どうにも仕事が忙しくて落ち着いた時間が取れないのですが、生存報告とリハビリを兼ねて投稿します。
最近こちらの作品にハマりまして、書きたいネタが浮かんだので書いてみました。現在、本編はとても不穏な空気が流れているのですが、早く従来の空気に戻ってくれないかなという願いも込めての投稿になります。タイトルでわかるかとは思いますが、全二話予定です。
現在中断中の作品につきましてもいずれ必ず再開しますので、それまでお待ちいただける方はお待ちいただければと思います。
尚、本編で判明していない設定はすべてこの二次創作内での架空の設定ですので、そちらはご了承ください。
久しぶりの投稿ですが楽しんでいただけることを祈りながら、では、どうぞ。
とある土曜日の昼下がり。一人の男子高校生の姿がとある住宅街にあった。
彼の名は五条新菜。雛人形の頭部を造る職人…頭師を目指して日々努力と研鑽を積み重ねる、今時の青年にしては珍しく確固たる将来の夢を持って毎日を過ごす高校生である。そして、
「ごじょーくーん」
少し前方から自分を呼ぶ声がし、新菜がその声のした方向に顔を向ける。そこにいるのはクラスメイトの喜多川海夢の姿だった。新菜はひょんなことから海夢がコスプレしていることを知り、その衣装やメイクを新菜が施すという関係になっていた。
(不思議なもんだな…)
振り返った海夢の姿に新菜が思わずそう思う。同じクラスのクラスメイトというだけで、接点などできそうにもなかった存在とこうして接点ができ、その接点から新菜は今までの自分だったら絶対に知るはずのない世界を知ることができていた。
そしてそれが、本業とする頭師の修行にも好影響を与えているのだから本当に不思議なものである。
「何ですか?」
海夢の顔を見て思わずそんなことを考えた新菜が尋ねた。と、
「ねえ、それ重くない? あたし本当に持たなくてもいいの?」
海夢がそう言いながら新菜が手に持つものを指した。新菜は両手に食材の入った買い物袋を下げている。
「大丈夫ですよ」
そんな海夢に新菜が微笑みながらそう返した。
「重量を分散する用にリュックも背負ってその中にも入れてますから。そこまで重くはありません」
「そぉ?」
「はい」
覗き込んできた海夢に新菜が頷く。今新菜が言ったように新菜は両手に買い物袋を持っているが、背中にもリュックを背負っていた。そこにも食材を…それもなるべく重量物をその中に詰めていたため、両手の買い物袋はかさばるもののそこまで重くはないのだ。その代わり、背中は重かったりするのだが。
「オッケ。でも、しんどくなったら言ってね。あたしも一つぐらいなら持つからさ」
「ありがとうございます」
「いいって」
二人の間に和やかな空気が流れる。これもまた、これまでの日々の積み重ねの賜物だろう。
「それはそうと、小林さんのお宅はまだでしょうか」
新菜が海夢にそう尋ねる。二人は今クラスメイトの小林成蘭の家に向かっているところだった。
もちろん、新菜が彼女の家を知ってるわけはないので、道案内兼万一の時の荷物持ちとして海夢が同行しているのである。海夢としてはプラスして、新菜とのお買い物デートも楽しめるという特典も加わっているのだが。
「あー、もうすぐだから、ダイジョウブイ!」
「そうですか。わかりました」
元気印の返事を返す海夢に新菜も微笑んで返した。真正面から目にしたその柔らかい微笑みに、海夢の鼓動が一段階上がったりしたのだが、それはまた別の話。
「ま、とは言えあんまり本日の主役を待たしちゃいけないからね。ちょっとペース上げよっか」
「そうですね。わかりました」
「おっし! それじゃあついてきて。こっちだから」
「ハイ!」
新菜の元気な返事を聞いてテンションがまた上がった海夢がニコニコしながら新菜を先導する。そしてほどなく、二人は成蘭の家に到着した。
「ここだよ」
「ここなんですね。それにしても…」
新菜は海夢に案内されて到着した成蘭の家の外観に目を向けた。
「結構大きなお宅ですね。それに新しいし、ビックリしました」
「成蘭んところ、お父さんもお母さんも結構な高給取りらしくってさ。ま、その代わりに中々休みが取れないみたいで」
「そう言えば、この前もそういうこと言ってましたね」
「そ」
そこで会話を区切ると、勝手知ったるという具合に海夢がインターホンを押した。数秒後、
『はーい』
学校でもよく聞く成蘭の声がインターホンから聞こえてくる。
「成蘭? あたしあたし! ごじょー君と一緒に来たよ!」
『海夢おつー。待ってたよ。今行くね』
「オッケ」
そこでインターホンが切れる。そしてまた数秒後、玄関のドアが開いて成蘭が顔を出した。
「こんにちは」
「おつー!」
「いらっしゃーい!」
家の中から顔を出した成蘭に新菜と海夢が声をかけ、成蘭が答える。そして、
「おー、やっと来た」
「ヤッホ」
「待ってたよ~」
「そーそー」
続いてその後ろから四人ほど顔を覗かせた。そこにいたのは乃羽、大空、瑠音、加恋といった、クラスメイトであり海夢の親しい友達たちである。
「すみません」
「いやー、ゴメンゴメン♪」
彼女たちに新菜は軽く頭を下げ、海夢は言葉こそ謝っているものの全く悪びれもしない態度で軽く手を上げた。
「ごじょー君の買い物に付き合ってたら意外と時間かかっちゃってさ」
「すみません。もう少し早く切り上げたかったんですが、つい…」
「いや、謝んなくてもいいからー」
申し訳なさそうにまた謝罪する新菜に成蘭がそう言って押しとどめる。
「頼んだのはこっちだからねー。これぐらいどってことないってー」
「そうですか? ありがとうございます」
成蘭の言葉に新菜がまた頭を下げた。
「ところで~」
会話が一区切り着いたところで今度は瑠音が口を開く。
「それって~、五条くんの普段着~?」
「はい、そうです」
瑠音の問いかけに新菜が頷いた。新菜が着ているものは普段通りの作務衣である。
「へー、珍しい」
「それな。タメでこんなの着てる人初めて見た」
乃羽、大空が新菜の私服姿の作務衣に正直な感想を述べる。
「うち、商売柄こういうのが自然だったので。私服はほぼこういうのなんです」
「そうなんだ。普段よく目にするようなもんじゃないから見慣れないけど、らしいし悪くないと思うよ」
「そうですか。ありがとうございます」
感想を述べた加恋に新菜が何度目になるかわからない頭を下げた。隣で友人たちと新菜のそのやり取りを聞いている海夢はニッコニコである。と、
「ま、立ち話もなんだからー、入って入ってー」
家主である成蘭がそう促した。
「そだね」
「二人とも、おつー」
「楽しみ~」
「今日はシクヨロ」
「オッケ、お邪魔しま~す」
「し、失礼します」
他四人にも促され、海夢と新菜も成蘭の家の中に入った。
(うう、緊張する…)
中に足を踏み入れて成蘭がドアを閉める音を聞いた新菜が今更ながらそう思う。元から友人であり、恐らくは何度かお邪魔している海夢たちとは違い、新菜は初めてのお宅訪問だ。それも海夢の友達とはいえ、今までろくに接点もなかった同い年の女子の家である。新菜の性格から、緊張するなという方が無理であった。
「ところで、何してたん?」
緊張している新菜の隣で海夢が友人たちに訪ねた。
「まあ、いつも通り?」
「適当にダベって、ゲームして、お菓子くって、まったりして…」
「みたいな~?」
「うわ、進歩ねー」
「うっさいよ」
カラカラ笑う海夢たちが次々に玄関から上がる。新菜も変に意識せずにそれに続けばよかったのだが、持ち前の生真面目さから上がっちゃっていいのかなどと思わず躊躇してしまい、それが足を踏みとどまらせていた。が、
「どーしたの?」
家主である成蘭がそう声をかける。そこで初めて海夢たちは、新菜が自分たちについてきていないことに気づいて振り返った。
「ごじょー君?」
「い、いえ、あの…緊張して…」
きょとんと首を傾げる海夢に新菜がそう答えた。
「なんでさー」
その答えを聞いた成蘭が苦笑する。
「別にウチはお化け屋敷じゃないしー、取って食いもしないってー」
「いえ、それはわかってるんですけど…」
成蘭のツッコミにしどろもどろになっている新菜を海夢たちは微笑しく見ていた。が、いつまでもここにいても埒は明かない。
「ホレホレ、いいからとっとと上がりやんせ!」
「そーゆーこと!」
乃羽と大空がそれぞれ新菜の片腕ずつ掴んで引っ張る。
「うわっ…と」
予期せぬ行動に思わず転びそうになった新菜だが転ばぬようにしようと思わず足を一歩踏み出し、玄関の上に上がることになった。
「あ」
「は~い、いらっしゃ~い」
「はは、災難だね、五条君も」
「あ…えっと…」
瑠音と加恋に迎えられ、新菜はどう返事したものかとばかりに思わず海夢を見た。と、海夢はニマーっという擬音が出そうな表情で笑みを浮かべる。
「何だよごじょー君、男一人に女六人だからってエロいことでも考えてたのかよ?」
「へあっ!?」
そんなツッコミが入ると予想してなかった新菜は思わず変な声を上げてしまう。と、その反応に他の五人もニマーっと悪そうな笑みを浮かべた。
「ほうほう、そうなのかい?」
「へっ?」
「五条君も~、やっぱり健康な男子なんだね~」
「えっ?」
「まあ、あたしらが魅力的なのはわかるけど、今日はそういうのはなしで」
「あ、あの…」
「意外とムッツリスケベ?」
「……」
女性陣の容赦ないツッコミについに真っ赤になって俯いてしまう新菜。そこに、
「ま、ごじょー君で遊ぶのはこの辺にしよっか」
海夢がそう言って幕を引いた。その言葉にあからさまにホッとする新菜だったが、この状況を引き起こした実の本人が言ってもわざとらしいことに気づかないのは、まだまだ未熟である証拠である。
「それな」
「だね~」
「ま、しょーがないか」
「何しろ、本日のもう一人の主役だからね」
「そーゆーこと」
そして女性陣が成蘭に顔を向ける。
「オッケー」
意図を察した成蘭が新菜を見上げると、
「んじゃ五条君、ついてきてー」
と、先導して歩き始めた。
「は、ハイッ!」
慌てて成蘭の後をついていく新菜。その後ろを、海夢たち五人がついていく。そしてほどなく通されたのは、成蘭の家のキッチンだった。
「うわー…」
キッチンに通された新菜の第一声がそれだった。
「どうかした?」
新菜の、キョロキョロと周囲に忙しなく顔を向ける様が気になったのか、成蘭が尋ねた。
「あ、いえ…うちとは全然違うなって…」
「そうなの?」
「はい。うちは商売が商売だから和風建築なんで。今は台所もこんなおしゃれなんですね」
「キッチンにおしゃれがあるかどうかわからないけどね」
「そうか。そうですよね」
パンパンと肩をたたきながらそう笑う成蘭に新菜も恥ずかしそうに照れる。
「さて…」
さすがにもう家に入ってしまったということで腹を決めたのだろうか、新菜は両手に持っていた買い物袋を側のテーブルの上に置いた。そして、背負っていたリュックも同様にそのテーブルの上に置くと、作務衣の上着を脱いだ。
「ここ、置いていいですか?」
軽くたたんだ作務衣の置く場所にしようと、新菜はテーブルに備え付けの椅子の一つを指さした。
「いーよーん」
成蘭の許可が出たのでそこに作務衣を置き、新菜はリュックを開けるとエプロンを取り出した。それを慣れた手つきでキュッと締める。
「よし」
そのまま、今度は買い物袋とリュックから持参してきた食材をチェックし始めた。
「それでは始めますね」
女性陣に振り返ると新菜はそう宣言した。
「ごじょー君、何か手伝う?」
腕を撫す新菜に海夢がそう尋ねた。が、
「いえ、大丈夫です。皆さんは寛いでいてください」
「え。でもさ…」
「本当に大丈夫ですから」
「…そぉ?」
「ハイ!」
「わかった」
元気よく答えるその姿に、別にこちらを気遣っていたり無理しているわけでもないことがわかった海夢がこくんと頷いた。
「だってさ」
「そっかー」
「ホントにいいの~?」
「ハイ」
「わかったよ。それじゃあたしら向こうに言ってるけど」
「何かあったら呼んでね」
「見当たらない調理器具とか、使いたい調味料とかあったら好きに戸棚とか開けていいからねー。それでもわかんなかったら聞きに来てー」
「わかりました」
新菜の最後の言葉に女性陣は揃ってリビングへとゾロゾロと移動した。その後ろ姿を見送りながら、
「よし、やるか」
パンと両手で顔を叩くと、気合を入れるためだろうか新菜はいつもの姿といえるタオルを頭に巻いたのだった。そして、調理を開始する。
何とも不思議な光景の発端は少し前にさかのぼる。
『ありがとうございます! 助かりました!』
新菜が顔を輝かせながら、その言葉通り心底ホッとしたように成蘭に礼を言った。文化祭でのミスコンで使用する小道具のレインボーローズを作ろうとした新菜と海夢だが、思うようにいかずに難航していた。そんな彼らを助けたのがクラスメイトの成蘭だった。
特に新菜は、ダメなら花びら一枚ずつに着色しようと考えてもいただけに喜びも一入である。
『そんな畏まんなくてもー。知ってること教えただけだしー』
対して成蘭はあははと笑いながら答える。その後に前述の花びら一枚ずつの着色からのレインボーローズを作成しようとしていたことを新菜から聞いた海夢たち三人が驚きの声を上げていたのだった。
とにもかくにもこうして自分の予定していた作業を大幅に省いてくれたことで、新菜は成蘭に対して感謝しきりである。
『でも、そっかー』
と、成蘭が顎に指をあてて何か考え始めた。
『成蘭?』
『どうかしたん?』
海夢と加恋が何かを考え出した成蘭を覗き込む。と、成蘭は二人から顔を背けて新菜に顔を向けた。
『五条君』
『はい、何ですか?』
突然声をかけてきた成蘭に新菜が答えた。
『レインボーローズのこと、そんなに助かったー?』
『勿論です!』
『そっかー。それじゃあさ、代わりにって言うのも図々しいんだけどー、一つお願い聞いてくれない?』
『お願い…ですか?』
予想だにしなかった成蘭の言葉に新菜が首を捻る。
『そー』
『何でしょう? 内容にもよりますが、俺ができることなら』
『うん。できるよー。てゆーか、五条君にしかできないからさー』
『???』
自分にしかできないといわれたものの、そんなことは到底思い浮かばない新菜が脳内で首を捻る。海夢も加恋も成蘭の意図することがわからないのだろう。二人とも頭上に?を浮かべていた
『実はあたしさー、もうすぐ誕生日なんだよねー』
『ああ、そういえばそうだった』
成蘭の言葉に加恋も追随する。
『そうなんですか?』
『うん』
『へー、そーなんだ。おめでと、成蘭』
『おめでとうございます』
『サンキュー』
新菜と海夢の祝福に成蘭が嬉しそうながらもこそばゆい感じで答えた。
『でさ、ここからが本題なんだけどー』
『ハイ』
『今年のあたしの誕生日、丁度土曜日なんだよねー。だからさー、五条君あたしにお祝いの料理作ってくれない?』
『へっ!?』
予想もしなかった成蘭の言葉に、新菜が目をパチクリとさせた。そんな新菜に成蘭が言葉を続ける。
『海夢から聞いたことあるんだけどさー、五条君、料理がメチャ上手いらしいじゃーん?』
『あー、そう言えば何かの時にそう言ってたね。あたしも覚えてるわ』
加恋が同意した。
『海夢の食いっぷりはあたしらもよ~く知ってるからさー。そんな海夢が絶賛する五条君の料理ってやつ、一度食べてみたくってねー。もちろん、材料費はこっちで出すよー。どぉ?』
『え…と…』
突然の、しかも思いもよらない提案に新菜は言葉に詰まってしまう。今回、文化祭という機会があって今まで碌に交流のなかったクラスメイト達と思いもよらない縁ができた。
それ自体は非常にありがたいし嬉しいのだが、それでも今まで碌に交流のなかったクラスメイトの女子の家に行くというのは新菜の性格を考えればどうしたって気が引ける。助けを求めるように海夢に視線を向けると、
『あたしも行っていい?』
と、海夢が成蘭に聞いていた。
『いーよーん。てゆーか、来てくれないか誘うつもりだったし』
『そうなん?』
『ん』
海夢の質問に成蘭が頷いて答えた。
『ウチのパパとママ、仕事が忙しくってさ。土曜日なんだけど残念ながら二人とも仕事入ってるんだー。その代わり、翌日の日曜はお祝いしてくれるんだけど、当日は暇ってわけ』
『成る程。それじゃあ可愛そうな成蘭ちゃんのために、当日は派手に盛り上げてやりましょうか!』
『いーねー!』
うえーぃとハイタッチする女性陣三人。が、新菜はそれでもまだ少し困った顔をしていた。
『五条君、何か難しい顔してるけど先約でもあんの?』
一番最初にそれに気づいた加恋が尋ねる。
『いえ、そういうのはないです』
『じゃあ、何?』
『あの…』
加恋の追及に、新菜が申し訳なさそうに口を開く。
『喜多川さんから聞いたんですよね?』
『うん』
『え、言っちゃダメだった? ごじょー君』
『いえ、そんなことはないです』
バラしちゃまずかったのかと思わず表情のくもった海夢に、新菜が慌てて首を左右に振る。
『その…それなら、聞いてるかもしれないですけど、俺が作れる料理は普通の家庭料理ばっかりなんで、見栄えはしませんよ? とても誕生日みたいな特別な日に食べるようなものじゃ…』
『なんだ、そんなことー?』
成蘭が不思議そうに首を傾げた。
『そんなこと…ですか?』
これには新菜も同様に首を傾げる。年に一度の誕生日なのであれば、普段は中々縁のないようなご馳走を望んでもいいはずだ。それなのに、自分の手料理なんかでいいのかと思ったし、それをそんなことで返してきた成蘭にビックリしていた。
『うん』
だが成蘭は、そんな新菜の葛藤などどこ吹く風とばかりに頷く。
『そーゆーのは日曜日にやってもらうよー。とは言え、せっかくの当日がフリーっていうのも寂しいじゃん? だから華を添えてほしいんだけどなー』
(そうまで言われると…)
断るのは可哀相に思えてきた。元々今回のレインボーローズの件で断る気はあまりなかったが、自分の見栄えのしない普通の家庭料理を誕生日という特別な日に出すなんていいのだろうかと引け目を感じていたのが戸惑っていた原因である。
だが、本人である成蘭は気にしていないし、翌日にはご両親に祝ってもらうということで新菜も納得したのだろう。
『わかりました』
ついに頷いた。
『お気に召すかどうかはわかりませんけど、俺の料理でいいのでしたら作らせていただきます』
『ホント!?』
『はい』
『よっし! これで海夢のお墨付きの五条君の料理がどんなものかわかる!』
『お墨付きって…』
はしゃぎながら発したその言葉に苦笑しながら、新菜は海夢に振り返った。
『喜多川さん、どんなこと言ったんですか?』
『どんなこと…って、まんまだよ。ごじょー君の料理、どれもメチャ美味しいって!』
(それは、あれと比べれば…)
新菜の脳裏に浮かんだのは以前スマホで見せてもらった海夢お手製のあの炒飯だった。長い付き合い故に海夢の食の好みも食べる量も把握してはいるが、それでもあれに比べれば恐らくどんな料理も上出来になると思われる。
が、そんな新菜の葛藤など何処吹く風で、女性陣三人は早速会議を開いていた。
『乃羽たちも呼んでいい?』
『もちー』
『サンキュー!』
『その代わり、プレゼント期待してるよーん』
『うわ、この商売上手!』
『てかこの場合だと、材料費ワリカンになんの?』
『当然そーでしょー。何も食わないで帰るってんならいいけどさー。そんな気ないでしょー?』
『ない!』
『あたしもね。海夢が絶賛する五条君の料理、確かに興味あったんだ。いい機会だしね』
『ごじょー君の料理、マジで美味いから! 期待してていいよ!』
『き、喜多川さん!』
『あはは、なんで海夢がそんなこと言うのさー』
『ホントだよ。ただ単に世話になってるだけの身でしょ?』
『いーじゃん。どーゆー理由にしろ、ごじょー君と一番付き合いが長いのはあたしなんだからさー』
ねっ、と振り返る海夢に、新菜はそ、そうですね…と返すのが精一杯だった。そんな二人をニマニマと見ている成蘭と加恋。立ち位置の関係から海夢はその姿を見れないが、新菜はバッチリ目にしてしまい、真っ赤になって俯くしかなかった。
こうして、新菜はレインボーローズのお返しとして成蘭の誕生日に料理を作ることになり、今日こうしてこの場にいるというわけである。
「成り行きは思いもしないことだったけど、やると決めた以上はちゃんとやらないとな」
食材を取り出しながら新菜が呟いた。
(それに、喜多川さんの過大評価はあるにせよ、小林さんは誕生日っていう特別な日に俺の料理を望んでくれたんだ。できる範囲で期待に応えたい)
うん、と頷くと目の前の数々の材料に対峙する。リビングからは海夢をはじめとする女性陣の楽しそうなおしゃべりが聞こえ、それをBGMに新菜は調理を開始したのだった。