仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#36 えぴろーぐ えがお

「これでヴリエダと名乗ったヴォルモシアンの放ったマリスセルは倒せたか…肝心のアイツはどこだ?」

「ここここ、その声はさっきの地球のヒトじゃん。さっきぶり」

 

 アトラクネの背後にヴリエダが立っていた。

 音もなくその場に現れたヴリエダを見てアトラクネは焦りながらも鎖を放つ。が、その攻撃は回避されてしまう。

 

「うーん、やっぱり地球の装備は遅いぜ……なぁおい、速さってのはなぁ、美学なんだよ」

 

 急にヴリエダが語り出し、一同が押し黙る。

 

「別惑星のヒトを殺すのも速けりゃ速いほど良いモンだ。この世界にも競技ってのはあんだろ? そういうのだって速さを競ってないか? 無いなら分かんなくていいぜ」

「貴様は…何を言っている」

「俺は俺の美学を守るために速攻で地球を侵略したいんだわ。スルヴィが一番手っ取り早くヒトを滅ぼせてとてもいい、だが邪魔が入っちまって侵略に1年(ファーレリス)もかかっちまった、あーヤダヤダ」

 

 ヴリエダの漏らす愚痴にラポールが口を挟む。

 

「あなたのその美学とやらで……この星に生きる人々が犠牲になっているんですよ」

「ハッ、地球なんて下等な星の命なんて命じゃねぇよ。死ぬも死なぬも俺たちにとっちゃただの娯楽のひとつだよ」

「命が、なんですって」

 

 俊鼠がつぶやいた。

 何も言わない他の面々も、体を小刻みに震わせながらヴリエダを見ていた。

 

「こんなヤツによってマリスセルが…ばら撒かれた、っていうんですか」

 

 ラポールがマリスセルによって命を奪われた両親のことを想いながら語気を強めながら問う。

 その気迫にヴリエダが萎縮(いしゅく)する。

 

「な、なんだよ…」

「あなたがどう言おうが、この世界で人間は、生きているんです…そして死ぬこともあります。そのときどれほど悲しいのか…命を持っているはずのあなたなら理解していると思ったのですが」

「俺たちは電子生命体、“フォーザリアーを外せば”不死身だ! お前らヒトには一生分からない面白さだぜ!? でも退屈なんだよ、永遠の命ってのはよ…だから別の惑星の侵略というゲームで楽しんでんだ! 弱い星が悪いんだぜ、滅びるのも死ぬのも全部、な!」

「───そういうのいいです☆」

 

 ヴリエダが高笑いを浮かべていると、ティオーロが一瞬で間合いに入り、樹木を生成して拘束する。が、寸前で跳躍され、回避されてしまう。

 

「見切ったぜ───!?」

 

 瞬間、ヴリエダの体が地面に引っ張られ、転ぶ。

 よく見ると足には“網”がくくりつけられていた。

 

「お前が長々としゃべってる間に、罠をしかけておいたんだ!」

 

 その網はエイブプロシオンのものであった。

 

「セコい真似しやがって……!」

「お前みたいなヤツに、猿堂さんが生きようとした世界を壊させはしない!」

 

 立ち止まったヴリエダめがけて、ライダーたちが走る。

 

「でかしたわよ碧! アイツの脳天ブチ抜いてやる!」

 

 俊鼠がヴリエダへと銃撃を食らわせるが、咄嗟(とっさ)にかわされる。

 だが、またもやヴリエダの足が何かに引っ張られて身動きが取れなくなる。

 

「飯沼の作戦、中々使えるな」

 

 今度はアトラクネの鎖が(から)み、ヴリエダが思わず地面を殴る。

 

「こんのアホカスどもが……ッ!!」

 

 鎖を引きちぎり、ヴリエダが最高速でアトラクネへと攻撃する。

 

「ぐあッ!?」

 

 と、ドローンの砲撃がヴリエダへと見舞(みま)われる。

 

「よけちまえばこっちのモンなんだよ!!」

 

 全力の叫びと共にヴリエダがドローンを操作するルキフスへと殴りかかるが、俊鼠の銃撃で遮られる。

 

「これから就活だってのに、仲間をやらせるもんですかッ!」

「うぜぇなあぁさっきからチクチクよぉ!」

 

 俊鼠に狙いを変えてヴリエダが猛進(もうしん)するが、ケトシィの爪撃(そうげき)に邪魔され、回避を余儀なくされる。

 

「何度も何度もなんなんだよッ!」

 

 と、ヴリエダの攻撃を見ていてラポールが何かに気付く。

 

(さっきからあの敵、回避しかしていない…防御に回れば反撃できるとも考えられるのに……まるで攻撃を受けたくないみたいな……それにフォーザリアー? を外せば無敵とも言っていた…あの鎧に攻撃を当てたくないのは、まさか……)

 

 その予想をもとに、ラポールが氷でヴリエダを足止めできないか試す。

 が、氷結していく地面をヴリエダはかわしていく。

 

「そうやって逃げ回るのがあなたの美学なんですか」

「ほざけ!」

「そうやって私たちの攻撃を真っ向から受けないでいれば、ただ恐れをなして逃げているようにしか見えませんよ」

 

 ヴリエダを()きつけるため煽ってみせると、他のライダーが笑い始める。

 

「ハハッ、言うじゃない北斗、その通りよ、チョコチョコ逃げ回るしか能が無いのよアイツ!」

「速いだけなんてまるでハエね、ハエ」

 

 俊鼠とケトシィがさらにヴリエダを笑い物にする。

 

「キモーイ☆ です☆」

「そ、そうです! お前なんか、気持ち悪い虫ケラだ!!」

(なんかみなさん鬱憤(うっぷん)が溜まっていたのか言いたい放題ですね…)

 

 流れに乗じるティオーロ、エイブプロシオンにルキフスが汗をたらす。

 

「テメェら散々言いやがって! だったら見せてやるよ俺の一撃をなァ!!」

 

 怒りに身を任せたヴリエダがラポールへと一直線に向かってくる。

 が、彼女の前にヴォルモークが立つ。

 

「北斗ちゃんの言ってること、だいたいわかったよ! ほえるちゃんがね!!」

「流石だね」

 

「邪魔だどけぇぇぇぇッ!!」

 

《Ideal End》

 

 刹那(せつな)、ヴリエダが回避したことによってヴォルモークの必殺剣戟(けんげき)はヴリエダの右肩をかすめ、少しだけ切りつけただけに終わった。

 

(やはり奴は速すぎる…大神の攻撃をもってしても小傷(こきず)しか与えられんか…!)

 

 アトラクネが悔しさで歯をきしませるが、当のヴリエダは移動をやめると、体を震わせながら地に膝をついた。

 

 

「ヤベェ…しまった……キズが…!」

「?」

 

 一同がヴリエダの発言に反応する。

 少し切れた程度の傷で異常なほど戦慄しているヴリエダの姿は、あまりにも異様だった。

 

「回避を続けている時点でまさかとは思っていたけど…これは……」

 

 仮面の下で怪訝(けげん)な顔をするラポールだったが、状況を察知したヴォルモシアンが全員の端末から解説を始める。

 

《あれはフォーザリアーのデメリットです。我々ヴォルモシアンが地上で活動するために開発されたあの鎧は、内部に人造生物の肉体を入れ、頭部に我々の本体を接続する形式でした》

「つまり電子生命体であるヴォルモシアンが人間のような体を得ていると?」

《そうです。しかし、肉体を得た以上細菌やウイルスなどの感染リスクが発生します。有機生命体として活動する以上対策は必要だとする声もありましたが、微小な侵略兵器であるマリスセルを所持していることに慢心してヴォルモシアンはフォーザリアーに免疫機能を持たせませんでした》

「バカじゃん」

 

 俊鼠から軽口を叩かれ、全員がヴリエダを見る。

 

「き…切られたとこから……スルヴィが───!! いやだ、いやだいあだあいあああああ」

 

 おそらく自分が蔓延させたであろう周囲のマリスセルに自ら感染し、ヴリエダは正気を失っていく。

 

「聞こえるか、ヴォルモスのみんな! 地球は危険だ、スルヴィが…スルヴィがァ!!」

 

「見るに()えんな…自分の撒いた種で自滅するとは…」

 

 アトラクネがつぶやくと、ヴォルモークがヴリエダへと近付き、腕をつかむ。

 その瞳は赤く輝いており、ほえるの意識が宿っていることを認知させる。

 

「約束して、もう地球を侵略しないって。そうすればあなたを治療することができる」

「わかったわかった! 侵略なんてしない! 怖いよこの星!! ほら、侵略不能って、リストアップしたからもう絶対にヴォルモシアンはやってこない! これでOKでしょ!?」

「…そうだ、聞きたいことがあるんだ」

「話す、なんでも話すから、助けて!」

「あなた今、死にそう?」

 

 ヴリエダが首を強く縦に振る。

 

「死にそう! 死にそう! 助けて早く、死にたくない!!」

「…マリスセルに感染した人は、みんなそう思ってた。あなたたちの勝手なお遊びが、そうやって誰かを苦しめてるの」

「わ…分かった、人を死なせちゃったのも謝る! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめ───」

「人を(あなど)った……報いだよ」

 

 そう告げるとヴォルモークはヴリエダの本体が格納されている頭部をイディアルカリバーで貫いた。

 

「……」

 

 ヴォルモークの無情な一撃に一同が絶句する。

 

「……あ、ごめんなさい、もう侵略しないって約束してくれたからつい」

「ほえるって案外サディスティックな所ない? 私はあると思う」

 

 俊鼠が肩を落とすと、そのまま倒れ込む。

 

「ま、これで侵略者は片付いたんでしょ? …あ~~~これで就活に専念できる~~~」

「楽歌ちゃん、ママ活してたのに就活なんてできるのかしらぁ?」

「これでも元は就活生よ! エントリーシートの鬼なめんな! そしてアンタも働け!!」

 

 俊鼠とケトシィが問答している中、アトラクネはヴリエダの残したフォーザリアーをチェックする。

 

「…本星に侵略しない旨を伝えたのは本当なんですね」

《ライダーの視野を通して確認したところ、その情報は確かです。間違いなく、この地球はヴォルモシアンによって(おびや)かされることは無いでしょう…安心しました》

「安心、ですか。母星との接続がなくなって、あなたは───」

 

 ヴォルモシアン本来の名を知らない光貴は言葉を詰まらせる。

 それを察してか、ヴォルモシアンは改めて名前を名乗る。

 

「『タチバナ』、それが私の名前です。例え母星とのつながりが消えても構いません、地球こそが私の愛すべき星なのですから」

「タチバナ様───」

「これからは友として、よりよい関係を築きましょう、光貴さん」

 

 タチバナのその言葉を聞いて、安堵したアトラクネは変身を解除する。

 

「アトラクネだったけど、光貴さん……少し、変な…感じがしました」

 

 ようやく肩の荷が降りた光貴にそう言って笑いかける陽廉に光貴も笑みを返す。

 

「人ってのはどうしても愚かなヤツがいるが……そういうヤツが生きる術を示すときがある。君を守った鎖の技も…八雲の戦法から着想を得たモノだ」

「本当に…変な感じです。でも……アトラクネだから、八雲だからじゃない…光貴さんだから、私を守ってくれたって……思います」

「陽廉……」

 

「ようやく、戦いが終わったんですね」

 

 北斗も光貴に話かける。

 

「ああ、もう君たちのような若者が戦わなくてもいいんだ」

「光貴さんはまだフェクシアで東京を回るんですよね」

「大事な仕事であり使命だからな。東京を取り戻すのは」

「東京が復興したら…みんなでどこか食べに行きましょう」

「ふっ…そうか、いいだろう。月島でもんじゃでも……食べに連れて行こう」

「もんじゃ!? わーい食べたぁい♪」

「奢りに反応すんじゃないわよ…」

「わたしも絶対行きます☆」

「私も、みなさんとまたご飯が食べたいですから」

「い…行きましゅ!」

 

 それぞれが食事に興味を持っているのを見て、光貴は思わず呆れながらも微笑む。

 

「のえると、ほえるも行こう、もんじゃ食べに」

「…うん!」

 

 ヴォルモークの変身を解き、のえるとほえるに分かれて2人がうなづく。

 

 こうして、敵性ヴォルモシアン・ヴリエダの危機が去り、再び東京は復興への道を進み始めたのだった。

 

 

──────────────────

 

 2056年。

 マリスセルの災禍(さいか)から東京はようやく解き放たれ、戦闘で破壊されてしまった各所の復旧工事が開始された。

 無事だった場所には人が戻りつつあり、埼玉県庁に移管されていた東京の機能が着実に回復していった。

 避難せざるを得なかった人々が東京に帰還し、各地の店舗も通常営業を再開し始めていた。

 

「まさかあの約束から一年もせず、また集まれるとは」

 

 北斗が感慨深げにつぶやくが、楽歌が彼女の肩を小突く。

 

「言うて私たちあれから何度か会ってたじゃない? で、大学はどうよ?」

「はい、受かりました。第一志望の東城大学にほえると一緒に入れて良かったです」

「マリスセルで大変だったのに勉強頑張りまくってホント疲れました~」

「そんでのえるは?」

「私は就職します! 社会経験をいち早く積んで、世界の色んなことを知りたいんです!」

「就職は地獄よ……ホントに……」

「あは! わかります───」

 

 遠い目をするのえるの姿に、楽歌は多くの経験をしてきたことを悟った。

 

「そういう楽歌ちゃんはもうバリバリのOLだもんねぇ~」

 

 いぶが楽歌の頭をなでると、照れくさそうにその手をどかす。

 

「うっさいわねフリーター! 誰がアンタの家賃払ってると思ってんのよ!!」

「それ言われるとつらぴ~」

 

 楽歌の発言に北斗とほえるが顔を赤くする。

 

「お久しぶりです…その、真希さん。私、可愛くなりましたか?」

 

 かつての約束からか化粧を始めた碧は、以前とは打って変わって垢抜けた見た目となっていた。

 まだ可愛さのことが掴み切れていないゆえか、“可愛い”の先輩であるアイドル志望の真希に聞いてみたのだ。

 

「まだまだですね☆」

「やっぱり、ですか……」

「今度は私がお化粧します☆ 碧ちゃんがどれだけ可愛くなるか、気になりますね☆」

「お、お手柔らかにお願いしますね…」

「任せてください☆ 私もうアイドル☆ ですから☆」

 

 そう告げると真希が全員に名刺を配る。

 『武道少女 グレインパープル』と書かれたそのアイドルグループに真希は所属し始めたのだ。

 

「剣道できるアイドル志望の子を探している事務所があったのでラッキーなことに入れました☆」

「随分と奇特なグループね…」

 

 楽歌が苦笑いするが、真希は気にせず横ピースで可愛さをアピールする。

 その輝きに陽廉が目をつむる。

 

「うぅ…私のような日陰者(ひかげもの)には眩しすぎる世界……」

「陽廉ちゃんも可愛くなろ☆」

「いい考えだと思います、ぜひ私と一緒に」

「私の推しはパソコンだけなので……ちょっと無理かも…デス……」

 

 可愛くあろうとする真希、碧の光に照らされる陽廉が縮こまる。

 

「出来たぞ、みんな!」

 

 一同が談話している間にも黙々と作業していた光貴の手によってもんじゃが完成し、全員に切り分けられていく。

 

「おいしそう…!」

 

 目を輝かせる北斗を見て、ほえるは彼女に抱きつく。

 

「北斗ちゃんがこうやって笑ってくれるようになって本当に嬉しいよ」

「ほえるや…みんなのおかげだよ」

「北斗ちゃんが素直に笑える、そんな世界になって良かった…」

何事(なにごと)も丸くおさまってめでたしめでたし!! という訳で…」

 

 のえるが音頭を取ると、全員が手を合わせる。

 

「いただきます!」

 

 

 

 笑顔。

 人が持つ幸福の感情。

 かつて大切な者を(うしない)い、そんな感情をどこかに置き去りにしてしまったはずの彼女たちが今、仲間と笑えた。

 

 絆。

 人が持つ強いつながり。

 かつて大切な者を喪い、そのつながりが断ち切れてしまったはずの彼女たちが今、再び他者と関われた。

 

 己が感情と亡くした絆を糧に、そして多くの戦いと消耗を経て、彼女らは変われたのだ。

 

 そして未来。きっと、これからも彼女らは、進み続ける。

 

 

 

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