URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

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84世代⑧

 

 メイクデビューから三か月。危うくエース先輩のトレーニングパートナーとして夏合宿に連れてかれそうになったりしたけど、すんでのところで雀宮トレーナーに救出された。エース先輩に「あたしにはお前が必要なんだ」「お前じゃなきゃダメなんだ」とか言われてもうちょっとでふらふらと合宿行きバスに乗るところだった。あと、何でもかんでも「大丈夫です」って返事するのは全然大丈夫じゃないことがよくわかった。

 夏合宿ってクラシック級からが通例になっている*1ので、ジュニア級で夏合宿に行くのならそれはそれで結構なアドバンテージになるのかもしれないけど、私としては現在の課題となっているトップスピードと瞬発力を上げたいのに延々と長距離を走ることになりそうな気がしてた。

 

 そうして夏合宿から逃れてまでトレセン学園で雀宮トレーナーの指示の下で最高速と加速力を伸ばすトレーニングを重ねてきたけど、あんまり変わってない。決して伸びてない訳じゃないんだけど、この二つに関してはこの数か月いったいなにしてたんですかって言われちゃう感じ。いや、言い訳させてもらうと、むしろ重点的にスピードとパワートレーニングしてたんですけど……。

 雀宮トレーナーも一生懸命にコーチしてくれたんだけどあまりに結果が目に見える形にならなさ過ぎて、これまでの学んできた経験がまったく通用していないことに頭を抱えて混乱し、夢見が悪くてうなされるようになって日に日に憔悴。元いたチームのトレーナーさんにまで相談しに行ってた。(尚そのベテラントレーナーさんは私の低すぎる身長と軽すぎる体重を聞き、特殊例過ぎて匙を投げた)

 たぶん私、脂肪になるような余剰エネルギーがない所為で筋肉がつかない体質になっちゃってるんじゃないだろうか。雀宮トレーナーが言うにはまだ競走ウマ娘としての食事量に足りていないらしいし、摂取したエネルギーを筋肉に変える前に、ほとんど持久力として消費されてると思われる。

 ……あ、そういえば、アプリって育成するウマ娘ごとにステータスって上方の補正がかかるっていうか、成長率みたいなのって決まってた、よね? トレーニングとかしても数値化される訳でもないので気にしてなかったけど……もしや私にも成長率があって、それがバグってるのでは?

 そうじゃないと説明がつかない。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 背が低い、体重軽い、食が細い、そして花も恥じらう可憐な美少女。――ということで、私と共通点が多いタマ先輩とは結構学園で一緒になることがある。もちろん中等部と高等部なので合同授業ではなく、昼休みや放課後でのことだ。たまにトレーニングを一緒にしてるのもそうだし、私が一人で食堂でご飯を食べてると見かねてお昼を隣で食べたりしてくれたりする優しい先輩だ。妹分と言ってくれているのは本当なようで、カフェなどでも通りがかるとわざわざ声を掛けてくれるのだ。

 そして「おうおうおう、そこにおわすはメイクデビューで見事1着を取ったったループ大先輩やないか。そろそろ賞金入ったんちゃう? ウチ今カフェオレ飲みたいんやけど」などと恥も外聞もなく強請(ねだ)ってくる。(やから)か。確かにトゥインクルシリーズに先に参加しているという意味では間違ってはないんだけど、こういう時だけ先輩呼ばわりしてくるとか恥ずかしくないんですか?

 タマ先輩は他人から(いわ)れなき施しを受けるとナメられてると見做(みな)してキレてくるタイプのイケイケ関西ウマ娘なので、そのタマ先輩が冗談めかして奢れって言ってくるのはたぶん私を身内判定してくれてると思うのだけど、それはそれとしてカフェでお金出して飲み物を買う余裕はないので、麦茶に砂糖を足してミルクを注いだものを渡しておいた。

 ……タマ先輩、キレた!!

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 そうして待ちに待ったOPレース芙蓉ステークス。初めての2勝目への挑戦。

 本当は三か月の間に鍛え直してもっと加速なりでスピード感溢れる仕上がりになってる予定だったのだけど、パワートレーニングを積んだ結果として肝心の筋力はさほどつかず、むしろスタミナが増すという雀宮トレーナーをぐるぐるお目目にしてしまう謎現象が起きたので、もうしょうがない。私はこういうウマ娘なのだと開き直るしかない。

 

『スタートしました! 先頭争いは4番ルクスカイ、2番ジルトパーズ。続いて二バ身離れて7番ジャンバリジャン、外に6番エレクトリファイド、5番イエスウーマンが続きます。後方二番手は3番チョウナンヒカル、その後ろ1番オンザループ』

 

(ひーー! いやーーっ!? 何でぇ!? 今回に! 限って! 私は!!?)

 

 とりあえずレースはレースと、三か月越しのレースに満を持してテンションアゲアゲだった私ははっきり言って盛大に出遅れた。ヘリオス先輩の教えはどこいった。

 スタートで飛び出そうとして、なんか2番の子の方が全然スタート良くて前に出られちゃって、進路が塞がっちゃったと思ってつい二の足を踏んでしまった。実際はそんなことなくて2番の子も斜行した訳でもなし、私は1枠1番の一番内側だったので一瞬躊躇っただけであっという間に囲まれて本当に進路がなくなり、他の子より出遅れることになってしまった。

 こんなわかりやすい出遅れなんてしたことなくて、記憶にある限りこれまで後方スタートになることがなかった。今回は言い訳しようのない。出走は7人で、スタート直後には頑張って6番手を争っていた形になる。つまりドベ。とにかく前に走ってる子がいて先頭の子の姿が見えないの怖すぎる……。ただでさえ私の脚じゃ急加速って訳にはいかないから、なおさらだ。

 ――――うーん。既に先頭の子と1秒ぐらいの差がついてしまっていると思うのだけど、いつものやり方だとゴールまでに追いつけないんじゃないだろうか。普通に走ってたら普通に負けちゃいそうだし、一か八かで一発逆転を狙うしかないのでは?

 一番後ろになってしまって、追い抜かれる心配がないとなるとなんか落ち着いてしまった。よし、覚悟は決まった。今からでも遅くない。先頭へ行こう。

 

『先頭はジルトパーズ、軽快に飛ばしていきます。二番手ルクスカイ、そのすぐ後ろにジャンバリジャン。エレクトリファイド、イエスウーマンは横並び。400を過ぎて第一コーナーに差しかかります。ここで後方からのレースとなったオンザループ、大外からチョウナンヒカルを抜きに出ている。スタートでもたついたように見えましたが気が逸ってしまったか。中山レース場、距離2000mはジュニア級では最長距離。高低差もありスタミナを要するコースです。このまま最後まで持つのか』

 

 先頭へ行こう、と言うのは簡単だけど、他の子も頑張って走っているわけで、私のスピードではちょっと頑張った程度では到底抜けない。とにかくトップスピードに乗るまで結構な距離と時間を必要とするから短距離勝負ではまず勝てない。そんな私だからブレーキをかけがちなコーナーでも外を大回りして距離を伸ばし、角度を緩めて速度を維持して、上り坂でも無理矢理にスパートをかけていくぐらいの意気込みじゃないと前には出れない。

 ジュニア級で開催されるレースの中では2000mは一番距離の長いレースになるけど、私にとってはそうでもない。普段付き合いで2800とか3000とか走っているので、いつもの調子で走っていてはゴールでスタミナがダダ余りする。余力を残さず走り切るとなるとかなり早めにスパートをかけないといけないので、2000はやっぱり私には短過ぎる。

 

『先頭が1200の標識を過ぎようかというところで向こう正面に向かいます。依然として先頭を走るのはジルトパーズ。一バ身後ろにピタリとつけているのはルクスカイ。後続にも動きがありました。三番手にジャンバリジャン、続いてエレクトリファイド。第二コーナーでも外からじりじり追い上げていくのは1番オンザループ、イエスウーマンを抜いて現在五番手。そのまま前集団を追いかけます。おっとジャンバリジャンが前に出た。これは後ろ集団に追いつかれるのを嫌ったか、速度を緩めずこのまま先頭を狙っていくのか。エレクトリファイドも内について後続を抑えるコース取りですが、外から抜かれて五番手へ。後方チョウナンヒカルも進出する前集団につられて、距離を離されないようにペースを上げています。後方から押されて先頭まで団子状態になっていくような異様な展開です』

 

 この芙蓉ステークスはメイクデビューを勝っていながら短距離・マイルでは実力を発揮しきれない子や、中長距離を走るクラシック三冠を見据えている子たちが選ぶレースなのだけど、それはイコール今現在スタミナに優れた子という訳ではない。

 私の強みはとにかくスタミナだ。出遅れて不利を背負っている現状、とにかく加速して最高速に到達すること、少しでも早く先頭に立つこと、そして道中で他の子のペースを乱してスタミナ切れを狙うしかない。

 

『第三コーナーに入って残り800。早くも全体的にはハイペース。追われるように上がってきたジャンバリジャンが先頭を伺いますが、ここからは脚が伸びていかない。ここで先頭ジルトパーズからルクスカイに変わります。しかしこれはルクスカイ掛かってしまっているのか? 落ち着きがありません、しきりに背後を気にする素振り。迫り来ていたジャンバリジャンに当てられたようですが、ここでルクスカイに並んできたのは外からオンザループ。残り600を通過してここでまた先頭が代わりました。オンザループを先頭に第三コーナーも終わり第四コーナーに入ります』

 

 と、なんとか一番後ろから全員を追い抜いてきたけれど、みんな私が横に並ぶとぎょっとする。唯一驚いてなかったのは、一番初めに追い越した3番の子だけだ。たぶん、元々道中は後方で走るつもりだったのだろう、私が並ぶと競り合わずあっさりと後ろに下がっていった。でも、私が3番を抜いても加速を止めず、そのまま前に出続けると何か感じたのかマークしているみたいにぴったり後ろについてきてしまっている。私を風除けにしているみたいに足音が後ろから離れない。

 他の子に関しては、たぶん弱い踏み込みと足に負担をかけない走法で、近づくまで私の足音が聞こえなかったのだろうと思う。姿を認めるなりに慌ててペースを上げたり、急なことでそのまま呆然と抜かれてから追いかけてきたり、対応が出来ていない。

 

『ハナに立ったオンザループ、残り400の標識を越え、まだまだじわじわじわじわと伸びていく! これがジュニア級のスタミナなのか!? マークするように後ろにつけているのはチョウナンヒカル! エレクトリファイドが二人を追いかける。さあ、第四コーナーを抜け、最終直線に入った。ここからスパートですが中山の直線は短く上り坂。依然として先頭はオンザループ! チョウナンヒカルは直線に入っても坂道でスパートがかからない。エレクトリファイドもつらいか、厳しいか、顔が上がってしまっている』

 

 はっきり言って、最初に大ポカかましてしまって勝ち負けに関しては伸るか反るかにしてしまった。私に出来ることは私自身との勝負に勝つこと。ただ自分自身との我慢比べみたいなものだった。

 今回のレースを勝利するために求められている能力は、長距離を走るスタミナとは違う。フルマラソンのランナーが42,195mを走るスタミナがあるからといって1,000mを最初から最後まで全力疾走で走り切れるかといえばそうではないように、求められる物がそもそも違っている。

 距離に合わせた最速のペースを守るのではなく、スタートの加速が落ち着いた序盤終わりから周囲が巡航速度で走る中、ゆっくりと速度を上げていって維持できる限界ギリギリの速度を保ったまま最後まで走り続けるという我ながら頭のおかしな戦法だった。最終直線でスパートをかける余力すら残さない、中盤に入った途端に最後尾からのロングスパート。ゴール手前でどれだけのリードを広げられるか、周りのスタミナをすり潰せるか。これしか勝ち目がないので、私に釣られずに自分のペースを守られてしまえばそれだけで目論見は破算する。私の走るペースに釣られてくれるか、否か。最後尾スタートとなってしまった今回、勝ち目といえるのはそれだけだった。

 

『そのままゴール板を潜りました! 1着はオンザループ! 2着はチョウナンヒカル、3着にエレクトリファイド! 先行するウマ娘は大いに乱され、後方のウマ娘もハイペースに付き合わされるという、大荒れ、波乱のレースになりました芙蓉ステークス。最後方からの大捲りを決めたのは1番オンザループです!』

 

 

 

 

*1
トゥインクルシリーズに挑んでいくにあたって身体を作って基礎能力を高める時期なので、いきなり夏合宿で高負荷トレーニングしてる場合じゃないジュニア級。特に参加してはいけない規則がある訳ではないが、普通はやらない。




作中でちょっと触れたので成長率について。
主人公はトレセン学園に入学するまでの数年間の生活によって成長率が変わります。
体格や走法、体質、疾病状況などで更に補正されます。毎回変わります。
今後具体的な数値が出てくることはないと思うので、こんな感じになってますの一例として

5回目オンザループ基礎成長率
スピード:0%、スタミナ:+10%、パワー:0%、根性:+0%、賢さ:10%
   ↓
5回目オンザループ補正込み(小柄・瘦躯・低負荷走行・省エネ)
スピード:-15%、スタミナ:+40%、パワー:-15%、根性:+0%、賢さ:+10%
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