貴方は少女達に愛される 作:いっぺー
あれから数日。響をいじめから助けた事で自分も標的になるだろうと思っていた貴方だったが、特にそのような事はなく、いつも通りの学校生活を送っていた。
強いて言うならば、先日の少女達と目が合っても気まずそうに目を逸らされる程度だろうか。
しかし、学校生活に支障は出ていないので、特に問題はないと貴方は思っていた。
とはいえ、人の多い教室などで過ごしていれば、その空気感や視線などにストレスを感じることはあるため、最近は授業の合間や昼休みの時間になるや否や、いつも人気の少ない校舎裏で時間を潰していた。
「あっ……今日もここにいたんだね」
そして今日もいつも通り一人で過ごしていると、背後から声をかけられる。
振り向くとそこに居たのは響だった。そして彼女は隣に腰掛けると貴方に話しかけてきた。
「最近……いじめられることが減った気がするんだ……」
響曰く、以前と比べて周囲からの嫌がらせが減少したらしい。
「前は机に落書きされたり、体操着を隠されたり、ボロボロにされたりしてたんだけど……最近はそういうのが無くなったっていうか……」
響はそう話すと、貴方の方を見つめた。
「きっと……君のおかげなんだと思う」
響は貴方に対して感謝の言葉を述べた。貴方はそれを嬉しく思いながらも、自分は特に何もしていないと返す。
「ううん……そんなことないよ。だって君は、私を助けてくれたんだもん」
そう言って笑う響の笑顔を見て、貴方の胸は高鳴った気がした。
「あ……えっと、ごめんね。急に変なこと言って……」
響は恥ずかしそうに頬を赤らめると俯いた。貴方は気にしないでいいと伝える。
そしてその後しばらく沈黙が続いた後、響が口を開いた。
「あのね……えっと……その……えっとね」
響は何度も言葉を詰まらせる。そして意を決したのか、勢いよく顔を上げた。その目は真剣そのもので貴方を見つめていた。
「もし君が良かったら……私と……友達になってくれないかな?」
響は緊張しているのか、少し震えた声でそう言った。貴方はそんな彼女の言葉に笑ってしまう。
「な……なんで笑うの!?」
響は驚いた表情をしながら、貴方に詰め寄る。貴方は慌てて謝罪すると、まさか今までは友達ではなかったのかと彼女に尋ねる。
「ち……違うよ!? 君とは仲良くしてたつもりなんだけど……ほら、その……私のせいで君も色々大変な目にあってるし……なかなか言い出せなくて……」
響は申し訳なさそうにそう話す。貴方は彼女を助けた時点で自分が標的になることも、今までの友達を失う事も覚悟していた。
だからこそ、貴方は響の事を唯一の友達だと思っていたし、これからもそうありたいと願っていた。
「ほ……本当?」
貴方がそう言うと、響は目を輝かせながら喜んだ。そして彼女は貴方の手を取ると満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう! 私……とっても嬉しい!」
響は心から嬉しそうな笑顔を浮かべる。そんな彼女を見て、貴方も笑顔を見せるのだった。
────
「あ……あの……ちょっといいかな?」
給食を食べ終えた昼休み。廊下を歩いていた貴方は突然後ろから声をかけられた。振り返るの、そこには小日向未来という貴方とは別のクラスの少女が立っていた。
「君……だよね? 響の事を助けてくれたのって……」
未来の問いに、貴方は頷いた。
「やっぱりそっか……」
彼女は安心したようにホッと胸を撫で下ろすと、貴方に少し話があると言い、人気のない場所に移動するようお願いしてきた。貴方は特に断る理由も無いため、彼女の言われるがままに後をついて行った。
「ここならいいかな……」
そう言いながら未来は周囲を見渡すと改めて話し始める。
「……実は響を助けてくれてありがとうって言いたかったんだ」
そう言って彼女は頭を下げた。貴方が慌てて頭を上げるように言うと未来はゆっくりと顔を上げてくれた。
しかしその表情にはどこか陰りがあるように見えた。
「響がああなっているのは、私のせいだから……」
未来はそう言って顔を俯かせる。一体どういう事なのかと貴方は問いかける。
すると未来は、響がいじめを受けていた理由について話し始めた。
「実はライブに誘ったのは私からだったの。でも……家の都合で行けなくなっちゃって……それで響だけがあんな目に……」
未来はそう言って唇を噛み締めた。彼女は自分のせいで響が辛い目に遭っていると思っているようだ。しかし、それは違うだろうと貴方は否定する。
「……え?」
あの事故が起きてしまったそもそもの原因はノイズによる被害だ。つまり悪いのはノイズであり、誰も悪くない。だから、未来が責任を感じる必要は無いと貴方は言った。
「でも……それでも私は……」
未来はそう言って俯く。彼女はよほど責任を感じているようだ。
なら、その分君はずっと響の傍に居て、彼女を支えてあげればいい。そうすればきっと彼女も少しは心が楽になるだろうから。そう伝えると未来は少しだけ明るさを取り戻してくれたようだった。
「ありがとう……そう言ってくれて」
未来はそう言って微笑んだ。その笑顔はとても可愛らしかった。
「優しいんだね……君は。会ったばかりの私なんかの相談にも乗ってくれるなんて……」
未来はそう言うと貴方の目を見つめた。彼女の瞳はまるで宝石のように綺麗で、吸い込まれそうになるほどだった。
「ねぇ……私とも友達になってくれる?」
貴方はもちろんだと即答する。すると彼女は嬉しそうに微笑んだ後、貴方に向かって手を差し出してきた。
「ありがとう……よろしくね」
そう言って差し出された手を貴方は握り返す。こうして二人は友達となったのだった。
────
それからというものの、貴方は響と未来の二人と一緒に過ごすことが多くなった。まだ響に対してのいじめは完全に無くなった訳ではなく、その度に響を慰めたり、時には一緒に立ち向かったりしていた。
ただ、響のいじめが少なくなったことで彼女は以前よりも明るくなり、未来ともよく話すようになっていた。
そして貴方もまた、そんな二人の関係を見て微笑ましく思っていた。
「……ねぇ、これから私の家に来ない?」
そして、三人が一緒に居るようになって二ヶ月近くが経ったある日の事だった。いつものように三人で下校していると、突然未来がそう切り出した。
しかし、貴方はいきなりお邪魔するのは迷惑ではないかと彼女に伝える。
「大丈夫だよ。お母さんもお父さんも仕事で夜遅くまで帰って来ないし……。それに響が……ね?」
未来はそう言って響の方を見る。彼女は照れ臭そうにしながら小さく頷いた。
「だから……どうかな?」
そこまで言われてしまったら断る理由もない。貴方はその誘いを受けることにした。
「やった! じゃあ、早く行こ!」
未来は貴方の手を掴むと走り出すと、そのまま響も貴方の手を引いて走り出す。二人は楽しそうに笑いながら走り、その姿を見て貴方も思わず笑みをこぼすのだった。
────
それから数分後、未来の家に着いた貴方と響は、彼女の部屋に通された。部屋の中は綺麗に整頓されており、女の子らしい可愛らしい小物が所々に飾られていた。
未来は飲み物を用意するために部屋から出ていくと、残された貴方は響と一緒に待つことにした。すると、響が貴方の背中に抱きついてきた。突然の事に驚いている貴方に対して響は小さな声で呟く。
「……ごめんね。急に変なことして……」
響は申し訳なさそうに言った。しかし、貴方はそんな彼女に対して嫌な気はしなかったため大丈夫だと伝えた。
「……ありがとう。こうしてると……お父さんの事を思い出して安心するんだ……」
響はそう言って貴方の背中に頭を押し付ける。そんな彼女に対して貴方は優しく頭を撫でてあげた。
「えへへ……ありがとう……」
響は嬉しそうな声でそう言うと、そのまましばらくじっとしていた。
「お待たせ……」
そんなやり取りをしていると、トレーを持った未来が部屋に戻ってきた。
「はぁ……響ってば……」
未来は溜息を吐きながら、飲み物を机の上に置く。
「だ、だって……なんだか落ち着くんだもん……」
響は恥ずかしそうにしながらそう答えた。未来はそんな二人を見て微笑むと、貴方の正面に座った。
「確かに……そうかも」
未来はそう言って貴方と響を見る。
「ねぇ、私も……いいかな?」
そう言って彼女は両手を広げる。一瞬驚いたものの、すぐにその意味を理解した貴方は小さく頷く。
「ふふ……ありがとう」
すると彼女は嬉しそうに微笑んで貴方の身体に抱きついてきた。彼女の体温が伝わり、心臓の鼓動が激しくなる。しかしそれ以上に心地良さを感じる自分がいた。
「あったかい……」
未来は貴方の肩に頭を乗せると幸せそうな声で呟いた。そんな彼女に対して貴方は何も言えずにただ黙っていることしかできなかった。
「こうして三人で……ずっと一緒にいたいね」
響がそう言うと、未来は静かに首を縦に振る。そして貴方の方を見ると優しい笑みを浮かべて言った。
「……これからも、よろしくね」
────
それからというもの、日が経つにつれてメディアや週刊誌がライブの事故を取り上げる回数も少なくなっていき、世間も平穏な日常に戻りつつあった。
未来は相変わらず貴方と一緒にいてくれるし、響のいじめも収まってきた事で彼女も安心して過ごせるようになっていた。
彼女に対するいじめは完全になくなったわけではないため油断は出来ないが、それでも以前に比べればかなり良くなってきていると言えるだろう。貴方もそんな響の助けになれた事を嬉しく思っていた。
しかし、この時の貴方は気づかなかった。
あの時……響を助けた事によって、自分が新たな問題に直面する事になるとは……。