仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#34 ほえる

「ほえる! 心配してたのよ!!」

 

 家の玄関を開けてすぐに飛び出してきたほえるの母が、娘を抱きしめる。

 

「ただいま、お母さん。本当に久しぶり」

 

 母の背中を叩くほえるがあと、と口を開いて状況の説明に入る。

 

「北斗ちゃんと……のえるちゃんって…友達? と一緒に住めないかな……?」

「? ???」

 

 困惑する母を見て、ほえるは苦笑いしながらうつむく。

 

「ちょっと……話すことが多いんだけど、とりあえず2人を上げてくれないかな?」

「わ…わかった……」

 

──────────────────

 

 2055年1月。

 大神ほえるはマリスセルに感染し、呼吸機能の低下と激しい(せき)、高熱に苦しめられていた。

 通常のマリスセルよりも長引く名状しがたいそのつらさに、ほえるは自分が死ぬのではないかと考え続けていた。

 死にたくない。頭の中でそう繰り返していると、声が聞こえてきた。

 

《───この声が聞こえる?》

(なに…これ、幻聴(げんちょう)?)

《私は、あなたに感染したマリスセル。ヒトの体内に侵入して、その情報を得ています》

(何それ…よくわかんないけど……マリスセルってことはこの苦しいの、あなたのせいなの…?)

《そうです》

「じゃあ早く出てってよ……これじゃ北斗ちゃんに会えないの…!」

 

 思わず言葉が口から出てしまうほえるに、自らをマリスセルと名乗るその声は答えかねる。

 

「早く治して…また、北斗ちゃんに……会いたい」

《北斗ちゃんとは、ヒトにとって大切なモノなのですか》

(…北斗ちゃんは、私にとって大切な人…優しくて、気高くて、かっこいい、大親友だよ)

《なるほど…もっと、あなたにとって大切なモノのことを教えてくれませんか。私はヒトの情報をできるだけ多く知りたい。これに協力してくれればあなたを治療できるかもしれません》

(ほんと!?)

《お互いに損のない関係を築きましょう》

 

 マリスセルからの提案にほえるはうん、と返す。

 それからそのマリスセルはほえるの脳内にある情報を手当たり次第に閲覧し、人の情報を得ていった。

 結果、不自由なく幸せに暮らしてきたほえるの人生に触れたマリスセルはもとより植え付けられていなかった人類への敵性感情が完全に失せ、守るべき対象として考えるようになった。

 

《ほえるちゃん、私たちはヒトを侵略するために送り込まれた生命体だったけれど、ほえるちゃんがこの世界には色んな楽しいことと、つらいことを教えてくれたね。たしかにヒトはおバカなところもあるけれど、それだけじゃないって、ヒトは一人一人違うんだってわかった》

(知らない間にいろんなこと知ったんだね)

《約束通り、ほえるちゃんを治すよ。でもほえるちゃんの体からマリスセルをなくすまでは私に体を貸してほしいの》

(わかった、でもどのくらいの期間……)

《数ヶ月はかかっちゃうかも…ほえるちゃんの感染したマリスセル、つまり私なんだけど、通常のモノとはだいぶ違うから…》

 

 それを聞いて不安を覚えるほえるだったが、一週間ほど共に過ごしたそのマリスセルの印象を思い出すと、大丈夫だろうと思えた。

 

(いいよ、でも変なことしないでね)

《そんな簡単にOKしちゃっていいの…?》

 

 自分で聞いておいて、と思いつつもマリスセルが問う。だがほえるには迷いはなかった。

 

(そのかわり、元気になったら北斗ちゃんに会おうね)

《うん!》

 

 北斗に会えるならマリスセルに体を貸すのも悪くないとほえるは思っていた。向こう見ずな考えだったが、マリスセルの詳しい説明により自分の意識が残り、体を貸している間でも感覚や記憶が残ることを知ってその決断はさらに確固たるものとなった。

 

 そして、マリスセルが大神ほえるとして生活することになり、その力によってマリスセルの効果が制御され、まるで完治したかのようにほえるの体は快復した。

 学会を揺るがす情報に多くの医者、研究者がほえるの体を調べ始めた。何度も検査をたらい回しにされながらも、マリスセルがほえるの体を使っているとは悟られないまま、ある女性と出会うこととなった。

 

「───君に頼みたいのは、マリスセルと戦う任務だ」

「はへぃ?」

 

 その女性―――鳳光貴の提案により、マリスセルへの抗体を活用して、戦闘に駆り出されることが決まり、ほえるはベッドの上で震えていた。

 

《ごめんね、ほえるちゃん…私が勝手なことをしたから、戦うなんて大変なことに巻き込んじゃった!》

(…たしかに戦うのは怖いけど、もうこれ以上私みたいに苦しむ人が出てくるのも嫌だから、これでいいんだと思うよ。私はあの光貴さんって人についていきたい)

《いいの? ほえるちゃん》

(大変な人をほっとけないよ、それに…北斗ちゃんに誇れる私でいたいんだ)

 

 それを聞いてマリスセルは心を決め、大神ほえるとして生き、光貴の計画に協力することを選んだ。

 

 

 そして、彼女はマリスセルと戦い続けた。

 何度も戦場に立ち、メサイアライダーズプロジェクトが始まってからも先陣(せんじん)を切って駆け抜けた。最初の戦士として、マリスセルでありながら同胞に刃を向けた覚悟と激情をぶつけていった。

 怪物と戦い続ける日々は苦しいものであったが、ほえるは北斗と再会できたことに目を向けていた。

 

《あの子が、北斗ちゃん》

(ほら、いい子でしょ? でも北斗ちゃんがMRPに参加するなんて…)

《北斗ちゃんは死なせない、私が、守るよ》

(おねがいね)

 

 だが、マリスセルはさらに学習を続け、ついに犠牲が出てしまった。

 猿堂朱李、八雲手繰。

 MRPでは生存が絶対ではないことを思い知らされ、ほえるは不安をおぼえた。

 だが、そこで自分がうろたえたところで何も解決しないという考えが、彼女を動かした。

 誰かが死ぬことによって揺れる人の心に寄り添い、ともに衝撃を乗り越えることが自分の使命だと自分を鼓舞(こぶ)し続けた。

 ほえるの思いに沿うように行動するマリスセルも、彼女の心の強さには感嘆するばかりだった。

 

《ほえるちゃんは、強いね》

(北斗ちゃんに何かあったらきっと普通ではいられないと思う。だけど、これまでのことは、どこか他人事(ひとごと)だって思えるから……ヤな考え方だね)

《そんなことないよ、自分に関わらないことに冷たくなっちゃうのは当たり前のことだと思うよ。だから───》

(だから、他人事じゃない人のために寄り添ってあげるんだよね。あなたは私の気持ちをくみ取ってそうしてくれた……本当にありがとう)

 

 そう言われたとき、マリスセルは、ただの学習するだけの生命体だった自分に人間のような優しさがちゃんと芽生えていることを気付かされた。

 それを知ったマリスセルは、嬉しくて、誇らしい気持ちになった。

 

 

 だが、状況は順調には進まなかった。

 狩屋真希───仮面ライダーティオーロに刺され、ほえるが生命の危機にさらされたのだ。

 ここでほえるを絶命させるわけにはいかず、マリスセルの能力を使って延命した。が、それによってほえるがマリスセルと同化している事情が知られてしまった。

 ほえるが人類の敵であるマリスセルと同等の存在だと判明してしまえば、マリスセルとして処分される可能性はおろか、北斗に拒絶されることもありえた。

 不安に押し潰されそうになるマリスセルだったが、結果は意外にも彼女を受け入れるという判断がくだされ、変わりなくMRPの参加者として戦うこととなった。

 

 それだけに留まらず、ただのマリスセルとしてほえるの体を借りていた存在に“のえる”という名が与えられたのだ。

 マリスセル───のえるは、共に戦う面々から存在を認められ、共闘することとなったのだ。

 

 

 最大の懸念点(けねんてん)だった自身の正体について、拍子抜けとも言えるあっけなさで理解が進み、十全(じゅうぜん)な戦いができるようになったが、それも束《つか》の間、ほえる、そしてのえるにとっても痛ましい悲劇が彼女らを襲った。

 

「みんなには大丈夫って言っちゃったけど、そんな訳…ないね」

 

 北斗の両親がマリスセルに殺された。

 ついにマリスセルと人類との戦いがほえるにとって最も大切な北斗に及んでしまった。

 彼女の悲しみが痛いほど伝わりながらも、自分には何もできない。そのやるせなさがほえるを苦しめた。

 

(私、北斗ちゃんのために何かしてあげたいよ…)

《どうすればいいのか、私もわからないや……》

(そうだ、昔ね…北斗ちゃんがお弁当こぼしちゃって固まっちゃったときがあったの、そのときは、手を握ってあげたな。頭もなでてあげた…だから、今度も北斗ちゃんにいっぱい、いっぱい、気持ちをあげたい)

《お任せするよ、頑張れほえるちゃん》

 

 のえるからの助言を受けて、ほえるが意識を表象化(ひょうしょうか)させて北斗へと声をかける。

 北斗の孤独を癒すように、自分がいるとちゃんと伝わるように、声で、体で、北斗に想いを届けた。

 

 

 施設に戻ったほえるは、自らに刃を向けた真希からの謝罪を受け、激昂(げきこう)した。

 このとき、初めてのえると考えが分離した。のえるは真希を許していたが、ほえるは許せていなかった。

 命を軽んじた真希は、死の(ふち)をさまよったほえるにとっては承服(しょうふく)しがたい相手だった。

 怒りをぶちまけ、恐怖を吐き出し、真希に思いの丈をぶつけた。

 いぶの助けもあってか、ようやく真希と和解できたと思ったほえるだったが、そこで意識が途絶えた。

 

(ごめんね、のえるちゃん。私が出しゃばったせいで体がもたなかったみたい)

《ううん、おかげで真希さんに色んなことを伝えられたと思うから。とにかく今はマリスセルを抑えて……?》

(どしたの?)

《マリスセルの力が進化してる》

(なんで?)

《まったくわからない……けど、この力があれば、みんなの助けになると思う!》

 

 のえるの意識が戻ったとき、彼女の持つ力はほえるの期待に応えるものとなっていた。

 理想を現実にする、理想(イデア)幻想(ファントム)極致(きょくち)

 それこそが、イディアルファントム。

 ただ、小説を読んで見聞きしていた知識が武装のネーミングになるとは思いもしなかったが。

 

 マリスセルに体を操られた八雲の鎖を断ち切る(つるぎ)を持ち、ヴォルモークが善戦する。

 イディアルファントムの能力により生成された新たな装備を身につけた仲間たちの善戦もあり、ついに八雲の苦しみを終わらせることができた。

 

 だが、ほえるは直接ヴォルモークとしての戦いに貢献できたわけではなく、気を落としていた。

 

(私…のえるちゃんと一緒に戦えるようになったんだよね)

《そうだね。でも、ほえるちゃん自身が戦えるワケじゃないのがイヤなの、わかるよ》

(うん…私、多くの人の時間や命を奪ったやつらを許したくない。マリスセルと戦いたいんだ)

《戦いたい…》

(変だよね、戦いたいだなんて! そんなの痛いしつらいだけなのに───でも、のえるちゃんがそんな思いをしてるのにただ見てるだけなんてできない、だから、私も……)

《そしたら、最後。最後にさ、オメガタイプを倒すとき、手を貸して。ヒトの力で、あいつは倒してほしいの》

(……わかった、ありがとう)

 

 

 のえると交わした約束から間もなく、その瞬間は訪れた。

 最大の敵であったオメガタイプの核へと刃が届き、その怪物に引導(いんどう)を渡す。

 

「消えろマリスセル……人類の、勝ちですッ!!」

 

 その言葉は、ようやくマリスセルに一矢報(いっしむく)いた者として、オメガタイプに送る口撃(こうげき)だった。

 その言葉で、ついに、はっきりと、忌々(いまいま)しい敵を倒してみせたのだ。

 

 オメガタイプが消滅したとき、ほえるを照らした暁光(ぎょうこう)は、人生で一番輝いて見えた。

 

──────────────────

 

「それで、一緒にマリスセルと戦ってくれたのえるちゃんは人に感染して悪さしたりしない“良いマリスセル”になって、ここにいるという訳です」

「この姿はほえるちゃんから着想を得ました! 可愛いですよね?」

 

 予想以上の長話に呆然(ぼうぜん)とするほえるの母だったが、とりあえずと言わんばかりにほえるの頭をなでる。

 

「よくわかんないけど、とにかくほえるが頑張ったのは理解できたわ。最悪の成績表しか見せてくれなかったアンタが何ヶ月も頑張り抜いたってこと、お母さんにはわかるよ」

「お母さん……」

「これからもっと勉強する?」

「…する!」

「テストで赤点は?」

「取らない!」

「じゃあ決まりね、北斗ちゃんとのえるちゃん、ウチで預かっていいわよ」

「いよっしゃあ~~~ッス! ウッス!!」

 

 北斗とのえるが大神家で引き取られることがこの場で決まり、過剰に喜ぶほえるを見ながら北斗が汗をたらす。

 

「なんかペットみたいなノリで決まらなかった? 私たちの処遇(しょぐう)

「まぁご飯と寝床がなんとかなって…よかったね」

「北斗ちゃん! のえるちゃん! これからもず~~~っと、一緒だよ!!」

 

 ほえるが喜んでるならいいか、そう2人が笑った。

 

 

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