銀騎士と……   作:ダルジャン

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前作で書いてない彼の特徴を指摘されて思い出しました。
大体、そのためだけの回です。下ネタにご注意ください。





銀騎士と白玉と糸 その2

 

 

永琳の処方した薬を飲んだ徐倫は、布団の中で少々汗をかきつつ眠っている。

その隣の布団では、気絶したままのペルラが、未だに目を覚まさない。

「肉体も精神もとにかく疲労しているわ、今はそっとしておくのが一番よ」

二人が眠る部屋の襖を静かに閉めるポルナレフに、永琳はそう告げる。

「それにしても、あのウィルスに感染した患者を、

 実際に見ることが出来るなんて思わなかったわ」

「ウィルス?」

永琳の言葉に、アヴドゥルが首を傾げた。

「ええ。私達は、『☆△×○□』って読んでるんだけど……、

 地球の人には、ちょっと難しい発音ね」

「はは、まるで宇宙から来たようなことをおっしゃる」

「うふふ、地球の人間だなんて名乗った覚えはないけどね」

永琳は、ニコニコしながら茶を啜った。

アヴドゥルも、それを冗談だと認識して笑っている。

「とにかく、彼女が感染したウィルスは、ある種の生命体に、

 特殊な力を与えるものなの。例えば……貴方の『炎』のような、ね」

「それはつまり、スタンド能力を?」

命を救われた直後に、アヴドゥルはスタンドについて彼女と助手の鈴仙には説明していた。

彼女達も並みの人間でないことは判っていたし、どうしてあんな場所に

倒れていたのかについての説明にも、必要だったから。

「ええ。……まあ、そっちの彼は知ってたみたいだけど」

胡坐をかいたまま、ジッと畳を見つめているポルナレフに、視線をやる。

「何、そうなのか、ポルナレフ?」

アヴドゥルが問う。ポルナレフは、答えない。

「おい、ポルナレフ、返事くらいしないか」

「え、あ、ああ、すまん……、それで、ジョリーンは大丈夫なんだな?」

「今のところは、薬でウィルスの進行を抑えてるわ。彼女の精神が勝てば、大丈夫でしょうね」

「そうか……、やっぱあんたでも、無理か」

ポルナレフは、またぼんやりと畳を見ていた。

いや、正確に言えば、何も見てはいないのだろう。

「……ポルナレフ、彼女は、一体誰なんだ?」

「そっか、あんたは知らないんだっけ」

ふ、と一つきりの目に寂しさを浮かべて、ポルナレフはアヴドゥルを見た。

「ペルラ、っていう子の方は、多分普通に神隠しにあった子だと思う。

 ただ、ジョリーンは……、承太郎の娘だよ、多分」

「何……? しかし、彼はまだ高校生じゃあないか」

アヴドゥルの問いかけに、ポルナレフは一瞬目を丸くし、

それから、一人納得したように頷いた。

「そうか、紫が言ってた、時間がズレたってのは、そういうことか……」

「時間が、ズレた?」

「ああ。俺の居た時間は、あの戦いから十年以上経った後だ」

「そ、そんな馬鹿な。私がこちらに来てから、まだ数日しか経っていないぞ」

「……この場所が特殊な場所だ、ってのは聞いてるだろ?

 ここの管理人の一人が、ちょっと能力の操作ミスをしたんだと」

予想外の展開に、アヴドゥルは驚いたが、同時に納得がいった。

それで、目の前の彼は自分が知る彼よりも老けているのか、と。

「積もる話があるみたいだけど、患者が寝てる隣でのお喋りは、

 ちょっとご遠慮願いたいわね」

「そう、だな。それじゃあ、私が今使わせてもらってる部屋にでも行こう」

 

 

部屋へ移動した二人は、向かい合う。

「十数年後から来た、というのが本当なら聞かせてもらえないか。

 私が、居なくなってから、何があったのか」

「……その前に、ちょっと、手、出してくれよ」

「?」

首を傾げながらも、アヴドゥルは手を差し出す。

ポルナレフがその手をとる。

「脈も、体温も、あるな」

「生きてるんだ、当然だろう」

「ああ、そうだよな……、あんた、生きてんだな……」

くしゃり、とポルナレフの顔が歪む。

その手を握ったまま、ほろほろと涙を溢し始めた。

「馬鹿野郎……、これで、二度目、じゃねえか……。

 二度も……、死んだと思わせて、泣かせる、なんざ、悪趣味だぞ……」

「……すまない」

宥めるようにその肩を叩こうとして、アヴドゥルは思い出す。

先程の彼の言葉を。

「お前は、もう、死んでいる、のか?」

「ああ。今の俺は、亡霊、って奴らしい。けどまぁ、転生待ちで、

 今は白玉楼っつー、冥界の屋敷に世話になってる」

握っていた手を離し、ポルナレフは、笑みを見せた。

その笑みに、かつてよりも深い悲しみを感じて、アヴドゥルは眉をひそめる。

「あっ、と悪い。話が逸れちまったな。あんたが、居なくなってから、だが……」

ポルナレフは、今までのことを話し始める。

アヴドゥルを攻撃したのは、ヴァニラ・アイスという吸血鬼であったこと。

そいつを倒したものの、イギーは彼をかばって死んだこと。

花京院も、DIOの手によって殺されてしまったこと。

それでも、辛くも承太郎によってDIOは倒されたこと。

故郷に帰ってから、『弓』と『矢』を追い始めたこと。

調査の途中である組織と敵対したために、何年も孤独だったこと。

ある邪悪と戦い、その結果命を落としたこと。

それでも、とある少年達に希望を見出し、託してきたこと。

「そうか……、大変だったな」

一度に聞いて少々疲れ、アヴドゥルは、ふう、と息を吐いた。

「悪ぃな、ホント。折角、あんたに生かしてもらったのに、

 あんまり、長く生きらんなくてよ」

「おいおい、そんなことで謝るんじゃあない。お前は、よくやったさ」

「いいや、駄目だよ。結局、死んじまったことを、承太郎には伝えられてねえし、

 俺一人で突っ走って、その結果出さなくていい被害も出しちまった」

納得がいかないらしく、ポルナレフは首を横に振った。

アヴドゥルは、そんな彼に少々苛立ちを覚えた。

何も、一人で全部背負いこんでしまうことなど、ないのに。

 

 

「……悪い、ちょっと手を洗いに行きたいんだが、どっちだ」

「ん? ああ、そこを出て左に行った突き当たりだ」

「分かった」

障子を開いて出ていった彼の気配が遠ざかってから、アヴドゥルはため息を溢した。

彼の感覚では、ほんの数日前でしかない、あの戦いの中。

ポルナレフの笑顔は、まだもう少し明るいものであったはずだ。

それが、今日見た限りでは、どうしてもその笑顔から悲しみの陰が消えていない。

確かに同じ人物のはずなのに、198X年のポルナレフと、

200X年のポルナレフの間の差異が、埋まらない。

時間の流れも、彼が背負った運命も残酷だ、と悲しくなった。

「のわぁっ?!」

そんな彼の耳に、突如として彼の間抜けな声が響いてくる。

「?」

さて何事か、と立ち上がり、トイレの扉の前まで歩みを進める。

「どうした、ポルナレフ」

「……アヴドゥル……」

どうしようもなく情けない声で、ポルナレフが呟く。

「雑巾……あるか? 足、滑って……」

言葉の意味を理解するのに必要だったのは、ほんの数秒。

 

――そういえば、ここは汲み取り式のトイレだった――

 

理解した途端に、思わず口から笑いがこぼれた。

「ふっ、くっ、ははっ、ははははは! なんだ、相変わらずか!」

「わ、笑うこたぁねえだろぉ」

扉の向こうで、ポルナレフの泣きそうな声がする。

「は、ははは、いや、すまんすまん! ちょっと探してくる」

「頼むぜ、ホント」

「ふ、くくく、それにしたって、お前」

笑いが止まらない。差異が埋まらない、など考えた自分が馬鹿馬鹿しい。

何年経とうが、彼は、彼の良く知るジャン=ピエール・ポルナレフなのだ。

「相変わらず、『トイレで災難に遭う』なぁ、ポルナレフ!」

「笑うな、ってんだよ、アヴドゥル!」

ぺしり、と扉越しに具現したシルバーチャリオッツが、彼の頭を叩いた。

 

 

 

 

 






……うん、この話を書かないといけないなって今更気付いたんだ。
汚い話でサーセン。でもまぁ、いいよね、ポルナレフだし。
なんか永遠亭なら水洗トイレどころかウォッシュレットまで完備してそうだけど、
まぁ、見た目古い日本家屋だし、ボットン便所でも、いいじゃない。
……彼女らにトイレが必要か? とか深く考えたら負け。

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