恋姫奇譚:北宋編   作:乾燥海藻類

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閑話(二)

小雨が降っていた。小屋の中では、雨が屋根を叩く音だけが静かに響いている。その中で、公孫勝(こうそんしょう)は瞑想を続けていた。

濡れ羽色の髪を品よく結い上げている彼女は、仙人・羅真人の弟子で、道士であった。道士とは仙人の見習いのようなものである。天候を読み、風を呼ぶ。

 

その隣では、樊瑞(はんずい)も同じように瞑想を行っていた。彼女もまた道士であった。元は芒碭山(ぼうとうざん)に籠る山賊の頭目だった。やってきた晁蓋たちに幻術を仕掛けて追い払おうとしたが、全く通じず、晁蓋に一蹴された。道士としての力量は、公孫勝よりも一歩劣る。

 

そのふたりを背にして寝転がっているのは、項充(こうじゅう)李袞(りこん)である。彼女らも芒碭山の元山賊であり、樊瑞の部下だった。どちらも標槍(投げ槍)の名手であり、百歩先の的に狙って投げれば百発百中という腕前を持っている。

 

そのふたりが、同時に起き上がった。戸の外に気配を感じたからだ。トン、トン、トトトン、トン、と扉が叩かれる。仲間の符丁だった。手に持っていた槍を降ろす。

入ってきたのは戴宗(たいそう)だった。肩で息をしているのを見て、項充は水を差し出した。戴宗はそれを一息に飲み干した。

 

「首領は、なんと?」

 

公孫勝は片目を開けて、問うた。

 

「問題ない。任務を続けろ、と」

 

祝家荘が梁山泊を討伐するために兵を集めているという噂を聞きつけた公孫勝たちは、自分たちも戻るべきかと梁山泊に戴宗を送った。

彼女は"土"の気功士であり、大地を駆ける術を会得している。この術を使えば、人並外れた速度で駆けることができるのだ。

 

「そうか。まあ予想通りではあったが」

「くくっ、この程度で首領が取り乱すかよ。晁蓋や林冲もいんだからよ。心配性なんだ、おまえは」

 

樊瑞はくつくつと笑った。

公孫勝は少しだけ眉をしかめたが、言い返すことはしなかった。

この五人、公孫勝一行は、首領の密命を帯びて江南にいる。

 

「しっかし、ここまで江南が(すさ)んでいるとはな。ひでぇモンだ」

 

江南地方では、花石綱と呼ばれる苛烈な搾取に人々は苦しめられており、朝廷を大いに恨んでいた。そして起こったのが方臘(ほうろう)の乱である。

 

「けど姐御、あの方臘って男、国を興して自分が天子になるとか言ってるらしいじゃないですか。いいんですか?」

「そうそう。首領は共闘するつもりみたいッスけど、いずれぶつかるんじゃないスかね? ほらあの、項羽と劉邦、みたいな?」

「おぉ、おまえらも学をつけたモンだな。じゃあ説明してみろ、その項羽と劉邦ってやつを」

 

樊瑞はニヤニヤと笑みを浮かべながら、項充と李袞に続きを促した。

 

「いや、その、あれッスよ。一緒に力を合わせて秦って国を倒したんスけど、なんか喧嘩しちゃった、みたいな?」

「……うん。たぶん、そんな感じ」

 

李袞が自信なさげに説明し、項充に視線を送る、それを受けた項充もまた、自信なさげにうなずいた。

 

「ったくよ、もっと自信持って説明しろよ、まあ、大体は合ってるよ」

 

そう言われて、ふたりはホッと胸をなでおろした。

 

「って姐御! 答えになってないッスよ!」

「うるせぇな。そういうのはな、頭のいいやつに考えさせときゃいいんだよ。おまえらも、今の世の中じゃあダメだってのは分かってんだろ。オレたちゃ壊すだけだ。この腐った世の中をよ。その後は、首領や呉用らが上手くやってくれるだろうよ」

「……まあ、言われてみれば」

「そッスね」

 

ふたりとも、考えることは得意ではない。樊瑞が言った通り、難しいことは頭のいいやつが考えればいいのだと納得した。

 

「あの男の下につくつもりかもしれんぞ、首領は」

 

声の主は公孫勝だった。その言葉に、部屋の空気が凍り付く。

樊瑞の全身からは、怒気が発せられていた。

 

「面白い冗談だ」

 

その反応を見て公孫勝は肩をすくめた。まだ会ってもいないというのに、樊瑞は方臘のことが気に食わないようであった。噂だけではあるが、たしかに胡散臭さはある。

 

「気に入らねぇんだよ。神がどうとかと言って、民の心を惑わすのが」

「しかし、人を集めるのには効果的じゃ」

 

民は今、救いを求めている。絶望の淵にある人間は、他愛ないことに救いを求める。宗教というのは、そういった心の隙間に入り込むのだ。

そうやって方臘は人を集め、反乱の気運を高めている。

 

「たしか、なんとかって教義があるんスよね。えーっと、ど、ど、ど、ど……」

度人(どじん)

「そう、それ! で、度人ってどんな意味だっけ?」

「それは……」

「人を助けよ、という意味じゃ」

 

項充の代わりに答えたのは、公孫勝だった。それを聞いた李袞の目がパッと輝く。

 

「へぇ、人助け! なんだ、方臘って良い奴じゃないッスか!」

 

それは本心からの言葉だったのだろう。しかし、公孫勝の表情は冷めたものだった。

 

「ふんっ、方臘ってのが、首領以上の男とは思えねぇな。そんな奴の、下につくだと? ハッ!」

 

樊瑞は鼻で嗤った。人は自分にないものに憧れる。晁蓋に負けはしたが、樊瑞にとって晁蓋は同類であり同僚だった。だが首領は違う。強さと智慧を兼ね備えている。清廉さもあった。樊瑞にとっては憧れの対象だった。

男女の情ではない。それは臣下の情であった。

 

「首領の心奥などはわからぬ。そうであるかもしれん、と言っただけだ」

「おまえは何もわかっていない」

 

知った風な口を利くな、と言ってやりたかったが、公孫勝は自重した。

 

(しかし樊瑞が心酔するのもわかる。歳の割に、知識が深すぎる。何者なのじゃ、あの御仁は……)

 

医術や建築術、畜産や農業、造船や鍛冶についての知識もある。律令や税収にも見識があった。本人は専門家ほどではないといったが、そこらの職人顔負けの腕と知識だった。

 

(さすがに道術までは知らなかったようじゃがの)

 

道術は秘匿されるものであり、一般には広まっていない。当たり前といえば当たり前の話であるが。

 

(老練……いや、時に老獪さすら感じる。どれほど厳しい道を歩んできたのか)

 

自分がその境地に至ったのは、四十を超えてからだった。公孫勝の容姿は二十代の後半辺りだが、実年齢は五十を超えている。そういう道術を使っているのだ。

 

(人はそれぞれ、さまざまな弱さを抱えておる。首領は、それが見えん。いや、見せないようにしているだけかもしれんが……)

 

それはそれで、たいしたものだと思った。と同時に、悲しいとも思う。

 

(弱みを見せられる相手はおるのだろうか。晁蓋殿か、あるいは宋万殿か……)

 

そこまで考えて、公孫勝は苦笑した。

 

(樊瑞のことを笑えんな。わしも相当、心酔しておるのかもしれん。また、仙人へと至る道が遠ざかったわ)

 

戦となれば、兵は死ぬ。それは当然のことで、避けられるものではない。首領はいつも、死なせてしまったという思いを抱いている。直接指揮をとったわけでもないのに。かといって、指揮した者を責めるわけでもない。

兵をよく見ていた。熱心な者、見込みのありそうな者は昇格させ、怠惰な者、傲慢な者には罰を与え、場合によっては兵卒に落とした。優しくはあるが、甘くはなかった。戦いに向いていない者を、配置転換させることもあった。

 

ある時、呂方が調練で兵を死なせた。弱いから死んだ、というのが呂方の言い分だった。だが首領は、おまえが兵の限界を見極められなかったから殺したのだとして、呂方を木から吊るした。

三日間吊るされ、口にすることが許されたのは水だけで、糞尿も垂れ流しだった。その後、兵卒に落とした。だが一ヵ月経って、呂方は隊長に戻された。それから、呂方は兵を死なせなくなった。

彼女の中で、なにかが変わったのだろう。

首領が遺族に頭を下げ、自身も三日間断食したことも、関係あるのかもしれない。

 

おそらく首領は、国を正すという大望など、抱いていないのかもしれない。あるのは人として当たり前の、手に届く人たちを守りたいという思いだけなのかもしれないと、公孫勝は思っていた。

それに気づいた時、みんなで彼に背負いきれないものを背負わせてしまったのではないかと、思ったのだ。そんな彼を、支えたいとも。

ふっと息を吐き、樊瑞に意識を戻す。

 

「確かに首領は、多くを語る(かた)ではない。強さも、語らん。オレは自分が恥ずかしくなった」

 

みんな、強いことを自慢する。武勇伝を語りたがる。樊瑞も酒が入った時は饒舌に語った。熊を倒したことだ。一丈(三・三メートル)はある大熊だった。

 

「王の気質を持っている。誰かの下につくお方ではない」

 

たしかに樊瑞の言うように、首領は不思議な魅力を持っていた。平凡な見た目ではあるが、常に毅然とした態度で、言葉には力があった。樊瑞はそれを、王の気質と感じ取ったようだ。

 

(いや、最初は先代の下におったらしいがな。心酔し過ぎるというのも、問題じゃな。確かに首領は、結果を出し続けてきた。大きな失策もない。みな思っておる、首領に任せておけば大丈夫、じゃと)

 

その考えは危険である、と公孫勝は思っていた。首領がどれだけ優れた才覚を持っていても、所詮は人間である。間違えないということはない。仙人ですら、間違えるのだ。

一度の失敗、一度の敗北で、全てが崩れ去るということもある。公孫勝はそれを危惧していた。

この場ではやはり、言葉にはしなかったが。

とそこで、公孫勝はハッとなった。

 

(なるほどな。だから、樊瑞であったか)

 

旅の同行者が樊瑞であることが、公孫勝には疑問だった。だがそれは、氷解した。これほど忠誠心が高ければ、方臘に帰依して信者になるということもないだろう。

そこまで見越していたことに、公孫勝は舌を巻いた。

 

「それよりもさ、そろそろ方臘と接触した方がいいんじゃない? 決起は早すぎたらダメなんでしょ?」

 

話に割って入ってきたのは、戴宗だった。水を三杯飲んで、その後はずっと脚をほぐしていた。

 

「そうじゃな。首領は時機を待っておる。開封で、なにか動きがあるのやもしれぬ」

「おまえも知らねぇのか?」

「謀は密なるを良しとす。密事を知る者は少ないほどよい」

 

公孫勝も全容を知らされてはいないが、おおよそのことは察していた。南に人を集め、官軍の目をそちらに向けようというのだろう。そして、首領は"数"ではなく"質"を高めようとしている。少数精鋭の部隊で、開封へ攻め上がるつもりなのだ。

 

しかし、問題もある。童貫だ。高俅のような破落戸(ごろつき)とは違い、童貫は本物の軍人である。麾下の軍勢は日々調練を欠かさず、精強を誇っている。

禁軍は帝と開封府を守護する軍であるという誇りを持っており、賊徒の討伐などに出陣することはない。また童貫の軍は、禁軍でありながら、独立した軍のような扱いだった。かつて禁軍に在籍していた林冲も、童貫の軍については、ほとんど知らなかった。

 

(首領は、戦を長引かせるつもりがないのじゃ。宋という国の急所を、一突きで仕留める気じゃ。ならば童貫をどうするかが、決戦の(きも)となるじゃろう)

 

いくら南に人を集めても、賊徒であるかぎり童貫が出陣することはない。だが賊徒が膨れ上がり、反徒となれば、話は別だ。勅命が下されれば、童貫が出陣する。南で童貫を抑え込んでいる隙に、開封府を制圧する、というのが公孫勝の予想する策だった。

そんな心中も知らず、樊瑞はくつくつと嗤っていた。

 

「くくっ、まあオレたちゃ酒が入ると口が軽くなるからなぁ」

「おぬしと一緒にするでないわ!」

 

公孫勝は一喝するが、樊瑞は気にした様子もなかった。公孫勝もわかっていたのだ。首領は、頭ごなしに命令をする男ではない。説明して、納得させて、部下を動かす。そんな男が、説明をしなかったということは、知らない方が良い、ということであろう。

 

(あるいは、首領ですら読み切れていない、ということかもしれんがの。まずは、見定めねばならんな。方臘という男が、本当に神というものを信じているのか。それとも、神というのは方便で、権力欲に取りつかれただけであるのかを。やれやれ、大役じゃの)

 

公孫勝は小さくため息を零した。

 

「やつらも、戦力は欲しいはずじゃ。足並みを揃えると言えば、無下にはせんじゃろう。戴宗、雨が上がってからでかまわん。繋ぎを頼む」

「あいよ。そんじゃ、ちょっと休ませてもらうよ」

 

部屋の隅から毛布をひったくって、戴宗はごろんと横になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ! はぁ! はぁぁっ! はぁっ!!」

 

扈三娘(こさんじょう)は一心不乱に棍を振り回していた。刃物を持つことは許されなかったが、棍ならば許された。部屋の中でじっとしていると、気が狂いそうだった。

一時は岩に頭を叩きつけて自害してやろうかとも思ったが、馬鹿らしくなってやめた。

 

「良い腕だ。禁軍師範の中にも、それほどの腕前はそういない」

 

背後から凛とした声が聞こえてきた。扈三娘は振り返りもせず、返答する。

 

「戦に出なくても良いのか?」

「戦は、終わった。祝朝奉(しゅくちょうほう)は撤退した」

「……そう……か」

 

祝朝奉とは敵の総司令官で、返還交渉を断った人物でもある。そして、扈三娘にとっては義父になる予定の男でもあった。つまり、彼女は許嫁の家から捨てられたのである。

その心中はいかほどのものであろうか。肩を震わせる扈三娘を見て、林冲は胸が詰まる思いだった。

 

「なぜ、私を助けたのだ。貴様ほどの腕ならば、私などたやすく殺せたであろう!」

 

叫ぶように、扈三娘は言った。生かされているということが屈辱だったのだ。

 

「……首領は、祝朝捧を功名心に逸った愚物だと言った」

「賊徒が知った風な口を利くな! 村を、民を守るのが、保正の家に生まれた者の使命だ。貴様らのような不心得者が存在するから、庶民は愛する者を失う恐怖で夜も眠れない!」

「やはり、誤解があるようだな。キミの瞳は、ほかの者とは違った。だから、殺すに忍びなかった」

 

林冲はゆっくりと続ける。

 

「私たちは村を襲ったことなど一度もない。無辜の民を傷つけたこともな」

「ならば、どうやって下の者を食わせているというのだ。どうせ分限者(ぶげんしゃ)(金持ち)の屋敷でも襲っているのだろう」

「そんなことをせずとも、全員が食っていけるさ。そうできるような仕組みを、首領が考えてくださった」

 

扈三娘の気持ちも、わからないでもなかった。義賊という旗を掲げていても、その実態はただの盗賊だったというのは、よく聞く話だ。

実際、扈三娘もそんな話をよく聞いてきた。半信半疑の目で、林冲を睨んでいる。

 

「……少し昔話を聞いてくれないか」

 

林冲は手ごろな岩に腰掛け、相手の返事も待たずに語り始めた。

 

「私には姉がいた。美人で器量よしの、自慢の姉だった」

 

いた、だった、全て過去形である。扈三娘は棍を置いて身を正した。

 

「行き遅れたのは、私が心配だったのだろう。だが良い人が見つかった。相手は商家の三男だった。二人は好き合っていた。夫婦になるには、一番大切なことだ。なんの不足もなかった」

 

林冲は奥歯を噛みしめているようだった。思い出すのも辛いのだろう。

 

「高俅という男に目を付けられた。禁軍の、将軍だ。あのような下劣な男が、なぜ将軍になれたのかは疑問だが……婚約者が溺死したという報が姉の下に届けられた。酒を飲んで、河に落ちたらしい。姉は大層悲しんだ。しばらくして、高俅が私に近づいてきた。出世を約束するから、姉を差し出せ、というものだった」

 

林冲の拳は、爪が食い込まんほどに握りしめられていた。

 

「全てが繋がった。私は適当に答えをはぐらかし、その日は家に帰った。姉に全てを話し、開封を離れようと言った。姉は了承してくれた。私は安心して眠った。翌朝、目覚めたら、姉が首を吊っていた」

 

扈三娘は何と言っていいか、わからなかった。

 

「姉は、弱っていたのだろう。最愛の人を亡くし、それが事故死ではなく、謀殺されたのだと知った。しかも、相手は禁軍の将軍だ。私のために、自分の身を差し出すか、悩んだのかもしれない。遺書はなかったから、全ては私の憶測にすぎないが……」

 

自嘲するように、林冲は嗤った。

 

「全てが馬鹿らしくなった。禁軍の師範がなんだというのか。わが師、王進も高俅に追放されたようなものだ。あの男を殺してやろうとも思ったが、それは私怨だ。抜本的な改革を、しなければならないと思った。この国を腐らせるものを除き、この国を変えたいと思った。私には武はあったが、智はなかった。私を使ってくれる誰かを、探さなければならない。そう思った私は、外に出ることに決めた」

「それで、ここに来たのか? 首領の王倫は、それほどの人物なのか?」

「……そうだ」

 

林冲が梁山泊に来たのは、先代の時代だった。先代の王倫は人格者ではあったが、林冲が望んだ人物ではなかった。

いつかは梁山泊を離れるつもりだった。江南の方では反乱の気運が高まっていると聞き、いずれは南に行くことを考えていた。

しかし、事情が変わった。彼ならば、この国を変えてくれるかもしれないと、林冲は思うようになった。

 

「キミは、国について考えたことがあるか?」

「……国を良くするために、貴様ら賊徒を退治しにきたのだ」

「ふっ、そういえばそうだったな。私もよく考える。よく考えるように、なった。国とは何か、官僚とは何か、法とは何か、国民とは何か、この国に生きる人間として、自分には何ができるか。正しさとは……何かを」

 

林冲は滔々と語った。これほど語ったのは、魯智深以外では初めてだった。

 

「友と語り合った。この世の不条理を、人を腐らせる魔物を、取り除きたいと。役人が正しく仕事をし、国民が安心して暮らせる世を、作りたいと。そのために、キミにも力を貸してほしい」

「……私は、そんな大層な人間ではない」

「私は、そうは思わない。大きな戦いが近い。この出会いは天祐(てんゆう)だと思った。私たちに力を貸してほしい」

 

再度、林冲は言った。真っ直ぐに、扈三娘の目を見つめて。

 

「許されぬことが許されている。(ごく)につないでおかねばならぬ連中が世に放たれている。罪なき者の命が奪われている。そのことに私は、憤りを感じている。この国を、変えたい。私たちに力を貸してほしい」

 

三度、同じ言葉を口にして、林冲は頭を下げた。

 

 

 

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