URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

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84世代⑯

 

 陽キャ二人に絡まれ哀れにも物言わぬ石像と化した私はヘリオス先輩の脇に抱えられて運搬されてしまった。そうして「ちびっ子も一緒にオケろーぜ!」ってなし崩し的に連れてかれた先はカラオケ店の店先。

 なるほど。オケるってカラオケに行くってことなのね。また一つ私はかしこくなった。

 

「お待たせしました、ニシキ先輩。また突然なんでビックリしましたよ。たまたまオフだったからよかったものの」

「そのへんの文句はヘリオスに言ってやって。こいつが急にオケりたいっていうからさー」

「シチー! いつメンにニューカマー! コレるぷたんな! 歓迎フェスオケで最アゲしてこーぜぇ!」

 

 私が固まってる間にもう一人ぐらい声を掛けてみるかってことで連絡していたらしく、店の前で知ってる顔が合流した。

 学園内で遠目に見かけたり、モデルをやってる彼女に憧れている学園生がいっぱいいると聞いたことがあったけど、これまで接点がまったくなかったウマ娘、ゴールドシチーだ。

 ウェーイするヘリオス先輩の片腕におなかを抱えられたまま、手も足も地面に届かないので無抵抗にだらんと垂れている私は彼女にまじまじと眺められてる。

 

「この子、知ってる。オンザループでしょ? 雑誌に写真載ったの見たよ。同じプラチナブロンドってことで気になってたけど、私とはけっこう感じが違うね」

 

 私とゴールドシチーは栗毛の中でも金色になる髪色で、これまたウマ娘の中でも結構珍しい。現にトレセン学園全体で見てもあまり見かけない。向こうも珍しくも同じ髪色ってことで私の事を認識していたようだ。

 

「はい。オンザループです。あの、ループって呼んで……」

「あ、枝毛見っけ。髪の毛ちょっと痛んでるじゃん。ちゃんとケアしないと」

 

 お、おわー! それはそれとして、距離の詰め方がえぐい! あっという間に近寄られて髪の毛触られてる。

 うん。こうして至近距離で見ると流石ゴールドシチーって感じだ。100年に1人の美少女ウマ娘と言われるだけあってすっごい美人さん。目鼻立ちもはっきりしてて、透き通るような白い肌に金色の髪の毛のキューティクルはつやっつや。素材からして美の暴力って感じなのに、さらにケアして薄く化粧までちゃんとしてて非の打ち所がない。

 私とて91年に1人ぐらいの美少女ウマ娘ではあるけれど、延々と小学生ばかりを繰り返してきただけの付け焼刃女子マインドでは太刀打ちできない。自意識と経済状況からほぼほぼ手を加えてきてない素材本来の味な時点で圧倒的な敗北感がある。ダメだ、薬局で一番安売りしてたコンディショナーじゃ勝ち目がない。

 

「へ、ヘリぴよ、たすけて」

「うはっ!! ヘリぴよってヘリオスのこと!? マジいいじゃん! 激ヤバ! るぷたんセンスあんねぇ!」

「アダ名つけてくれんのガチめに嬉しいんだが!? ウェーイ! テンション、ぶ・ち・ア・がって・キター!」

「へぇ、おもしろ。ループってそんな感じだったんだ。冗談とか言わないタイプだと思ってた」

「ミ゜」

 

 ぐああーッ!! 死ぬ。私と私以外とのテンションの高低差で心が死ぬ。

 この中で唯一見知っている相手(ヘリオス先輩は私のことを知らないけど)に助けを求めたのだけれど、失敗した。パリピ語の練習している時からいつかはヘリオス先輩のことをこう呼んでやるんだって思ってたけど、タイミングとして今じゃなかった気がする。一気に距離が縮まってしまった。

 私からギャル語というかパリピ語由来のあだ名が出てきたことで、三人ともとにかく話が通じる奴認定してくれたみたいだった。噴き出したベニバナニシキには両手でサムズアップを返されたし、なんか感激した様子のヘリオス先輩には一度地面に降ろされた後、脇の下に手を入れられて体ごと高く持ち上げられるや彼女と一緒にぐるぐるとスピンすることになった。そんな様子をゴールドシチーには「フッ、おもしれー女」みたいな感じで見られてる。珍妙な動きをする小動物を見た時の表情である。知ってた。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 その後、カラオケに行って2時間ほど四人で歌うことになった。ヘリオス先輩に天高く持ち上げられてる状態であの流れから断れるような対人スキルは私にはない。

 カラオケといってもあんまりテレビとか見ないので流行ってる曲とかもわからず、だいたい聴く側に回ってたのだけど、街中とかコンビニとかにも流れてるようなすごい有名で知ってる曲なんかは誘われて一緒に歌ったりもした。

 私がちゃんと歌える曲となるとほとんどウイニングライブの課題曲とかになってしまうのだけど、その中でも個人的に好きな曲である『彩Phantasia』を歌ったら他の三人も一緒に歌ってくれて、育成ゲームの方では聞くことが出来なかったダイタクヘリオスとゴールドシチーの『彩Phantasia』を聞けたりした。

 二人もすごい上手なのだけど、個人的にはベニバナニシキが一番の歌ウマ娘だった。聞いたら一人カラオケが趣味らしくて、今日は突然だったので持参してないけどマイマイクを持ってたり、カラオケのメーカーの機種とかにもこだわりがあるらしい。なんにせよお金とれるでしょっていうプロレベルの歌を間近で聴けて、すんごい感動してしまった。

 あと、カラオケ中にヘリオス先輩って呼び直したら「なぁんでよぉー、ヘリぴよって呼べし!」ってハの字眉毛の悲しそうな顔をされてしまったので今後ヘリオス先輩のことはヘリぴよと呼ぶことになってしまった。

 

 

 みんなで大声を出して歌うってことがすごい楽しくて、2時間があっという間だった。

 そうだった。すっかり忘れてたけど、カラオケって楽しかったんだ。ウマ娘になってから初めてのカラオケだったのだけど、ベニバナニシキもヘリぴよもゴールドシチーもノリが良い。音域的に歌えそうな曲もいっぱいあるし、気分転換になるしですごい気持ちよかった。これは世の女子中高生たちがみんなカラオケに行くわけだ。トレセン学園でのボイスレッスンだとこうはいかない。

 最後に記念に四人全員でセルフィーを撮って、三人にウマスタグラムに載せてもいいか聞かれたので大丈夫と返す。三人ともウマスタグラムがメインでウマッターはそんなやってないらしい。私の方もウマッターに投稿しておいた。

 ヘリぴよからの「またすぐオケるから覚悟しとけー?」ってお誘いにはつい何度も頷いてしまった。んでもって「るぷたんもウチらとオケってくれそうな知り合いいたら呼んでいいかんね」って言われたので、次までになんとかパーマー先輩にも声を掛けてみようと思う。

 

 たぶんこの日、ベニバナニシキは私に宣戦布告をしに来たのだと思うのだけど、なんか話の流れで、というかどう見てもヘリぴよに押し切られて一緒に歌って仲良くなってしまった。三人とLANEを交換してまた連絡すんねーって和やかに別れてしまったので、今やたまに世間話する間柄である。

 なお、LANEのトークグループでヘリぴよからベニバナニシキとゴールドシチーにもあだ名つけてくれって言われたのだけど特に何も思い浮かばなくて『バニキ』『ゴルシ』って言ってみたところ本人たちに即却下されてしまった。さもありなん。

 

 うん。あとはやっぱり次に備えて曲の勉強と歌の練習をしとかないと。いかんせん流行りの歌がわからない。

 練習か……。一人カラオケってちょっと勇気要るんだけど、後でベニバナニシキに一人カラオケっていきなり行っても大丈夫なのか聞いておこう……。

 

 

 ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 中山レース場で弥生賞が開催された。クラシック三冠初戦の皐月賞のトライアルレースとなる為、三冠路線を目指すウマ娘が多く出走する。

 そしてこのレースはジュニア級から騒がれていたベニバナニシキとシンボリルドルフの二人の初対決の舞台となる。GⅡ競走なのにテレビのニュースで大きく取り上げられるほど注目を集めていた。

 

 結果から言ってしまうと、シンボリルドルフの勝利という形に収まった。1と半バ身差の2着に、ベニバナニシキ。

 ……出走したウマ娘、そのトレーナー、多くの観客たちと、どれほどの人が気づいたかわからないけれど、ゴール板を潜った時シンボリルドルフは余力を残していた。相手の力量を把握し勝てると判断したシンボリルドルフは大差勝ちをしない。余計な力を使わず、1~2バ身ほどの差で勝利する。

 今まで出走した全てのレースでそうだったし、それは重賞レースとなる弥生賞でも変わらなかった。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 実は、あのカラオケした日から数日経つ頃にはベニバナニシキはすっかり私の相談相手となってくれていた。歌の練習の為に一人カラオケの心得を訊ねたところ、カラオケ好きになってくれるなら大歓迎ということで懇切丁寧に色々と教えてくれたのだ。なんだかんだ面倒見のいい性格で、あれこれと世話を焼いてくれた。ウマ娘は総じていい子ばっかりなのだけど、その中でもギャルウマ娘はみんなコミュ力高くて他人を労われる優しい子ばかりな気がする。

 なんだろ。わかってたことなんだけど彼女たちを前にすると引っ込み思案で仏頂面な私は人としてボロ負けしてる気持ちになる……。

 

 そんな中で、なんで初対面となったあの日はわざわざ私なんかに会いに来たのかと馬鹿正直に直接聞いてしまったのだけど、要約すればシンボリルドルフへの対抗心ということだった。

 ベニバナニシキは競走ウマ娘を母に持つ由緒ある家に生まれ、地元ではもちろん、エリート集まるトレセン学園においても負け知らずだった。メイクデビューを経てからもあらゆるレースで後続を突き放し、何バ身もの差をつけて勝利してきた。周囲もベニバナニシキこそが最強であることを疑わずに彼女を褒め称える。事実としてそれに違わぬ実力と実績を持っていたから自身の走りに絶対の自信があったし、周りがそう評価してくれるのも悪い気はしていなかった。

 しかし、同期で後から出てきたのがあのシンボリルドルフである。周囲から一頭地を抜くベニバナニシキに降って湧いた強敵。それでも、いくらシンボリ家出身の生粋のエリートだなんだと騒がれていようとも自分ならば問題なく勝てると踏んでいた。そうこうしているうちに皐月賞が目前となって世間ではシンボリルドルフこそが最有力なのではないかと評価が変わってきていて、それどころか本命シンボリルドルフの対抗にはベニバナニシキかオンザループか、という見方も出てきている始末だ。

 知らないところで勝手にクラシック戦線の最有力だなんだと騒ぎ立てられて、実際に競走したこともないのに勝手にその本命から降ろされて、あまつさえ実は三番目かもしれないなんて言われては面白くない。そんなもやもやを晴らすべく、肝心のシンボリルドルフと、年明けからずっとレースに出走してもいない私の様子を見に来たようだ。

 

 それで、実際にシンボリルドルフにも会ってみたようなのだけど、あちらとはあんまりウマが合わなかったようだ。同じ高等部の一学友としては問題はないけれど、あまりにノリが違うのでどこかに遊びに行く相手とかにはなりそうにないとのこと。

 私は中等部の上にどうも身長やらなんやら見た目が小学生過ぎるので、一目見てこんなちっちゃい子相手に敵意を向けるのは違うんじゃないかって思ってしまったようだ。挑発っぽい言葉を投げかけてみたはいいけれど実は内心どうしようかと焦っていたらしい。

 すまない……私がこんな見た目なばっかりに……。 

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 

 4月。

 中山レース場で開催となる皐月賞。シンボリルドルフにベニバナニシキ、他に私の知ってる子だとニシイナビカリ。そしてもちろん私も出走する。

 無敗で弥生賞ウマ娘となったシンボリルドルフが一番人気。2着でこそあったもののあるいは覆せる着差、そして前走までは無敗だったベニバナニシキが続いて二番人気。そして私は、皐月賞と同条件のホープフルステークスを制した同じく無敗GⅠウマ娘だけれどレースからしばらく遠のいていて、今年になって初出走ということで三番人気となった。

 

「……」

 

 パドックでのアップが終わり、遠目にシンボリルドルフを見る。勝負服を着ているけれど、いつもどおりの彼女だった。

 ベニバナニシキを始めとして、当然この皐月賞に出走するウマ娘なんてエリートの中でも選りすぐりの子たちばかりだ。そんな17人の実力者たちとこれからレースで競おうというのにシンボリルドルフにはまったく気負った様子はない。常のまま平心であり。勝利は当然のもの、負けるだなんてまったく考えていないのだろう。

 もちろんその相手となる17人の中には私も含まれている訳で、私やベニバナニシキですらも勝利を脅かす敵とは見られていないということだ。

 

 ――――さあて。これまで2000mの併走では一度も勝てなかったけれど、シンボリルドルフを相手に加速重視となる4回目走法を使ったことはなかった。公で初めて使ったホープフルステークスを、果たしてシンボリルドルフは観ただろうか。

 2000mを通して走れたのはホープフルステークスだけとなるけど、あの時のタイムでも例年の皐月賞で入着できる。1着を臨むにはもう一押しとなるけれど、あれから4か月が経ち、年明けからのトレーニングで更にタイムを短縮できているかどうか。

 

 ぶっちゃけた話、消耗が激しくて私も練習で2000m丸々は試せなかったので今回がぶっつけ本番である。

 どう転がるかわかんない。

 

 




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