仮面ライダーヴォルモーク   作:虎ノ門ブチアナ

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#9 おねがい

 訓練が終了し、1日を終える。

 VRとはいえ体力を使った陽廉はベッドに寝転び、荒げた息を(しず)める。

 

「…早く……」

 

 手元の端末を操作し、物品の購入画面にてパソコンを選ぶ。

 値段に応じて様々な種類が用意されているが、陽廉は最も高級なプロクリエイター用パソコンを購入する。

 

「…絶対に…八雲を…ッ!」

 

──────────────────

 

 朝になり、ほえると北斗が広間で朝食を摂りに来る。と、いつも通り、黄緑の仮面ライダーに変身していた女性が味噌汁、納豆、鮭、白米、ゼリーを混ぜた食事をしていた。

 

「…おはようございます、昨日はありがとうございました」

「え、なにが?☆」

 

 自身がヴォルモーク、ラポールを助けたことを覚えておらず、首をかしげる彼女にほえるは苦笑いする。

 

「それで、お名前も聞きそびれてたので挨拶したくて。私は大神ほえるです!」

「熊谷北斗です、そちらは…」

「『狩屋(かりや) 真希(まき)』☆ 剣道4段、将来の夢はアイドルだよ☆」

 

 突飛な発言を繰り出す彼女に、北斗が肩を落とす。

 

「け、剣道にアイドル……?」

「狩屋さん可愛いから絶対なれますよ! ね!」

「ねー☆」

「通じ合ってる…」

 

「アイドルなんてのも若さねぇ」

 

 盛り上がるほえる達にそう言葉を残すのは、時を同じくして食事をするいぶであった。

 

「あ、猫宮さんおはようございます!」

「今聞こえてきたけど、あなたがほえるちゃんで、そっちのあなたが北斗ちゃん、それであなたが真希ちゃんね」

「そうです!」

「猫宮さん、昨日はお疲れ様でした」

「お疲れ~」

 

「ところで猫宮さんはどうして変身しなかったんですか?☆」

 

 真希からの質問にいぶはそうねぇ、と首をかしげる。

 

「働きたくないからぁ?」

 

 いぶから放たれる衝撃的な理由に北斗からえ、と声が漏れる。

 

「あん、北斗ちゃんが思ってる通り私は出来たオトナじゃないからぁ、あはは」

「どうして働きたくないんですか?☆ 大人になればみんな働くものだと思うんですけど☆」

 

 込み入った事情を考慮せず、ためらいもなく疑問を投げかける真希に場が凍る。が、当のいぶだけは笑い続ける。

 

「理由ねぇ…考えたことなかったかも、働かなくても養ってもらえるかなって。そう、“ヒモ”ってヤツね、私」

 

 そう言って笑ういぶだったが、自分たちの知らない壮絶な世界に北斗とほえるは啞然(あぜん)とする。

 

「そのヒモって、お金をもらうだけで働かない人でしたよね☆」

「まぁ働かないけど、流石に養ってくれる女の子の言うことは聞くかな~。家事したりとかぁ、一緒に買い物行ったりとか?」

「じゃあお金をくれた人の言うことを聞く感じなんですか?☆」

「そうねぇ……大体言うことなんでも聞いちゃうかも!」

 

 興味津々の真希にいぶも面白がって答えていく。そんな2人に付き合ってられないと言わんばかりに北斗はでは、とその場を離れる。ほえるもそれについていく。

 

「広間いないの? 北斗ちゃん」

「いや…その、いづらくて」

 

 北斗が自室に戻ろうとすると、寝坊した楽歌とすれ違う。

 

「あ、楽歌さん。おはようございます」

「もうおはようなんて時間でもないでしょ…それよりアンタ、浮かない顔ね。お金のこと考えてる?」

「楽歌さんにはお見通しですね」

「…冗談のつもりで言ったんだけど」

 

 苦笑いする楽歌だったが、金の問題と聞き、少し上を向いて思考を凝らす。

 と、いい解答が思い浮かび北斗を見る。

 

「お金は大体のことを解決するし、我慢してでもお金は貰うべきだけど……自分の命に関わることはたとえお金が良くても、相手が誰でも断ることね」

 

 そういうと楽歌はうつむいて微笑む。

 

「でないと…エラいことになるわよ」

「えらい、こと…」

「エロいこと?」

「ほえるの馬鹿…」

 

 冗談めかすほえるに楽歌も思わず笑う。が、その目に北斗は憂いを感じた。

 

「どういうことになるかは、なってみれば分かるけど、なった頃には後戻りできない……そういうことよ」

「釈然とはしませんが、なんとなく伝わりました。肝に(めい)じます」

 

 北斗が頭を下げると、楽歌はいいって、と手を払う。

 

「お金って難しいね、北斗ちゃん」

「うん……ほえるも気を付けてね?」

 

──────────────────

 

 2度目の訓練が開始される。

 光貴(いわ)く、恒常的な訓練でマリスセルへの対応力を上げ、さらなるデータ入手を進めろとのことだった。

 昨日と変わらず参加者が着々と戦闘をこなすが、様子の異なる者もいた。

 

「猫宮さんっ! なんで変身してないんですか!?」

 

 慌てて援護に来たヴォルモークにいぶは微笑む。

 

「まぁまぁ、変身しなくてもお金もらえるし、守ってもらえるからぁ」

「え…?」

 

 呆気(あっけ)に取られるヴォルモークだったが、彼女らに迫るアルファタイプを切り払いながらティオーロが跳んできた。

 

「こちら私の雇い主、ティオーロさんです」

「はい、雇ってます☆」

「雇ってる…?」

 

 困惑するヴォルモークに、ラポールが合流する。

 

「ほえる、どうしたの!」

「え、いやなんか不思議なお話聞いちゃって」

「訓練とはいえそれどころじゃないでしょ」

 

 ラポールからの叱責に返す言葉もなくヴォルモークが気を落とす。

 

「あっでも、猫宮さんが変身しないのが気になってさ!」

「変身しない? たしかに猫宮さんは労働を嫌っていたけどこの状況で───」

「わたしが守るの☆ だから変身しなくても平気☆」

「真希ちゃんが守るから代わりに私が変身しない、そういうビジネスなのよぉん」

「それビジネス成立してますか…?」

「お金をもらえれば充分ビジネスよぉ」

 

 いぶがそう言い切りつつ、アルファタイプの猛攻をものともせず笑う。その攻撃もすべてティオーロが防いでしまうからだ。

 

「そんな危険なことをビジネスだなんて、人としてどうなんですか」

 

 ラポールの言葉にティオーロが動きを止める。

 

「人として……そんなことより効率よく☆ やりたいことがあるの☆」

「効率? なんの話をしてるんですか…」

 

 ティオーロの行動が全く理解できず困惑するラポールをよそにアルファタイプが蹴散らしていく。

 

「私、気になるの……そう、人が恐怖に慣れていくとどうなるのかなーって☆」

「…なんで、そんなことを急に!?」

「気になるから☆」

 

 全く話が通じず、ラポールは戦い続けるティオーロに恐れすら感じていた。

 原理からして彼女の行動がまるで読めない。

 

「何を…言って……」

「北斗ちゃん!」

 

 呆然としていたラポールにアルファタイプが接近し、ヴォルモークがそれを撃破する。

 

「ほえる…今の聞いてた?」

「狩屋さんのこと? …私にもよく分からない。でも、狩屋さんは猫宮さんを守ってるからきっと大丈夫」

「そうかな…」

 

 ティオーロの不可解な行動に対し深刻に考えないヴォルモークに、ラポールは不安を募らせる。

 

「それよりも、私たちは守ってくれてないから、来ちゃうよマリスセル!」

 

 ヴォルモークがダリングエッジを取り出し、ラポールの背後に立つアルファタイプへ突き刺す。

 さらにフェイタルファングのメディックシグナルを起動させ、ダリングエッジへ装填する。

 

《FatalFang Edge》

 

 分身する斬撃が周囲のアルファタイプを一掃し、ラポールとヴォルモークの危機を救う。

 

「その武器、そんな機能付いてたの」

「そう! あっでも変身に使ってるメディックシグナル使わないでね。装備が解除されちゃうから」

「…だからメディックシグナルを買えるようになってたの」

 

 この状況下ではあるが、メディックシグナルの必要性を再認識したラポールが深くうなづく。

 

「メディックシグナルは2個くらい持ってても良さそうだよね、猫宮さんも使ってるこのフェイタルファングとか使いやすくって!」

「そ、そう…」

 

 はしゃぐヴォルモークだったが、アルファタイプの攻撃に反応しラポールと共に反撃する。

 

「ほえる、言ってる場合じゃないかも」

「ごめんなさ~い!」

 

──────────────────

 

 一方、アトラクネはその気持ちを荒ぶる衝動に身を任せ、敵をほふっていた。

 鎖をまき散らすその攻撃は周辺のライダーへの配慮はなく、場を同じくしていたプロシオン、俊鼠もその被害を受けていた。

 

「ちょっと、アイツいたら金稼げないんだけど! 他の場所もすでに取られちゃってるし…最悪!」

 

 俊鼠がその手に握る拳銃“バレットブレイザー”の照準を合わせられずに癇癪(かんしゃく)を起こす。

 その間にアトラクネの放つ鎖が襲いかかるが、プロシオンがダリングエッジで防ぐ。

 

「くっ…! 大丈夫ですか!?」

「助けられたわね…お金なら無いわよ」

「お金はいいです、とりあえずここは離れて様子を見るしか……!」

 

 朱李の死の遠因を作った凶悪犯罪者であるアトラクネが目の前にいながら何もできないことにプロシオンは悔しがりつつも、俊鼠と共に一時退却を(こう)じる。

 と、そこに複数台のドローンが現れ、アトラクネめがけて掃射を始めた。

 

「ガァッ!?」

 

 VR空間ゆえにダメージは無いものの、いきなりマリスセルのものではない攻撃を受けアトラクネが警戒する。

 

「お前ら…!」

「私達じゃないわよ! そのドローンだってば!」

 

 俊鼠が弁明すると、アトラクネが上空を見る。そこで飛翔するドローンを見つけて、鎖を飛ばす。

 が、素早く機動するドローンを追い切れず、攻撃が通らない。

 

「なんだありゃ、クソッ!!」

 

 と、一台のドローンから音声が再生される。

 

「私は仮面ライダールキフス───陽廉というものです。あなたを…必ず殺します」

「ッ!」

 

 苛立つアトラクネがドローンを破壊しようと掴むが、他のドローンが射撃を再開し、近くのアルファタイプと共にアトラクネを攻撃する。

 

「クソッタレェェ!!」

 

 さらにアトラクネの鎖が範囲と威力を増し、無差別状態に拍車をかける。

 

「さっきのドローン、遠距離からの攻撃であのクモライダーを煽り散らかしてるっての!?」

 

 分析する俊鼠にプロシオンがおそらく、と返す。

 

「陽廉さんってさっき…言ってました」

「えっ、陽廉ってあの!? アイツ戦い怖がってたじゃん!?」

「どうやら、陽廉さんはアトラクネ…八雲を倒さなくちゃいけない理由が…あるらしいです」

 

 陽廉の変化に驚く俊鼠だったが、背後にアルファタイプが迫っていた。

 

「ッ…クモ女、我を忘れて敵への狙いも定まってないじゃん!」

「マリスセルは私が仕留めます!」

 

 息巻くプロシオンだったが、その瞬間すべてのアルファタイプが動きを止め、消滅した。

 

「!?」

「何、バグ?」

 

 この現象は他の場所でも同時に起きているらしく、ヴォルモークらも謎の事態に動きを止めていた。

 

「今から訓練を次の段階に移行する」

 

 響き渡る光貴のアナウンスと共に、遠方からベータタイプが出現し始めた。

 

「現時点で得ているデータをもとにベータタイプと戦闘してもらう」

 

 その言葉に参加者はそれぞれ驚きや落ち着き、様々な反応を見せる。

 朱李の仇であるベータタイプと戦える機会にプロシオンは一層の気合いを見せ、俊鼠は急いで光貴に連絡する。

 

「ねぇ、あのデカいのっていつもより報酬多いわよね? 強いし」

 

 俊鼠の質問に答えるようにアナウンスが加えられる。

 

「今回は訓練であることを加味し、15万円の報酬とする。が、実戦の場合は30万円を出そう。報酬が欲しい参加者は積極的にベータタイプ殲滅に協力しろ。一個体を複数人で攻撃して倒した場合は参加した各員にこの報酬を出す。励めよ、仮面ライダー」

「いいじゃない…!」

 

 沸き立つ俊鼠をよそに、プロシオン、アトラクネ、ルキフスのドローンがベータタイプへ向かう。

 

「あっちょっ、待ちなさい! 私のさんじゅっ…今日は15万!!」

 

 今までのアルファタイプとは比較にならないほどの腕力を有したベータタイプは、アトラクネの打ち出す鎖をいともたやすく引きちぎり、さらには破壊した鎖を引っ張ってアトラクネを引きずり寄せた。

 

「ガッ!?」

 

 アトラクネが頭部に重い殴打を食らう。

 これが実戦であれば彼女は死んでいた。

 一度ベータタイプを倒したアトラクネであっても、油断があれば即命を落とす。それがベータタイプという壁であった。

 だが、プロシオンはベータタイプに対する考察を深めており、隙が多い特性を見抜いていた。

 

《DaringDagger》

 

 ベータタイプの背後に回った状態でダリングエッジにデアリングダガーを装填、ダリングブレードがホルダーに装着される。

 さらに自身が変身するナスティネストの能力で網を射出しベータタイプの気を()らした上で二本のナイフを突き刺した。

 が、ベータタイプは未だ倒れず、プロシオンの顔面へと拳を向ける。

 

「まだ倒させないわよォッ!!」

 

《BlazeBullet End》

 

 俊鼠の放つ銃撃と、ルキフスのドローンによる射撃が同時にベータタイプを撃ち抜く。

 過剰とも言える弾幕でベータタイプを粉微塵にし、撃退に成功する。

 

「…今度は私が、助けられました」

「お助け料100万円ね」

「高っ…!」

 

 冗談よ、と肩を叩く俊鼠にプロシオンは胸をなで下ろす。

 

「今回再現した2体のベータタイプ討伐を確認した。ひとまず訓練を終了する」

 

 光貴が告げると、ようやくVR空間から全員が解放される。

 

──────────────────

 

「───逆上させれば八雲はムキになってベータタイプに殴殺(おうさつ)される…プランの参考にしよう」

 

 疲れが抜けぬまま陽廉がパソコンの作業へと戻り、入力をし続ける。

 彼女が収集したデータの中にはハッキングで回収したベータタイプの行動を記した映像があった。

 

「うん、やっぱりベータタイプの動きは遅く、隙が生じやすい…そこを狙えば……」

 

 陽廉は血眼になりながらも執念のままにパソコンを操作し続けた。

 

──────────────────

 

「やっぱり強いわねぇ、真希にゃんは」

「そうですよね☆ 強いですよね☆」

 

 真希の私室で、彼女といぶがベッドを共有しながらお互いの笑みを見つめ合う。

 

「あのベータなんちゃら、結局一人で倒しちゃったじゃなぁい」

「わたしこう見えても、剣道やってるんで☆」

「すごぉい!」

 

 いぶが真希に抱きつく。

 

「ね、お金もらってるんだから、もう少し私にできること…無いかしら?」

「じゃあもう少しお願い聞いてくれますか?☆」

 

 それを聞いたいぶが妖麗に笑う。

 

「もちろん……」

「ふふ、じゃあ明日も、あさっても、一緒にいてくださいね…☆」

 

 

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