屋敷へ戻った碧に、光貴から直接連絡がかかる。
「鳳さん! 猿堂さんは───」
「処置はしたが、駄目だった」
肩を落とす碧に、端末から情報が通知される。
「彼女の遺体の安置所だ、恐らく最後に会う機会だろう」
それだけ伝え、光貴からの連絡が切れる。
碧は自分たちに関わってくれたほえる、北斗、陽廉を呼んで最後に朱李に会おうと考えた。
「私たちも来て良かったの?」
「はい…というより、1人で朱李の死に向き合うのが怖かったから…事情を知ってるみなさんに、来てもらいたくて。むしろごめんなさい」
「気にしないで、私たち一緒にいるって約束したから!」
肩を抱くほえるに、少しだけ碧の不安がやわらぐ。
安置所につき、もう息のない朱李の元へと通される。
「やっぱり…ここってこういうことが起きることも想定して作られてたんですね」
北斗が
「ああ、MRP参加者の死亡ケースはこちらも予想していた。アルファから学習を経た強化個体、ベータタイプの出現は時間の問題だったからな」
「それで、鳳さん…朱李は、これから、燃やされるんですか」
「火葬はするつもりだが、その前に家族への連絡と…研究がある」
「研究って、死んだ朱李に何をするんですか!?」
碧の叫びに光貴は一瞬目を逸らすが、拳を固く握って彼女へと向きなおす。
「これも全ては人類がマリスセルに勝利し、未来を掴み取るための手段なのだ。貴様らMRP参加者には他者とは違うマリスセルへの抗体があり、その謎を解明する使命が我々にはある。例え非人道的となじられようと研究は続行する」
激昂した碧が光貴へと掴みかかろうとするが、ほえるに止められる。
「待って、碧ちゃん」
「でも…この人は…!」
「光貴さんはベータタイプが出てきたとき、撤退…“逃げて”って私たちに言ってくれた。いつもは戦え戦えーって言ってるのに、私たちのことを優先してくれたんじゃないかな」
ほえるに図星をつかれ、光貴は目を合わせず背中を向ける。
「飯沼、お前の部屋に猿堂の遺品を送ってある…確認しておけ」
その場を去る光貴に碧が食ってかかろうとするが、今度は北斗に止められる。
「鳳さんも楽しくてやってる感じじゃない。きっとあの人も傷つきながら、戦ってる」
北斗がさらに言葉を加えると、碧は肩の力を抜く。
と、静かに涙を流して朱李を見つめる。
「猿堂さん……私、1人でお化粧なんてできないよ…1人で学校なんて怖くて行けないよ…猿堂さんのママにどう説明すればいいか分かんないよ……」
冷たくなった朱李の手に触れると、握り返してくれるような感触を覚えた。
それは気のせいだったが、碧は、その一瞬の錯覚に大きな勇気をもらった気がした。
「頑張れって? そりゃないよ…」
朱李に触れたその手を胸にあてると、碧の表情は、強い信念を抱く決意を持ったものになっていた。
「……めちゃくちゃ辛いけど、私…生きて戦う。マリスセルとも、人生とも!」
ようやく元気を取り戻した碧に、ほえると北斗は安堵の笑みを浮かべる。
「あれ、陽廉さんは?」
ほえるが辺りを見回すと、同行していたはずの陽廉の姿がなかった。
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「あの…鳳さん!」
「貴様、陽廉クローチェ」
陽廉は光貴を追って彼女を呼び止めていた。
「猿堂さんがやられたときに、近くにいた…あのクモみたいな、参加者……あの人のこと、教えてください」
「いいだろう、参加者同士に守秘義務はないからな」
そうつぶやくと光貴用の端末を取り出し、仮面ライダーアトラクネの変身者『
それを見た陽廉は、やっぱり、とつぶやいた。
「八雲は連続殺人犯だ。手口はまぁニュースにもなっていた通り、卑劣なものだ。同性での強制性交をはかり、その上で何度も凶器を刺して殺す。こんな奴を参加者にするのはこちらも不本意だったが、戦闘データはたった1人分でも惜しかったのでな。今は自室で拘束され、24時間の警備体制を
「……ありがとうございます」
陽廉がくぐもった口調で感謝する。と、もう一つ聞きたいことがあったのか再び光貴を呼ぶ。
「あの…パソコンって買えますか?」
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「あ、陽廉さん。探しましたよ」
北斗が陽廉を呼び、碧、ほえると共に歩み寄る。
「一体どうしたんですか、何も言わずにどっか行っちゃうなんて」
「いや…その、猿堂さんと一緒にいた、参加者……気になって」
「あのクモっぽい人?」
ほえるが問うと、陽廉が静かにうなづく。
「八雲、手繰───」
「それってあの連続殺人犯じゃないですか」
「ニュースで見たことあります!」
その名に覚えのある北斗、碧も続けて反応する。
「そんな人が仮面ライダーやってるってことですか?」
「そう、です…“あいつ”が……猿堂さんを…」
恨みを感じさせる陽廉の口調に北斗が眉を動かす。
「殺人犯がいるなんて、こんなことしてる場合じゃないですよ! 早く警察に、それに猿堂さんと一緒にいたって…そんな!」
うろたえる碧に陽廉がひとつ提案を投げかける。
「私は…八雲を殺します」
「え? 陽廉さん、何を───」
「あいつが許せないんです」
普段と様子の違う陽廉を心配するほえるだったが、彼女の抱く憎しみの大きさを察し、言葉をかけられなくなる。
「みなさんに協力を申し上げることは…やっぱりできませんが……私の邪魔は、しないでください」
そう告げると陽廉は頭を下げる。
「みなさんは人を傷付けるようなことに加担しちゃ、ダメです。でも…私にはやらなきゃいけない、理由があるんです」
陽廉が一同に背を向け、自室へと戻る。
「あっ道間違えた……」
自室への方向が逆だった陽廉が振り返って再び一同に頭を下げると、反対側へと歩いていった。
「陽廉さん、確かに殺すって」
「うん、言ってた」
今まで恐怖で戦いにも参加できていなかった陽廉から出た一言に驚くばかりの3人は、陽廉の哀愁ただよう背中を追うことしかできなかった。
「とにかく、陽廉さんのことは任せてください。飯沼さんは…今は休んでください」
「ありがとうございます、熊谷さん。大神さんも、ありがとうございます」
「ほえるで良いですよ! 北斗ちゃんも北斗ちゃんで!」
「勝手に決めないで…でも、北斗でいいです、碧さん」
「…本当にありがとう、2人とも。お言葉に甘えて…今日はもう、1人で過ごすね」
北斗とほえるが見送り、碧も自室へ戻る。
「最後に猿堂さんと、話し合えたのかな」
「うん、仲直り、できてたよ」
「それなら良かった」
平穏も
それを受け、2人は自室に戻ってVR機器を装着する。
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「全員集まったな」
「まだ8人しかいませんよ☆」
参加者からの指摘に対し、いや、と光貴が返す。
「もう知っている者がいるが、仮面ライダーエイブ、猿堂朱李が亡くなった。進化個体であるベータタイプの攻撃によってな」
光貴の説明に、北斗、碧、陽廉が一斉に手繰を見る。
「あン?」
「参加者との不和はお前の拘束を強めるだけだぞ、八雲」
「…チッ」
「話を戻す。このベータタイプの進攻により犠牲者が出たことは正直悩ましい。そこで現在変身できていない一部の参加者の戦闘を促すため、VRによる戦闘訓練を実施する。今回は未変身者のみ、変身しただけで5万円を支給する。もちろんマリスセルの撃破でも報酬を用意する、通常の半額、5万円とさせてもらうがな。戦闘によって命を削る必要のない訓練を充分に活用し、自分たちの身を守れ」
すると、広間から映像が切り替わり、一面白い空間が映し出される。
「これより訓練を開始する」
「いきなりですね」
「いつ敵が襲ってくるか分からない、それに備えなければ次に命を落とすのは貴様らだ。覚えておけ」
そう言い放つと、光貴の姿が消える。
同時にアルファタイプが出現し、参加者を狙いすまして歩みはじめる。
広間のときと同様に、現代のVR技術によって脳波を感知して自由に体が動かせる。この指向性を活用して敵と戦うというのだ。
(早速始まったか…陽廉さんは)
北斗が陽廉の方を向くと、今まで怖気づいていたはずの彼女がベルトを装着し、メディックシグナルを起動していた。
《
「へ…変身」
《Project Start…HasteHack───Change The Luxhus》
陽廉の姿が黒々しい甲虫を模した戦士へと変わる。
仮面ライダールキフス。それが決意を改めた彼女の名であった。
ルキフスの背部に取り付けられた小型ドローン6基が起動し、飛行する。
彼女の腰部から胸の前辺りに展開されたキーボードを入力することでドローンを操作し、銃撃を開始する。
索敵、遠距離攻撃に特化した能力、ヘイストハックは陽廉の特技であるハッキングと見事にマッチし、その特性を十全に活かした戦闘を可能とした。
(陽廉さん、あれから本気で戦うようになった…それはよ、い訳ではないけど、飯沼さんの状況も気になる)
ラポールが碧を探すと、彼女もなんとか戦闘に参加していた。
「飯沼さん、無理しなくても大丈夫」
「ううん、気にしないでください。猿堂さんの分まで戦って、生き残る使命があるから」
気丈にもそう告げる碧───プロシオンにラポールは安堵の息をつく。
「飯沼さん、なんとか立ち直れたようで良かったです」
「…やっぱりまだ傷付いてはいるけど、やるべきことは見失いたくないだけです」
「分かりました、私は他に戦闘で困っている人がいないか探しますから、ここはお願いします」
「任せてください!」
自信を込めて告げたプロシオンはもう一つのメディックシグナルを取り出す。
──────────────────
「あれぇ、変身してないの私だけになっちゃった?」
端末を確認しつつも未だ余裕の表情を見せるいぶにヴォルモークが援護をおこなう。
「ヤバい…じゃなかった、猫宮さんでしたよね! 今回は変身した方が良さそうですよ!」
「そうねぇ、お金もらえるなら…」
《RemediumDriver》
《FatalFang》
「あっ、そのメディックシグナル!」
「お揃い? いいわねぇ」
と、アルファタイプがこちらへ近付き、いぶへと狙いを定める。
変身していない相手を選んでいるのだろう。
「猫宮さん急がないとマリスセルが!」
「はいはい~───へんしぃん」
《Project Start…FatalFang───Change The Caitsith》
「『仮面ライダーケトシィ』、にゃあ~ん」
ピンク色をした猫のような姿をした戦士が現れ、いわゆる“ニャンポーズ”を決める。
「やってる場合じゃないですよぉ~~!」
「そうねぇ」
「危ない!」
動きの鈍いケトシィへとアルファタイプの攻撃が当たりそうになるが、ヴォルモークがかばう。
「ああっ、オオカミちゃん!」
「私、名乗ってましたっけ?」
「え?」
「え?」
戦闘を継続するヴォルモーク、ケトシィのもとにラポールが到着し、援護を開始する。
「大丈夫、ほえる?」
「うん、猫宮さんも変身できたから!」
「ちゃお~こないだはどうもねぇ~」
「…変身してもあまり戦力にはなれなさそうですね……」
落胆するラポールだったが、とにかくケトシィを守るためにヴォルモークと並び立つ。
と、彼女らを呼ぶ声が後方から聞こえる。
「おーい、今回は訓練なんだから、慣れてない人に頑張ってもらった方がいいんじゃないかなー☆」
その声の主は、カマキリの意匠を持った黄緑の仮面ライダーであった。
「じゃないとさ、その人ずーっと守りながら戦うことになっちゃわない?☆ “アイドル的”にはそれがいいって☆」
「確かに一理ありますが…あなたは?」
「わたしは、仮面ライダー…たしか『ティオーロ』☆」
ヴォルモーク、ラポール、俊鼠、エイブ、プロシオン、アトラクネ、ルキフス、ケトシィ。
そしてほえる達が最後に出会った仮面ライダーティオーロは、いつも食事をすべて混ぜて食べている異端な女性であった。
「いつも凄い食事を摂ってる方…ですよね」
「凄いかー☆ まぁそうだね、全部混ぜてる☆ 一番早いから☆」
「変なヒトだー…」
呆れるヴォルモーク、ラポールをよそに、ティオーロは携行する刀で近付くアルファタイプを切り裂いていく。
「あっホラ危ないね☆」
「…ありがとうございま───」
「しまった守っちゃった、もっとみんなに頑張ってもらった方が効率的だと思ってたけど☆」
でも違うみたい、と呟くと、ティオーロは刀をもう一本出力し、全力で振るう。
「いいや、ぜんぶわたし一人でやっちゃった方が効率的じゃん☆」
二刀流による双撃が、一面のアルファタイプを瞬時に切断してしまう。
目にも止まらぬ速さで繰り出されたその斬撃にヴォルモークとラポールは圧倒されてしまう。
「な…強い」
「カッコいい…」
「みんなー、ありがとー☆」
手を振るティオーロに、ケトシィが
「…強さは正義、ねぇ」