恋姫奇譚:北宋編   作:乾燥海藻類

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第11話 黒い雲を抜けて

開封の城壁に大きな白旗が振られている。そして、城門がゆっくりと開かれた。

まず林冲と晁蓋、それと呉用を送った。林冲は開封に詳しいだろうし、晁蓋も一時期は開封にいた。

そして俺は、宋江と朱武を連れて、方臘のところへ行った。開封へ入る前に、もう一度会っておこうと思ったのだ。

朱武は呉用に次ぐ副軍師で、元は少華山で山賊をやっていた。

 

「ああ。よく来てくれた、王倫殿」

 

なぜか方臘の顔は晴れやかだった。なにかあったのか? 方臘の陣は反対側だったから、ほとんど情報がないんだよな。

 

「開封府へ入ります。皇帝と交渉することになりますが、同行されますか?」

「いや、そちらに任せる。王倫殿なら、悪いようにはしないだろう」

 

ほんとに、なんか雰囲気変わったな。最初に会った時は、悟りを開いたような目で、どこか人間離れした雰囲気があった。宗教を極めるとこうなるのか、と思ったものだが。

……いや、宗教を極めるってなんだよ。

しかし今の方臘は、吹っ切れたような、憑き物が落ちたような感じがする。

 

「そうですか。では一応、周囲の警戒をお願いします」

「王倫殿。俺は……忘れていた初心を思い出しました」

 

それ答えになってないぞ。俺は周囲の警戒を頼んだんだが……。

 

「苛政に苦しむ人々を救うために、立ち上がりました。正義を行う戦いだったんです。それがいつの間にか、私欲が混ざるようになってしまいました。自覚もないままに。お恥ずかしいかぎりです」

 

そう言って、方臘ははにかむように笑った。人を引き付けるような笑みだった。これが本来の彼なのだろう。武も智も、それほど際立っているとは思えない方臘が、これほど勢力を拡大できたのは、やはり魅力(カリスマ)があったからに違いない。

 

宗教に頼らずとも、人は集まったと思う。だが信仰の力という、安易なものに頼ってしまった。たしかに宗教は、簡単に信者を軍事力に変えてしまう。

日本で言うところの、一向宗などがそうだな。あれには、信長も手を焼いていたらしいし。

 

「人には分がある、ということを知りました。多くの者に(かしず)かれて、少し勘違いをしていたようです」

 

いや、いきなり自分語りをされてもな、反応に困るぞ。そういうのは、もっと身近なやつに告白してくれ。

 

「手を、拝見できませんか?」

「……どうぞ」

 

右手を差し出すと、方臘は遠慮がちに触り始めた。なんかねちっこい触り方だな。ほほを染めるな! いくらイケメンだからって俺にそんな趣味はないぞ!

 

「これが、王者の手なのですね」

 

違うが? 皇帝にはならないと言っただろうが! 宋江と朱武もうなずくんじゃあない!

 

「お手間を取らせました。武運をお祈りしております」

 

交渉に武運もないだろ。なんか妙な疲れを感じるぞ。これから最後の締めだってのに。

さっさと終わらせよう。今さら抵抗もないだろう。俺たちは開封府の城門に向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謁見の間を、玉座に向かって歩き出す。とそこで、壮年の男が声を荒げた。

 

「貴様ら! 陛下の御前であるぞ! 武装したままとはなにごとかっ!!」

「どうやら、状況を理解していない者がいるようだな。あの男の罪は、いかほどか? 林冲」

「ハッ! 処刑が妥当であると考えます」

 

言い切ったな。まあ高俅だしな。徽宗のお気に入りだから、殺されはしないと高を括っていたか。そして、括った高が、こんな尊大な態度を生み出すのか。だが責任者とは、責任を取るためにいるんだよ。軍の総大将として責任は取らなきゃならんよな。

 

「では(すみ)やかに刑を執行せよ」

「ハッ!」

 

林冲の動きは早かった。高俅がなにか言う暇もなく、槍が一閃したかと思えば、穂先が高俅の胸に突き立てられていた。そのまま腕力に任せて高俅の身体を持ち上げると、後方に投げ飛ばした。

 

「片付けておけ」

 

命じられた兵が高俅の遺体を引きずりながら下がっていく。首を飛ばさなかったのは、血を避けたのかな。一応、宮廷だからな。徽宗の顔は引きつってるけど。

止めていた歩みを再開する。

 

「森羅万象、諸行無常、全てに終わりがある」

「……終わりの時が、来たというわけか」

「ご決断に感謝いたします、陛下。後は我々と、ご子息にお任せを。国を、立て直します」

 

殺気を感じた。聞こえたのは風切り音。反射的に右手が動きそうになるが、後ろに控えていた晁蓋が動く気配を感じて腕を止めた。予想通り、晁蓋が飛来する矢を掴んだ。

間を置かず、林冲が弾かれたように動いた。暗幕の裏にいた弓兵を槍で突き殺す。官僚たちから小さな悲鳴が上がった。

 

「人は勝利を確信した時に、最も大きな隙ができる、ということですかな。陛下」

「ち、ちがっ、朕は知らんぞ! どういうことだ、蔡京っ!?」

 

この反応が演技ならたいしたものだが、どうも素の反応っぽいな。ちなみに蔡京はこの場にいない。かなり混乱しているようだ。

蔡京は、たぶん逃げたのだろう。それらしい報告は上がっていた。やはり、高俅のような小物とは違うな。機を見るに敏、というか。追手は放っているが、捕縛できるかどうかは運次第だな。

 

「賊徒には従わぬっ!! 死ぬがいいっ!」

 

叫んだのは宰相の王黼(おうほ)だった。

王黼が手を水平に振ると、暗幕の裏から槍を手にした兵が現れた。

つかこんなに伏せてたなら、最初の攻撃はなんで単発だったんだよ。確実に仕留めたいなら、集中砲火か十字砲火だろ。まともに兵を運用する気あるのか?

 

最初に反応したのは晁蓋だった。懐の飛刀を、王黼に向けて投擲する。王黼の首筋から血が流れた。間を置かず、王黼は首をかきむしるようにして倒れた。

 

「槍を捨てろ。死にたくなければな」

 

兵たちは硬直していたが、林冲が石突きで床をドンと叩くと、ハッとなって槍を捨て始めた。

よかったよかった。向かってきたら、気弾をハイマットフルバーストするしかなかった。疲れるんだ、あれは。

いや、俺が動くよりも早く、晁蓋と林冲が暴れだすだろう。そうなったら、辺り一面血の海になるな。

そもそも、俺を仕留めたくらいでどうにかなると思ってるのが、頭お花畑だわ。状況が理解できていないのか。

 

「君側の奸を除き、王室を正しき形へと戻します。陛下、これからについて、話し合いましょう」

 

徽宗は力なく頷いた。

 

 

 

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