URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

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92世代③

 

 あれからも何度か併走してもらって、パーマー先輩の大逃げからは色々と勉強させてもらっている。

 もちろんトップスピードも初速もスタミナも、ないない尽くしの今の私が大逃げなんて打とうものなら確定逆噴射もいいところなのだけど、パーマー先輩の技術は普通に応用が利きそうなのだ。逃げている時限定ではあるけれど、直線で速度を乗せる方法だったり、先頭切っている時に息を入れながら坂を上る方法だったりを教えてくれた。

 

 パーマー先輩は(きた)る六月のGⅠ宝塚記念に備えて体を仕上げているところなので、本来私なんかの面倒を見ている場合ではないのだけど、同じく六月のメイクデビューを目指して頑張っている後輩を放ってなんかおけないよ、と週に一、二回ほどの頻度で一緒に走ってくれている。

 

 もうね、パーマー先輩がイケ女過ぎる。無口系クール美少女*1を自負しているこの私が思わず、こまった。あのイケ女にはちょっと勝てない……。ってなってしまった。

 私としても面倒をかけている分、パーマー先輩に何かしらのお返しをしたいのだけれど、いかんせんこれだというものが思い浮かばない。

 

 ……。パーマー先輩に倣って、私もギャル路線でいくか……? 一緒にウェイウェイできたら先輩は喜んでくれるだろうか……。

 しかしギャルになるって言っても、パーマー先輩の親友にしてパリピ語講師のヘリオス先輩とはまともに会話すら出来なかったのが現状だ。基本ローな私にとってヘリオス先輩のあのハイなテンションは劇薬なのだ。「るぷたん」「ちゃんルーピ」ってなんなのなの? どうやら私のことらしいよ! えっそうなの!?

 一言も言葉を発せず、目を見開いて固まってしまった初邂逅を思い出しただけで心が熱疲労で折れる。というか折れた。私がギャルになるのは無理だ。つらたん。

 

 

 前回担当(名義貸し)してくれたトレーナーさんは今回もトレセン学園に在籍しているようなので、前回と同じように話を持っていったら同じように申請してくれた。これでトレーナー探しに割く労力と時間をトレーニングに充てられる。最初の頃はそれにかかりきりになってトレーニングがおろそかになっていた上、最終的に見つけることが出来ず退学することになってしまったので、彼がいてくれるだけでかなり時間短縮になっていると思う。

 本当はさー! 私も「おっ! 君の走りには光る物があるぞ! 君が三冠ウマ娘になるための手伝いを僕にさせてくれないかい?」みたいなスカウトが来ないものかと待っているのだけど、一向にそんな人は現れない。

 もしかして、これはという人に的を絞ってこっちからアプローチしていかないといけないのだろうか? でも友達もいないから優秀なトレーナーの情報とかどこからも入ってこないしな……。

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 私はすんごい後悔していた。なんで私はダートに転向してしまったんだろうか。なんでも何もその理由は明らかで、ライバルたちと会う前から怖気ついて逃げだしたっていう以外にないんだけども。

 普段はダートトレーニングしているのでタイムも上がっているし、以前よりも走れているのは間違いない。問題は、併走時に計ってみた芝でのタイムの伸びがそれ以上にいいということなのだ。

 正直言って芝に戻りたい。パーマー先輩もダートを主戦場にしている私に気を使って「いっつも芝につき合わせちゃってるし、今日はループの得意なダートで練習しよっか? ほら、アタシもダートレースには出たことあるし。……六人中の六着だったけどさ」なんて言ってくれるものだから「実は若干ですけど芝の方が得意だったんですぅ」とは言えなくて心苦しいことこの上ない。

 

 ――それでなくても、落ち着いて冷静に考えたら今回の私のダート転向は大間違いもいいところだったとわかる。

 

 確かに今回、芝で挑めば負けるだろう。勝ち目がないと言ってもいい。けれど、それでも強い同期がいるのなら、幸運に思わないといけない。むしろ、その土俵に飛び込んでいかなければならなかった。どちらにせよ最後には同期含め強敵が勢ぞろいするURAファイナルズの決勝で一着を取らなければならないのに、その道中を楽な道にしたところで自分の勝率を下げるだけだ。

 育成目標を達成できなかった瞬間にリセットさせられてしまうという法則が真実だった場合、今回ダートを走って多少の成績を残せたとして、最後にURAファイナルズで敗退したなら何の意味もない。次以降に挑戦するとなった時、仮に同期にスマートファルコンやコパノリッキーがいたら今度はダートから芝に逃げるつもりなのか。

 ループすることを前提にし過ぎるのは危険だけれど、強敵がいるなら敵わなくとも挑み、いつか自力で勝てるよう経験値を積まなければならない。結果的にそれが最後まで勝ち抜く為の近道になる。その筈だ。

 

 ――とかなんとか意識高い系を装ってみたけれど、肝心のメイクデビューが4着だったのでそんなことを言い出してる。

 最近はパーマー先輩に色々教わっているので逃げばっかり練習していて、その分他の戦法よりも自信があったので今回も逃げを打ったのだけど、9人中5人が逃げという偏りがすさまじいレースになってしまったのだ。

 逃げなんて先頭取ってなんぼみたいなところがあるので思いっきり競り合ってしまい、結果一着はしっかり自分のレースが出来ていた差しウマ娘ちゃんであった。ま、まぁ5人いた逃げウマ娘の中では一番だったからね……。1600なのにゴール板くぐる時にはすっかりへろへろだったけど。実際のレースの模様についてはどうか割愛させていただきたく。私視点では泥仕合もいいところだったので。

 URAファイナルズとかなんとか言う前にまず目前のレースで一勝しないといけないと思います。

 

 ちなみにこのメイクデビューの一週前にはパーマー先輩の出走する宝塚記念が開催されていて、ヘリオス先輩と二人で爆逃げをかまして一着を勝ち取っていた。先輩に続きたかったのでこの結果自体は本当に悔しい。ルームメイトである先輩がGⅠウマ娘で誇らしいのと同時に、こんなにも不甲斐ない後輩で申し訳ない……。

 

 

  ・・・ ⏱ ・・・

 

 これまでの自分を省みて一層トレーニングに励み、未勝利戦に挑んだのだけれど結果が奮わない。

 敗因としては、ゲートから出た直後の初速がいまいち伸びていないことだ。出遅れたとかいう訳ではないので他に逃げウマ娘がいなければ通用するのだろうけれど、いた場合はまずハナを奪われてしまう。その場合も中盤に差し掛かる頃には速度も乗って先頭を奪うことが出来るけど、絶対に競り合うことになる為に少なくないスタミナを消費してしまう。このレースでも余力を残した他の脚質のウマ娘に最終直線で差されてしまった。中盤で追い抜けている以上、最高速については決して負けていないと思うのだけど……。

 

「おつかれ、ループ。もうちょっとだったね」

「るぷたん! だいじょぶそか!?」

「……パーマー先輩、ヘリオス先輩。すみません、負けてしまいました」

 

 宝塚記念を終えたパーマー先輩とヘリオス先輩は三か月ほど出走予定はないとのことで、ありがたいことに私の未勝利戦の応援にきてくれていた。

 

「めっちゃサガってんなー。あんまし気にすんなし! ウチだって勝てたの三回目だっての!」

「アタシも同じで、初勝利は二回目の未勝利戦だったから公式戦で三回目かな。ってことで、まだまだチャンスはあるからさ。アゲてこアゲてこー!」

「ありがとうございます。それで、あの、先輩方。良ければ、今のレースどうだったかお聞きしたいんですけど……」

 

 私には心強い先輩たちがいる。逃げの先輩であるお二方にスタート直後の立ち回りについて、何故ああなってしまったか率直に聞いてみたけれど、二人は揃って踏み込みが足りていないと言うのだ。

 つまりは瞬発的な筋力、パワートレーニングが足りていないのかと思い悩むも、おそらくそうではないらしい。

 時折パーマー先輩と一緒に併走し、トレーニングについてアドバイスを貰っている訳だけれど、ジュニア級ウマ娘としてパワー不足という印象はこれまでなかったようなのだ。そう感じていたなら重点的にトレーニングした方がいいと声をかけていたし、事実として併走している時には引き離されずについてこれていたと。

 パワーの問題ではない。パーマー先輩とヘリオス先輩には、踏み込んだ脚力が前へ向かう推進力にならず分散しているように見えているようであった。

 

 ……これは、おそらくだけど私のバ場適性がダートと合っていないことが原因だ。もしかしたら芝もまだ全力を発揮できていないのかもしれないけれど、それでもダートよりマシなのだろう。

 私自身、芝の方がほんの若干得意である自覚はあったけれど、いざこうしてレースになるとその若干の差が大きな違いとなってしまっている。たらればを語ればキリがないのは百も承知だが、この踏み込みに難がなければ今回だって一着入線出来ていたかもしれない、のに。

 

 ……どうしよう。レースで負けたこと以上に、愚かな選択をしてしまっていたことが情けなくてしようがない。

 弱気になって逃げ腰になったばかりに、すべてを悪い方へと進めてしまっている。

 今後、どうするのか。選べる選択肢は多くない。今から時間が足りるかわからないがダートに適応する為に試行錯誤してみるか、意図せず甘くなっている踏み込みをカバーできるほどの脚力を身につけるか。あるいはダートに見切りをつけて芝にまた転向し直すのか。

 

 

 

 レース後、しばらく塞ぎ込んだ私のことをパーマー先輩とヘリオス先輩はあちこちに連れ回して気分転換させてくれたのだけど、芝か、ダートか。どちらで挑むのか、一向に答えの出ない悩みがちらついてしまって、心から楽しめなかった。

 一般的に、競走ウマ娘が芝→ダートやダート→芝、あるいは障害レースなんかに転向するという話自体は珍しい話ではない。現実に、中央トレセン学園に所属している間に初勝利を飾れないウマ娘たちは6割~7割ほどに及び、その全てではないけれど地方トレセン学園に転校していく。

 地方ダートから中央の芝へ移って成功したという例はオグリキャップが有名だろう。中央の芝のレースで結果が出ず、地方のダートに移って何勝かしてまた中央へ戻る、というケースも無い訳ではない。

 だが、私の場合だと少々事情が変わる。中央トレセン学園を退学して地方トレセンに移ろうとした時、リセットされてしまう可能性が高い、気がする。メタ的な話になるが「メイクデビューに挑む前から定められている育成目標は、中央トレセン学園に所属していることを前提で組み立てられている」だろうからだ。

 例外があるとすればメイクデビューで不可避の負けイベントでも発生しているか、最初から地方トレセン学園に入学した場合だろう。けれど、それを試す気にはなれない。

 

 どうすればいいだろう。私は未勝利戦の出走申し込み用紙を手に、途方に暮れていた。

 

 

*1
ウマ娘の顔面は基本的に整っているので外見上だけに限ればそう間違っていない

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