URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

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84世代⑤

 

 12月が過ぎ、年を越した。どうやら、メイクデビューに出走しなければ目標の設定はされないらしい。意識の断絶は起きなかった。

 いっそこのままメイクデビューしないままでいれば、もしかしたら高等部の最高学年までリセットされないのではないか、と弱い考えが生まれるけれど、ちょっと考えれば思いつくような安易な抜け道なんてないだろうと考え直す。それにトレセン学園に在籍している以上、選別レースには参加し続けなければいけないし、そうするとピークアウトが起こった時にタイムが落ちてきてすぐに競走能力がなくなっていることがわかってしまうだろう。

 

 今回は1年の延期が叶ったが、今のところ考えられるパターンは4つ。

 パターン①、怪我をしていたり体躯が出来上がっておらずにレースへの出走が難しい場合、特例として延期できる。本来は中等部初年度にデビューしなければならない。

 パターン②、本格化から1年後のメイクデビューはもともと許容範囲だった。(あるいは1年後のメイクデビューに出走することが本来想定されている)

 パターン③、本格化している期間内にメイクデビューに出走しなければいけない。ピークアウト時期がわからないので仮に3年後とした場合、中等部にいる間にメイクデビューに出走すれば問題はない。

 パターン④、トレセン学園に在籍さえしていれば、本格化の時期を過ぎていようがピークアウトしていようがメイクデビューの時期は自由。

 

 うーん、こうして並べてみても、どう考えてもパターン④はなさそう。条件があまりに緩すぎる。期限の確認も兼ねて試してみたくはあるけど、仮にデビューしないままでリセットを待つ場合、6年以上の時間をかけてトレセン学園に入っておいてトゥインクルシリーズにチャレンジもせず、また6年以上幼少期を過ごさなければならなくなる。あまり採りたい選択ではない。

 逆にパターン①だったとすると一番厄介だ。「やむを得ずに延期する」という判断を私がつける以上、延期しようと思ったら強制リセットされた、という事が起こり得る。そして、今回ちゃんと準備期間を置けたことで中等部初年度で挑まなければならないというのは無理ではないけど結構な無茶だということがわかってしまった。

 ……とりあえず、以上を踏まえて今後どうするべきかというのは考えておこうと思う。

 

 

 あれから生活に変化があった。

 ミスターシービーから声を掛けられる頻度が減ったこと。たぶん、カツラギエースと会わせるのが目的だったから、それが済んだということなのだろう。

 ……まぁ、減ったとはいえ、ミスターシービーがトレーニング中だろうがトレーナーとの会話途中だろうが、見つかったら絶対に声を掛けられてダル絡みされていたのが、休憩中や移動中などの時に声を掛けてくる、という当たり前の状態になっただけなんだけど。結局会うとほぼほぼ声を掛けられている。

 

 そして、カツラギエースから併走のお願いがくるようになったこと。彼女と話していると端々でパーマー先輩の影が見え隠れするので、あまり深く関わり合いにはなりたくなかったのだけど、押し切られてしまった。

 なんでも「身体能力は追いついてないけど、ループの持っている走りの技術はあたしが持ってない、どうしても欲しいモンだからな。勉強させてくれ」とのこと。頭まで下げられてしまった。パーマー先輩のルームメイトだし尊敬していたようだから、パーマー先輩の後輩である私として無下になんてできる筈がない。もちろん、私としても一緒にトレーニングできるのは願ったり叶ったりってのもあったし。

 併走トレーニングを継続的にするようになるにあたり、「エース先輩」と呼ぶようになった。数か月経ったあたりで、エース先輩からはちょくちょくルームメイトであるメジロパーマーの話を聞くようになる。というか年明けあたりで直球に、ルームメイトも逃げウマ娘だから今度見学に連れてきていいか聞かれてしまっている。返事は先延ばししているけれど、私が前向きでないことをなんとなく察してか、エース先輩は急かさず待ってくれている。

 

 同室のリバイバルリリックちゃんと正月休み明けに初めて一緒に併走トレーニングを行った。

 実はリバイバルリリックちゃんは今年のクラシック級で期待の超新星とされているミスターシービーに憧れているらしく、よく一緒にいるということでミスターシービーがどういう人なのかとか色々聞かれていたのだ。そこから世間話もするようになり、どうやら彼女は逃げウマ娘で、私も逃げを多用しているということから一回一緒にやってみようかという話になった。

 ただ、準備運動とかまでは良かったのだけど、考えてみれば私は曲がりなりにも本格化が始まって半年以上経ったウマ娘である。身体能力や体躯で劣っていて、レース向けのハードトレーニングを積んでいないとはいえ、本来は今年クラシック級として走る筈のウマ娘。その私と、まだデビュー前のリバイバルリリックちゃんと一緒に併走しても差が出てしまうことになった。同じ逃げのペースでは加速に難がある私とでも足並みが揃わない。私が大分抑えて走ることになる。

 それでも最後にはリバイバルリリックちゃんは汗だくのバテバテになってしまった。本格化前の子にはちょっと厳しかったみたいだ。スタミナだけはある私が汗もほとんどかいてないのを見て、リバイバルリリックちゃんは更に消沈してしまった。

 これじゃたぶん、次を誘っても断られちゃうんだろうな。仲良くなりたかったけど、逆に悪いことをしてしまった。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 3月。エース先輩の厚意に甘えて待たせてしまっていることが心苦しくて、併走の時に同室の子を連れてきても大丈夫とつい話をしてしまった。全然だいじょぶじゃないのに。なんか待たせてしまってることに今度は耐えられないというか。なんであんなこと言ったんだろ私は。

 エース先輩も「本当にいいのか?」と確認してくれたのだけど、つい引き下がれなくなって首肯してしまう。あああ、だから私ってヤツはもう……。いいかどうか聞かれるとついなんでも大丈夫って言ってしまう。だいじょぶじゃない。

 そして早速、次の併走トレーニングにパーマー先輩を連れてきた。

 

「で、見学に来たこっちのがあたしのルームメイトのメジロパーマー。前に話したけど、あたしと同じ逃げウマ娘だ」

「どもー。えっと、メジロパーマー、なんだけど。エースさんから話は聞いてるけど、どういう……? エースさんがデビュー前のこの子に教わってる、んですか?」

「まぁ、教わるってよりは見て学ぶって感じか。あたしの予想だと、パーマーもループの走り方は参考になると思うぞ」

 

 会いたくて、でも会えなかった人が目の前にいる。でも、やっぱりだ。完全に、私のことを知らない。私の背の低さに驚いて、ちらちらとエース先輩を盗み見ている。

 ――考えるとダメだ。感情を殺そう。彼女は、初対面のウマ娘。それ以外のなんでもない。

 

「オンザ、ループです。よろしくお願いします、パーマー先輩」

「あっ、ループお前! あたしの時はしばらくフルネームで呼び捨てだった癖に、なんでパーマーのことはちゃんと先輩って呼んでるんだよ!」

 

 思わぬ指摘にびくりと固まる。そうか。そうだった。勝手に、前と同じ呼び方なんてしちゃいけなかったんだ。

 

「いやほら、エースさん。そこはアタシの人徳っていうか……」

「それじゃあたしに人徳がないってことじゃねえか」

 

 おそらく、私が混乱していることに気付いたんだろう、パーマー先輩が普段なら言わないようなふざけた言い方をしてフォローしてくれた。

 私はその間、口をぱくぱくと開閉するばかりで、何も言葉を発せない。

 

「もちろん、好きなように呼んでくれていいからね。ええと、ループちゃん?」

「ループ、ちゃん……。あ……わ。わた、私のことは、ループって呼び捨てにしてください」

「え?」

「その、みんなもそう呼んでるので。お願いします」

 

 頭を下げると「わかった、わかったから」と慌てた声が飛んでくる。

 

「うん、それじゃ今日はお世話になるけどよろしくね、ループ」

「はい。任せてください」

「なぁなぁ、なんかあたしの時と対応違くないかよー?」

 

 放っておかれたエース先輩が私の頭をぐりぐり撫でる。なすがままの私。

 撫でられながら何も言わずにじっとエース先輩を見つめていると、エース先輩は怯んだ。

 

 この日、私とエース先輩の併走をパーマー先輩は見学していった。一応見るべきものはあったようで、思いついたことをすぐに練習しておきたいとのこと。私とエース先輩にお礼を言ってコース場を出るとその足でグラウンドに向かっていった。

 パーマー先輩も本格化が始まるまでメイクデビューを待っている状態だ。いつデビューしてもいいように、準備に余念がないのだろう。

 

 見た目には全然変わらないけれど、私の知っているパーマー先輩ではなかった。

 私なんかの走りを見て参考にするなんて言っていたし、パリピ語だって一切使っていなかった。きっと、ヘリオス先輩ともまだ知り合っていないのだろう。浮かべていたのはずっと控えめな笑顔だ。

 再びパーマー先輩との面識は出来たけれど、嬉しいけれど、なんだか胸に穴が空いたみたいに無感動になっている。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 4月、今年の皐月賞では知り合いであるシービー先輩*1とエース先輩が出走した。

 シービー先輩が2着に半バ身差をつけての1着。エース先輩は猛追するシイナフレジュス相手に粘り切れずハナ差での3着だった。

 エース先輩は悔しがっていたけど手応えを感じたらしく、次は負けないと燃えている。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 そして、5月。私の身長が止まったことが判明した。137.8㎝。年明けから5か月あってまったく伸びていない。もうダメだ、おしまいだ……。

 身体測定が終わって保健室のあたりで項垂れていたら、ぽんと肩を叩かれる。

 

「よ。その様子やとおたくも芳しくなかったようやな?」

「えっ? あ、その……身長が」

 

 ちらり、と顔を上げてみると、知っているウマ娘の姿があった。まさかの登場に、ちょっと思考停止してしまう。

 

「ウチも通った道やしなー。その気持ち、わかる。わかるでぇ。けども、ウチと違ってまだ伸びしろあるんちゃうか?」

「半年ぐらい伸びてないから、もうダメかと」

「……そか。下手な慰めしてもうて悪かったな」

 

 神妙そうに言うなり、しかし彼女は私の隣に立って自分の背と比べ始めた。……にっこりと笑顔を浮かべているので、私に背で勝ったのだろう。

 もう少し隠す努力をしたらどうでしょうか。というか背で勝ったって言っても1㎝か2㎝ぐらいしか変わらないように見えるのだけど。

 

「苦節ウン年。ようやく後輩らしい後輩見っけたな。なんや近頃の若いヤツは発育のええのばっかりで、もしや高等部のウチがまさかのワーストかと気が気でなかったんやけどな」

 

 ばしばしと背中を叩かれる。えっ、えっ? 聞き捨てならないことが聞こえた。その言い方だと今私がトレセン学園で一番背が低いウマ娘ってことなの?

 っていうか「見っけたな」ってことはこの人もしかして、自分より背の低い子を探して学園内をうろついてたのか? 暇人では?

 

「ウチはタマモクロス! こうして知り合ったのも何かの縁やろ。困ったことがあったらウチのとこ来ぃや。妹分ってことで面倒みたるわ!」

「オンザループ、です。あの、よろしくお願いします」

「ループやな。ウチのことは好きに呼んでくれてエエけど……」

 

 ちらちらと見られている。普段年下からも見下ろされているような身長なので、なんか目線が合う相手というだけで年齢的には年下というか具体的には小学校3年生とか4年生ぐらいというか。とにかく全然先輩って感じないんだけど、たぶん求められているのはそういうことなんだろうなぁ……。

 

「では、タマ先輩ってことで……」

「ん~~……、まぁエエか! それで!」

 

 別に呼んで欲しい呼び方があったんだろうな。妥協したみたいだけど。

 面白い人だな、この人。それに、こうもグイグイ来てくれるの助かる。口下手な私でも話しやすい。最近若干凹み気味だったのが、なんだかどっかいってしまった。

 廊下で二人、低身長あるあるネタをいくつか話した後、私の頭をぐりぐり撫でてからタマ先輩は小さい体で堂々と歩いて自分の教室に帰っていった。なんだろ、今回はいろんな人に頭ぐりぐりされてるな。

 今年のメイクデビューを考えていると話したら、タマ先輩はデビューはまだ先だから都合が合えば一緒にトレーニングしてくれると約束してくれた。タマ先輩いい先輩過ぎる……。姉御肌……好き……。

 ウマ娘っていい子しかいないの? いいのか、私なんかがウマ娘でいて?

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 そして同月の5月、とうとう私にトレーナーがついた。

 女性の、今年からウマ娘を担当することが許された新人トレーナー。雀宮(すずめのみや)トレーナー。すらっとしててクール美人って感じ。見た目に反して口数が多く、隠し事が出来ないタイプの変な人だ。

 なにせ最初に声をかけられたのが「あのクラシック三冠を有望視されてるミスターシービーと、この前もNHK杯に勝って勢いに乗ってるカツラギエース。クラシック級の二人が未デビューのあなたとよくつるんでいるのだから、きっと何かがあるに違いないわ」だったから。

 そんなことは普通思っていても本人には言わないで、それらしい理由をつけて声をかけると思うのだけど、話の裏とかあんまり読めてない私にはわかりやすくていい。たぶん人によってはそれだけで断る理由になるんだろうけど、他にトレーナーの当てもない私は担当契約を結ぶことにした。

 

 私の走りを見てのスカウトではなかったようだけれど、これから見直させてやろうと思う。

 食事量と体重が標準ちょっと下ぐらいまで戻ってきている。栄養不足の期間が長かったので骨とかまだ脆いままだろうから無理は出来ないけど、なんとかメイクデビューに挑むには及第点というところだろう。今更どうやっても万全の状態という訳にはならないのだから、手持ちの武器で上手くやるしかない。

 

 

 

*1
エース先輩と呼び始めたのを聞きつけてすぐ「アタシの呼び方もエースと揃えてよ」と強請られた

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