URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

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84世代⑦

 

「ループさん、おめでとう! 担当についたばかりで指導なんてほとんどできていないから、この勝利はこれまでのあなたの努力の結果なのだけど、トレーナーとして私も嬉しく思うわ!」

 

 メイクデビューを勝てたことで一番に喜んでくれたのは雀宮トレーナーだった。切れ長の瞳にすらっとしたシルエットには出来る女オーラが漂ってるのに、私なんかより感情表現が豊かでスーツ姿でぴょんぴょん跳び上がって喜んでる。さてはこの人、クール系と見せかけてパッション系だな?

 もちろん純粋に私の勝利を祝ってくれているのもあるだろうけど、専属トレーナーとして実績を得たというのも小さくないのだと思う。ある程度の実績を得るまでは1人としか担当契約を許されていない新人トレーナーな訳だけど、ただ一人の担当ウマ娘がメイクデビューを初戦突破したとなればその時点で充分だろうから。

 私はトレーナー資格の勉強をしている関係である程度トレーナー側の実情を知ってしまっている。勉強している内容は、言ってしまえば競走ウマ娘をサポートする為の知識な訳で、本当なら現役の競走ウマ娘が知らないほうがいいものも含まれている。パッと思いつくものだと『思春期のウマ娘のメンタルケア』の項目とかだろうか? 事例に合わせての対処例とかもいくつか書いてあるけど、ケアされる思春期のウマ娘からすると担当トレーナーにそこに書かれているのと同じ対応なんかされていたらショックだろう。私は特殊例なのでまったく当てはまらず何のダメージもないけれど。

 まぁ、競走ウマ娘を引退してからならともかく、ストイックに自分を鍛え上げなければならない現役の競走ウマ娘なのに並行してトレーナー資格の勉強をしてるなんて、おそらく私以外にいないのだろうから想定なんてしてないのだろうね。

 

「ようし、これで今年度中はトレーナー実績どうので悩まされる心配はないわね。全部ループさんのおかげだわ。ああ、そういえばメイクデビュー1着でループさんにはもちろんだけど、私にも10%賞金が入ってきてしまうのよね。けれど、今回何もしていないから受け取るのは悪い気しかしないわ。そうだ、ループさん。食べたいものとかあるかしら? 欲しい洋服とかアクセサリーとか、そういうのある? それともプライベートで使うシューズだったりトレーニングウェアだったりの方が嬉しいのかしら? なんでもいいわよ。私に出させて頂戴。担当契約している以上、私の方にもお金が振り込まれてしまうの。今回振り込まれる分に関しては、トレーナーから担当ウマ娘へのご褒美という形で全部使ってしまおうと思うのだけど」

 

 私が勝手に邪推して勝手に斜に構えている間に、なんか内情から何から色々喋ってしまっている人がいた。そうだった。この人言わなくていいことまで言っちゃうダメな人だった。これじゃ裏事情もなにもあったもんじゃない。

 雀宮トレーナー、いい人なのは間違いないのだけど、担当ウマ娘が私じゃなかったら言動が問題になって処分受けてそうなんだけど。いや、話してる内容自体は調べればわかる公開情報ではあるからセーフなのだろうか……?

 

 

 

 お世話になったのでタマ先輩に初勝利したことを報告しに行ったんだけど、「おー! おめっとさん! 流石ウチの妹分や!」と頭をぐりぐりして褒めてくれた。眉を開いて、我が事のように喜んでくれる。ああ……私の脳内にタマねーちゃんとの存在しない姉妹の記憶が蘇っていく……。

 

 逆に長い期間一緒に併走したりしてくれていたエース先輩は「やったな。ま、お前の実力なら心配いらないとは思ってたからな」と私の胸元をぽんと小突いて、何でもないことのようにさらっと言ってくれた。なんだか戦友みたいな、お祝いしてもらうのとは違う感じだけど、嬉しい。

 

 シービー先輩にも会った時に一応の報告したところ「へぇ。公式戦で初勝利、すごいじゃない。おめでとう」と淡白な反応だった。……なんて言ったらいいのだろうか、走ることが好きで、レースで競うことが好きで、シービー先輩自身はレースを強い相手との勝負を楽しむ場所というイメージでいるので、ただ誰某が勝った負けたというだけのことには然程興味が抱けないのだろう。私もなんとなくそれがわかっていたから一応の礼儀としての報告はしたけど、シービー先輩もそんな私を理解していたから形だけのお祝いの言葉で返したんじゃないか、と思う。

 

 あの見学からは偶然に出会った時の挨拶程度で、あれから全然お話も出来ていないパーマー先輩は、エース先輩づてにだけどお祝いの言葉を送ってくれた。面識はある。でも、会いに行く用事もなければ、用事もなしに会えるほど仲良くなっていない。パーマー先輩とは接点もなく知り合い止まりだ。そんな私にお祝いの言葉を送ってくれるパーマー先輩は優しい人で、でもやっぱり前回はたまたまルームメイトだったから仲良くなれたのかな、なんて思ってしまう。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 実は私のこれまでのトレーニングや食生活などを共有してから、雀宮トレーナーからはトレーニングの見直しとレース頻度を下げる指示が出てしまっている。

 トレセン学園に入ってからもハードトレーニングはずっと控えていたし、ストレッチもしっかり行って怪我には備えていたつもりなのだけど、そもそも小学校時代から去年までの食事量では日常生活分しか賄えていない計算になるらしく、今まで故障しなかったのはただただ運がよかっただけだと言われてしまった。

 この一年間でようやく一般的なウマ娘の標準に届くかという食事量であり、それがレースやトレーニングでより多くエネルギーを消費する競走ウマ娘だと考えるとまだマイナスとのこと。とにかく、トレーニングの強度と食事量が釣り合っていないようだ。

 

 その割にはスローペースとはいえ長距離ランニングを普段から繰り返していて、どうしてこれまで無事だったのかという話にもなったのだけど、身体が小さく体重が軽い為にそもそも関節への負担が少ないこと、子供のころからずっと欠かしていないストレッチで各関節と筋肉や腱がとても柔らかいこと、そして膝や足首の骨に負担がかからない足運びが普段から出来ているからだろうと、トレーナーは言う。

 変なクセがついてしまっていると言えばそうなのだけど、おそらくは前回に骨膜炎を発症して踏み込みに痛みを覚えてから無意識に足に負担のかからない走り方になっているようなのだ。逆を言えば、骨に負担が掛からないからこそ、瞬発的な加速に適していない走り方になってしまっているとも言えるのだけど。

 本来ならば速度に悪影響を及ぼす過分なクセは矯正しなければならないのだけど、私の場合は瞬発力を犠牲にして栄養不足の脆い体を保護しているので、走り方を急に直してしまうと故障するリスクを上げてしまいかねないということで、もし矯正するとしても食事量が増えて丈夫な体が出来上がってからということになった。

 

 それはそれとして、脆い体なのには変わりがないのでレースは最低4週空けるようになってしまった。

 どちらにせよ次走は9月下旬の中山レース場2000のOPレース芙蓉ステークスとなる。このあたりはアプリのウマ娘準拠なのか、条件戦であるPre-OPレースで勝たなくてもOPレースを走れるし、必要なファン数があればいきなりGⅢレースに出走することだって可能なようだ。

 とりあえず、これからの3か月弱で何とか体を作っていきたいところ。これを逃すと、次は4週空けての11月頭に東京レース場で開催されるPre-OPレースの百日草特別あたりが私の出れるレースになる。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 エース先輩から結構な頻度でトレーニングのお誘いが来る。どういう事情があってのことなのかよくわからないけど、人にお願い事をされると断れず、とにかく「はい」と答えてしまう私は、これまで行われていた併走トレーニングの他にも、一週間に一回レース形式でエース先輩と走っていた。

 ちょっと前に思ったけど、クラシック級で強いウマ娘とバチバチにやりあってるエース先輩が、私と一緒にトレーニングして得られるものってなんかあるのだろうか? 前までは個人的に一緒に走ってるぐらいの感じだったのに、最近ではエース先輩のトレーナーさんも見に来ていてそんなのが流石に3週間も続いたら、疑問よりも不安になってくる。怖い。

 

「ということで、エース先輩が何考えてるかわからなくて怖いです」

「はぁ!?」

 

 目を見開いて、私のことを信じられないようなものを見る目のエース先輩。エース先輩のトレーナーさんも驚きからなのか、目をぱちぱち瞬きしている。

 

「いや、ずっと一緒にトレーニングしてて気づいてなかったのかよ!? てっきりあたしはそのあたり了解して付き合ってくれてるモンだと……。あー、自覚ないみたいだけど、ジュニア級ウマ娘のクセにスタミナだけはあたしたちクラシック級ウマ娘と並べても頭一つ抜けてるバケモンだぞ、お前?」

 

 続けてエース先輩からは「あたし自身まだ長距離レースを走ってないからシービーの底はわからねえけどさ、単純なスタミナ勝負だったらあいつもかなりヤバいんじゃないか?」なんて言葉が飛び出てきた。

 そうなの? ……全然実感がない。本領は2400からって言われたって、そもそも長距離レースなんてジュニア級にはないから普段トレーニングでもそんな距離走らないし。河川敷ランニングはトレーニングというよりもはや半分趣味みたいなものだし。

 

「いやいや、不思議そうな顔してるけどな、あたしがどのレースに向けてトレーニングしてるか知ってるか? 菊花賞だぞ? 距離3000だ」

「はい」

「……いや、だからあたしも3000の距離をスパートする余力を残して走り切れるように、最近のトレーニングだって2600、2800って段階的に距離を伸ばして走ってる訳だ。たまに3200とか走り切れないのを前提にしてまでやってんのだって、全部菊花賞で走りぬくスタミナをつけるためだからな」

「そうでしたか」

「だけどさ。お前、一緒にスタートして全部最後まで走り切ってるだろ。あたしが途中で脱落しようと、3200だろうとなんだろうと」

「…………ん? お、おお……?」

「明らかに今気づいたな。表情全然変わらないクセにわかりやすいってどうなってんだよ」

 

 た、確かに。随分前の併走トレーニングの時に、しんどかったらギブアップしていいから距離伸ばしてもいいかって聞かれたことがあった。

 別にいいですよって言って、スタートがここで、ゴールは1周半してからあそこ。えっとこのコース一周2000ぐらいあるから一周半走ったら約3000か。なんて考えてるといきなり「行くぞー、はい、スタート!」ってエース先輩から声がかかってしまったのでとりあえず走り出した。当然エース先輩にはあっという間に5バ身ぐらい離されてしまったのだけど、遅れながらもなんとかついていって、1周ちょっと走ったあたりでエース先輩がバテ始めた。私はそのままペースも変えずにずーっと同じ調子で走っていたら、途中でエース先輩を追い抜いてしまってそのままゴール。あ、そうそう。別に勝ち負けじゃないけど先にゴールできたのあの時が初めてだったかな。

 言われてみれば確かに。エース先輩に併走とレース形式とで度々誘われる理由がわからなくてそれ以外のこととか何も考えてなかったけど、思い返してみれば最近は長い距離ばっかり走ってた。そんでもってエース先輩はいつも汗だくのバテバテの地面に転がってドロドロだったし、私は気持ちよくいい汗かいていた。

 

「おい、勘違いするなよ。スタミナだけな。あたしが負けてるのはスタミナだけだぞ。他は圧勝してるからな」

 

 実は最近よく見ていたエース先輩のかわいそうな姿を思い出していると、なにか勘づいたのか私に釘を刺してくる。

 ふふん。ウマ娘ってみんな負けず嫌いなんだから。まったく仕方がない。

 エース先輩に「なに笑ってんだ」とほっぺた引っ張られた。ええ? 笑ってないじゃん。だって私のポーカーフェイスは完璧なハズだもの。

 

 

 なお、雀宮トレーナーには課された軽めのトレーニングを終わらせてから毎回「知り合いと駆けっこしてきます」って言って出かけていた。友達と遊んでいるとでも思ったのか、まさか3000をレース形式で駆けっこしてるとは夢にも思わなかったみたいで「思いっきりハードトレーニングしてるじゃないですか!?」って結構な勢いで怒られた。




5回目のオンザループは物心ついた頃から現在に至るまでスタミナトレーニング一色でお送りしております(併走トレーニングを除く)
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