梔子ユメの偽者が小鳥遊ホシノにハチャメチャに愛されてバチクソ絆される話【完結】   作:異常性愛者

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 最終話。



梔子ユメの偽者が小鳥遊ホシノにハチャメチャに愛されてバチクソ絆される話

 

 アビドス自治区 アビドス高校 屋上

 

「思えばお前が来てから一ヶ月経ったんだね」

「……そうか、もうそんな付き合いか」

 

 偽ユメを校庭で捕獲してから一ヶ月。ホシノと偽ユメは屋上でボーッとしていた。

 別に日光浴がしたいとかそういうわけではなかったがなんとなくここで話がしたいと二人共々思ったのだ。

 

「そういえば『お前』っていうのもなんだかアレだよね正直。名前付けよっか」

「要らん。俺は誰かに取り憑いてその人生を貪り利用し尽くすだけの魂だ」

「本当にそうかな~」

 

 小鳥遊ホシノは偽ユメをじっと見やる。

 瞬く双眸は心の奥底まで見透かすかのごとく────そして実際に偽ユメの心に湧き上がる正体不明の感情をなんとなく察していた。

 

「本当に私を殺すとか消す気なら、その身体でそれが出来るチャンスはいくらでもあったよね。寝込みを襲うとか毒を飲ませるとか、やれることはいくらでもあったじゃない」

 

 彼女はただ指摘する。

 その身体があれば出来たことをしなかったのは何故なのか。

 

「正直に言いなよ。アビドス(このばしょ)で過ごす内に殺意や使命感が薄れに薄れちゃって、もう私を殺す気なんて無くしちゃったからでしょ?」

「…………。違う…………」

「またまたぁ、そんなこと言ってもやっぱり────」

「違うっっ!!」

 

 ホシノは呆気に取られたような目を見開いた顔で偽ユメに向き直る。

 

「違う……俺はお前を殺さなくちゃいけなくて……でもこの身体がそれを嫌がってて……お前を殺したいのにお前は大切な『ホシノちゃん』だから……『私』は……違う、違う、違うぅ……」

 

 偽ユメは、どうしたらいいのか分からなかった。

 小鳥遊ホシノは殺すべき相手。

 そんなことを依頼主から何度も叩き込まれて、密かに見つけた梔子ユメの遺体に取り憑いてまで小鳥遊ホシノに近付いた。

 後はこれまでのターゲットのように殺すだけだった。

 

 それなのに、どうしたことだろう。

 あまりの強さにあっさり負けて捕縛された。いやそれだけじゃない。世話までされたのだ。

 一緒に適当な世間話をしたり、軽口を叩き合ったり、ちょっとしたデートなんかもした。

 

 ────それだけのことが、とても楽しかった。

 

「認めたくない……こんな、これを認めたら俺は……」

 

 頭を抱えて偽ユメはうずくまる。

 

「……そうだ。ここでお前を殺せばいいんだ」

「ちょっ……」

 

 何か怪しい雰囲気を纏った偽ユメは、そのままホシノに接近し、マウントを取る。馬乗りになってそのまま首に手をかける。

 

「ここでお前を殺してしまえば、もうこんな気持ちに惑わされなくて済むんだ……死ね、小鳥遊ホシノ……!」

「っ!!」

 

 ホシノは目をつむる。

 死への恐怖? 違う。

 『ユメ先輩』に殺されるのは嫌だから? 違う。

 偽ユメが己の心から湧き上がる感情に振り回され、苦しんでいることが、あまりに辛くて見ていられなかったのだ。

 

 しかしいずれにせよ、ホシノは偽ユメの手で死ぬ。

 梔子ユメの。今はもう亡き親愛なる『ユメ先輩』の。その手が首にかかる。

 

 ────しかし、いつまで経っても苦しくならない。

 それどころか首にかかった手に込められた力はどんどん弱くなる。

 

「うっ……ううっ……ぐす……」

 

 偽ユメは泣いていた。大粒の涙を溢し、コンクリートの乾いた地面にポタリ、ポタリと垂れ、濡らす。

 

「嫌だ……殺したくない……好きだ、好きなんだ、この場所も、お前も、何もかも……!!」

「────言えたじゃん」

 

 ふっ、と笑みを溢し、へたり込んで泣く偽ユメの肩にそっと手を置く。

 

「正直、最初に会った時はユメ先輩の身体勝手に使ってるってだけでも心底許せないやつだと思ってたんだけどさ。ずっと一緒に居るとなんだか憎めなくて……」

 

 頬をポリポリと掻き、恥ずかしげに目を背けつつ、しかしハッキリと言う。

 

「私も、好き。好きだよ」

「────小鳥遊、ホシノ……」

 

 感極まりひしと抱き合う二人は、夕焼けに照らされて眩しく輝いていた。

 

「ね、やっぱり名前付けようよ。ずっと『お前』じゃなんだかアレでしょ?」

「……なんか候補はあるのか?」

 

 ズビ、と鼻水を啜りながら偽ユメは訊ねる。

 

「そうだね……『アメ』なんてどうかな」

「アメ?」

「そ。ユメ先輩から『メ』を貰って、あかさたなの一番初めの『ア』を付けて『アメ』」

 

 彼女なりに渾身の出来だったのだろう。ホシノは胸を張り自慢気に語る。

 

「……ぷ、なんだよそれ、雨みたいじゃん」

「あ~、笑ったな」

「だって笑うだろこんなん……雨なんて降らない砂漠に住んでてこんな名前なんてよ」

「だからこそ、だよ」

「え?」

 

 今度は偽ユメが不思議そうな顔をしてホシノを見る。

 

「今はまだ、こんな砂漠だけどさ。いつかまたいっぱい人が来て、アビドスが活気溢れる賑やかな街になるように、雨がこの土地を潤してくれるように……って」

 

 今でもその胸に残るのは、アビドス復興の願い。高校だけではない、アビドス自治区全体を再興したいという思いは、今も胸にある。

 

「ユメ先輩の願い、まだ叶ってないけど……いつか叶えてみせるから。協力してもらうからね」

「────ふ、フフフ」

 

 偽ユメは笑う。今度は嘲笑ではなく、心の底からそれを尊いと思って、笑う。

 

「分かったよ。ここがまたみんなが楽しく住める土地に戻れるまで……ずっと一緒だ、ホシノちゃん」

「その顔と声で『ホシノちゃん』って言われるとなんかむずむずするぅ~」

「なっ、なんだと!」

 

 アビドス自治区。そこは一つの夢が潰えた場所。

 

 しかし、そこに生まれた新たな夢は、これからも決して潰えることはないだろう。

 二人がずっと一緒にいる限り。

 

 

 

                    Fin.





 これで当初書きたかったことは一通り書いたので終わりとなります。短い間でしたが読者の皆様方には誠にありがとうございました。

 続き……というか番外編的なものも今後(気が向いた時に)書いていこうと思います。
 あらすじ部分とか、私こと異常性愛者のプロフィール項に新作として書くかもしれないですね。
 もし偽ユメ達の物語の続きを見かけたらどうぞ応援よろしくお願いいたします。それでは。
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