URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

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84世代⑭

 

 晴天の中山レース場に響くオーケストラ隊によるファンファーレ。恒例となる観客席からの手拍子と、生演奏が終わったところで大きく歓声が沸き上がる。

 

『誰をも魅了し、心を奪う希望の星が誕生する、ホープフルステークス! 雲一つなく澄んだ冬晴れの下、集うは11人のウマ娘。バ場は良バ場となります』

『今年のルーキーたちも粒ぞろい。三番人気はこの子、1番シイナトーラス。二番人気は8番ホリデーハイク。一番人気は4番ニシイナビカリ。どのウマ娘もジュニア級で好成績を残している有望株、気合は充分ですね。注目はやはり、前走で3バ身差をつけての勝利を見せたニシイナビカリでしょう』

 

 年末に開催されるホープフルステークス。GⅡ、GⅢの重賞レースを飛び越えて、私はこれからGⅠレースに挑む。

 やっぱりGⅠレースともなると観客の数が桁違いで、ましてそれが年内最後に開催されるとなればなおさらだ。私は有記念同日開催のレースに出走経験があるのでこの観客席が埋まっている光景を目にしてもそこまで気負わずに済んでいる。

 これまでと一番違うのは、やっぱり勝負服の存在だろう。同じレースに出走するみんなが思い思いの色とりどりな姿をしているだけで、胸にこみ上げてくるものがある。

 これまでずっと、それこそ3回目の私から数えたら20以上の公式レースを体操服姿で臨んできた。未勝利の私でもいつかは勝負服でGⅠレースを走りたい、そんな想いが、秘めていた願いが、折れて潰えてしまったハズの夢が、巡り廻って今日叶う。

 もちろんこれから出走する他の子たちも普段通りとはいかない様子だ。しきりに芝を足裏で擦ったり、着ている勝負服のあちこちを確かめたりと落ち着かない子が多い。かくいう私も妙に浮ついてしまってて、気が付くとしっぽがゆらゆら揺れてしまってる。たぶん表情はまったく変わってないんだろうけど。

 

『最後に10番アシュラマンガンがゲートイン。全てのウマ娘がゲートに入りました』

 

 さて。再三のことだけれど2000mは私にとって走れるけれど得意な距離とはならない。加速しきることは出来ても、充分なリードを作るには距離が足りない。なんなら2000mのゴールに合わせて先着する為に加速しきる、というのも体が軋むぐらいには無理をしてのことなので、本来であればもう400mぐらいは欲しいというのが正直なところなのだ。

 でも、ジュニア級GⅠレースは地方開催を含めても4つのみ。そのうち3つがアプリゲームで分類されるところのマイル距離となっていて、唯一の中距離レースがこのホープフルステークスとなる。GⅠレースでなくとも2000mよりも距離が長いレースは開催されないので、開催レースの少ない2000mすら避けていたら来年の春まで走るレースがなくなってしまう。もし私が得意とする2400m以上のレースまで待つとなると、一番早くても皐月賞より後ろの4月下旬から5月上旬に開催される青葉賞となる。ジュニア級を突破する為、年内までにファン数獲得をと考えるとそんなのんびりしている訳にもいかない。

 ただし、色々と懸念点を挙げたけど今このタイミングで2000mを走るのも悪いことばかりでもなくて、デビューしてから早ければ早いレースほど私が明確に有利となる点がある。上手く活用できたなら、GⅠレースだろうとも充分に勝ちの目があるハズだ。

 

『スタートしました! 11人のウマ娘がゲートから飛び出します。ホームストレッチでの先行争い、3番ベンガルソウルが先頭へと進みます。2番手に8番ホリデーハイク、続いて10番アシュラマンガン。1番シイナトーラスと11番オンザループが横並び……』

 

 芙蓉ステークスとは打って変わっての抜群のスタートが切れた。他の子たちのように緊張しきっていなかったのが功を奏したのだろう。それでも、先頭には立てず加速で追いつけずに逃げウマ娘を射程に収めた中団前目に。

 流石にジュニア級とはいえGⅠレースというだけあって、出走している子たちもこれまで好成績を残せた子たちばかり。スタートした時点でこれまで走ってきた公式レースとは速度が違う。いきなりペースが速い。そんな中でのこの位置取りは最高のポジションだ。どれだけ最高のスタートを決めたとしても、私ではこれより前目のポジションにつくことはできないだろう。

 ぎしぎしと、軋むような響きを体中で感じながら、置いて行かれないように更に脚部に力を込める。それはいつもと違って激しく鋭く、ダイレクトに芝からの反発を私に伝えてくる。

 

『第一コーナーに差しかかって大きく外に回っているのはオンザループ。内からはアシュラマンガンが先頭を狙っています。ハナに立つのは依然ベンガルソウル。しかし二番手ホリデーハイクとのリードは縮まっています』

 

 他の子と接触しようものなら一方的に弾き飛ばされるので、私が中団位置を走る時は必然的にバ群から出て外を走るしかない。やっぱり私の足音は周囲には聞こえにくいらしくて、バ群の中で他の子が私の位置を察知できなくて体を寄せてくることが間々ある。そういう意味では今回大外11番になったのは幸運だった。この前みたいに閉じ込められて後方に追いやられることもないし。

 

 私も今回は2戦2勝という成績なので見劣りはしないのだけど、前回までの私の勝ちきれなかった印象が強すぎてジュニア級の有望株と言われても全然ピンときていない。とりあえず知名度は一番なのに世間評で色物枠なのは間違いない。パドックで私がランウェイに立った時、私を知っていた様子のお客さんたちから応援の声こそあったけど、私のちんまい見た目やこれまでのレース振りもあって勝てるとは思われていない。

 ただ、他のウマ娘たちからはかなり警戒をされている。それは間違いなく、私がシンボリルドルフと併走を続けていることが原因だった。シンボリルドルフは調整の為に他のジュニア級の子とも走ることもあるのだけど、どの子とも長続きはしていないようだ。併走中にどれだけスパートしても彼女の背中に近づけないことから併走相手の心が折れてしまうことがほとんどだし、敵わないのを承知で次を申し込もうとも、シンボリルドルフに一矢報いるだけの素養がなければトレーナーを通してやんわりと断られてしまうという。

 これまでに十回ほど、そして現在も彼女と併走し続けているのはジュニア級では私だけで、ただそれだけのことで同期の子たちからはけっこうな警戒をされてしまっている。こうしてレースに出てもなんとなしに何人かが私に意識を向けているのがわかる。

 

『さあ第二コーナーを回って向こう正面、縦長の展開です。一番人気ニシイナビカリは現在6番手ですがバ群の中で落ち着かない様子。しきりに左右に移動しています』

 

 レース開始から直線400m。そして第一コーナーと上り坂が続く。ここまでで誰が前に行くのかと競り合いが起こりやすい。そして第二コーナーの下り坂からはレースのペースが落ちつきを見せる。この最初のペースにさえ置いて行かれなければ、私が前に出ていくことが出来る。

 シンボリルドルフがアドバイスしてくれていたように、加速力が劣っていることには擁護しようがないけれど最高速に関しては一線級の相手であっても戦っていける。一度スピードに乗ってさえしまえば、道中の巡航速度で走る相手ならば振り切れる。

 

『ここで先頭に立ったのはオンザループ。おっと? これは、スタート直後とは違って身体が低く沈み込むような走り方に。いったいなにが……?』

『一際小柄な体躯も手伝って異様に映りますね。故障でなければいいのですが……』

 

 ……中距離レースに合わせて、雀宮トレーナーと何度も調整して確かめながら進めているのが、『マイル距離で、スタート直後に先頭を奪うのに苦心していた4回目の私の走り方の再現』だ。

 加速に難がある走り方が私のウィークポイントである。その所為で最高速度に到達するまでの時間を要し、ここ一月ほどタイムがまったく縮まなくなっている。周りが伸びている中ではもう決して早いとはいえないタイムだ。

 これまでのように他のウマ娘が私に釣られてスタミナ切れするのを狙うのにも限度がある。ラップタイムを正確に刻むような、もしくは相手がどうあれ自分のペースを崩さないウマ娘がいたらそれだけで勝ち目が0になる。

 タイムが短縮できていない以上これから先どんどんと置いていかれるだろうし、この走り方をしている限り2000mに関しては打つ手がないという結論になってしまった。

 

『振り返っていきましょう。先頭はオンザループ、2バ身後ろに二番手アシュラマンガン。その外並んでホリデーハイク。1バ身離れてベンガルソウル。シイナトーラス。さらにモロオカボシ。ニシイナビカリが追いかけます。続きましてグリグリフィン、すぐ後ろにチョウナンヒカル。そこから2バ身後ろトンファーキックとミツガシワは最後方』

 

 ならば、せめて加速の間だけでも走り方を戻すしかない。

 

 もちろん、シンボリルドルフが何故そこまで執拗にとまで言った脚に負担をかけない走り方、それですら身体が悲鳴を上げているのだから、さらに速度を重視するフォームで走ればその負荷は比べ物にならない。今回も最初だけですぐに走り方を戻したけどヒザとスネあたりの骨がずっと軋んでいる。レース途中で走り方を変えたからかわからないけど、なんだか肩とか他の関節も痛い気がしてきた。

 

『残る800mの標識を越えて第三コーナーに入ります。先頭から中団にかけて動きがありました。先頭オンザループがリードを広げます。現在6バ身、二番手にはアシュラマンガン、続きましてホリデーハイク、ニシイナビカリ。後方からチョウナンヒカルが上がってきています。シイナトーラスは2バ身後ろ。外を回るのはモロオカボシ。その内ミツガシワ、グリグリフィン。ベンガルソウルとトンファーキックが追いかけています』

 

 そんな、逃げを打って先頭を取ることに腐心していたあの頃の私の走り方でも、今回の私では前目について先頭集団に置いて行かれないようにするので精いっぱい。そもそも前回の私と今回の私では身長やら筋肉量やら体の出来が違うので、逃げ重視の走り方を充分に活かせていないという問題もある。ただ、それをしないとジュニア級の今ですら勝てるかどうかが既に怪しいのも事実だった。

 

『先頭のオンザループ、ゆっくりゆっくりとリードを広げています。ペースを上げ続けていますがこれは大丈夫でしょうか?』

『えー、前走では最後方からの大捲りを見せていますね。メイクデビューでは先行策を採っていて、得意となる脚質はわかりませんがスタミナには自信があるのでしょう』

 

 ここから先、私が先頭に立った以上はペースが上がることはあっても落ちることはない。

 すぐ後ろにあった足音は今は大分離れて聞こえている。ついてきてくれるならスタミナ勝負、ついてこないのなら思う存分、好き勝手にリードを広げさせてもらおう。

 

『さあ第四コーナーを終えていよいよ直線、依然先頭はオンザループ、完全に抜け出しています! 二番手にはチョウナンヒカル! 続いてシイナトーラス、一番人気ニシイナビカリも上がってきた!』

『中山レースの最終直線は300m弱、後ろの子たちは捉えられるか!』

 

 最終直線を走るのは、怖い。末脚の甘い私のようなウマ娘は、みんな同じ思いをしている筈。

 先頭を走れば、後ろを振り向いて二番手とのリードを確認するなんてことはできないし、足音で判断するしかないけど基本的には詰められるばかりで離れていくことはない。そして抜かされそうだと感じても、ここまできたらもうどうすることもできないからだ。

 

 ただ、今回私は焦燥感を覚えていない。

 これまで出走してきたレースよりペースが早いとはいっても、シンボリルドルフと比べたらまだ緩めだから前半の早い段階で先頭に立てたし、前を走っていても気を抜いた瞬間に首元に嚙みつかれるような追い立てられるプレッシャーもない。誰にも邪魔されることなくのびのびと走れた。

 初めてスタートで走り方を変えたこのレース、課題だった序盤の加速力不足はほぼ解消出来た。これなら2000mのタイムも大きく縮めることが出来たと確信している。

 それでも。シンボリルドルフがいたなら足音がこんなに遠く聞こえるほどのリードを許さず、私を射程圏内に収めていただろう。

 

『後続が追い上げる! チョウナンヒカル、ニシイナビカリ、シイナトーラスがこぞって追い上げるが、中山の直線で9バ身のリードは厳しいか!? 6バ身、5バ身……3バ身差ここでゴール!』

『1着はオンザループ、2着にニシイナビカリ、3着チョウナンヒカルとなりますが、審議のランプが点灯しています。結果が確定するまでお待ちください』

 

 ゴール板の前を一番で駆け抜けて、そのまますぐに立ち止まらずにゆっくりと速度を落とす。少なくとも2バ身差はつけていただろうから判定も必要ないくらい文句なしの1着。呼吸を整えながら、私を応援してくれた人たちに向けて観客席に手を振った。

 その先、観客席がざわついているのを見て、すぐに手を止める。反射的に掲示板へと目線をやるとその理由が書かれていた。

 出走したレースで起こったのは初めてなので、どうしたらいいのかわからずきょろきょろしてしまった。そうしているとほどなくしてレース場全体にアナウンスが流れる。

 

【お知らせ致します。中山レース場第11レースは第4コーナーで、4番ニシイナビカリが外側にふくれたことについて審議を致します】

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 どうやら4番の子が意図せず斜行して後ろから追っていた他の子たちの進路を妨害してしまったようで、審議の結果降着ということになってしまったようだ。一番前にいたので私の順位は変わらなかった。

 

 レースの後に控室に戻った私は用意していた氷水を使ってアイシングを続け、脚の熱が引いたあたりでウイニングライブの時間になり練習期間一か月の『ENDLESS DREAM!!』をちょっと振り付けに自信がないまま踊り切った。

 そうしてちょっとふらつきながら戻ってきた控室で勝負服から着替えていると、繰り上げ2着になったチョウナンヒカルちゃんに声を掛けられてLANE(レーン)(メッセンジャーアプリ)の連絡先を交換することになった。

 芙蓉ステークスでも出走していて私の後ろにぴったりついて2着だった子なのだけど、前回は最後方から先頭へ向かう私についてきてしまって最終直線でスタミナが持たず、今回はトレーニングをし直して挑んだ様子なのだけどまた一歩届かずということで私のことをライバルとしてみてくれているみたいだ。もし都合がよかったら合同トレーニングしないかとも誘ってくれている。

 彼女と話していると、斜行して降着してしまった4番の子――ニシイナビカリちゃんが妨害してしまったチョウナンヒカルちゃんにも謝りにきて、その場に居合わせたことでちょっと話して彼女ともLANEを交換した。彼女は実力はしっかりあるのだけどどうやら力一杯走ると足取りが怪しくなってしまうようで、実は斜行も今回が初めてのことではないらしい。今しがたURAからも注意を受けて、年明け早々にはトレーナーさんとの矯正トレーニングが待っているようだ。周りの子にも迷惑かけちゃったりで結構へこんでた。

 

 前回までの私はレース後トレーナーと一緒にいる他の子たちを眺めるばかりで、私はいつも一人で着替え終えると他の子に声を掛けることも出来ず、あちらから声を掛けられても「お疲れ様でした」ぐらいしか返せずに、すぐにレース場を後にしていた。

 だから、こんな風にレースを通じての知人ができるなんて想像もしてなかった。うれしい。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 年内最後のレースが終わり、年末にはURAが年度代表ウマ娘を発表する。各部門、記者たちによる投票で選出されるようなのだけど、なんと私がジュニア級年度代表ウマ娘の候補に挙がったようなのだ。

 3戦3勝の負けなし、しかもGⅠレースを勝利したことで結構な投票数を集めた様子なのだけど、残念ながら候補止まりとなった。最終的にはGⅠレースのジュベナイルフィリーズと他に重賞レースをひとつ含む4連勝している他の子が選ばれたようだ。

 来年のクラシック戦線に向け、強いと評判が集まるウマ娘が出揃い始めている。現状、世間からはジュニア級GⅠレースであるフューチュリティステークス・ジュベナイルフィリーズ・ホープフルステークスを制した三人のウマ娘(私含む)が注目を集めているけれど、競走ウマ娘たちの認識ではあくまで有力ウマ娘の一人に過ぎない。まだ表立った露出こそ少ないけれど、これから立ち塞がるであろう強敵たちが控えていることを知っているからだ。

 テレビ中継に映るジュニア級年度代表ウマ娘の子も決して楽観はしておらず、来年のクラシックへの意気込みを語っていた。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 年が明けた。

 意識の断絶は訪れず、結局問題となっていたのが勝利数だったのかファン数だったのかもわからないままジュニア級を突破した。

 

 お正月休みは年末にレースがあったのを理由に地元には帰らず、寮でのんびり過ごすことにした。

 元旦には雀宮トレーナーに新年の挨拶をして、そのまま一緒にクラシックへの願掛けも兼ねて初詣に向かうことになった。雀宮トレーナーには振袖での初詣をオススメされたのだけど用事が済んだら新年初トレーニングをしたかったので丁重にお断りした。

 お参りの後は神社で甘酒を飲んで、屋台の食べ物を買ってトレーナー室でお昼ご飯を食べようと学園へ戻ろうとしたのだけど、なんか振袖姿の女の子たちとすれ違った雀宮トレーナーが隣を歩く私を見てぴたりと立ち止まってしまった。

 なんか目を見開いててちょっとこわい。

 

  その時、ふと閃いた!

  このアイディアは、オンザループの

  コーディネートに活かせるかもしれない!

 

「ループさん絶対に和ロリ*1も似合うわ。ホープフルステークスのお祝いにプレゼントしてもいい?」

「いらないです」

 

 

 

*1
和風ロリィタのこと

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