにどこかへ行ってしまった。

 

「っておい狩屋! 施設からどうやって帰宅するつもりだ!! まだ車の手配が───」

 

 帰路を説明し忘れていた光貴が(あわ)てて真希を追う。それに合わせて一同が立つ。

 

「私たちも帰りましょっか」

 

 ほえるがそう言って微笑み、広間から去る。

 と、碧の母と、彼女に同行する男性が碧に駆け寄る。

 

「碧! 無事ね!」

「ママ、それにパパまで…」

「ようやく迎えに来れたよ、碧。さあ、帰ろう」

 

 両親に連れられ、碧が玄関まで案内される。

 

「あの、えっと……みなさん!」

 

 碧が仲間たちを呼ぶ。

 

「碧さん、また会いましょう」

 

 北斗が心をこめて言葉を投げかけると、碧の母が北斗の肩に手を置く。

 

「北斗ちゃん、さみしくなったらウチにおいで。またご馳走(ちそう)用意するから」

「……ありがとうございます」

「短い間だったけど、みんなのお母さんできて楽しかったわ」

 

 碧の母の発言に一同は苦笑いする。

 

「それじゃあ、またいつか!」

 

 碧が帰ると、すれ違っていた光貴が一同へと目線を移す。

 

「飯沼はご家族が送っていく流れになったようだが、君たちはこちらで手配した車両で帰宅してもらう。狩屋の車は先に用意させてもらった」

「そしたら北斗ちゃんとのえるちゃんは私と一緒の車でお願いします」

 

 ほえるの進言に北斗が啞然(あぜん)としていると、彼女の意図に気付く。

 

「…そっか、私ひとりになっちゃったから」

「まぁお父さんとお母さんが許可したらだけど、よかったらさ、一緒に暮らそうよ!」

 

 北斗がその誘いに何も言えないまままごついていると、楽歌といぶが彼女の背中を勢いよく叩く。

 

「う…うん」

 

 照れくさそうに北斗がうなづく。

 

「楽歌ちゃん、私たちも一緒に暮らさない?」

「嫌よ、ヒモを飼ってる余裕なんてないんだから」

「もうヒモじゃないわよ~、マリスセル倒したお金で高等遊民(こうとうゆうみん)よぉ」

「働きなさいったら」

 

 と、玄関に車両の用意ができたらしく、光貴に職員が話しかける。

 

「君たちを送る車が到着した。一ヶ月ぶりに我が家へ帰りたまえ」

「光貴さんも、ですよ」

 

 ほえるからの意外な一言に面食らった光貴が少しだけ笑う。

 

「そうだった、私も、だな───帰ろう、家に」

「…また会いましょうね、光貴さん」

「ヒマあったら飲み付き合ってよね」

 

 いぶと楽歌が冗談めかして別れのあいさつをすませると、そのまま別の車へと乗っていく。

 

「光貴さん……あの、こんな時になんですが、パソコン…ありがとうございました」

「なに、あれは仕事上の作業だったから礼はいらんよ、陽廉。君も元気でな」

「あっあと、ほえるさん、北斗さん、のえるさんも……また、どこかで!」

 

 陽廉が深くお辞儀(じぎ)すると慣れない笑顔で走り去ってしまった。

 

「それじゃあ私たちも行きます」

「光貴さん、本当に…本当にお世話になりました」

 

 北斗とのえるからの言葉に光貴は、彼女らの肩を叩く。

 

「熊谷北斗、大神のえる、大神ほえる。君たちの平和が続くことを、心より願っている」

 

 光貴から最後の言葉をもらい、3人は軽く会釈(えしゃく)をして、車に乗り込む。

 

《これで一人に、なってしまいましたね》

 

 職員に運ばれてきたメディックシグナル───ヴォルモシアンがつぶやく。

 

「さみしくはありませんよ。それよりも…まだ私たちは忙しいですよ。東京を取り戻さなければならないのですから」

《私もできる限りお手伝いいたします》

「お願いいたします」

 

 光貴が背筋(せすじ)を伸ばすと、執務室へ向かう。

 

 

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