URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性 作:安倍川餅
最終R後のウイニングライブで『Make debut!』のセンターをばっちり決めたのだけど、どうやら私にもファンらしき人がいることが判明した。最前列でぴょんぴょん跳びはねるパッション系トレーナーは置いておいても、同じく最前列で私の髪色に近い黄色のペンライトを一生懸命振るってくれてるお姉さんは、記憶違いでなければメイクデビューの後に私なんかに握手を求めてくれた人だった。
雀宮トレーナーが私のファン第一号だとして、そのお姉さんは(たぶん)二人目のファンだ。ファンサでウインクのひとつでも送ってあげたいところだけど、私の表情筋は相変わらず仕事してくれないのでウインクなんて精密動作は無理だった。ミホノブルボンやダイイチルビー、ネオユニヴァースたちでもライブ中のここぞという時はしっかり笑顔を浮かべているのに、私は口を大きく開けたりとかは出来るけど表情を変えようとしてもちょっと口角を上げるので精いっぱいだ。やはり幼児期から小学校卒業までの数年間ぼっちなのがよくない。毎回その間に表情筋がお亡くなりになっている。
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芙蓉ステークスが終わって、他のウマ娘からももちろんなのだけど、世間の私への見る目が変わってきている。ウマ娘によるレースが一大娯楽となっているこの世界、GⅠレースや重賞はもとより、メイクデビューやOPレースであっても世間からの注目度はしっかりある。レースをやってライブもやってとアイドル的側面があるので、メイクデビューから見守って、ずっと応援して大成していくウマ娘を追っかけていくという人たちが相当数いるようなのだ。
トレセン学園に入学した子の中でも1勝出来るのが3~4割ほど。そこから引退までにもう1勝できる子となると更に減って2割ほど。そんな競争の激しい世界でジュニア級の半年間に2勝もしていればけっこうな有望株として見られるようになる。
その中でも、メイクデビューでは中盤前目の位置からの逃げっぱなしで私に釣られた他の子たちはスタミナ切れ、芙蓉ステークスでの最後方からの大捲りで私にペースを乱された周りの子はやっぱりスタミナ切れと、こんなレース展開をするウマ娘はどうも珍しいらしく、チビで痩せっぽちと特徴的な外見も相まって私への注目も次第に集まるようになっていた。
といっても、何が出てくるかわからないびっくり箱みたいな扱いで、一応負けなしとはいえ実力については疑問視されているような感じがある。『レース展開が有利に働いたから』とか『他の子が掛かってしまっただけでまぐれ勝ちがたまたま続いた』みたいなコメントがネット上でちらほら見られている。
そうした一方で、セオリーにない走り方をする私の次走を楽しみにしてくれているコメントもいくつかあるようだった。思いっきり出遅れて内心ではすっごい大慌てして最後尾になった途端にスンっ……てなった芙蓉ステークスも、表面上は徹頭徹尾、表情がまったく変わらないものだから、『出遅れたように見せかけたところからオンザループの作戦だった』なんて考察してくれている人もいるようだ。
走ってる人そこまで考えてないと思うよ。
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10月。シンボリルドルフが2勝目を挙げる。今度は1600のレースを2000のペースで走って勝ったらしい。肝っ玉が据わり過ぎている。
また、現時点の走りの評価という点ではシンボリルドルフにも勝っている、同じく無敗で勝ち進むベニバナニシキというウマ娘とで人気を二分しているようだ。
短距離・マイル戦ではサクラトウコウという、同じサクラを冠するからかやはりサクラチヨノオーに似ている(サクラチヨノオーはこれから先の未来で活躍するウマ娘なので、サクラチヨノオーがサクラトウコウに似ているのか)、そしてサクラホクトオーとも雰囲気が近いウマ娘の名前が知れ渡り始めている。
そんな、実力で評価されている彼女たちと比べると私の名前は面白珍獣ポジションになってしまっている気がする。
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前回はジュニア級の12月下旬にリセットをかけられてしまったけれど、結局育成目標が何だったのかは確定していない。状況的に特定レースに出なければならない目標だったということはないだろうけど、そうなると勝利数が足らなかったか、ファン数が足らなかったのか(そもそも未勝利だったので前回の私にファンがいたのかわからないけど)、おそらくどちらかだとは思う。
短距離やマイルは開催されるレース数が多いのだけど、中距離に限るとジュニア級で走れるレース数が限られてしまう。選ぶレースによるけど年内のチャンスが3回ぐらいしかないので、メイクデビュー含めて3勝しなければならないという目標は正直なところ現実的じゃないというか、考えにくい。一応、今回は順当に勝つことが出来てジュニア級の期間も3か月残っているので、年末までにもう1レース出れたらとは考えているけれど、「何としてもあと1勝! 次勝てなきゃ死ぬ!」みたいに固執はしていない。
当然、私がジュニア級を越えるために備えておかなければならないのは、勝利数よりファン数の獲得となる。ただし、こちらもファン数っていう基準がよくわかっていない。今私にはどれだけファンがいてくれるのだろうか、正確な数を確かめようがないのだけど。
アプリゲームの方では、メイクデビューで1着をとると1000人弱のファン数にプラスでサポートカードのファン数増加補正が掛かって増える感じだったし、OPレースはあんまり出走した覚えがないからうろ覚えだけれど、確か1500人ぐらいの増加数があった、ような覚えがあったりなかったりしている。
一応ゲーム基準で考えると、何らかの補正が働いていない場合は現状で私のファン数は2500人をちょっと欠くぐらいいる計算になるのだけど、2500人もファンがいる実感が全然ない。オンザループというウマ娘の名前を知っているかという知名度みたいな感じで考えればもしかしたらそれぐらいいるかも知れないけど、ファンっていうと私個人の追っかけをしてくれているということで、それは結構難易度が高い気がしている。
目安となるのは出走条件となるのだろうか。例えば12月下旬に開催されるGⅠレースのホープフルステークス。これの公開出走条件にファン数1000人というのがある。ここまでだとどうやって計測してるのか全然わからないのだけど、雀宮トレーナーに私でも出走できるか聞いてみたらどうやら条件は満たしているとのこと。トレーナーにはURAから配られているレース出走申請アプリがあるようで、そこにはURAやNAU(地方ウマ娘全国協会)に登録されているウマ娘のデータが保存・随時更新されていて、私のデータなども登録されているので出走条件の可否がすぐわかるようになっているようだ。試しにファン数4500人が条件となっている皐月賞も出走できるか調べてもらったら現時点では申請すらできないようなので、今の私のファン数は1000人以上4500人未満となるようだ。
そもそも。2500人のファンが本当にいると考えても、私の脳内に刻み込まれている『マックイーン12月終わりまでにファン数3000人』を突破しておきたいので、3000人をボーダーと仮定するともう500人ぐらいファンになってくれる人が必要になってしまう。
もう一回レースで入着すればファン数も増えるのだろうけど、負けてしまった場合は増加数が0な訳で、一応レース外の事が通用されるのかはわからないけど、私の名前が世間に広まるように知名度UP作戦を実行することにした。もしかしたらサポカ補正みたいな感じでファン数アップしてカウントしてくれるかもしれないし。
「私の名前を色んな人に知ってもらうために、ウマッターを始めました」
「そ、そう、なの? 意外ね。あまり、ループさんはそういうことに興味があるようには見えないのだけれど」
トゥインクルシリーズを共に走るパートナー、雀宮トレーナーに事後となったけどSNSを始めたことを報告している。のだけど、彼女はなんだか戸惑った様子で私を見ている。動揺しているだろうか、珍しく口数が少ない。
昨日の夜から何個かウマートした画面を見せたのだけど、それから様子がおかしい。
「その、ここに書かれている文章って、ループさんが書いたのよね? 誰かに書いてもらったとかではなく」
「はい。何を書けばいいのかわからなかったので、その日にあったことを書くようにしようかと」
「体操服姿で無表情のループさんの自撮り写真は、ネットリテラシーの観点で注意しておきたいところがあるのだけど、この『トレぴとダベってアゲアゲ☆ ウェーイ☆』って、これ、この本文は?」
「雀宮トレーナーとミーティング後の写真ですね。次のレースに向けてやる気満々なのでこれからがんばります、という意味です」
「いえあのそうではなく。内容の話ではなく、その、言葉遣いの方なのだけど」
流石は雀宮トレーナー。ギャルの経験でもあったのだろうか、パリピ語の内容の解読は済んでいたらしい。
となるとこの稚拙だろう私のパリピ語の粗も見つけていたのだろう。恥ずかしい限りだ。
「ああ、なるほど。練習中なのです」
「れ、練習? なんの?」
「ええ、はい。パリピ語です」
「何故っ!?」
「今後、私が使うことになる言語だからです」
何故と言われても、前回は結局ヘリオス先輩の言葉をしっかり理解できるようにならなかったからに他ならない。パーマー先輩にも教わってたけど半年では足らなかった。たぶんまだパリピ語検定4級ぐらい。
いつかまたヘリオス先輩とお話しする時「るぷたん!」って呼ばれたら「どしたんヘリぴよ!」って呼び返したいというひそかに温めている野望がある。
「今後、使う……? パリピ語を? えー……。その、次のウマートも自撮りだけれど、この格好はゴルフウェア、かしら? ループさん、意外だわ。ゴルフをやっているの? ……いえ、違う違う。そっちよりこの本文の方がまたちょっとおかしな感じの関西弁なのだけど? これは?」
「タマ先輩と話していると『なんでやねん』とツッコミをよくもらうのですが、この前はついに『ええ加減にせえよ、ほんならこのまま漫才コンテスト一緒に出て二人で賞金かっさらうか』とお誘いをいただいたので。漫才する人は関西の人が多いようですから関西弁の練習も始めました。タマ先輩のお誘いとあれば万難を排して臨まなくてはなりませんし、知名度アップの目的に合致しているので漫才もやぶさかではありません」
「……えっと、たぶんそれはイジりというか、ループさんがボケ倒してるのを揶揄してるというか、そういう意味ではないと思うのだけど」
そういう意味ではないって漫才コンテストは出ないってことだろうか?
あと、ボケ倒している、というのも意図を掴みかねる。私はいつもフラットである。外面に感情が出難いだけで内面はこの通りの平常運転。無口系クール美少女の外面に似合わない思考回路をしてる自覚はあるけど、それを表に出力する機会が普段まったくどこにもないだけだ。
「あの、以前から薄々思っていたのだけど、ループさんって結構、愉快なウマ娘だったりします?」
「いえ。面白味もないウマ娘だと思いますが。御覧の通りニコリともできない仏頂面ウマ娘です」
「あー、そっかー……。ウケ狙いじゃなくて天然さんかー……」
雀宮トレーナーが、エース先輩やタマ先輩が最近私に向けてくる目で見てくる。
なんだかわからないけど呆れられてるのはわかる。あとたぶんなにかを諦められている。
「とにかく、このままでは小柄でお人形さんみたいなループさんのイメージが崩れてしまうというか、既存のファンが離れてしまいかねないというか、ファンを増やしたいという事ならウマートの内容もブランディングを考えないと。やっぱりループさんの外見に合わせてパンケーキとかスイーツ、動物、かわいらしいアクセサリーとか、ロリータ・ガーリッシュな感じで押していけば一定数の人たちには刺さると思うのよね。路線変更するにもこのウマートは一旦削除して、最初からまた……」
「あ、シービー先輩が引用で拡散してくれてる*1。タマ先輩もだ*2。おお、すごい影響力。通知が鳴り止みません」
「遅かったみたいね……」
ぴろんぴろんと通知を知らせる音がずっと鳴ってる。こんなずっと動いてたらスマホのバッテリーがすぐなくなりそうだ。
その後、別の人たちに先日のレースや勝利者インタビューの動画を一緒に貼られて、『これ、この無口なちっちゃい子本人がこのウマッターやってるの? ウソでしょ。ゴーストライターいるんじゃない?』などと話題になっている。他にも、休日になると決まって河川敷を走り続けている私は、真夏でも真冬でも雨が降ろうが雪が降ろうがトレセン学園のジャージを着て延々と走っている謎の小学生ウマ娘として一部で噂になっていたらしく、動画が拡散したことでその目撃例なども色々まとめられてしまってこれまたちょっとした話題になってしまった。
結果、開始して3日にしてフォロワー数が4人から爆増して7000人になった。でも、これをファン数に換算していいのだろうか。ウマッター芸人枠に入れられてるだけで、私のファンになってくれてるって感じがまったくしない。