山羊の魔王 作:がらがらどん
ズンッ、と石造りの地面が踏み締められる。
ゾワリ、とその産毛は逆立ち背筋に冷たいものが駆け抜けた。
「――――選べ」
吐き出されるのは、掠れたガラガラ声。
「ここ、で俺を阻む、か。それとも……道を開ける、か」
言いながら、その足が一歩前へと踏み出してくる。
たったそれだけ、包囲は容易く崩れてしまった。
数多の銃口が向けられ、しかし一切合切を意に介していないのは、一人の男。
真っ白な髪に、琥珀色の瞳。能面を張り付けたかのような無表情に、最大の特徴はその頭部。
左右の側頭部から生える、一対の捻じれ巻いた黒い大きな角。
二メートルに迫る大柄な体格も相まって威圧感が凄い。
彼が足を進めるだけで、壁となろうとした者達は道を開け、出来上がった一本道。
その道が通じるのは、一人の女の前だった。
異形、と言う他ない見た目。白いドレスを纏い、その頭部は白い花の蕾のようで幾つもの目が備えられた白い羽の集合体。
その目は今、全てが憎悪を持って自分の前へとやって来る彼へと向けられているのだが。
「
「お前の支配は、今日で終わり、だ。ベアトリーチェ」
睨み合う両者。ベアトリーチェの握る扇子が折れ砕ける。
「終わり……?終わりですって……?貴様さえ、居なければ……!」
「何と、でも囀れば良い……今からお前は、終わる。それだけ、だ」
拳が握られる。黒いグローブを付けた両の拳は、宛ら二つの黒い石の様。
「私の、私の計画を全て邪魔して……あろう事か、楯突くとは……!」
「何とでも、言え。こっち、には二本の槍がある。二つの石も、ある。その、多い目は田楽刺し、だ。肉片になる、までバラバラにして、やる」
ズンッ、と地響きするほどの重く力強い踏み込み。
直後、ベアトリーチェの顔面へと角を利用した頭突きが突き刺さっていた。
@
柄見ガラ。アリウス所属の二年生。その特徴は、大柄な体格と頭部にある一対の黒く捻じれ巻いた大きな角。
剛腕剛力であり、銃火器やナイフといった武器を一切使わないゴリッゴリのステゴロファイター。
そんな男が今日、この日アリウス自治区の代表として表舞台へと姿を見せた。
彼が一歩足を進める度に、人垣が割れる。そして、彼女の後をついて行くのは五人の少女たち。
一行の向かう先には、荘厳な校舎がある。
その校舎の前。大きな階段の最上段で待つ一団。
三人の少女を中心として、黒いセーラー服の一団と修道服姿の一団。ナースキャップを被った一団。
何れも、険しい表情が見て取れる。だが、同時に困惑もそこにはあった。
ガラを先頭とした六人は、少女たちの十段したの踊り場の地点で足を止めた。
「ンンッ……アポイントへの、応答、感謝する」
口を開いたのは、ガラ。その口から発されるのはガラガラ声だ。
まるで不吉を押し固めたような音。自然と、対面する一団に緊張が走る。
しかし、そんな事知った事ではないガラは、言葉を続ける。
「俺は、アリウス分校所属、柄見ガラ。訳あって、総統を務めてい、る」
「っ、コレはご丁寧に。私は、トリニティ総合学園のティーパーティー所属。ホストを務める百合園セイアだ。早速で申し訳ないが、用件を聞こう。手紙では、単刀直入の話しか載っていなかったからね」
「ああ。
ガラの言葉に、トリニティ側が騒めく。
トリニティ総合学園は、三つの自治区が統合された結果生まれた歴史背景を持つ。
その際に排斥されたのが、アリウス自治区。この排斥の裏側には、様々な政治的背景もあるのだが、今は良いだろう。
トリニティに所属する生徒でも、その存在を把握していた者は多くない。それこそ、上層部や宗教側面を担うシスターフッド位か。
そんな存在が急に現れて、独立を宣言する。
「ふーん?仲間外れにされてたから、入れてーって言いに来た訳じゃないんだぁ」
「ミカ」
「排斥したのは、そちらだ。過去を持ち出すのは、ナンセンス、だが。俺達は、独自路線を歩むべきと、判断した」
「あっは☆でも、学校として成立してないよね?それで、何を学ぶの?大人しく、他の学校に吸収された方が楽なんじゃない?というか、そのガラガラ声、聞き取りずらいね。独立宣言の前に病院に行ったらあ?」
「ミカッ!」
何故だか喧嘩腰に聖園ミカへとセイアが声を掛けて宥めに掛かる。
一方で、言われっぱなしのガラはというと、自身についてきた少女の一人。携帯式対空ミサイルを構えた少女の前に手を差しだして制止していた。
「ミサキ」
「退いて。話し合いなんてやっぱり無駄だった」
「ミサキ…………はぁ、サオリ。ミサキを抑えておけ」
「ああ」
ガラの言葉を受けて、黒いキャップに口元を金属製のマスクで覆った少女がミサイルを構える少女を抑えにかかる。
眉間を揉んで、彼は改めて階段上を見上げた。
「悪いな。元々は一人で来るつもりだったんだが、聞かなくて」
「いや、こちらもすまない………はぁ、出来れば、日を改めては貰えないだろうか」
「…………そうらしい。お互い、少し間を置くとしよう」
「すまない」
頭を下げるセイアに、ガラは左手を振った。
性急な行動だった。彼自身もそう思うが、しかしそれだけアリウスには時間が無いのだ。
物理的にベアトリーチェをぶっ飛ばしたガラだが、その裏側ではこれまた物理的な統一の流れもあった。
力で押さえつけた場合、その先に待っているのは破滅だ。特に、暴力装置兼トップとなったガラが卒業してアリウスから居なくなればまず間違いなく荒れる。
その為、彼は事を急いでいた。
具体的には、アリウス分校だけでの独立。これは、一つの学校としての地位と、それからその地位を維持するためのシステムの構築。
その他にも自給自足するための土地の開拓や、農作畜産などの為に必要な種や家畜の獲得。外貨を得るために何かしらの特色を持つ事も必要だろう。
様々な観点から、独立は早い方が良い。だが、今回は事を急ぎ過ぎたというもの。
「戻るぞ」
踵を返すガラ。
再び先陣を切って歩き出す彼だが、後の五人は違う。
「「「「「…………」」」」」
ジロリ、と音が鳴りそうな鋭い視線。
彼女たちにとって、柄見ガラは恩人だ。
その恩人を貶められて、いい気分なはずもない。寧ろ、戒野ミサキがキレて尚且つガラが制止しなかったならばその銃口を向ける事も躊躇いはしなかっただろう。
しかし、それはしない。一発の銃弾が戦争になりかねないから。そして、戦争となれば自分たちの恩人が真っ先に傷つく事になる。
去っていく背中を見送り、セイアは隣のミカをジロリと睨み上げた。
「随分と、厄介な事をしてくれるな」
「そう?」
「ああ、そうだとも。あちらが理知的であったから何も起きなかったが、君のやったのは燃える火種にガソリンを撒いたようなものだ」
「えー?だって、あのガラガラ声君、牽制しとかないとヤバかったでしょ?」
セイアの言葉を軽くいなしながらも、ミカの視線は真っすぐに遠い背中へと向けられていた。
「分かるよ?セイアちゃんが事を構えたくなかったのもさ。でも、ビビッてないって意思表示も必要じゃん?」
ティーパーティー唯一の武闘派であるミカ。おつむが少々残念な彼女だが、戦えるからこそ分かる事もある。
(あっちの五人は、何とかなりそうなんだよねぇ。しんどそうだけど。でも――――)
彼女の脳裏を過る、角のある白髪頭の巨漢。
明確な武装が見受けられない、丸腰の様だった彼だがそれでありながら戦った場合の勝てるビジョンがミカには見えなかった。
無論、この場には複数の実力者が居る。
相手は六人だ。伏兵が居たとしても彼らは敵陣ど真ん中に居たのだ、周りを囲んで実力者で袋叩きにすれば十分に制圧出来た筈。
だが、
「あのガラガラ君だけは、無理じゃんね、私と正実の二人とミネ団長が全員がかりでもぶっ飛ばされちゃう」
ミカはそう評する。
こうして、火種は灯された。
騒乱の一年が始まる、凡そ半年ほどまでの出来事である。
柄見 ガラ
身長198センチ
体重97キロ
フワフワとした白髪に、捻じれ巻いた黒い角が頭部に生える。
独特なガラガラの声をしており、話す時には時折言葉が不自然に詰まる事がある
恵まれた体格と鋼板すらもぶち抜く剛力と滑空砲でも傷つかない堅牢な肉体こそが武器。一歩で武器の扱いはからっきし
不愛想なへの字口だが、不器用なだけで本質は世話焼き
ベアトリーチェの支配に対して、水面下で抵抗しつつ機を狙って一人で反乱を起こしてアリウスから追い出してしまい、結果トップの席へと座る事に