おまわりさん、キヴォトスにて   作:神倉棐

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「決戦前夜」

 

 

──首都D.U.暴動事件発生から6日目

 

 

ヴァルキューレ警察学校本校舎臨時治安対策本部総合指揮室

 

 

「全員揃いましたね?では、作戦を伝達します」

 

 

必要最低限の以外の照明が落とされたその一室にて、場所や面子こそ少し異なるものの、つい6日前と同様にたった1人の大人と幾人もの生徒たちが立体映像(ホログラム)でもって映し出された首都D.U.の地図を囲んでいた。

 

 

連邦生徒会統括室次席行政官 七神(なながみ)リン

連邦生徒会防衛室副室長 不知火(しらぬい)カヤ

連邦生徒会交通室室長代行 由良木(ゆらき)モモカ

SRT特殊学園FOX小隊隊長 七度(しちど)ユキノ

ヴァルキューレ警察学校顧問 おまわりさん

ヴァルキューレ警察学校公安局局長 葛葉(くずのは)クレハ

ヴァルキューレ警察学校警備局局長 赤場(あかば)クリス

ヴァルキューレ警察学校生活安全局局長 升谷(ますたに)アキ

ヴァルキューレ警察学校交通局局長 丸山(まるやま)ヨシミ

ヴァルキューレ警察学校情報通信局局長 山際(やまぎわ)シロ

予備第十機動隊(ラーズグリーズ隊)大隊補佐 尾刃(おがた)カンナ

予備第十機動隊(ラーズグリーズ隊)第八小隊隊長 南国(なんごく)コノカ

アビドス高等学校生徒会長 梔子(くちなし)ユメ

アビドス高等学校生徒会副会長 小鳥遊(たかなし)ホシノ

クロノススクール報道部部員 風巻(かざまき)マイ

百鬼夜行連合学院陰陽部部員 桑上(くわかみ)カホ

百鬼夜行連合学院百花繚乱紛争調停委員会 御稜(ごりょう)ナグサ

 

 

大人が1人に、生徒が16人。

連邦生徒会やヴァルキューレ警察学校に加え、救援に来たアビドス高等学校とその()に使われ便乗して火中に飛び込んで来たクロノススクール報道部。そして今回の大暴動の煽動者(諸悪の根源)である「狐坂(こさか)ワカモ」の所属校(身内)としてケジメを付けに来た百鬼夜行連合学院である。

また護衛対象故に連邦生徒会役員(リンやカヤ、モモカ)は小綺麗な格好をしているものの、警察関係者のおまわりさんを筆頭に本来ならば後方にて指揮を取る側の筈の各局長らもまた完全武装かつ大なり小なり負傷している。そんな彼女らまでもが前線に立たなくてはならなくなった時点で、既に現場(最前線)の機動隊員や武装警官隊の人的資源が払底しつつある証明だった。

 

「まず、状況を確認しましょう。──不知火副室長」

 

年頃の少女らが着ける香水でなく、血や消毒液の匂い(アルコール臭)で埋め尽くされた指揮室で、前回の音声のみ(SOUND ONLY)とは異なり今回は直接出席したリンが状況確認として同じく直接出席したカヤに説明を求める。

 

「はい、ではまず本件の主犯である「孤坂ワカモ」率いる()()()について説明します」

 

まず、カヤが解説し始めたのは先日遂に連邦生徒会より「叛乱軍」認定を受けた孤坂ワカモ率いる暴動集団の内訳について。

 

「戦闘ヘリやSRTの強行偵察により判明した敵軍の残存生徒数はおよそ2千、中核となる集団としてヘルメット団が4つにスケバングループが1つが確認されています。また彼女たちが保有する装甲戦力については出所不明(ブラックマーケット産)巡航戦車(クルセイダー)14台、四輪駆動車(ハンヴィー)が9台。なお、戦闘ヘリ等の航空戦力については未だ確認できていません」

 

暴動への参加人数自体は連日連夜の各機動隊の献身と救援部隊(主に小鳥遊ホシノ)の奮闘、連邦生徒会からの正式な「叛乱軍」認定により最盛期の8千から4分の1程度に減ったものの、今の今まで残っている分()()()()()()*1先鋭化された武装集団化している。半ば総力戦の戦時体制へと無理やり移行させられた現在もそうだが、例え連邦生徒会の十全な支援(バックアップ)を含め万全のヴァルキューレ警察学校が全戦力をかき集めた状態であっても少々荷が重い。

 

「問題は──」

 

「──()()が足に使っている超弩級多脚戦車(たきゃくせんしゃ)、だな」

 

そして、目下最大限の問題とは重武装化したヘルメット団やスケバンなどの有象無象の生徒たち───ではなく、本叛乱の首魁と目される孤坂ワカモと彼女が駆る超弩級多脚戦車であった。

 

「SRT特殊学園1年、FOX小隊隊長の七度ユキノだ。わたしたちも含め先輩方── SNAKE小隊とD-DOG小隊が交戦し収集した情報から判明した性能諸元について立体映像に投影する」

 

カヤの発言を引き継ぐ形で話し出したセーラー服姿の少女──七度ユキノは手元の端末を操作し立体映像をD.U.の地図から多脚戦車の立体図へと差し替える。

 

「アビドス南部に本社を置くBAWS社がミレニアムサイエンススクールと共同開発中の試作重多脚戦車「XMLT-J-048」。未完成ながらカタログスペックで全高18m、横幅34m、総重量100t超の怪物です」

 

AR(アサルトライフル)は勿論、並のSR(スナイパーライフル)RG(ロケットランチャー)で抜かれない対実弾装甲

巡航戦車を容易く粉砕可能な背負式90mmライフル砲と対生徒用の機関砲と散弾銃の火力

超重量を物ともしない、巡航速度60km/hを誇る機動力

四脚故の地形を選ばない走破性

 

ただの戦車が「陸戦の王者」ならば、この重多脚戦車は「陸の要塞」と称するのが相応しい。

 

「BAWSとミレニアムに問い合わせたところ、本件発生直前にミレニアム近郊の荒野にて各種性能評価試験を実施中、何者かによって強奪。ミレニアム保安部隊とC&C(Cleaning&Clearing)が捜査中だったとのことです」

 

しかしそんな機体もミレニアムの地で何者か──おそらく孤坂ワカモ──の手により強奪、今や叛乱軍の尖兵として連邦生徒会に牙を剥いているのだから恐ろしい話である。

とはいえ、いつまでも多脚戦車にばかり注目を集めていられる状況でもない。続いて戦車と同じかそれ以上に危険な存在であるワカモについて、雪の様に白い着物を羽織った少女が発言する。

 

「百鬼夜行連合学院百花繚乱調停委員会の御稜ナグサです。我が連合学院の生徒である孤坂ワカモについて、我々調停委員会で把握している情報を共有します」

 

百鬼夜行連合学院

自治区中央に聳える神木を中心にかつて内戦状態にあった諸委員会や部活が連合を組むことで設立した連合学園であり、陰陽部は神事と政により自治区全体の勢力均衡の維持を、百花繚乱調停委員会は実行力で以って自治区内で発生したあらゆる犯罪と紛争の調停・解決を目的とした調停機関である。

 

そんな組織にそれぞれ属するカホとナグサだが彼女たちが遠路はるばる、遥か遠方に位置する百鬼夜行から首都のD.U.まで飛んで来たのは、ひとえに前代未聞の大叛乱(他所様への大迷惑)をやらかしたワカモ(身内)の後始末のためである。

 

「なお、当学院としては孤坂ワカモの処分は()()、もしくは退()()処分。連邦矯正局への収監申請を行う予定です」

 

カホから告げられた処分内容に、その場にいる誰もが厳しくも納得したような表情で頷く。内乱を起こしておいて学校の「停学」や「退学」などおまわりさんの様に外から来た者からすれば軽い罰とも感じないかも知れないがここは「学園都市」たるキヴォトスである。国でなく学校が戸籍を管理し、身分を保証しているキヴォトスにおいて停学や退学とは外でいう国籍を失うことや国外追放を受ける(国家の庇護を受けられなくなる)のと同義。あらゆる公共サービスを()()()()()で受けられない者が碌な末路(人生)を辿れるはずもなく、ある種の死刑宣告にも等しい重罰である。

 

「………」

 

故に、ある種当然とも言える罰であったが、それでも大人のおまわりさんから見てみればまだまだ子供相手にそこまでの厳罰は果たして適当なのか悩ませるものであった。

 

「では、そろそろ本作戦について伝達します。不知火副室長」

「ええ、本作戦に動員するのはおまわりさん麾下の予備第十機動隊を中核に先日壊滅した管区第一・第二機動隊を含む各機動隊から抽出した精鋭800名。これに救援部隊として参戦中のアビドス校戦力等を加えた新生RZ隊を本隊としつつ、遊軍としてSRTで唯一万全に近い状態(フルメンバー)で交戦可能な状態であるFOX小隊が叛乱軍の首魁である孤坂ワカモの逮捕を目指します」

 

作戦の大枠としてはサンクトゥムタワーを目指して進軍する叛乱軍本隊を遂に損耗率が200%を超えたおまわりさん率いる機動隊が、並の戦力では押さえにもならない一番の難敵である孤坂ワカモと多脚戦車をFOX小隊が抑える形である。

 

「……兵力不足は承知の上です。切り札となるFOX小隊、全てはそこに掛かっています」

 

本隊となる機動隊はもとより、SRTの各小隊も比較的後方(補給線の寸断)で活躍していた1年生のFOX小隊を除き、3年生のSNAKE小隊は戦争への乱入姿勢を見せた伝説のスケバンこと「金獅子姫」栗浜(くりはら)アケミの乱入阻止に、2年生のD-DOG小隊は初めて孤坂ワカモの存在が確認された先の防衛戦で撤退中の管区第一・第二機動隊の殿軍を務め上げ壊滅状態となっている。

肉を切らせて骨を断つ、にしても余りにSRT頼りの作戦ともいえない作戦に、そんな作戦しか用意できなかったのであろう防衛室の口惜しさがカヤを通じて滲み出ていた。

 

《──ならば我々も》

《ええ、私たちも》

《一枚噛ませてもらおう》

 

「ハイランダー鉄道学園とプロメテウス消防学校?」

 

しかしそんな会話に突然割り込んで来たのはオブザーバー枠として参加資格はあったものの、今の今までろくに発言をしてこなかったハイランダーとプロメテウスの2校であった。

 

《ヴァルキューレが車両並びに駅舎を死守しているとはいえ、それ以上に我々ハイランダー鉄道学園においてこれ以上の首都圏環状線の麻痺は看過し得ない状況になりつつある。サンクトゥムタワー駅周辺の常設部隊に加え、緊急配備した鉄道警察隊4個中隊と警備車両16台の指揮権をそちらに委譲する》

《我々、プロメテウス消防学校も国家(連邦)の大事ともなればこのまま座してなどいられません。我が校が所有する消火ヘリ7機、新旧混在ですが放水車15台とそれらを運用する生徒をお貸しします》

 

これまで最前線で戦っていた側からすれば、今の今まで傍観に徹しておきながら今更一体どんな風の吹き回しか、と文句のひとつも出そうな場ではあるが、状況がそんな贅沢を許すことはないことも皆理解している。

 

「正真正銘、最後の戦いです。本作戦にヴァルキューレとSRTは残存する全戦力を投入、有志連合とともに主犯である狐坂ワカモ率いる叛乱軍を正面から受け止めます」

 

足りない兵力をアビドス・百鬼夜行・ハイランダー・プロメテウスの有志連合により補うことができたヴァルキューレはこれでようやく正面切って叛乱軍と対抗(決戦)可能なだけの前提条件を整えることができたのだ。

 

「問題は我が方の展開場所です」

 

そして最後に問題となったのはあらかじめ防衛室が用意していた防衛計画よりも膨れ上がった部隊の展開・配置場所。

 

「叛乱軍の進軍経路を想定した上で、その

道路の結節点でかつ敵部隊の布陣が制限される場所……そしてサンクトゥムタワーへの阻止点となる場所となると──」

 

端末の上を、カヤの細い指先がページをめくるように滑る。勿論だが最重要防衛対象であるサンクトゥムタワーに直接立て篭もる(籠城する)のは無し……最悪、それすらも後方のひとつに入れていた防衛室だが兵力が増える嬉しい誤算が起きたのだからなるべく周囲に何もない場所こそが好ましい。

 

「なるほど、ここ……ですか」

「ええ、ここしかありません」

 

端末を操作していた彼女の指が止まる。そしてその端末からD.U.の立体地図を操作し映し出された地図を見たリンの呟きに、カヤも静かに同意する。

 

 

 

「作戦領域はサンクトゥムタワー正面、中央広場──

 

──仮称「円卓」とします」

 

*1
思想的や戦意的、戦闘力的にも

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