URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

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92世代②

 

 メジロパーマーと本来同室になるウマ娘については、覚えていたのを思い出せないとかではなく、そもそも記憶にない以上いくら考えてもわからないのでもう気にしないことにした。困ったことに、世の中にはどうしようもないことが多い。

 

「あ、ベッドはこっちを使ってね。そんで、一応アタシ高等部だから、なにかわからないことがあったら何でも訊いてくれていいからさ」

「えっと、はい。わかりました、ありがとうございます」

 

 それより差し迫った問題はメジロパーマーとどう接したらいいものかということであった。

 友人皆無のコミュ障ムーブが板についてしまっていることから察してもらえると思うのだが、年頃の女子とどういう会話をすればいいのかまったくわからない。

 しかもメジロパーマーは高校生で、私は入学したばかりの中学一年生なわけで、当然ながら彼女を先輩として敬い接しなければならないのであるが、社会人を経験した私からすると高校生もまだまだ子供だなぁ、という印象がどうしても浮かんでしまう。例え、それが私よりも頭半分ぐらい背の高い、あのメジロマックイーンやトウカイテイオーとレースでバチバチにやりあっているメジロパーマーが相手であってもだ。

 これまでに同室だったのはリボンカロルちゃんとヴィオラリズムちゃんと、どちらも同学年だったのでそういった意味でもまたやりにくい。なお二人とも挨拶と世間話ぐらいはしていたが、ついぞ休日に遊びに行ったりといったイベントはなかった。他に頻繁に連絡し合ってる仲のいい友達がいるみたいだったし……。

 

 一度目のオンザループはトレセン学園に入学すら出来なかったので、『好きなキャラに会いたい』なんて考えていたのに誰と会うこともなく終わってしまった。

 二度目は補欠合格からずっと校内レースでの最下位争いをしている状態で、この時にはもう最初の頃の浮ついた気持ちはなくなっていたと思う。単純にそれどころじゃなかったのだ。校内では知っているウマ娘を見かけたり、同じクラスだったりした子もいたけれど、トレーニングにかかりきりで気を割いている余裕もなかった。そして花が咲くどころか芽も出ずに、担当トレーナーを見つけられずに数か月で退寮することになった。

 三度目は、経験があったので二度目よりも速く走れてはいたけれど、正直なところ二度目ほどの必死さはなくなっていたと思う。努力した上で届かなかった二度目に諦めに似た納得をしてしまっていて、前回の失敗であった担当トレーナーがいない問題についてを妥協で解決させた後は考え事ばかりをしていた。トレーニングの傍ら、かつて同期だったサクラホクトオーについて調べたり、自分が置かれているリセット現象の考察をしていたのだ。そんな状態では当然ながらメイクデビューには勝てず、打開策も見つからないまま前回以上のトレーニングを自分に課したところ体が耐え切れずに故障、そのまま退寮することになった。

 

 こうして長々と語ってみたが、何が言いたいのかというと、かつてはキャラクターとして知っていたウマ娘と会うことを目標としていたにも関わらず、三度の人生においてまったく交流できていない。そして、今となってはキャラと仲良くなるなんて二の次で、レースで勝つことに重きを置くようになったということだ。

 一応、まったく交流がなかった訳ではなく、挨拶やちょっとした会話ぐらいなら寮長であるフジキセキやヒシアマゾンとしたことがあった。けれど、あくまで寮長と数いる寮生の一人という関係で友人と呼べるような間柄ではなかった。精々が知り合いとか知人とかそれぐらいで。トレーニングにかかりきりになっていた結果、友人を作ろうなんて考え自体がなかったというのは言い訳だろうか。

 

「ええと、オンザループ?」

「あの、呼びにくいと思うのでループって呼んでもらえたら」

「そう? そんじゃループもアタシのことも好きに呼んでくれて構わないからね」

「はい、パーマー先輩」

 

 私がそう呼ぶと、人好きする笑顔を浮かべるパーマー先輩。入学直後で右も左もわからない新入生を安心させようとしてくれているのだろう。私より人間が出来ている気がする。

 こちらとしてはトレセン学園に入学したのも三回目、栗東寮で生活するのも二度目になるので勝手知ったる栗東寮といったところなのではあるけれども。

 

「それじゃ早速だけど先輩からの入学祝いってことで。こんなもので悪いけどね」

「えっ? あ、いえ、そんな。ありがとうございます。嬉しいです」

 

 とりあえずベッドの上にバッグを置いた私は、パーマー先輩に渡されたペットボトルを受け取る。スポーツドリンクだった。

 ペコリと頭を下げて、手元のペットボトルをもう一度見て、ちょっときょろきょろと部屋の中を眺めてからとりあえず荷ほどきを始めた。

 会話を続けた方がいいのだろうか、いいのだろうな。でも話題もない。何を話したらいいのか迷った挙句、何か作業してれば会話しなくても気まずくならないという判断だった。

 おかしい。こんなでも社会人だったのに。休日がなさ過ぎて友達付き合いが激減していたが、友人だっていたのに。確かに一日の大半をパソコンと向き合っていて、同僚か上司としか会話がなかった毎日だったが、ここまで酷くなかったハズなのに。対人スキルがあの頃よりも明らかに悪くなっている気がする。

 

「ねぇ、ループ」

「はい」

「あ、そんなかしこまってする話じゃないから。やりながらでいいからさ」

 

 椅子に座ったパーマー先輩がじーっとこちらを眺めているので、変な汗を搔きながら荷解きをしばし。

 話しかけられたのですぐ手を止め、床に正座して向き直るとパーマー先輩が苦笑いしている。

 

「得意な距離とか、どんな走り方をするのかとか、まぁ人となりを知るっていうかさ。よかったらトレーニング場の案内がてら一回併走とかどうかなって」

「えっ、え? いい、それは、はい。是非、お願いしたいです」

 

 願ってもない話だった。内心ではいつか一緒にトレーニングしてもらえないかと考えていたけれど、まさかパーマー先輩から誘ってくれるとは。

 打算的なことをいえば友情トレーニングを実践してみたいとは考えているが、あれは絆が高まった相手とトレーニングすることで発生するものだった筈だ。知り合ったばかりの相手とでどうにかなる話ではない。

 どちらかといえば先ほど低すぎる対人スキルが露呈したばかりなので、普通に人付き合いが出来るようになりたいという思いが強く。またそれよりも同室相手で、そしてもう見るからにパーマー先輩がいい人なので仲良くなりたいというただただ単純な話だった。

 

「荷解き終わったらジャージに着替えて……あー、たぶんグラウンドは埋まっちゃってるだろうから、案内が終わったら河川敷かな」

「はいっ、お願いします」

 

 せめて熱意が伝わるように、こくこくこく、と必死にうなずく私を見て、にっこり笑ったパーマー先輩。

 

「ようし、そうと決まったら荷解き手伝うからさっさと終わらせちゃおう! こっちの段ボールから開けてくね」

「ありがとうございますぅ……」

 

 ああ、やばい。助けて。

 こんなに優しくされると私、この先輩、好きになっちゃう……。

 

 

 

 

 そうして河川敷へ。「とりあえず流してみようか」という言葉に従い、合図と共にパーマー先輩の隣を走り出す。

 アプリの知識、そしてテレビで観たレースでメジロパーマーの脚質が『逃げ』であることを知っていた私は、彼女に合わせてめいっぱい踏み込み始めに加速、そして出来る限りでそのペースを維持しながら長距離、長時間持たせるように足を上げ続ける。

 パーマー先輩のような『大逃げ』までは出来ないけれど、紛れもなく逃げの走法だ。

 

「おおっ!? もしかして、ループも逃げウマ娘だったの!?」

「……っ、…………ぁ、はっ…………!!」

「あっ、ごめんごめん! まさかの逃げ友って、ちょっとテンアゲしちゃった! 無理して返事しなくていいよ、走り終わってからで大丈夫だからね!」

 

 だが、やはり地力の差か、最初の加速の段階で早くも1バ身。そしてその差は見る間見る間にズルズルと広げられていく。

 おまけに手を抜いてくれているのだろう、私に走りながら喋る余裕なんてどこにもないのに、パーマー先輩は前を走りながら顔をこちらに向けて息を乱してもいない。

 一応、まだ入学したばかりで私の体に本格化が始まっていないということもあるけれど、それにしたってこの差はあまりに大きい。

 

「はぁ……! はぁっ……!」

 

 速過ぎる! 追いつこうにも離されるばかりで、どうしてこうも違うんだ。

 これが、ホンモノ。物語の主人公になれる者。レジェンドホースの魂を受け継ぐウマ娘。

 

「おつかれー! うん、引き離されずに頑張ったね!」

 

 数秒も遅れて、取り決めてあったゴール地点を越えると額にうっすら汗を浮かばせたパーマー先輩が迎えてくれる。

 対して最初から最後まで全速力で走った私は汗だくだ。手提げに用意しておいたタオルを、パーマー先輩が手渡してくれた。

 

「いやぁ。それにしても、なんか運命感じちゃうなー。同室だったエースさんも、ズッ友も、ルームメイトになったループも。こんなにも逃げ友に恵まれてるってかさー」

「あ、いや、そのですね。なんか喜んでしまってるところ申し訳ないんですけど……」

「ん?」

 

 ようやく息が戻ってきた私が、弁明する。

 今回、併走するということでパーマー先輩に合わせるために『逃げ』を選んだこと。もちろん実際にレースで逃げることもあるけれど、先行・差し・追い込みと他の走法を選ぶこともあること。

 三度も繰り返しておいて、未だに自分にハマる脚質がわからない。わかっていない。何せ一度も公式戦で勝てていないのだから。わからないから全部試して、わからないなりに使い分けているのだ。

 

「はぇ~、そういうこと。ループって器用なんだなぁ」

「いえ、どちらかといえば器用貧乏の方ではないかと」

「まぁ、そういうことなら、アタシの爆逃げでいいならこれから教えてあげられることもあるかもしれないね」

「ええっ?」

 

 思わず耳を疑う。

 こうして併走して、目の前で駆け抜けていくその姿を追いかけるだけで、一人で走るよりずっと勉強になった。楽しかった。叶うことならまた一緒に走りたい、トレーニングしたい。

 でも、今の併走からわかるようにパーマー先輩とは実力の差が開きすぎている。先輩には利がないどころか、本気も出せないんじゃ私の存在に足を引っ張られてしまうことだろう。

 でも、パーマー先輩の口ぶりでは、また一緒にトレーニングをしてくれるみたいな……。

 

「それじゃ、お近づきの印に一つ教えてあげようかな。比べちゃあれだけど本職の逃げウマ娘よりちょーっと思い切りが足りないみたいだからね」

「あ、ありがとうございますぅ!」

 

 パーマー先輩、一生ついていきます!

 

オンザループの成長につながった!

「逃げのコツ〇」のLvが1上がった




周回持ち越して高いかしこさを強みにしているウマ娘の姿か? これが……

なお、この作品においてスキルヒントLvは存在せず、スキルLv方式での自動取得になります。
Lv1~Lv4で、4が最大Lv。
主人公がステータスを確認できない以上マスクデータになるのでいつまで経ってもスキルを覚えた感覚なんてものは訪れません。
今回の逃げのコツ〇についても欠片も自覚はないです。
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