ろくなり ろくなれ 作:ああああ
日本ヒーロー養成機関——国立雄英高等学校
全国津々浦々から、前途有望なヒーローの卵が門を叩く国内最高のヒーロー養成機関。
世界総人口の約8割が何らかの特異能力「個性」を持つ世情にあって、個性の悪用による反社会活動に身を投じる犯罪者勢力『ヴィラン』への対抗勢力『プロヒーロー』の養成学科を有するため設立され、さまざまなトップヒーローを輩出してきた、文字通りのトップ校。
そんな雄英高校の一室、入試管理室にさまざまなヒーローの影があった。
その者たちの眼前には入試時の録画が再生されている。
「実技総合成績出ました」
「ありがとうセメントスくん」
実技総合成績を画面にうつしたのは、大柄な体型に肌色の肌。そして特徴的なカクカクしい頭をしたヒーロー。セメントス
それを受け取り吟味している人…ひと? ネズミのような外見をもち右目周辺に傷のある、動物でありながら個性の発言した唯一無二の国立雄英高校の校長。根津
「…実技成績も申し分ない。筆記も余裕を持って合格点以上。だけど…」
「Oh…なんつーかコイツは…」
多くのヒーローが見つめるのは画面に映るは一人の受験生。筆記試験は良く、実技も悪くない。だと言うのにここまで合格と言うものが居なく、渋る様子のものが多いのか。
「…コイツは、ダメです」
いつもならば、誰もがそんな否定的な言葉には反応を示したのだろう。ただ、今回ばかりは皆がその意見に遠からず、そう思い同調するものが多かった。
画面に映る少年は確かに良い成績を打ち出している。ただ、全てのヒーローが、ヒーローを目指すすべての人が持つそれを、その受験生は持ちえなかった。ただそれだけの話だった——。
——以上のことから、お前は不合格となった」
暗がりの部屋、机に置かれた円形の機械からは、どのような技術か空中に映像を投影していた。それを見つめるは件の受験生、
そんな特徴的なピンとした耳もその悪いニュースに垂れてしまう…こともなかった。しかし、耳とは対照的に少し苛立ちを思わせるような声で尋ねた。
「…説明に、納得できません」
「お前はきっと、説明に納得できなかったと言っているだろう」
投影されている映像に映る全身が黒一色コーデの猫背の男が、それはそれはめんどくさそうに言葉にした。だから、とその男は言葉を続ける。
「合理的ではないが、また一から説明しよう。合理的に手短にわかりやすくな」
その言葉に、ただ聴くことにした。
「まず、お前は確かに成績が良い。筆記試験では合格点に余裕を持って越している。いくつかの教科ならば入試でもトップ10に入っている。実技も申し分ない。個性の使い方も自分の強みをしっかりと考えているのだろう」
並べられた高評価の言葉は、その結果にさらに疑問を付随させる。なぜ、どうしてと言葉が出る前に再びスピーカーから声がする。
「ただし」
力強く声が部屋に響いた。
「お前はヒーローが持つべきものを持っていない」
意味がわからず、部屋を沈黙が支配する。
「お前にはヒーローが持つ気持ちがない。合理的でないことを言っているかもしれないが、ヒーローを目指す上で一番大切なことだ」
声は続け様に話していく。
「例えば市民が銃で撃たれそうなとき、自分では支えきれないような瓦礫が市民に降り注ぐとき、自分の力では解決できないヴィランがいるとき、ヒーローはこんな困難が日常的に訪れる」
「ヒーローは他人の命を抱え込んで守れてやっとヒーローだ。抱えているものを守れても自分は命を落とすかもしれない。実際そうやって殉職するヒーローは多くいる」
一拍空けて、男は口を開く。
「結論を話そう。お前には必死さがない」
「誰かを守ろうとする必死さが、誰かのための気持ちが、まず持ってあの会場で唯一お前だけヒーローになる気がなかった」
「現にお前、悔しがってないだろ」
ドクンと、心臓が跳ねた気がした。確かに喪失感こそあれど、そこまでだった。自分への怒りも、泣き出しそうな気持ちも、何もなかった。
「それが不合格の理由。運がなかったわけでもなく、偶然でもなく、不合格だ」
映像はそこで終わった。
やっぱり気持ちに変化はなく。ただ落ちたんだなという現実だけがストンと受け入れられる。
雄英高校を受けて、不合格になった。
落ちた。
落ちた。
「…落ちちゃったか〜……」
悔しさもないなかで、ただ膝を抱えてみた。
前世の死因はなんだっただろうか。覚えてはいないが俺は死んで、生まれ変わったらしい。二十代はんばまで生きた記憶があるが、目が覚めると赤子の姿になっていた。
しかし、前世とは似ても似つかない、それでいてどこかアニメのような世界に転生したようだ。
一日の大半を寝て過ごし、たまに起きれば母親からの授乳、我慢しようにもできないクソをぶっ放し、不快感に涙をこぼして幾星霜。
ある日テレビを見て、それはそれは戦隊ヒーローものかと思ったものだ。特殊な能力で敵を倒す。なんともありきたりな番組だなと斜に構え、それが現実だと知った時にはそれはそれは驚いた。
幼稚園に上がって少しして、自分にもそれがあると知った。耳が生えたのだ。人間が本来持つ耳とは別に、ヒト科ではないことが察せられる耳。母親が言うには、父親譲りの個性らしい。
肝心の父親は、会った記憶がない。生まれる手前にどこかふらりと消えてしまったとか。お母さん。それ捨てられたって言うんだよ。
それでもお金が毎月振り込まれているのだから、父親は何をしたいのか分からん。
閑話休題。
ただ、この世界には察しは着いてきた。Twitterとかで絵師を徘徊すれば名前が上がり、そのイラストを俺はよくみていた。癖が詰め込まれた絵。素晴らしい、名画としか形容の仕方のない数々。その記憶から、この世界は、僕のヒーローアカデミアの世界だとわかった。
わかったところでなんなのだと言えば、そう。
漫画は完結してから読む派であったから、原作知識もないのでその方向では有利に立てない。でもヒーローアカデミアと名にあるならば、ヒーローを目指そうと思った。雄英高校とは言えど、中学知識のみで受験…あまりにも余裕…!
その結果が冒頭である。
「まあいいや」
ヒーローになれないのは残念だ。だけど別のヒーロー科もあるし、選択肢はさまざまだろう。ここは思い切って、前世の夢を拾うのも悪くないと考えた。
「俺…警察になりたかったんだよね」