URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

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84世代②

 

 二回目以降、レース勘を養うことに加えてトレセン学園入学の為の実績づくりも兼ね、11歳から必ず地方の小学生限定のレースに出走している。経験上この規模のレースなら3着以上なら入試面接でもレースへの意欲あり、実力も備わっているとみなしてもらえるし、よっぽどレース内容が良ければ大会運営からトレセン学園に推薦してもらえることもあるみたいだ。私は推薦してもらえたことないけれども。

 

 そして今回、トレセン学園でメイクデビュー・未勝利戦と何度もレースしてきた経験を活かして、なんとか1着を勝ち取ることが出来た。けれども、とてもじゃないけど推薦を貰えるようなレース内容ではなく、かなりの苦戦を強いられることになってしまった。言い方が悪いかもしれないけど出走している子たちが強敵だった訳ではない。比べる相手が悪いかもしれないが、モリノオウジサマのような規格外の子は出走していなかった。

 苦戦の原因はわかっている。明らかに私の問題で、これまでより体の生育が悪いのだ。一個年上の子の方が多いというのもあるけれど、参加者の中でも圧倒的に背が低いので当然ストライドが狭く、ピッチ数を上げなければ速度が出ない。瘦せてしまっていてパワーも足りていない。つまり前回と同じ走り方では上手く走ることが出来ない。パーマー先輩やヘリオス先輩に教わった技術を駆使し、先頭でレースをコントロールして身体能力の不利を無理やりに騙しての1着だったのだ。

 前回食生活に何の問題もなかった13歳の私は150㎝とかそれぐらい*1だった。今11歳の私は129㎝で、その差は21㎝。確か、前回の私が11歳の時は137㎝だったはず*2。同じ年齢同じ私なのにすでに8㎝も差が出てしまっていて、このままでは最終的にどれほどの違いとなってしまうのかわからない。

 こうも前回と違ってしまっているのは食事量が全然足りていないことに加えて、慢性的に食欲が湧かなくなるほどのストレスを長年感じているということがおそらく私の成長を阻害している。

 

 それでも食事量は、一番酷かった時期に比べれば多少増えている。一回目の私よりも食べられていないのは相変わらずだけど。

 それというのもゴルフを始めて少しだけマシになっているからだ。最初に、父の同僚だという人に簡単に打ち方とかを教えてもらえた。それからは父も仕事で忙しいので月に二回程度だけれど、日曜日に一緒に打ちっぱなしというのに行くようになった。打ちっぱなしに行くだけならクラブもレンタルできるしグローブさえあれば大丈夫みたいなので、クラブセットやらウェアやら全部先に揃えてしまった父はどうやら形から入るタイプの人だったようだ。

 ウェアとか一式を全部揃えるかレンタルしないといけないゴルフ場のコースを回るラウンドというのもあるらしいけど、それは私たちにはちょっと早すぎる。ある程度出来るようになったら、その同僚の人に一緒に行ってもらえないかお願いしてみるらしい。

 打ちっぱなしに行ったらレッスンを受けて正しいスイングを確認しながら、ボールの芯に当てる練習をしている。一度すごい飛距離を出せるというドライバーというクラブも使ってみたけれど、ウマ娘のパワーがあれば小学生の私でも父よりも飛ばせると思いきやそういう単純な話でもないようだ。大人用より短いクラブで力を入れ過ぎても、ボールが左にいっちゃったりしてまっすぐ飛ばない。体の各所を上手く連動して使って、力み過ぎずに打たないと綺麗に飛んでいかないようなので、けっこう難しい。普段あまり体の細部を意識することはないので上手くはいかないけれど、ちょっと面白い。

 午前中から打ちっぱなしに行って一時間から二時間したらそのままお昼を食べて帰ってくるのだけど、その時は私もお昼ごはんを普通に食べられる。大抵帰り道にあるファミレスなのだけど、混んでたりすると喫茶店でランチ食べたり普段滅多に行かないラーメン屋さんだったりで、いろんなところに食べに行けるのも楽しみの一つかもしれない。

 母とは家で一緒にいることもあって話すことも多いのだけど、父の仕事は朝も早ければ帰りも遅いし、休みの日も疲れて熟睡しているか溜まった用事をこなすのに外出していることが多い。こうしてゴルフを一緒にやるようなことがなかった以前まで、父とはあんまり話をしなかったので知らなかったいろんなことを聞くことができた。

 

 ヒトで男だった頃の私から、両親は変わっていない。私を生んだ時は同じ年齢だったし、私が知っているのと同じ顔つきだし、声も髪型も名前も、同じだ。――母が、ウマ娘になっていること以外は。

 ウマ娘はウマ娘からしか生まれないので、私がウマ娘である以上、母もウマ娘になってしまっているのだろう。いや、母がウマ娘だから、私がウマ娘として生まれてきているのだろうか。

 初めてウマ娘である母を見た時は、正直血の気が引いてぞっとしてしまった。知っている人が、別の生物に変わってしまっているという事実に空恐ろしい気持ちになった。間違いなくSAN値が削れていたと思う。

 とはいっても今となっては、私自身もウマ娘なので母がウマ娘であることの方が当然のように思うようになっているのだけど。母も魂から授かった名前ではなく、戸籍上の日本名で生活しているようなので一緒に生活していても何の違和感もないってのも大きい。

 それはともかく。母はウマ娘であっても競走ウマ娘だった訳ではなく、公立校に進学した人間だった時の母と変わらない経歴なので、ヒトでもウマ娘でも母は母ということなのだろう。ウマ娘であるが故に、父との馴れ初めは少々劇的になってしまったようだけれど、詳しくは父も母も話してくれなかった。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 12歳ばかりが出走していた中、11歳で地方レースで優勝したことが効いたのか、身体能力は前回の私より低かったけれどトレセン学園への入学は叶った。

 身長134㎝、体重[増減なし(増量中)]。私は、相変わらず食事量を増やせず、危惧していたように1回目の私よりも身長を伸ばせず体重も増やせなかった。根本的に栄養が足りていないので前回小学校最終学年から始めていたような本格的なトレーニングを開始できない。負荷を上げると、すぐに体が軋みを上げる。前回に若いウマ娘によくある骨膜炎にかかったけれど、この痛みが出てくる感じはおそらく骨も出来あがっていない。

 

 そうしていつもどおり寮生活が始まったけれど、残念ながら今回、パーマー先輩の同室ということはなかった。

 今回は美浦寮で、同室はリバイバルリリックちゃん。見た目はなんだかちょっとスペシャルウィークに似てるような気がする子だ。明るくてちょっと方言混じりなんだけど、これは何弁なんだろう。東北の方の生まれなのかな? まだ挨拶しか出来てないので、そのあたり質問できていない。会話デッキを用意してから挑もうと思う。

 

 

 トレセン学園に入学して、授業が始まり数日も経たずにすぐに噂が聞こえてきた。相変わらずぼっちである私の耳にまで入ってくる話なんていうのは、基本的に学園中の話題を席巻しているといっていい。

 どうやら大型新人がトゥインクルシリーズに挑むようで、メイクデビューもまだまだ先だっていうのにその風格、走りっぷりからクラシック三冠も獲れるのではないかとの話が早くも上っている。

 

 ――私は、三回目の時にサクラホクトオーを探す上で、過去のクラシックを軽く調べていた。

 あの時はちょっと投げやりになっていたのでしっかり気を入れて調べた訳じゃないけれど、同期にビワハヤヒデ・ナリタタイシン・ウイニングチケットがいた時だったから、その時から遡って資料を漁った。

 生憎アプリやアニメ、漫画のウマ娘知識しかない私では、そこに登場していたウマ娘の名前しか目に留まらなかったのだけれど、例えばこのウマ娘がいたらその一個下にこの子もいるな、なんていうのがなんとなく追えるようになっている。

 何が言いたいかというと、今回、毎年テレビでウマ娘の重賞レースを観たりして確認していたのだけれど、知っている名前が全然出てこなかったのだ。唯一ちらっと流れたのを見れたのは、ニュースか何かでマルゼンスキーの名前だけ。しかも小学校低学年の頃だ。

 なので、誰が同期にいるのか、そもそも今回は同期に知っているウマ娘が誰もいないのか、何にもわからない状態でトレセン学園に入学しているのである。

 残念ながら教室で話しているクラスメイトのところに飛び込んでいって詳しい話を聞くなんてバイタリティはないので、続報が風の噂で聞こえてくるのを待たなくてはならない。いや、みんな明らかにチビな私をちっちゃくてかわいいとか言ってくれるのでたぶん私のことは知ってくれてるだろうしいきなり話しかけても聞いたら教えてくれるとは思うのだけど、それとこれとはちょっと違うじゃん? そんな急に話しかけろってなっても心の準備も出来てないから。うん。ほら話題変わっちゃってるしタイミング逃してる。もう割り込めません。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 さて、杓子定規なことに本格化が始まってしまった。私基準にしても11歳相当の体格しかないのだからもっと遅らせてくれてもよさそうなものなのに、始まったことが感覚としてわかってしまう。

 

 私は、しばらく悩んだ末にとりあえずメイクデビューを一年遅らせることにした。前回ですらメイクデビューから更に半年トレーニングを積んでのようやくの勝利だったのに、そのトレーニングすら碌にこなせないんじゃどうしようもない。もしこれが原因でリセットされてしまったとしても、今回ばかりはしょうがないと割り切ろうと思う。

 本格化が始まったのに合わせてメイクデビューを目指すというのが慣習だけど、そもそも本格化が起こったかどうかなんて本人にしかわからない。それこそ中等部在籍中に体が急成長して大人と変わらない体躯になっても、本格化はまだ迎えていないという例もある。高等部に入学してからメイクデビューする子たちも結構いるし、私自身、身長だけでいったら10歳の子と変わらないぐらいしかないので、逆にこの身体で本格化が始まっていると思う人が誰もいなかった。

 飛び級でもないのにあまりに小柄すぎる私を前にして「オンザループさんはデビューまでしばらくかかると思いますが、それまでは焦らずトレセン学園でしっかり学んでくださいね」なんて、たづなさんには気を使われて声を掛けられてしまう始末である。

 そもそもせめて今の倍ぐらいご飯を食べられないと来年のデビューすら怪しくなってしまいそうなのだが。食事に関しては色々やった上で現状なので正直なところお手上げ状態なのだった。

 

 

*1
正確には147㎝。高身長への願望が入って無意識に四捨五入している

*2
参考:日本人女子11歳の平均身長は144㎝

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