URAを優勝するまでウマ娘に転生し続ける元一般人男性   作:安倍川餅

8 / 24
92世代 EX

 

「最初から決めていたんです。年内までに二勝できなかったら競走ウマ娘の道をあきらめると」

 

 病院のベッド。無機質で、まるで生きる気力を失ったような、そんなくすんだ瞳をした後輩のその言葉に、アタシは頭の中が真っ白になった。

 

 

 あの、有記念が行われた日曜日。ループは未勝利戦でいつもより多い15人を相手に見事初勝利を飾って見せた。アタシも出走まで時間があったので、最初から最後まで後輩のレースを応援していたのだ。

 上手くやっていた。感嘆するほどだった。大逃げの子がいたからか最初は先行の位置で立ち回り、先頭がバテた中盤から逃げウマ娘として大逃げ&爆逃げする。それは先行策だってこなせるヘリオスならともかく、アタシには出来ないレース運びだった。

 ループはあんまり要領がいい方ではなかったかもしれない。ダート路線なのに最初から最後まで砂を走ることに苦戦していた。他人に頼ることが苦手で、自分ですべてをこなそうとする子だった。もちろんそれじゃ不足することもあったのだろうけど、それでもアタシやヘリオスのアドバイスを聞いて、努力を怠ることだけはしなかった。それが実を結んだのだと、我が事のように喜んだ。

 

 順位が確定して、珍しく喜びを表に出していたループがアタシたちに手を振り返して地下バ道へと降りていった直後、どうやら倒れてしまったらしい。らしい、というのは後で聞いた話だからだ。

 アタシはそれを知らされることなく、有記念に臨んだ。紆余曲折あって、ループに続いて私も一着を取れたのだけれど、ループが倒れたことを知ったのは彼女が病院に運ばれてウイニングライブに参加できないとアナウンスが流れた時だった。彼女のトレーナーがレース場にいなかったから付き添いする者もおらず、それをアナウンスするのが遅れたようだった。

 

「……え? ループ。だって初勝利できたのに。これからじゃない? せっかく、これからループのトゥインクルシリーズが始まるっていうのに、なんで……」

「そう決めていたんです。何と言われても、私のトゥインクルシリーズはここでおしまいなんです」

「嘘だよ、そんなの。あんなに喜んでいたのに。年内初勝利するために頑張るって言ってたのはループなのに!」

 

 ベッドから身を起こしたループが、深く深く頭を下げる。光のない瞳のまま。

 

「年明けには退学届けを提出します。メジロパーマー(・・・・・・・)先輩、今までありがとうございました」

「……は」

 

 なんだよ、それ。

 なんで、他人行儀? 決別のつもりなの?

 

「……わかった。もう、いいよ。ループが決めたことなら、アタシがとやかく言うことじゃないんだろうしね」

 

 慕ってくれていると思っていたけれど、どうやらそれは勘違いだったみたいだ。

 アタシがいくら言葉を尽くしても、ループは伏目がちにして、なんの表情も浮かべていなかった。

 

 

 

 

 オンザループというルームメイトは、不思議な子だった。

 初対面の時には面食らったというのが正直なところ。表情はぜんぜん変わらないし、小声で口数は少ないし。あんまりアタシの周りにはいないタイプ。身長が低いのもあいまって、アタシが知っている子の中でループに似てるのはヘリオスがご執心のダイイチルビーかなってとこ。

 ただそれはあくまで外から見ただけの話であって、付き合っていくうちに内面はそうじゃないってことはすぐにわかった。ループは引っ込み思案で、遠慮しい。中等部に入学したばかりで高等部の授業内容も理解できるぐらい頭がいいのに、ぶっちゃけちゃえばアホの子だ。普段は理性的で物静かなのに、何かあるとテンパっちゃって衝動的に突っ走っちゃう。

 だからこそ、アタシなんかは放っておけない子だな、と思っちゃうんだけど。

 

 頑張っているのは知っていた。

 印象として、メジロ家出身ってことで自分を出せなかったアタシより、よっぽど窮屈な生き方をしているように見えていた。

 常にトレーニングしていなかったら、自分の居場所がなくなってしまうような、そんな危機感に追われているんじゃないか。私生活を全て走ることに費やして、他人よりよっぽど頑張ってるのに、そもそも頑張り方を間違えているようなもどかしさがあった。

 ループには趣味らしいものもなく、日曜日だって日がな一日グラウンドか河川敷で走り続けている。どうやら友達らしい子もいないようだったし、アタシとヘリオスで連れ回さなきゃ、たぶんずっとトレーニング漬けだったと思う。

 アタシだってメイクデビューから勝ち星を挙げられなくて負けが込んでた時期があった。これまで正しい道筋ばっかりを歩いてこれたわけじゃないけど、そのアタシから見ても遠回りばっかりしているように見えてしまう。

 

 真面目で、努力家。それは間違いない。自分一人でなんでもやろうとして他人を寄せ付けず、口下手。それも間違いない。

 いつも無表情で。でも気のせいじゃなければ、喜んでいる時なんかはその表情の裏から読み取れるようになっていた、と思ってた。

 だから、彼女からアタシに併走トレーニングやアドバイスをお願いしてきた時なんかは、嬉しかったんだけどなぁ。

 

「……ああ、そうだ。キャンセルしないと」

 

 スマホを操作して、二人分の練習場と一人分のレンタルウェア一式の予約を取り消した。

 参加する筈だった彼女はもう出て行ってしまって、この部屋にいないのだから。

 

 

 




result

オンザループ 1勝ウマ娘

獲得スキル
・逃げ
逃げのコツ〇Lv2
先駆けLv1
勢い任せLv1
逃げ直線〇Lv3
・先行
スタミナキープLv1
・汎用
スリップストリームLv1

※獲得スキルはレベルダウンするものもありますが、次回以降に持ち越します
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。