仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#7 いんねん

「仲直りって…どういうこと?」

「そのままの意味よ。もうあなたをいじめない」

 

「どういう意味?」

 

 少し間を置いて碧が問う。

 それを聞いて朱李が微笑む。

 

「私ね、親に嫌われてるの」

「は?」

「勉強ができないとママはすぐに怒鳴りつけて、学校までやってきて、私や教師に口汚い言葉を浴びせるのよ」

 

 碧の部屋の前で朱李がしゃがみ込み、自分の話を一方的に語りはじめる。

 

「私には味方なんて本当はいなくて、だから学校の中で自分が一番になれたのが楽しかった。私の命令でみんながなんでもやってくれることが嬉しかった…思い通りにならない、気に入らない人がいなくなるためには何をしたっていいと思ってた。私はそうしてもいいんだって思ってたから」

「ッ!」

 

 朱李の態度に碧は激昂(げきこう)し手をあげかけたが、寸前で自制する。

 

「…それを話して、私に許されようってこと?」

「そうよ、私、あなたに謝りに来たの」

「今の話を聞かされても許す気には…ならない」

「学校での私は……みんなにもてはやされて、いじめることを強制されてたの…そうしなくちゃ今度は私がクラスで浮くから…汚れ役を押し付けられてたの!」

「そんなの今まで私にしてきたことの理由にはならないよ」

 

 汚物を見るような目で朱李を見つめる碧に、彼女は涙を浮かべ始める。

 

「味方が欲しいの…私…ここには誰も味方なんていないって分かったから───」

「そんなの勝手に探してよ。今まで傷付けてきた私に頼ろうなんて虫が良すぎる」

「それは、分かってる…でも、私は…私は……このまま死にたくないの!」

「死…え?」

 

 朱李が口漏らした一言を聞き返す碧だったが、警報音がそれ以上の質問を許さなかった。

 マリスセルが活性化し始めたのだ。

 

「ライドスフレの調整、仮面ライダーの整備は終わっている。場へ急行しろ!」

 

 いつも通り高圧的な光貴の指示に従い、各員が出動する。

 以前説明された通り戦闘の拒否は許されない、どんな事情があろうと。

 

──────────────────

 

「飯沼さん、それに……」

 

 ほえるが合流した参加者を確認すると、碧と朱李が同じ場所にいた。

 

「あなた、昨日の…お願い、私の話を聞いて!」

「話…聞きたいけど今はそれよりマリスセルを倒すべきだよ!」

 

《PersonaPhantom》

 

「変身!」

 

《Project Start…PersonaPhantom───Change The Wolmoke》

 

 一足先に変身したヴォルモークはダリングエッジを握りしめ、戦闘を開始する。

 

「…私も!」

 

NastyNest(ナスティネスト)

 

「…変身!!」

 

 碧がメディックシグナルを起動させ、ベルトへと装填、ボタンを押下する。

 

《Project Start…NastyNest───Change The Procyon》

 

 電子音が『仮面ライダープロシオン』の変身完了を告げる。

 青い犬のような体躯の戦士がアルファタイプの足へと網を引っかけて倒す。

 

「私は…猿堂さんみたいに姑息な人にはならない! 人のために敵と戦う!」

 

 プロシオンの放つ網によって身動きの取れなくなったアルファタイプが朱李の足元に倒れ込む。

 

「私だって…こんなとこでまごついてるような弱虫なんかじゃ…ない!」

 

DaringDagger(デアリングダガー)

 

「…変身!!」

 

《Project Start…DaringDagger───Change The Ave》

 

 仮面ライダーエイブが変身完了し、二本のナイフを振るって眼下の敵を切りつける。

 

「うおおおおおッ!!」

 

 エイブの持つ二振りのナイフ、ダリングエッジとダリングブレードの切っ先を乱れさせ、アルファタイプを次々と細切れにしていく。

 

 荒い息を吐き続けながらエイブは敵を消し去ろうと躍起になる。

 

「飯沼さん、あの子、一体どうしちゃったんですか?」

「それが私にも良くわからなくて…私と仲直りしたいと今朝言ってきてから……」

 

 ヴォルモークが戦い続けるエイブを見つめる。

 

「…分かった、ここは私が食い止めます! 飯沼さんは猿堂さんともっとお話してください!」

「話って言っても…」

「猿堂さん、あの人、もしかして独りぼっちなんじゃないですか? 独りになりたくなかったから誰かを傷付ける人って、いるから」

 

 それを聞いてプロシオンはエイブの元へと走る。

 

「猿堂さん」

「はぁ…はぁ……私は」

「うん、聞かせて」

 

 マリスセルが接近していないことを確認して2人が変身を解除する。

 

「私は、きっと戦いが終わって、自分の家に帰ったら、死ぬ」

「どうして…死ぬの」

「3週間も勉強ができなかったらきっとママはもっと私を嫌いになる。そんなのイヤなのよ、私にはママしか見えないから、ママがやれって言ったことが私の全てなの。それができない不出来な私は、ママに捨てられるの」

「捨てられるって…どういう意味?」

「あなたみたいに親に苦しめられてない人には分からないのね……何も期待されず、生きていることに二度と干渉されなくなるのよ」

「それってお母さんからの圧迫から解放されるってことじゃないの?」

「違うわ。手放されることは解放されることじゃないの。誰からも認めれない、何者にもなれなくなっちゃうのよ」

 

 朱李の見ている世界は、自分とは全く異なる。それだけが碧の感想だった。

 未だ理解できず、理解したくもないとさえ思っている。

 どれだけ朱李が苦しもうが、それは自分を苦しめてきたことへの報復でしかないと、そうとしか思えなかった。

 

「仕方ないよ、それは猿堂さんが悪い」

 

 ぽつりと出たのは、その一言だった。

 その一言が、朱李の心を折った。

 

「私、やっぱり最悪なことしてたから、だからダメなのかな」

「……」

 

 それ以上の言葉が思いつかず、押し黙る碧に朱李は膝を落とす。

 

「いや、いじめなんてする前から分かってたはずじゃん…こんなことしたって、結局自分は変わらないって…でも、誰かの上に立っているのは、優越感があって、心が満たされて、気持ちが良かった。だから私は変われなかった……私が“みんなの敵”になってようやくちゃんと見れた、自分が気持ち悪い女なんだって」

「猿堂さん」

「もう全部イヤなの! 誰かに従い続けて頑張るのも、それが嫌で誰かの人生を消費するのも、戦うのも、生きるのも!! 死にたい! 死にたいよ!! 私なんか死んじゃえ───」

 

 碧が朱李の頬を握り拳で殴る。

 

「何が死にたいだ! 私だって死にたかったのに!」

 

 今度は朱李の胸ぐらを掴んで、耳を貫くような叫びで彼女へと思いの丈を伝える。

 

「人を死にたいと思わせたお前の終わりが死ぬことなんて、私は許さない! 罰が欲しいならこんなところで死なないで、みんなの前で私に謝れ! それができないで私をこの世界でほっぽいて逃げようとしないでよッ!!」

「怖いの…私が出来損ないだと思われるのが……」

「私はずっと出来損ないだと言われ続けたんだよ! そんなことすら嫌がってるあなたのことなんて、これっぽっちも理解できるワケなかったんだ!」

「私の気持ち…わからないの?」

「わからないよ! 全部イヤで逃げたいって言いたいのかも知れないけど、それで私にしたことからも逃げたいって思ってるんでしょ、そんなの理解できる訳がないよ!」

 

 朱李が目を逸らす。

 が、碧は言葉を続ける。

 

「いじめっ子ならいじめっ子らしく、最後は私に謝って、これから罪を償ってよ! 仲直りしたいってのはいつもの嘘だったの!?」

「違う、私は……一緒に、“生きてくれる”友達が欲しかった…学校のクラスメイトは何でも言うこと聞いてくれるけど、誰も私のことなんて興味なかった…ただ私が学校で強いから虎の威を借りてただけ」

 

 朱李が涙でくすむ視界のまま碧を見る。

 

「私の怖いことに一緒に立ち向かってほしいの、飯沼さん!」

「…都合のいい女だよね、猿堂さんって」

「駄目、よね。私みたいな人間」

「そう、猿堂さんのような人間は駄目だよ。だから私は猿堂さんみたいな誰かを傷付けてそのままにするような人にはならない」

「……え?」

「私は猿堂さんみたいな弱い人じゃなくて、強い人になりたい。だからあなたを見捨てない!」

 

 涙を拭った朱李の視界には、頼もしい顔で自分を見つめる碧が映っていた。

 

「一緒に戦ってあげる、最悪だけど。信頼なんてできないし友達なんてなれない気がする。でも、私は見捨てないよ」

「どうして…そこまで……」

「私を怒らせたから、かな。絶対に償いきるまで許さないし離さないよ」

 

 立って、と碧が朱李を引っぱり上げると、思わず笑みをこぼしてしまった。

 

「猿堂さんの泣き顔、めちゃくちゃ面白いね」

「面白くなんか…ない」

「ふふ…仕返し」

 

 

「お二人とも! 話まとまりました!?」

 

 連戦をくぐり抜けて体力の限界も近いヴォルモークが叫ぶと、碧と朱李がうなづき、ベルトを再装着する。

 

《RemediumDriver》

《NastyNest》

《DaringDagger》

 

「…変身!!」

 

 2人の声が重なり、赤と青の戦士が駆ける。

 

 プロシオンが拘束した敵をエイブが切る。

 無駄のない動きで大量のアルファタイプをなぎ倒していく。

 しかしまだアルファタイプは湧いてくる。

 

「キリが…ない……」

「碧ちゃん、あとは任せて!」

「! あお…」

 

 碧を気さくに呼ぶヴォルモークが2人の前に立ち、ベルトに装填しているペルソナファントムとは異なるメディックシグナルを取り出した。

 

《FatalFang》

 

 起動したフェイタルファングをダリングエッジに装填すると、再度ボタンを押下する。

 

《FatalFang Edge》

 

 メディックシグナルを装填し強化したことで、ダリングエッジから放たれる斬撃が分身、複数体のアルファタイプを切り刻む。

 

「なんか魔法みたい、どうなってんだろコレ」

 

 敵を一掃し、満足しつつも首を傾げるヴォルモークに、戦闘終了を予感しエイブとプロシオンが安堵する。

 だが、戦い終わっていなかった。

 

「エイブ、プロシオン、ヴォルモークのいる地点に『ベータタイプ』の反応が確認された! …ッ、撤退しろ!!」

 

 光貴からの連絡に3人は周囲を確認する。と、先ほどまでアルファタイプたちが群がっていた影から、1体の巨腕を(よう)したマリスセルが這い上がってきた。

 

「ベータ…タイプ…?」

「撤退しろ、貴様らでは手に負えん相手だ!」

 

 光貴の指示に従い退()こうとするヴォルモーク達だったが、ベータタイプの拳が地面に衝撃を与え、足並みを崩された。

 最も近い場所で倒れ込むヴォルモークにベータタイプは狙いをつける。

 

「っ!」

 

 が、咄嗟にプロシオンが網を放ちベータタイプの動きを止める。

 

「大神さん、立って…!」

「碧ちゃん、ありがとう!」

 

 ベータタイプは網を引きちぎり、すぐに復帰する。

 

「そんな……!」

「飯沼さん、いいから逃げて!」

 

 エイブの叫びに反応したヴォルモークがプロシオンをはねのけ、攻撃を受ける。

 

「あああッ!!」

 

 ベータタイプの巨腕がヴォルモークに炸裂(さくれつ)し、気絶してしまう。

 

「大神さん!」

 

 ヴォルモークの元へ駆け寄ろうとするプロシオンだったが、エイブに引き留められる。

 

「猿堂さん! 彼女を見殺しにできないよッ!!」

「…分かったわよ!」

 

 そう言い放つと、エイブがダリングエッジをベータタイプへ投げつける。

 

「こっちよ!」

「猿堂さん、何してるのっ!?」

「私が(おとり)になって時間を稼ぐから、飯沼さんはあの子と一緒に逃げて」

「…そんなことしたら猿堂さんが!」

「私はいいから、離れて!」

 

 いつものようにエイブがプロシオンを突き飛ばすと、自分を追ってくるベータタイプを誘導しながら逃げていく。

 エイブを助けたかったが、とにかく彼女の状況を好転させるにはまず撤退するしかないと判断し、プロシオンはヴォルモークをライドスフレに乗せるとそこから離れる。

 

「…はぁっ、行ってくれたか……はは」

 

 不意に笑いがこぼれ、エイブは不思議な感覚に襲われる。

 いなくなってしまえばいいと思っていた相手を助けて、とても気持ちが良かった。

 

 碧が生きていてくれればそれでいいとまで思えた。

 もう自分の人生なんてどうでも良かった。ただ、初めて彼女のためになることができたことで心が満ちあふれていた。

 

「猿堂さん!」

 

 3人のピンチを知り、ようやく合流できたラポールが氷を打ち出しベータタイプの動きを止める。

 

「…危なかった」

 

 寸前で命拾いしたエイブは、ラポールへと駆け寄る。

 

「その…ありがとうございます」

「礼とかいいのでここから離れましょう。それよりほえると飯沼さんと一緒にいましたけど、何もしてませんよね?」

 

 首を横に振るエイブにため息をこぼしたラポールは共に撤退しようとライドスフレへと戻る。

 ───しかし。

 

「テメェがベータかッ!!」

 

 別の場所から移動してきたアトラクネがベータタイプを攻撃する。

 氷がはがれて再び動き出したベータタイプがアトラクネへと拳を振るう。

 

「ハッ、効かねェよ」

 

 と、アトラクネが目の前にいたエイブを突き飛ばし、ベータタイプの目の前に立たせる。

 

「邪魔なんだよッ!」

「え───」

 

 エイブの胴体にベータタイプの殴打が直撃する。

 その威力によって吹き飛ばされるが、その間に生じた隙を見てアトラクネは攻撃を続ける。

 

《CrimeChain End》

 

 致命傷を与えんとして大きく動いてしまったベータタイプは襲い来る鎖に対応できず、全身を縛られ、千切られる。

 

「ッしゃあ…!」

「猿堂さん、やっぱり心配で戻ってき───」

 

 ヴォルモークと共に戻ってきたプロシオンが、ラポール、アトラクネの前で横たわるエイブを見て絶句する。

 

「猿堂さん!」

 

 プロシオンが駆け寄ると、ベルトが破損し変身解除される朱李を抱きかかえる。

 

「あ…飯沼…さん」

「猿堂さん!」

「は、はは…とちっちゃった」

「……」

 

 プロシオンが息を荒げる。

 

「ね、飯沼さんの顔見してよ」

 

 朱李の頼みを聞いてプロシオンが変身を解く。

 

「化粧…興味ない?」

「何、急に…!」

「私もママに禁止されてるんだけど……今度、一緒に、化粧……してみようかなって」

「なんで、そんな…」

「あなたくらいだし、こんなの言えるの」

 

 碧の目から涙がこぼれる。

 自分を散々痛めつけた相手が目の前で分かりやすく弱っているというのに。

 

「死なないでよ…猿堂さん」

「は、そんな簡単に死ぬことないでしょ……」

「一緒に、化粧ね…やってもいいよ」

「……ありがとう」

 

 それから、朱李の応答はなかった。

 委員会の救助用ヘリが朱李を連れ処置を進めるが、碧にはもう助からないことは分かっていた。

 

「碧ちゃん」

「飯沼さん」

 

 ほえると北斗が碧へ駆け寄る。

 

「私、あいつのこと、ずっと死んでほしいって思ってたんです。なのに、なんでかな…全然嬉しくないや」

 

 朝焼けが、碧の姿を(あか)く照らした。

 

 

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