貴方は少女達に愛される 作:いっぺー
「どうしてあんたみたいなのがのうのうと生きてるのよっ! この人殺しっ!」
放課後、廊下を歩いていた貴方は近くの教室で怒鳴り声と、何かを殴るような鈍い音を聞いた。
そして貴方は、先程音がした教室に向かい、好奇心からつい中を覗いてしまう。
すると、そこには複数の女子が一人の少女を囲み、殴る蹴るの暴行を加えている光景が目に飛び込んできた。
「うっ……ぐっ……」
蹴られ、殴られる度にその少女から小さな悲鳴が上がる。しかし、それを嘲笑うかのように女子たちは暴行を続ける。
「はぁ……はぁ……これで分かったでしょ? あんたみたいな奴にはこういう目に遭うのが相応しいのよ!」
女子の一人がそう叫ぶと、他の女子たちもそれに同調するように笑い声を上げる。そして最後に一人の少女が拳を大きく振りかぶろうとしたとき……。
貴方は思わず飛び出し、女子たちと少女の間に割って入ってしまった。
「……っ!? なんであんたがこんな所にいるのよ!? 」
突然現れた貴方の姿に女子達は動揺する。
「……まさか、こいつを庇うわけ? あんたが? 冗談でしょ?」
女子たちは貴方を睨みつける。彼女達の問いに、上手く答えられなかった。
ただ、自分の目の前でこんな事が起きているのが許せなかったのだ。
「あんた……こいつが誰だかわかってるの?」
その言葉を聞き、少女の方へ振り向いた貴方は、後ろで蹲っていた彼女が誰だったのかをようやく理解する。
彼女の名は立花響。貴方とは別のクラスの女子生徒だった。
「まさか……知らなかったの?」
別に彼女を事を知らなかった訳では無い。ただ、クラスが違ったために今まで関わりが無かったのだ。
「こいつはあのライブの生き残り。つまり人殺しなのよ?」
女子の言う事に関しては連日ニュースになっていたため、それは貴方も知っていた。
人気ボーカルユニット『ツヴァイウィング』のライブ公演中に認定特異災害『ノイズ』が会場を襲撃し、死者及び行方不明者が一万人を超えるという甚大な被害を出した事故。
しかし、その内の多くはノイズによるものでなく、逃走中の将棋倒しによる圧死や避難路を確保を争った末の暴行による傷害致死であることが週刊誌に掲載されると、世間の風当たりは一変した。
死者の大半が人の手によるものであることから生存者に向けられたバッシングがはじまったのだ。
そしてそれは、生存者の一人である立花響も例外ではなかった。
「そんな人殺しを……なんであんたが庇おうとするのよ……」
彼女の言うことは、貴方にとっては正しい言葉だったかもしれない。
世間から嫌われている立花響という少女を庇うのはあまりにもリスクが高く、下手をすれば貴方も彼女のようにいじめの標的になってもおかしくないからだ。
「あんた……もしかしてこいつに気があるの? だから庇うわけ?」
女子たちは貴方を睨みつけながらそう問いかける。貴方はその問いに対して首を横に振ったが、女子たちはそれを信じていないようだった。
「じゃあなんでよ!」
女子の一人がそう叫ぶと他の女子たちもそうだそうだと言い始めた。
貴方はその質問にこう答えた。
ただ、自分の見える所で誰かが傷つく所を見るのは、気持ちの良いことではないからだ……と。
「……は?」
貴方のその答えに、女子たちは呆然としていた。それは響も同様だった。
そして貴方は響の手を握り、この隙に教室から出ようとする。しかし、他の女子たちがそれを許すはずもなかった。
「な……なに勝手なことしてるのよ!?」
「ちょっと待ちなさいよ!」
貴方と響を捕まえようと女子達は追いかけてくる。しかし貴方も捕まるわけにはいかないため必死に逃げ続ける。
そしてなんとか二人は学校を出て、帰り道を歩く事が出来た。
────
「……どうして、私を助けたの?」
その途中、響は貴方に問いかける。それに対して貴方はさっきの言葉通りだと答えると、響は黙り込んでしまう。
そして、貴方が心配そうに響の方を見ると、彼女は慌てながら何かを伝えようとする
「あ……えっと……その……」
しかし、上手く言葉にできていないようだった。貴方はそれに気付くと立ち止まり、彼女の言葉を待つことにする。
そしてしばらく沈黙が続いたあと、ようやく彼女は口を開いた。
「……ありがとう」
その言葉を聞いた貴方は思わず微笑んでしまう。それを見た彼女もまた釣られて笑った。
「私ね……あのライブで生き残ったせいでみんなから嫌われてるの」
そして響は、当時の事を貴方に話し始めた。
彼女が言うにはあのライブ会場の崩壊に巻き込まれ、その時に負った怪我が原因で入院してしまったようだ。
そして、退院して学校に戻ってみるとクラスメイトたちから酷い虐めを受け始めたのだという。
「最初は私だけだったのに……次第に家に落書きされたり、石を投げられるようになって……」
響は目に涙を浮かべながらそう話す。
「それだけじゃない……そのせいでお父さんも家を出ていった……。私は、誰かを見捨てて逃げた訳じゃない……たまたま生き残っただけなのに……それなのに……」
そして響は、貴方の方へ顔を向けた。
「……って、何言ってるんだろう私。ごめんね。急にこんな話しちゃって……」
響は貴方に謝ると、再び歩き出した。
「でもなんだろう……君になら……話してもいいかなって思ったんだ……だから気にしないでね?」
響はそう言って笑顔を作った。しかし、それが無理をした作り笑いだということはすぐに分かった。
そして貴方は彼女に伝える。
きっと……君は何も悪くない……と。
それを聞いた途端、響の目から涙が溢れ出した。
「う……うぅ……ひぐっ……」
彼女は貴方に抱きつくとそのまま泣き出した。そして貴方は、そんな響を優しく撫でた。
しばらく泣いた後、落ち着いたのか響はゆっくりと貴方から離れると涙を拭いた。
「……ごめんね」
響が謝ると、貴方は首を振りながら気にしていないと答えた。
「ありがとう……優しいんだね、君は」
響は微笑みながらそう言うと、貴方は照れくさ
そうに頭をかいた。
「……それじゃあ、またね。助けてくれて……ありがとう」
そう言って響は貴方に手を振り、別の道へと歩いていった。
そしてその背中を見送った後、貴方も自分の家に向かって歩き出す。
そんな貴方の姿を、空はいつもより明るく照らしてくれていたような気がした。
3話くらいで一旦完結する予定です。
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