昭和にウマれたウマ娘!   作:調味のみりん

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Ep.5 あなたのフォームに滲むもの

 

 

 

 ハナノアカリには何も無い。

 過去を漂白されたウマ娘だ、、、

 

 ◆

 

 

 

 難しいことをすべてとっぱらって、自分の望みをみつめてみる。

 

 

 

 するの残るのは、なんだろうか。建前とか、世間体とか、ゴタゴタの飾り付けをとった玉ねぎのような願いは。

 

 

 要は、やりたいことはなんだって話だ。

 

 

 ハナノアカリにはそれがてんで分からない。

 自分のしたいことが、そもそも()()()記憶がないのだから、空っぽだ。

 

 今まで歩いてきた道が振り返っても見えないのだから、自分が今どこに居るのかも、どこに進むのかもわからない。

 

 だが、そんな心をコーティングするだけの朧げな信念はあったから、それを心からの走る理由と思い込んでいた。しかし最初の敗戦で露呈した。自分についたちいさな嘘がバレた。

 

 自分の走りで誰かに夢を──

 

 という欺瞞。

 

 

 

ハナノアカリには何もない。

 

 

 

 

 つまり走る理由もニセモノ。

 自分の走りで誰かに夢を──という望みも上部だけのもの。

 

 

 

 じゃあ、なんでこんなに泣いてるんだろう。

 涙が出てくるんだろう。

 

 

 そこまでぐるぐる考えて、考えて、よくわからなくなって。

 

 

「うん、取り敢えず走ろう!」

 

 

 そう結論づけた。

 彼女は考えることが苦手なウマ娘だった。

 

 だけど、この行為がある種の逃げである事は分かっていた。

 

 

 分かっていたのだ。

 

 

 

 ◆

 

 

 日が登る前に起き出して、レース場へ走る。

 そして常夜灯の付いた入り口を潜り、芝のコースへと出る。

 

 一歩二歩。

 

 支給されたくすんだ色のシューズを使ってフォームを確認する。

 まだ街に夜の色が薄く残っていた。そんな朝早くからレース場を使っているものは、見渡す限り誰もいなかった。

 

 

 

 

 初のレースの翌日。

 ハナノアカリは1人、レース場まで足を運んでいた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 わざわざこんな早朝から来なくても、昼過ぎから練習をすれば良かったかもしれない。

 

 ハナノアカリは額に浮かんだ雫を拭いながら思った。

 

 でも、1人でで走りたかったのだ。言葉にはしずらいが、そんな気持ちだった。この気持ちの名前は知らない。

 

 さぁ、もう一本とハナノアカリは澄んだ青い空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

 

 

「「よし」」

 

 

 そして声が重なる。

 横を見てみると、鹿毛の髪を編み込みにしたウマ娘。

 

 

「ギャーっ!? オジョーサマ!?」

 

 再びの邂逅にハナノアカリは思わず叫んだ。

 

 

「うるさいのだけれど」

 

 少女は顔を顰めた。

 まだ人々が眠る朝のことだった。

 

 

 ◆

 

 

 “お嬢様”──メジロハルカは淡々とストレッチを始める。ギュッ、ギュッ、と靴の伸びる音が無人のコースに響いた。

 

 そしてタッ、と走り出す。

 朝露に濡れた芝は、シャクシャクと小気味良い高い音を返してくる。

 

 軽く一本流したあと、開始地点まで戻ってくる。菖蒲色のウマ娘は未だ柔軟体操を続けていた。

 

『は、早いね! こんな朝から!』

 

 菖蒲色の少女──ハナノアカリは言葉の端から、他のウマ娘がいたことに対する驚きと疑念を滲ませながら声をかけた。声をかけられたメジロのご令嬢は鼻息一つで無視を決め込んだ。

 

「熱心だナァ〜、ワタシびっくりしちゃったよ」

 

 それにもめげずに淡紅色の瞳をしたウマ娘は問いかけを続ける。

 しかし無反応。

 薄々分かってはいたが、あんまりな対応に段々と声が上擦っていった。

 

 

「あ、あんなに速かったのに、もっと速くなるんだね」

 

 

 そして続く言葉にお嬢様はピクリと耳を反応させた。

 速くなる。はやくなる。

 

 

 

 ──そうだ。速くならなければならない、と。

 

 結果を求めるために。

 

 そこに至る過程なぞ、意味がないのだ。

 結果が出て、はじめてそれまでの道程が肯定される。

 自分の歩んだ道が、周りの人が信じたやり方が合っていたと示せる。

 

 だから、勝つ。

 それ以外に価値はない。

 

 鹿毛のお嬢様はいつもの意識を研ぎ澄まして、誰もいないコースを進んでいった。

 

 ハナノアカリは“とほほ”と呟いた。

 

 

 ◆

 

 ハナノアカリも気を取り直し、何本かコースを流したあと、頬を伝う汗を拭った。春の半ばでも朝は冷えていたが、それ以上に体温が上がっていた。そうしてもう1人の方のウマ娘を見つめる。

 

 彼女は前回のレースの勝者で、名家のお嬢様だ。

 それがこんな朝早くから人知れず練習をしている。

 

 たった1人で。

 

 

 いまは丁度コーナーを曲がる所だ。そしてインコースを突いて入り口に近いこちらに帰ってくる。

 そのフォームを見て、菖蒲髪のは嘆息した。

 

 指先まで意識が行き届いている。指の伸ばす角度まで。足の踏み込み方、角度、コーナーに差し掛かった時の遠心力を最小限にするために腰への体重移動。あれは天性のものでは無いだろう。

 

 

「ね、ね、ハルカさん」

 

 

 帰ってきた彼女は息を整えて、足踏みをしている。

 急に止まらない所も、また身体への意識だろうなと思った。

 

「…………」

 

 声をかけられた“お嬢様”は無言で、顔すら上げない。足元の緑色の芝を望洋とした目で見ている。

 だから、ハナノアカリも変に意気込んだりせず、ごく自然体に呟いた。

 

「あなたの走りって、すごく綺麗だよね」

 

 その瞬間彼女が、ばっ、と顔を上げる。

 琥珀色の瞳は大きく見開かれていた。

 

 予想外に大きな反応にハナノアカリも目を白黒とさせた。

 

 

 

 

 

 

「そう……」

 

 無言の数瞬が過ぎて、鹿毛のウマ娘は顔を伏せた。

 そきてぎゅっと唇を噛んで、眼を左上へと向けて、ボソリと聞き取れるギリギリの音量で呟く。

 

「貴方の走りは……」

 

 もちろんウマ娘の聴力を兼ね備えたハナノアカリの耳はしっかりとその声をキャッチし、初めて向こうからかけられた言葉に意識を集中させた。

 

 これは、褒め合いのパターンかな、と期待にちょっとだけにやけて。

 

 

「向こう見ずね」

 

 ガクッと格好を崩した。

 

「命が惜しくは無いのかしら」

 

「惜しいよ! そんな無鉄砲に見える!?」

 

 思ってた言葉と違う趣旨の言葉にハナノアカリは若干涙目になりながら反論した。

 

 

「ええ」

 

 

 だが、“お嬢様”は意に介さず、静かに頷いた。

 曲線の滑らかな顎に汗が一滴、筋を描いた。

 

 

「貴方、命を落としてもおかしくはないのよ」

 

 チチチ、と鳥の鳴く声がする。

 朝早い人はもう起き出してくる頃だ。そんな時間の中でも2人だけのコースはどこか浮世離れした静寂に満ちていた。

 

「何で、そんなにも危ない走りをするのかしら」

 

「……」

 

 それだけ言い切るとメジロハルカはベンチに置いてあったタオルで汗を拭き取って、顔を出し始めた太陽に眼を細めた。

 オレンジの光が芝を燃えるような色に染め上げた。

 

「ワタシの走る理由はね」

 

 ポツリと切り出す。

 返事が返ってこないと分かっていて、独白のようにハナノアカリは口を開く。

 走った後だけども、なんだた静かな心持ちだった。

 

「ワタシの走りで、誰かに夢を見て欲しい……と、思っていたんだけどね」

 

 そこで瞼を閉じて、初戦を思い出す。

 負けたレースの後を思い出す。あの時の喚いた言葉を思い出す。

 口の中に広がった苦い味を思い出す。

 

「いまは、よく分かんないや。自分の意思も、取り敢えず世間体を納得させるためのハリボテなんじゃないかって」

 

 へへ、とハナノアカリは笑った。力の抜けた、空洞の笑いだった。

 それに気がついて、また少女は頬を掻いた。

 

 

 

「で、貴方はどうするの?」

 

「えっ?」

 

 

 思いもよらない声に、ハナノアカリが顔を上げれば琥珀色の瞳と目が合う。“お嬢様”は、初めて真正面からハナノアカリの方を向いて、問いかけをしていた。

 朝日が瞳の中に入って、赤みを帯びている黄色が光を反射した。

 

 

「走る? それとも止めるのかしら」

 

 

 その瞳の持ち主はただ静かに問いかけた。

 

 走るか、走らないか。

 進むか、もう止めるか。

 

 突然突きつけられた二者択一にハナノアカリは少し狼狽える。

 曖昧にしておこうと思っていたものが、ガバッと覆いを剥ぎ取られ露わにされた感覚。心の底の方が、世界と接しているようなピリピリとする感覚。

 

 

「……ワタシは……」

 

 

 走る理由は分からない。

 だからと言って止まればそこで終わりなように思える。

 いま、目の前にいる美しい走りをする少女とも、もう関わらない気がする。

 

 

 

 それは嫌だ。

 

 

 そう思った所で、気がつく。

 この気持ちだけは、今生まれたもので、偽らざる本心なのだと。

 ちょっとおかしくなって、口の端がわずかに吊り上がった。

 

 

 そうしてハナノアカリは鼻から息を吸い込んだ。

 すこし清々しくなった心で、悪戯っぽく右手を目の前の令嬢に差し出す。目の前に居るのが名家のお嬢様なら、こちらは王子様だ、と言わんばかりに。

 

 その方が釣り合いも取れて面白いかと思いながらおどけて、でも真剣に、片目を瞑りながら言った。

 

「ワタシは走るよ。だからお嬢様、もし宜しければ、一戦、並走をして下さいませんか?」

 

 朝日はとうに登り切って、夜の色を残らず払って、世界に色彩が戻っていった。一陣の風が吹いて、菖蒲色の髪が桜吹雪のようにふわりと舞った。

 コースで手を差し出されたメジロハルカは、素早く優雅な動作で手を……払って、ピシャリと言った。

 

「お断りよ」

 

「そんな!?」

 

 ◆

 

 

「アカリさん、朝ですよ……あら?」

 

 ハナノアカリの初レースが終わって翌日。

 ぐすぐすと泣きながら帰ってきた彼女を()()()、寝かしつけまで行ったコウマサは無人のベッドに首を傾げた。

 

 まだ外は明るくなってきたばかり。鳥の声が静かに響いている。

 

 もう、彼女は立ち直ったのか。

 それとも、辛抱たまらず飛び出して行ってしまったのか。

 そこまで考えて、不器用ながらも机の上に畳まれた寝巻きを見てトレーニングに向かったことを察した。

 

「あれ? 何かな」

 

 その薄い浅葱色の寝巻きの横に小さくちぎられた紙がある。開いた窓からの風で飛ばないように小石が重しで置かれている。出しっぱなしの椅子をしまいながら近づいて見てみると、ふふと笑みが溢れた。

 

 

走りに行ってきます。ご飯は持ってるので心配しないでください。追記 昨日はメイワクかけました。ごめんなさい。

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔に活躍したウマ娘を振り返るスレ

 

 

1:名無しの観客

 好きに語ろう! 

 過去のウマ娘も資料が少ないけど、調べるとえげつないウマ娘がいたりする

 

 

2:名無しの観客

 ブーケファロスとか? 

 

 

4:名無しの観客

 赤兎バ

 

 

5:名無しの観客

 日本にもおらんかな、ほういうの

 

 

6:名無しの観客

 あのおっきな戦いの前の時代のウマ娘とかレース間隔えげつないで

 

 

 

9:名無しの観客

 >>6しかも今より整備されてない環境だろ? 考えられんわ

 

 

11:名無しの観客

 このレスは削除されています

 

 

14:名無しの観客

 >>6 あっこら辺はギリギリ映像残ってなかったりするから調べがなかなか難しいわ

 あったとしても焼失してたりするし

 

 

17:名無しの観客

 もちろん速さは今の方が上なんだけど、あっちはなんというか生命力の強さというか、野生みを感じる

 

 

19:名無しの観客

 >>11 ここはそんな話をするところじゃねーんだワ

 

 

21:名無しの観客

 >>11 おうちに帰んな

 

 

22:名無しの観客

 あの時代はいろいろおかしい

 それと同時に悲しい話も多い

 

 

23:名無しの観客

 >>22 やっぱ争い事は平和的解決が一番すわ

 

 

25:名無しの観客

【画像】

 ほい

 

 

28:名無しの観客

 >>25 めっちゃ古いやん

 なんこれ

 

 

30:名無しの観客

 >>28 黒鹿毛の勇者

 

 

33:名無しの観客

 げぇっ! 初代三冠ウマ娘っ! 

 

 

 

34:名無しの観客

 あの……画像検索かけても出てこないんスけど

 なのに特徴は一致してるんスけど……

 

 

35:名無しの観客

 もしかして▶︎新規画像

 

 

37:名無しの観客

 なんでこんな場末のインターネットに超貴重画像が出てくるんですかねぇ……

 

 

40:名無しの観客

 あかん、歴史的価値のあるスレになってもーた

 

 

43:名無しの観客

 このレスは削除されています

 

 

45:名無しの観客

 >>17 11戦11勝のスーパーウマ娘とかいるしな

 

 

47:名無しの観客

 ガタイのいい写真がいくつか残ってるの見たことあるわ

 あの時代の栄養状態であんなんなるのおかしいだろ!! 

 

 

50:名無しの観客

 完全にかの戦いの前後の時代の話になってきたな

 

 

53:名無しの観客

 メンツが濃いんじゃ! 

 マジで叶うなら会ってみたかったわ

 

 

56:名無しの観客

 どんな風にしてたんかな

 トレセン学園とかあったか? 

  

 

58:名無しの観客

 >>56 や、まだなかったはず

 

 

59:名無しの観客

 ダービーも名前違うしな

 

 

62:名無しの観客

 このレスは削除されています

 

 

64:名無しの観客

 定期的に変なの湧くなぁ

 

 

66:名無しの観客

 気にすんな

 それよりコウマサの玄孫さんがいたみたいな話は聞いたことある

 

 

69:名無しの観客

 平和になって初めてオークス勝ったウマ娘だっけ? 

 

 

72:名無しの観客

 >>69 そう

 

 

74:名無しの観客

 トレーナーと二人三脚頑張ってて、で、トレーナーに招集がかかって……みたいな話はマジで悲しい

 

 

76:名無しの観客

 なんでトレーナーだけ? 

  

 

77:名無しの観客

 そりゃ、彼女たちは学生ですから

 

 

80:名無しの観客

 あーね

 

 

83:名無しの観客

 ん? でも学生もじゃね? 

 

 

84:名無しの観客

 あー、なんだったか

 

 

85:名無しの観客

 たしか1人だけ、試験的に招集かかってその時期にちょうど戦いが終わったんだよ

 

 

88:名無しの観客

 →1人だけ oh……

 

 

91:名無しの観客

 時代が時代やし

 

 

94:名無しの観客

 今の価値観から昔を論ずるなって昔から言われてっから

  

 

96:名無しの観客

 矛盾みてーな文章だな

 

 

98:名無しの観客

 実際そう

 

 

101:名無しの観客

 レースの歴史もよくもまぁ、ここまで途絶えることなく続いたもんだ

  

 

104:名無しの観客

 >>85 この子の資料もあるにはあるんだがまぁー、少ないこと少ないこと

 

 

105:名無しの観客

 世界が戦ってる中レースってやれてたの? 

 

 

107:名無しの観客

 >>105 真っ最中の一年間だけ開催されなかった

 

 

110:名無しの観客

 その年の一年前はダービー(名前違うけど)も関係者しか入れないよ、みたいな形の知らせが出てたみたいやしな

 

 

111:名無しの観客

 >>110 それこそ能力を測定するため“だけ”のレースね……

  

 

112:名無しの観客

 この流れならハナノアカリの名前も出ていいはず

 

 

113:名無しの観客

 >>112 どんなウマ娘? って調べてみたら……

 

 

 

 

 

 

157:名無しの観客

 >>112 こりゃー忘れちゃいけないウマ娘ですわ

 

 

158:名無しの観客

 どんな風に話す子だったんかなぁ

 やっぱ使命感に燃えてキリッとした子なんかなぁ

 

 

161:名無しの観客

 知れてよかったよ

 

 

163:名無しの観客

 信じてもらえないかもしれんけど、うちのひいじいちゃんが昔荷運びの荷物ひったくられた時に、>>112の子が取り戻してくれたって言ってた

 だからサクラの子はぜったいに助けてあげなさいって

 

 

165:名無しの観客

 ほんとかー? 

 

 

166:名無しの観客

 それを論じても水掛け論だろ 

 ある程度は信じる、ぜんぶは信じないとかやれよー

 

 

168:名無しの観客

 >>163 そのおじいちゃんにもっと話聞いてみたいわ

  

 

171:名無しの観客

 激動の時代の生き証人だもんなぁ

 

 

 

 

 

 

 

195:名無しの観客

 >>200 なら俺の運が良くなる

 

 

197:名無しの観客

 >>200 なら俺が美少女になる

 

 

200:名無しの観客

 >>200 なら平和がつづく

 

 

 

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