死人に口なし心あり   作:ナチュラル7l72

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死人に

ない足を組み宙を浮く。そして徒然なるままに思考することを一体いつまでしているのか。タイパやらコスパやら、生き急いでいる奴らに言わせりゃ無駄と断じる行動なんだろうな。まあ概ね賛成だが一つ言わせてもらうことがあるとすれば俺はそっち側じゃないってこと。死んでから三百年くらいか?生きていないんだから生き急ぐ意味もない。q.e.d.

 

…そろそろ飽きるとするか。切り目を決めなきゃこのくだらん行動を無限にやっちまう。長く現世で揺蕩んでいたせいで無限に話すネタはあるしな。

 

俺は幽霊だ。それも怨霊とかに分類されるタイプの。どっかで死んで、意味もなくその辺を放浪して回る浮浪者のような“生活”をしている。いや生きていないから“ 氵 ”とかになるんかね。また思考が逸れたな。

幽霊なんてのは怪談話の類じゃ化け物かってくらい強いやつが語られるが、んな幽霊は一握りだ。普通の奴は人間に害を与えるどころか死神から逃げるだけでも手一杯。というかそれができるやつすら一握りなんだから怪談に出てくる幽霊がどれだけ荒唐無稽かは言うまでもないだろう。

 

幽霊の体は酷く不便だ。宙を浮かべるとはいえその推進力は無限じゃない。一日一キロ飛べれば良いほう。それが尽きればまた魂エネルギーが貯まるまで埃のようにその辺を漂わなきゃならん。もしその間死神に出会っちまえばジ・エンド。文字通りな。

 

俺は一ヶ月前、仕事をサボりがちな知古の死神に「閻魔様に怒られちゃったから」とかいうふざけた理由で追いかけ回され魂エネルギーがすっからかんにされちまった。あの野郎いつも通り俺を捕まえる気のない雰囲気出しやがって。危うく連れて行かれるところだったぜ。幸いその死神を撒く事には成功したが本気で逃げたせいか体はまるで動かない。そして一ヶ月間大海の藻屑のように流れることしかできなかった。

 

だがそれも今日で終わり。長い療養で魂エネルギーは全快。考えて行動すればそうそう全損はないだろう。こう見えて幽霊歴は長いからな。エネルギーは他のやつより多く収納できる。というよりそのほかの奴らが長続きしないだけなんだが。

 

「また妙な場所に流れ着いたな」

 

そこは地の底のような場所。土の中をそのままくり抜いたような地形に薄暗く人気のない荒野。だが地平線の辺りに光が見えるから住人はいるのかもしれない。今日中につくことは無理だろうが2日もかければいけるだろう。

行く意味はまるで無いが、宛もなし。知人もなし。そんな放浪霊のやることなんてそんなもんだ。ゆるゆると体を浮かして蛾のように光に向かって飛び立った。

 

 

 

 

「妖怪の集落か?」

 

角の生えた大柄な体格。でかいダミ声で宴会をしている彼らは久しく見ていなかった鬼だ。俺が幽霊になってそこそこはまあまあ見たんだが最近はまったく見ていない。もう絶滅していたのかと思っていたがしぶとく生き残っていたらしい。それもかなりの数だ。強種族の代名詞ともいえる鬼が生存競争に負けたとは到底思えないが…。もしかしたら自ら表舞台を降りこんな辺境の地にいるのかもしれない。相撲でもとっているのか巨体がアチラコチラにぶっ飛び地形がへこんでいく。

 

懐かしい。と突然、わけもわからずそんなことを思う。生前の俺の記憶は長年の幽霊生活で摩耗しきりほとんど思い出せない。そもそも幽霊になった時点で魂にまで染み付いてるレベルの記憶以外脳みそに置いてきた身だ。恐らく、生前の俺が似たようなことをしていたんだろう。もしかしたら相撲取りかなんかだったのかもしれない。それとも俺がこうして幽霊になってまで現世に執着している理由がここにあったのかもしれないが、自分のことながらなにもわからない。…わからずじまいだな。

まあもう失ったものを数えても意味がない。それに幽霊生活のがもはや長いんだからさほど重要でもないしな。

だが思い出せなきゃ俺は成仏などとうてい出来やしないだろう。

人生に対して後悔をしていた。それだけが俺のアイデンティティだから。それ以外は落としてきたから、思い出さなきゃ少なくとも納得して魂をあの世に渡すことは絶対になくなっちまう。

 

だが今日どうにかなる話でもなし。…もう寝るか。陰気な精神には睡眠が一番の薬だ。余計なことを考える前に鬼どものやかましい笑い声を聞き飛ばして意識を飛ばした。

 

 

 

「さてここは…。随分とでかい所だな」

 

目覚めて目に入ったのは知らない天井。久しぶりの睡眠の合間にまた流されたらしい。

昨日の鬼でも快適に通れるようにしているのか、人間4人分位天井が高くさらに装飾が豪華だ。まるで光景は違うがそれを考えれば昨日の場所からそう遠くない場所なのかもしれない。こんなに豪華なら誰かしらのお宅…ではあるかもしれないがそれだけではないだろう。役所か、それとも監獄かもしれない。

物珍しさにキョロキョロ見回しつつさながら蝿のようにフラフラ飛ぶ。幽霊になった俺の唯一の趣味が観察だ。それ以外なにもできないからこその唯一だがなかなか飽きが来ない趣味でもある。世界はやはり広いらしく三百年飛び回っても同じ景色は二度として見たことがない。その割にあの死神とはよく出会うが。

 

「…あれは」

 

扉が少し開き中から人の気配がする部屋。代り映えのしない廊下から逸れ中を覗くとベッドで寝ている妊婦と思わしき一人の女性と、一つの小さな幽霊。妊婦の髪色はあまり見ない鮮やかな赤紫色だが俺が興味を抱いたのは幽霊の方。

随分小さな幽霊だ。幽霊は、要は死者の魂の事だが飴玉サイズの奴は初めて見た。魂は普通生きていた頃の経験と成長に比例してでかくなっていくものらしいんだが、こいつどんな生前ならこんなに小さな魂に…。

 

いやこいつ、まさか隣にいる妊婦の腹の子か?

扉を潜り抜け妊婦の腹に手を触れる。俺は幽霊として生活しているうちに魂エネルギーをいい感じにうまく使えるようになっている。リスクは高いが精神が体を構成している妖怪とかから徴収することもできるし、もしかしたらその精神を乗っ取る事もできるかもしれない。興味ないからやった事はないが。

話は逸れたが俺はエネルギーがそのモノにあるかどうかも判定することができる。当たり前だが徴収できればあり、できなければなし。

果たして、妊婦の腹の子から徴収できたエネルギーはゼロだった。

 

これは、もうどうしようもないな。魂がもう外に出ちまってるってことは原因が何であれ、いくら体が正常で、正常に生まれたとしても産声一つ上げず体もそのうち死に至ってしまう。今はまだ母親からの栄養でどうにかなっているかもしれないが魂はいわば身体のマザーボード兼エンジン。体側をいくらいじくってもどうにもならない状況だ。逆に言えば魂が入ればどうにかなるが…。魂側であるこの小さな幽霊には生まれたばかりどころか、生まれる前で意識なんて高尚なものがあるわけがない。

 

そしてこの幽霊は自分でもわからない癖に未練がましく母親の周りで漂ってるってとこか。悲しいとか怖いとかの情緒もないのに何に駆られてここにいるのか。少し探求心が沸くが正直こんなわかりやすい悲劇の場にいたくない。俺はさっさと離れて忘れようと扉に向かって飛び立とうとする。

 

…だれ…

「え、お前意識あんの?」

 

すると突然宙を浮いていた白玉から声をかけられる。少し驚きつつ返答するとその大きさではほぼあってないようなものであるはずのエネルギーをわざわざ使って俺の横に寄ってくる。

 

だれ…

「幽霊だよ。お前と同じな」

 

俺が会う幽霊は大抵そこそこ生きて人生経験がある言わば大人ばっかだ。だからこんな幼児のような幽霊とは会って話したことなど一度もない。珍しい事に俺は非常に困っていた。

 

「あー、この人はお前の母親かなんかなのか?」

「母、親?」

「母さんとかママとかそういうやつだよ」

「母さん、って聞いた、ある…」

「聞いたことある?そういやお前、生まれてもないのによく単語知ってるな」

「うん…、視た事、ある」

「視た?」

 

胎の中にいたのに視た?と疑問に思い母親らしい女性の方へ向く。よく見ると、その服から何か、コードのようなものが伸び丸い瞳のようなものにつながっている。それはゆっくりとではあるがきょろりと眼を動かし周囲を見渡していた。少なくとも点滴の類ではないことは確実だ。

 

「お前、もしかして覚りか?」

「覚り…」

 

覚り。周囲の思考を否応なく読み取りそれをもとに相手を脅したりする思考盗聴の恐怖が形を成したような妖怪だ。俺は実際相対したことはないがまさか幽霊となった覚りに出会う事になるとは。本人に自覚はなさそうだが。

恐らく、こいつが言葉を理解できているのは覚りの特性故だろう。普通だったら赤子は両親との会話でだんだんと言葉を話し理解していくようになるはずだがこいつはその段階を一つすっ飛ばして少しではあるが言葉を理解し始めている。なんなら会話もちょっとできてるしな。唯一残念なのはそれを使う機会がもうあの世でしかないということだ。そのうち死神に連れていかれるんだろうな。

…生まれてもいないやつがな。

 

「…なんでまだここにいる。お前がここにいてももう意味などなにもない。さっさと輪廻に帰れ」

「…でも、母さん…それに、お姉ちゃん…」

 

霊は大きく分けて二つに大別される。幽霊と怨霊。

生き物なんて日に何百、何千と死ぬ。そんな奴らが全員俺みたいにいちいち現世にしがみついてたらいくら死神が働いてもその数は増すばかりだ。

死んだ生き物の大抵は死んだ瞬間、現世から離れて彼岸やらあの世やら言われる場所に送られ、輪廻転生していく。いちいち死んだ連中はこの世に留まりなどしない。

大して俺たちは怨霊だ。怨霊も幽霊の一部だがその性質は全く違う。現世に強く執着し文字通り死んでも達成したい事や死んでも死にきれない事が生前あってなってしまうものだ。俺はもうそれすら忘れてしまったが…。

そしてこの小さな幽霊もそれに該当する。生まれてすらいないのに死に、現世に執着しているその姿は感情が乏しくなった俺でさえなにか虚しくなるものがあった。

 

「お前、まだ死にたくないのか」

「うん」

 

当たり前のことを聞き当たり前のことを返す。たったそれだけだが俺は何故か心を動かされてしまう。

 

前例など見たことはないが、もしかしたらまだこいつは生きていくことができるかもしれない。こいつは死んでいるが正確にはまだ生きている。まだ体は死んでおらず魂は現世に浮遊した状態だ。なら魂を体に押し戻すことができればどうにかはまだなる。

そしてそれをするには、こいつの自意識の覚醒。俺が会話をし続ければ今の無意識で会話を返している状態からその状態に移行することができるかもしれない。普通なら2~3歳くらいに自意識が生まれてくるはずだが、会話もできるこいつならあるいは…。どうせ暇な身だ。こいつの体が生まれて絶対に生き返る事ができなくなる時までは、まあ付き合ってやろう。

 

 

 

 

「周りの思考を読み取るってどんな感覚なんだ?」

「…三つ目の瞳、いっぱい流れてくる」

「やっぱ強制的になのか。そりゃこんだけ喋れるようになるわ」

「きょうせい?こんだけ?」

「強制は無理やりとか、否応なくとかの意味でこんだけはめっちゃとかすごくとかそういう意味だな。でもお前の時期の言語学習法って法則から導くみたいなとこあるよな。他の似てる意味から理解するんじゃなくて」

「げんご?みちびく?にてる?」

「あーあ言わなきゃよかった。げんごっつーのはだな…」

 

 

「そういやお前、名前とかもう付けられてるのか?」

「なまえ…」

「あの母親の腹の中に向かって呼びかけられてる言葉あるだろ」

「…こいし」

「小石?」

「こいし」

「こいしね。この辺りでどんな名前が主流なのか知らないからセンスあるのかないのかわからねえな」

 

 

「生まれる前から生まれた後の景色見れるって相当ありえない話だよな」

「そうなの?」

「まあ今のお前は幽霊でいる期間のが長くなってるからこの景色が普通みたいに思ってるかもしれんが、生後マイナス3か月くらいの赤子は無意識すらないんだよ」

「へー」

「ま、お前の場合は生後にこの光景見れてるかわかんねけどな」

「じゃあその時は私と一緒に冥界行こうね」

「…それは勘弁だな」

 

 

 

 

 

 

 

「…こうやって生まれるんだね」

 

助産師が出産の手伝いのためか、白いベッドの周りで慌ただしく動き回り女性は苦しそうに声を上げている。

ならさっさと本体の体へ入れと再三言ったのだがこいつは、こいしは結局ここまで入ろうとしなかった。まじでそろそろ入ってくれ。ここまで結構長かったんだから最後の詰めを終わらせてほしいもんだ。

 

「ああ。マジでそろそろお前が生まれるんだ。早く行ってこい」

「それって…お兄さん抜きでってことだよね」

「そりゃそうだろ俺には入る体がない」

 

助産師が母親の女性に手を伸ばす。

 

「やだよ…お兄さんと一緒じゃないと」

「はあ?何妄言吐いてやがる。俺はお前と違って…」

「だから、一緒に行こう?」

 

すこし成長し白玉だったあの頃と違ってしっぽのようなものが生えたそれで俺の体を絡ませ無理やりに俺を自身の体の方へ引っ張っていく。

 

「おい!お前…」

 

「行こ!」

 

ああ、クソ。思えばあの時少しでも同情したのが悪かった。こいつらは覚り妖怪。人心掌握なんざ長けてて当然なんだ。

 

もう引き返すことの不可能なラインまで俺を連れてきて最悪の二択を提示してくる。

 

無理やりにでも逃げこいつを殺すか。

受け入れてこいつに()かされるか。

 

それは実質一つしかなかった。




https://syosetu.org/novel/343521/
これの合間に作った奴。俺こいつら好きすぎる。でも続きは期待しないでくれ
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