仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#4 かくご

「とりゃあっ!」

 

 ヴォルモークが携行するアサルトナイフ『ダリングエッジ』がアルファタイプを切り裂いていく。

 その姿を北斗はただ傍観することしかできなかった。

 

(私があんな風に戦う…? 無理だ、そんなの)

 

 足がすくむ。おどろおどろしい風貌のマリスセル。彼らに触れることすら嫌なのに、今まで振るったことのない拳で、奴らと戦闘をするなんて、考えられなかった。

 

「北斗ちゃんたちは何もしなくて大丈夫! 私がみんなを守るからっ!」

 

 ヴォルモークがアルファタイプを一網打尽にし、北斗の元へと戻ってくる。

 

「ただいま! ケガしてない?」

「うん、ケガすることしてないし」

「たしかに~」

 

 雄々しい仮面の戦士だが、所作の節々にほえるらしさが現れており、そのアンバランスさに北斗は目を逸らしてしまう。

 

「大神、そちらが片付いたのなら他のフォローに当たれ。まだ変身できない参加者が多い」

「了解です!」

 

 光貴からの連絡に答えたヴォルモークがライドスフレにまたがる。

 

「ほえる、別のところへ行くの?」

「うん…北斗ちゃんたちは心配だけどこの辺りのマリスセルはもういないハズだからここに残って。すぐ戻ってくるから」

「…私もほえると一緒に───」

「ここにいた方がいいよ、他んところはマリスセルがまだいっぱいいるもん」

 

 ヴォルモークの説明も一理あった。

 反論の余地も無く押し黙った北斗は、ヴォルモークを見送る。

 

「きっと力があれば見ず知らずの人でも誰かを守りたいって、私ならそうするから…ほえるもそうしたいんだよね」

「うん、その方がカッコいいもんね。あと北斗ちゃんにだって力あるじゃん」

 

 ヴォルモークが北斗の乗ってきたライドスフレを指さす。そこには彼女も使っていたベルトが格納されている。

 

「もし何かがあったら変身して。きっとその力は北斗ちゃんにとっていいものになるから」

「……何かあったら、ね。やっぱり怖いし」

「そうだね」

 

 マスクによってくぐもるヴォルモークの笑みが、少しおかしかった。

 

「気を付けてね、ほえる」

「北斗ちゃんも、待っててね」

 

 2人が抱き合うと、ヴォルモークはライドスフレが自動的に示すマリスセルの多い地点を目指し、発進する。

 

「…さて、私達はここで暇を持て余すか」

 

 北斗が一息つくと、同行していた気弱な女性がうなづく。

 

「そういえば名前を聞いていませんでした。私は熊谷北斗、さっきの変身してた彼女、大神ほえるの幼馴染です」

「わっ、私は……陽廉(ひれん) クローチェ……です」

「陽廉さん? これからよろしくお願いします」

「おねがいします……」

 

 常に腰の低い彼女、陽廉と共にライドスフレのそばでヴォルモークが戻ってくるのを待つ。

 

「私は17歳の高校2年生です。陽廉さんはおいくつなんですか?」

「じゅっ、19歳です…年上なのにずっとオドオドしてて…ごめんなさい」

「怖いものは怖い、そんなのいくつになったって変わりませんよ」

「えっ…あ、そうです、よね…ごめんなさい」

 

 自己紹介をして少し距離が縮まったと思っていたが、どうにも陽廉の心は開いていないようだった。

 それも自分の“表情”がいけないのだと北斗はうつむく。

 

「私、やっぱり全然表情出てませんよね」

「へぇっ!? そんなこと……」

「これ生まれつきなんです」

 

 北斗が自身の頬をなでると、いつもより頑張って口角と眉を下げる。

 

「昔から表情が硬くて、それでいつもムスッとしてるみたいに見えるから、結構人から怖がられたり、誤解されちゃったり…今だってきっと陽廉さんを怖がらせています」

「そっそぉん、そんなこと」

「きっと普通の人だったら笑っているようなことも、面白いって思ったことも、全然顔に出ない。だから…ほえるしか友達がいないんです」

「お友達…いないんですか」

 

 陽廉が物憂げな面持ちで北斗を見る。

 

「ほえるは私が面白いと思ったときに笑ってくれる。悲しいと思ったときに悲しんでくれる。私の出せない気持ちを伝えてくれる、いい子なんです。だから…憧れてるし、失いたくない」

 

 そう言葉にしていくと、戦いに向かったほえるをそのまま行かせてしまったことが良くないことなのでは、と北斗の脳裏によぎった。

 

「……やっぱりほえるが戦ってるなら、私も戦わなくちゃ」

「そうなんですか!?」

 

 これまでの会話からその結論にたどり着いた北斗に、陽廉は驚くばかりだった。

 

「えっじゃああのっ、たたたたた戦うんですか?」

「……」

 

 戦うべきだと断じるが、やはり足が動かなくなる。アルファタイプの姿を思い出すと未だに震えが出てくる。

 

「その前に、ほえるにこの思いを伝えるべきなのかも」

 

 北斗がまごついていると、先ほどアルファタイプが這い出てきていた海面から物音がする。

 稲妻が走るような恐怖に2人がその方向を見ると、不気味な腕が地面を掴み、体を浮かべた。

 アルファタイプの群れが、再び襲来したのだ。

 

 北斗の思考が停止する。ほえるのいない状況でマリスセルと対峙することになり、腰が抜けた。

 

「あ、あああ! あああ!」

 

 動揺する陽廉を見てようやく体が動くようになった北斗は彼女を連れてライドスフレの影に隠れる。

 

「どどどうしよう、マリスセルががが」

「落ち着いて陽廉さん…そのために、私たちには───」

 

 北斗が格納されていたアタッシュケースを取り出す。

 

「や…やるしか……」

 

 額から汗が垂れる。

 どうしても葛藤がぬぐえない。

 

 深く息を吸って北斗が心を決めたとき、銃弾と思しきものが迫りくるアルファタイプを撃ち抜いた。

 銃弾の放たれた方向を見ると、ネズミにも似た黄色の戦士が拳銃を構えていた。

 

「ほえる…じゃない」

「アンタら、ボーッとしてるならこの敵さ、アタシにくれない?」

 

 ぶっきらぼうに言い放つその戦士は慣れない手つきで拳銃を撃つと、何発目かでアルファタイプを倒す。

 

「よっしゃ、これでプラス10万」

 

 戸惑う北斗がその戦士を見つめていると、光貴から連絡が届いた。

 

「参加者から質問が来ていたのだが、アルファタイプを1体倒すごとにこちらから報酬を提供することになっている。1体につき現金10万円と、今後の武装強化に使えるポイントが端末に送る。遅れての報告すまないが…マリスセルを倒せば10万円だ。上限は無いので金が欲しくば戦え」

「それ質問したのアタシ、やっぱ危険なことさせられるんなら金は必要でしょ!」

 

 黄色の戦士が軽い身のこなしでアルファタイプの軍団から距離を取ると、北斗と陽廉のもとに立つ。

 

「アタシは小根墨(おねずみ) 楽歌(らっか)。このカッコでは確か仮面ライダー俊鼠(しゅんそ)って呼ばれてた。それでさ……アンタら戦うの怖いならアタシを雇わない?」

「……え?」

 

 思わず聞き返す北斗に、楽歌は肩をすくめた。

 

「金さえあればアンタらに協力してやるってコトなんだけど、だって今の今まで戦えてないんでしょ? 死ぬよりマシじゃない」

「私は…自分で……」

 

 と、光貴から再び連絡がくる。

 

「各員、戻れ。仮面ライダーは電力消費が激しく、しばらくすると変身を解除してしまう。再変身には充電が必要なため一度帰還しろ」

「ちぇー、もっとお金稼げると思ったんだけどな」

 

 ばつが悪そうに俊鼠が自身の乗ってきたライドスフレへと戻る。

 

「それじゃあ、雇う気になったらいつでも言ってよ、力になるからさ」

 

 

「…あの人を頼りにしていいのかな」

「それより…もう逃げませんか? 帰って、いいんですよね? マリスセルまだいるのに、さっきの人いっちゃいましたし……」

 

 涙を浮かべる陽廉に連れられ、北斗もライドスフレに乗り、屋敷に戻る。

 

──────────────────

 

 屋敷のガレージに戻ると、北斗と陽廉がほえるの元へと向かう。

 

「ほえる、そっちは平気だっ───」

 

 ライドスフレから降りてきたほえるは、全身に軽い打撲痕があった。

 

「ほえる!」

「あっ、北斗ちゃん。戻ってこれなくてごめんね、トラブルがあってさ」

「トラブルって…早く手当てしてもらわないと!」

 

 慌てる北斗の背後に光貴が立つ。

 

「救護用の車椅子を用意しよう。だがその負傷なら問題なく今後の作戦にも参加できるな」

「そんな、ほえるはケガを───」

「こちらで迅速に回復できるよう最大限の治療は施す。それだけだ」

「ケガをしてる人まで使って、マリスセルと戦えって言うんですか」

「そうだ。報酬は用意すると言った、貴様らにとってもメリットのある話だ」

「さっきからそうやって冷ややかな態度で、女の子に戦えって、あなたたちのやってることは常軌を逸しています」

「───そうだろうな」

 

 にらみ合う北斗と光貴の間にほえるが割って入り、2人をなだめる。

 

「まぁまぁ! 私無事ですから! 結果オーライってことでお願いしますよお二人さ~ん」

「結果って、ケガしてるじゃない」

「大丈夫、こんなのすぐ直っちゃうよ。光貴さん、湿布(しっぷ)とかいっぱいくれますよね?」

「必要な用品はしっかりと報告するように、時間をかけずに貴様の部屋へ届けよう」

 

 それを聞いたほえるは北斗の肩に手をおくと、快活な笑みを見せる。

 

「光貴さん、結構面倒見が良くてしっかりしたお姉さんキャラだから、きっと北斗ちゃんとも仲良くなれるよ!」

「…それならいいけど……鳳さん、熱くなりすぎました。気を付けます」

「ああ、参加者への対応に関しては出来るかぎり善処しよう。だがこの態度は軟化させられないぞ。参加者どもの性格が厄介ゆえ、彼女らが指示に従うような威厳は必要なんだ」

 

 そこまで告げると、光貴は話過ぎた、と言わんばかりに口を(おお)った。

 

「とにかく今後は端末の案内に従い、除染作業後自室に戻れ! “トラブル”を防ぐために他の参加者との接触には注意を払え!」

 

 その号令と共に光貴がガレージを後にする。

 

 

「まぁ、忙しいお姉さんなのは分かったか」

 

 車椅子にほえるを乗せた北斗が、端末で屋敷の地図を見る陽廉を連れて救護室を探しながら歩いていく。

 

「陽廉さん、道分かります?」

「ええ、すぐそこの左角を曲がって、突き当りを───」

「北斗ちゃん、いつの間にその子と仲良くなったのー?」

 

 車椅子に乗りながらも元気なほえるが問うと、北斗は頭をかしげる。

 

「仲良し…かは分からないけど…今この状況を共有できる相手になったから、頼りにしてるんだ」

「わ! 私が頼りですか…えへへ」

「照れ顔可愛いね~!」

「へ…へ? 可愛い? そんなバカな……」

 

 照れたり驚いたり落ち込んだり、気の浮き沈みが激しい陽廉の様子にほえるが思わず笑う。

 

「紹介し忘れていた。この人は陽廉クローチェさん。私たちより3つ年上のお姉さんです」

「ひれんにクローチェ!? ハーフの方ですか! そしたら下の名前がクローチェさん?」

「そっちで呼ばれるとハーフっぽくて目立つので…陽廉と呼んでください…」

「はーい陽廉さん! 私は大神ほえるです、北斗ちゃんと同い年の高校生です! 気さくにほえるって呼んでくださいね!」

 

 車椅子の上で両手を広げて遊ぶほえるの頭に、北斗がチョップする。

 

「少しはおとなしく運ばれてよ」

「ごめんさーい」

「…ふふ、ほえるさんと…熊谷さん」

「北斗でいいですよ、その方が親密感あって私の気持ち伝わりそうですし」

「じゃ、じゃあ……北斗さん!」

「いえーいほくとー!」

 

 ほえるがはしゃいでいると、医務室に到着した。

 そこにも防護服を着用した職員が点在していた。

 

「大神ほえるさんの体調を確認いたします。同行なさっていたお2人は別の出口からお戻りください」

 

 職員が示す方向には壁に複数の穴が空いた通路であった。

 

「こちらのエアシャワーを通って除菌してからお戻りになってもらいます」

 

 それもそうか、と北斗と陽廉がうなづく。マリスセルと戦ってその病原をそのままにしたまま戻ってきているのだから、除菌が必要なのも当然だろう。

 

「それじゃあほえる、また後で」

「ほえるさん、お話楽しかったです」

「まとあとでねー!」

 

──────────────────

 

 ようやく自室に戻り、ベッドに体を沈めた。

 が、またも放送から光貴に呼び出され、VR機器を装着する。

 

「全員座っているな。これより今後の貴様らのへ待遇を説明する」

 

 そういうと、背後のホワイトボードに細かい指示をまとめたスライドを映し出した。

 そのスライドを用いた説明によると、

 

 MRP(メサイアライダーズプロジェクト)参加者は3週間の間マリスセルと戦闘しその際のバイタルや感染状態などを計測することで今後のマリスセル治療に有用なデータを収集する作業に従事する。

 

 その間、この屋敷で全員が寝泊まりすることになり、共同生活が必要となる。

 

 生活において必要な家具は揃っているが、日用品や他にも欲しいものがある場合は全員に支給された端末からマリスセル打倒時報酬で購入する。また、今後実装される新型メディックシグナルも報酬と交換できる予定となっている。

 

 参加者間のトラブルには基本職員側から干渉することは無いが、作戦に支障がある場合は考慮する。

 

 なお、これら3週間の作業に関して、参加者の保護者と連絡が取れた場合、“マリスセル感染のための隔離入院”として事情を伝えている。

 

 

「以上、質問があれば適宜聞いてくれ。今特に何も無ければ解散とし、屋敷の生活機能を解放、午後18時にこの広間で夕食を用意する。食事は自由だが、19時15分には下膳するのでそれ以降食事が欲しければ自身で購入しろ」

「あの~お金なんですけどぉ、わたし今日戦えなくて一文無しなんですけどぉ……」

「端末を経由して金の貸し借りが可能だ。こう言ってはなんだが、金が欲しければマリスセルを倒すか他の参加者から工面してもらえ」

「うぅ~ん鬼ぃ~~」

「今回変身した参加者はヴォルモーク、俊鼠、アトラクネ、ティオーロの4名のみだった。残りの5名は今後変身して戦闘しない場合はどんどんと3週間の生活が難しくなっていくだろう、ひもじく実験台になるか、マリスセルと戦って生活を潤わせるか、選択しろ…せいぜい励め」

 

 VRでの通信が切れ、北斗はほえるの部屋を探す。と、その間もなく部屋からほえるが出てきた。

 

「北斗ちゃん、やっぱちょっと体打っただけで問題は無いみたい! ご飯一緒に食べようよ」

「うん…それで、ほえる」

 

 何? とほえるが振り返る。

 

「私……やっぱり仮面ライダーに変身する」

 

 

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