北斗、陽廉と別れたあと、ヴォルモークは別の地点にあるマリスセル活性化区域へと到着した。
「みなさん大丈夫ですかー!」
ヴォルモークが救援に入った先では、小柄な女性が変身できず戸惑っていた。
「おい、お前。これどう使うか分かるか?」
「えっとですねー、そう、それ押してー!」
アルファタイプの相手をしながらヴォルモークが説明すると、女性はメディックシグナルを起動させる。
《
「でベルトに
それを聞いた女性は、凶悪な笑みを浮かべて操作する。
「変身…」
《Project Start…CrimeChain───Change The Atlachne》
電子音と共に、装甲をまとった女性が、クモを
「アトラクネ…アトラクネか」
ひひ、と笑うその戦士───仮面ライダーアトラクネは、“クライムチェーン”の力により装備された鎖を放った。
その攻撃はヴォルモークごとアルファタイプを撃滅し、辺りを一掃した。
「今の痛かったですよー!」
「黙れ、この力はオレのモノだ」
非道にもヴォルモークを傷付けておきながらアトラクネは笑う。
「我慢ならねェ、残りもオレが始末する」
手から鎖を打ち出しながら、アルファタイプの足をかける。そしてそのまま鎖を打ち付ける。
多彩な動きが可能な鎖を持ったアトラクネは次々とアルファタイプをほふり、時間まで“楽しみ続けた”。
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ほえると北斗、陽廉が広間につくと、人数分の食事が用意されていた。
まるで学校の給食のような料理に北斗は面食らっていた。
(まぁ、都の計画で出るご飯ってこんな感じなのかな…正直もっと労ってほしいと思うけど)
「でも、ありがたい」
「北斗ちゃん?」
「何でもない、温かいうちに食べよう」
北斗の提案にほえるが頷くと、食卓に座る。
「それにしても…あまり人がいませんね」
陽廉が周りを見渡すが、食事に来たのは彼女らと、他3名だけだった。
そのうちの1人は先ほど北斗らを助けた楽歌であった。
「…小根墨さん、さっきはありがとうございました」
「楽歌でいいよ、アンタらのことも聞かせてよ」
そう笑うと楽歌は3人の座る食卓に勢いよく腰を下ろす。
「気弱なアンタ、名前は?」
「陽廉、クローチェです……」
「クローチェって、もしかしてハーフ!?」
楽歌の瞳が輝く。どうやら彼女はハーフを富裕者だと考えているらしい。
「お金……今は持ってないでス…ゴメンナサイ」
「じゃあ用心棒代は期待できないかぁ…3週間だっけ? このアホの暮らし終わったら家政婦とかで雇ってよ」
「ワカリマシタ…」
「萎縮させて要求を通すのどうかと思いますよ」
「で? アンタ、先に参加してたって子でしょ? 変身して戦ってたっていう」
「そうです~! 大神ほえるって言います! バババーってマリスセルを倒しちゃいますよ!」
「なんだ、そしたら商売敵じゃん」
呆れながらオムレツをほおばる楽歌に、ほえるは首を傾げる。
「楽歌さんは私たちを守る代わりにお金が欲しいみたい」
「対価は大事でしょ!」
「それで…ほえるさんがいると用心棒ができなくて……」
「そ、だから商売敵。ボランティアで人助けなんてもったいないってば」
でも、と北斗が割って入る。
「私、ほえるにも楽歌さんにも頼らず、自分の身は自分で守りたいです」
楽歌が虚をつかれた顔でスープをすする。
「私お払い箱じゃん…」
「楽歌さんは楽歌さんでマリスセルを倒してその分のお金を貰えばいいと思います。そしたらわざわざ人からお金を取らなくても結構な額になるでしょうし」
「一理あるわね……だったら私もアンタらを頼りにしない。他を当たるわ」
そんじゃ、と席を立った楽歌が手を振ってその場を後にする。
「あの人は…お金が欲しかっただけ……なんですか」
「多分、でもそれも大事なことだと思います。ハードなことをさせられているんですから」
北斗が完食し、手を合わせると他にも食事をしている参加者へと視線を移す。
長身の美女と、いわゆる地雷系と言われる服装の女性の2人。
お互い席を離しており、特に話す素振りは無いが、どこか緊張感が漂っていた。
(これは、慣れない環境で緊張している感じか。1日目で協調を築くのも確かに大変ではあるし───待って)
北斗が分析していると、地雷系の女性が食べているものに気が付き、息が詰まった。
彼女は夕食として配膳されたオムレツとスープと米、それに加えてプリンさえもかき混ぜて食べているのだ。
彼女と目が合いそうになるが、北斗はとっさに目をそらして陽廉へと話しかけて何事もなかったことにする。
「…陽廉さん、食べたら早く自室に戻りましょうか。早く休みたいですからね」
「わかりました…」
「あっ、ここお風呂あるから案内するね!」
「お願い、ほえる…」
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「はいジャーン! こちらがお風呂でーす!」
「浴場になってるのね、流石に」
「一人用のシャワーとか…無いですよね……共用のお風呂場は、ちょっと……」
「あー、確かに、ちょっと恥ずかしいですよね」
恥ずかしがる陽廉に北斗は共感を示すものの、そうした恥じらいを全く持たないほえるは頭に疑問符を浮かべながら微笑む。
「まっ、とりあえずみんなでお風呂入ろ!」
「今の会話からどうしてそうなるの」
「まーまー!」
「ふえぇ……」
ほえるによって陽廉が脱がされそうになるが、警報が彼女の凶行を打ち止める。
「この音…マリスセル」
「行こう、2人とも!」
「ひゃ待ってくださいぃ…」
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「1日目にして再度の出撃となるが、よろしく頼むぞ」
「はーい!」
光貴の言葉が激励となることなく、ほえるの返事だけがガレージにこだまする。
2回目となりスムーズに出撃する面々の中で、北斗は一人覚悟を決めていた。
「ライドスフレ、射出」
号令によってライドスフレが発進、マリスセルが活性化する地点へとMRP参加者が駆り出される。
各員が到着するポイントは常にランダムとなっており、北斗がその場に立つと、ほえるの他に、先ほどの広間にいた長身の女性がベンチに座っていた。
「あ、こんにちは~」
「こんにちは───戦わないんですか」
「うん~、なんか怖くってぇ」
「分かります」
「2人は下がってて! 私がみんなを守るから!」
《RemediumDriver》
ベルトを装着するほえるの姿に、長身の女性は優しい笑みを向ける。
「勢いイイわねぇ~、元気があるわぁ」
「あの、そんな落ち着いてる場合じゃないです」
「いやでもぉ、あの子が戦ってくれるんでしょぉ? ここにいれば逃げたことにならないみたいだし、お姉さんと一緒におしゃべりしてよっか」
「おしゃべりってそんな…それに……」
「変身!」
《Project Start…PersonaPhantom───Change The Wolmoke》
戦闘を開始するヴォルモークに、北斗は焦りを覚える。
「あの子…ほえるは、元気そうに見えるけど病み上がりなんです。マリスセルに感染したから…きっと辛かったから、戦ってるんです」
「あらなんか深いお話なのねぇ」
「……私は、ほえるの、友達だから……ほっとけないんです。無理してるかもしれない友達を見てるだけなんてできないんです」
胸に手を当てて決心を告げた北斗は、女性を後ろに下がらせる。
「あの、少し下がってください。危険ですから」
「私の名前は“あの”じゃなくて“いぶ”。『
「猫宮さん、下がってください。私も、戦います」
「ほんとぉ、頑張ってねぇ~」
一方、ヴォルモークは変わらずその機敏さで敵を翻弄するが、今回は敵が多い。一人で対処するには容易ではなく何体かのアルファタイプを逃してしまった。
「!」
アルファタイプが向かう方向には丁度北斗が走ってきており、ヴォルモークが残存勢力を追おうとするものの未だ数を増やすアルファタイプによって道を阻まれる。
「北斗ちゃん! 来ちゃダメ! 敵が多すぎるの!!」
「だったら! 私も! 戦う! ほえるだけに任せない!!」
《RemediumDriver》
ベルトを装着した北斗に、ヴォルモークは驚きが隠せなかった。
「北斗、ちゃん」
《ImagineerIce》
『イマジニアアイス』のメディックシグナルを起動させると、それを装填、声帯コードを発する。
「───変身」
《Project Start…ImagineerIce───Change The Rappol》
北斗は電子音から放たれた名である、ホッキョクグマに似た戦士『仮面ライダーラポール』へと変身、敵へと走る。
「う、うわあああっ!!」
ラポールが振るった拳から氷が生成され、眼前に迫っていたアルファタイプ複数体を氷漬けにしてしまった。
その力を見て、彼女は硬直した。
「……これが、仮面ライダー」
「北斗ちゃん、ケガしてない? 変身、しちゃったんだよね?」
「平気、それよりも、ほえるを一人で戦わせる方が辛かったから。大変な友達を、見捨てられない」
それを聞いてヴォルモークはうつむく。
「大変なのはそうだけど……大変だから、北斗ちゃんを巻き込みたくなかったの」
「ほえるってそういう所ある。でも、一緒に戦えば大変さも半分だと思う」
「へへ、北斗ちゃん頭いい!」
ラポールとヴォルモークが互いに抱き合うと、すぐに戦闘態勢に入る。
「北斗ちゃん、戦うの初めてだけど大丈夫?」
「ほえるがいるから」
「じゃあ、いっくよー!」
2人が同時に走り出し、大量のアルファタイプを相手取る。
ヴォルモークが煙となって敵を翻弄し、その隙にラポールが凍らせる。そして身動きが取れなくなった敵をヴォルモークの持つダリングエッジが切り裂く。
それぞれの動きを理解したコンビネーションが相まって先ほどまで数十体いたはずのアルファタイプが消滅していた。
「はぁ…はぁ、これが、戦い…!」
「まだ敵は残ってるよ、北斗ちゃん!」
「っ…はい!」
《PersonaPhantom End》
メディックシグナルを再度押下することによりヴォルモークが必殺の態勢に入る。それに合わせてラポールも同様の操作をする。
「こう、か!」
《ImagineerIce End》
ヴォルモークが霧散し、敵を切りつけながら、ラポールの氷が地面から針状になって突出。全てのアルファタイプを串刺しにしてみせた。
これで彼女らがいた区域のマリスセルが消え去り、なんとか食い止めることに成功した。
同時に変身解除したほえる、北斗が向き合うと、神妙な面持ちになってしまった。
「私ね、北斗ちゃんも守るべきヒトだってずっと思ってた。だから変身するって言われたとき、よく分からなかった」
「ほえるに守られてばっかりでいたくなかったから…」
その瞬間、ほえるが北斗を抱きしめた。
「ありがとう、北斗ちゃん」
「私、ほえるだけ戦わせて一人にしたくなかった…一人になりたくなかったの」
「なら、一緒に頑張ろう、そうすればきっと怖くないよ」
ほえるの優しさに、北斗はただ甘えた。
「ワァオ尊い、お姉さんも混じっていい?」
「…いるの忘れてました」
気の抜けた笑顔で話しかけてきたいぶに2人は頬を赤らめる。
「はぁん可愛いわぁ、百合の花……」
偏りのある享楽を言動で示すいぶの姿に北斗とほえるは距離を取る。
「わわわ、ヤバい人だよ北斗ちゃん」
「共同生活するんだ、そういう言い方は良くない…けど……」
「待ってぇ~ん」
「なんなのこの人!」
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一方、他の参加者と共同戦線を張ることになった陽廉は、その人見知りが不幸いして協力体制を取れずにいた。
「あっあの…あの……」
「あなたみたいな自己主張できない人間見てるとイライラするのよね。マリスセルにやられたら死ぬんでしょ。早く死んでよ」
猿のような容姿のライダーがアルファタイプを軽くいなすと、陽廉に向かうような状態に変えて放置する。
しばらくして再起したアルファタイプは陽廉を認識するとゆっくりと動き始める。
「まっ、待ってください! 何も見殺しなんて───」
「自分が死ぬってときになんにもしないあなたが悪いじゃない?」
「ど、どうしてそんなことするんですか!」
涙ながらに叫ぶ陽廉に、そのライダー、『エイブ』は笑う。
「私を怒らせたから、かしら」
「ふぇへぇ…」
完全に困り果て、鼻水まで垂らす陽廉を見捨てたエイブはマリスセルから距離を取って陽廉が襲われるさまを見物する。
「こんなことなら変身…って、ベルトあっちだ……」
「バカじゃない、死んだわねあなた」
咄嗟の判断だったが、リミディウムドライバーを携行しなかったことを陽廉は後悔する。
迫ってきたアルファタイプが陽廉に触れようとしたそのとき、“網”がアルファタイプを包み、拘束した。
「大丈夫ですかっ!?」
「あば、あばばばばば~!!」
泣きじゃくる陽廉を庇い、彼女の頭を撫でるのは、犬を模したライダーであった。
「ここに書いてある位置情報、やっぱり猿堂さんのもの…だったんだね」
「あら、飯沼さん…何しに来たのよ」
にらみ合う2人のライダーが、戦闘態勢を取る。
「猿堂さん、そうやってまた人をいじめるんだ…気持ち悪いね」
「…あなたの方が倍気持ち悪いわよ、偽善者なんて!!」
「何がどうなってるんですか…?」
陽廉をよそにいがみ合うライダー同士であったが、端末より戦闘終了の合図が出る。
「時間だ、参加者は全員帰還しろ」
光貴の指示に舌打ちしたエイブは、その場を離れる。
「後でにしましょ、また楽しんであげるから」
「……」
「あの…助けてくれてありがとうございました……」
「気にしないでください、あの人はいつもああなんです、本当に嫌になりますよね?」
犬のようなそのライダーは、変身を解除すると陽廉を介抱する。
「お知り合いなんですか…?」
「…
その少女は、憎悪を思わせる表情で、その名を告げた。