おまわりさん、キヴォトスにて   作:神倉棐

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「おまわりさんと連邦生徒会長」

 

 

アビドス砂漠での遭難から3日後、キヴォトス首都D.U.中央区サンクトゥムタワー内にて。

担いでいた少女とともに砂漠から救助され、つい数時間前まで首都の中央病院へと入院(軟禁)されていた俺は今、連邦生徒会なる組織の構成員(行政官)──何故か全員子供(しかも女子生徒)──に連れられとある人物と会合を果たしていた。

 

「初めまして、「先生」。私はこの学園都市キヴォトスを統治する連邦生徒会の長を務めています、高等部一年生の⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎です」

 

青い空が良く見える一面硝子張りの、そしてやったらめったら広い白亜の部屋に執務机がひとつ。決して豪奢ではない、しかしそこに座る少女が纏う静謐とした雰囲気に適した内装のその部屋は、俺の目の前にいる()()()()()()()少女にぴったりの執務室であった。

 

「︎日本国︎⬛︎⬛︎⬛︎県警察巡査、︎ ︎⬛︎⬛︎⬛︎です。助けていただきありがとうございました」

 

目の前で椅子から立ち上がった連邦生徒会長と名乗る少女──おそらく役職的には総理大臣か大統領に該当するであろう──に対し、俺は失礼のないようこれまでにない緊張感を持って敬礼を行う。見た目は正しく女子高生かつ歳下とはいえ相手は最高権力者(連邦生徒会長)、悲しかな歳上であっても*1地方公務員でかつ下から数えた方が早い階級の人間としては彼女は明らかに「雲の上の人」と言わざるを得ない。

 

「気を楽にしていただいて結構ですよ、()()。堅苦しいのは苦手ですし、この場にいるのは私と──先生をここまで案内した幼馴染(腐れ縁)のリンちゃんだけですので」

「会長……執務中です、リンちゃんはやめてください。それに、()()も困っています」

 

そんな俺の有り余った緊張感を慮ってか、はたまた本当に堅苦しいのが苦手なのかも知れないが気を楽にするよう言う会長とそれを窘める行政官の少女。先端が尖った長めの耳と光に透かせば内側が青く染まる長い黒髪、年頃の少女らしくワンポイントとしてシンプルな銀の縁の眼鏡の下に隠れた瞼には青いアイシャドウを引いたその少女は、何処か呆れつつも慣れた様子でため息を吐く。

 

「……()()もどうぞ気を楽になさって下さい。会長もそうするよう仰っていますし……私も、今は見て見ぬフリをします」

 

慣れもあるのだろうが会長からの唐突な無茶振りに、彼女生来の仕事に対する誠実さと幼馴染との情の板挟みになった末に「見て見ぬフリ」をすることで折り合いをつけた彼女。仕える相手は違えど、同じ宮仕えの1人としてちょっとした親近感(シンパシー)を感じた2人は互いの脳裏で親愛度が上がる音がする。

 

「あー……、そうですね……「もっと砕けた口調でも構いませんよ?」……あ、はい。その先生といわれるのはしっくりこないので、ここはそうですね……「おまわりさん」、とでも呼んで欲しいです」

 

戸惑いつつも何か話題を出そうした俺だが、更なる会長からの割り込み(カットイン)にタジタジになりつつもちょっとした呼び名の訂正──「先生」でなく「おまわりさん」へと──を行う。確かに巡回連絡やパトロールで「先生」と呼称されることもない訳ではないが、それ以上に交番勤めの地域の警察官としては「おまわりさん」と呼ばれる方がしっくりとくるし何より()()であった。

 

「……ふふっ、分かりました。「おまわりさん」」

 

そんな俺の要望に微笑みつつ「おまわりさん」と呼ぶ生徒会長。これまでも常に微笑みつつ話していた彼女であったが、今この瞬間の笑みは何故か本当に彼女は心から微笑んでいるのであろうと、そう思えた。

 

「ではおまわりさん、貴方の今後についてお話ししましょう。リンちゃん」

 

そして今後の話として自身の身柄の行方、今はこのキヴォトスの中央政府にあたる連邦生徒会預かりとなっているらしいが今後どうするのかについての話になる。

 

「はい、今後おまわりさんには連邦生徒会の庇護下にいてもらいつつ、現在連邦生徒会長が構想中の学園都市間を超えた超法規的捜査機関設立の下準備をお願いしたいと考えています」

「超法規的捜査機関?」

 

前知識として病院に入院中に()()()()()()から教えて貰ったこの世界「キヴォトス」の常識──平和な日本どころか相当な銃社会であるアメリカでも考えられない、銃撃戦が毎日何処かしらで発生しているほどのイかれた超銃社会とソレを支えるヘイローなるものの存在──に照らし合わせ、目の前の少女たちから伝えられた内容から脳裏に元の世界でいうFBIのような組織を思い浮かべた俺だったが、話を聞く限りあながち間違いでもないらしい。

 

「はい、既に我が連邦生徒会の傘下には各学園間の柵を超え活動可能な対テロおよび紛争鎮圧を目的とした学園(特殊部隊)は存在します。しかしあくまで彼女たちは私個人(連邦生徒会長)がその権限を担保する半ば私兵のようなもの、連邦生徒会に指揮権はなく増強の必要であったとはいえ最早大っぴらには動かせません」

「つまり、暴力装置としての色が強くなり過ぎて捜査機関としては使えなくなったと?」

 

聞くに既存の機動隊とは異なり元は戦闘だけでなく捜査活動も念頭に入れた「ある程度戦える刑事」の集団だったハズが、年々の治安悪化の影響により戦力充実に迫られた結果SITとSATの役割がごちゃ混ぜになった挙句、キヴォトスに軍隊がない*2弊害で内向きの力を司る警察が外向き力を司る軍部を兼任させら(と一緒くたにされ)てしまっているらしい。

 

「……その通りです、いくら私の権限があるとは言え軽はずみなSRT投入は各学園から重大な自治権侵害と取られかねません。そこで」

「はい、新たに学園間で発生した事件・紛争の捜査・解決を主目的とする純然たる捜査機関「連邦捜査部」の設立が急務となっています」

 

連邦生徒会長とリンから説明を受ける限り、2人が作ろうとしているのは各学園都市に自治権がある分、州を跨ぐ連邦捜査局(FBI)というより国境を跨いだ国際刑事警察機構(ICPOあるいはINTERPOL)に近い組織のようだ。一宿一飯*3の礼があるとはいえ、そんな組織立ち上げに協力することとなるとはキャリア組でもなければ刑事課員でもない、ただの若手(一介)の地域課員でしかない自分には少々荷が重過ぎるように思えるがそれでも猫の手も借りたい様子の2人は何が何でも引き入れたいらしい。

 

「私たち()()()()()()()()()なのです。良識ある「大人」、「警察官」たる貴方の選択(協力)なくしてキヴォトスの治安(未来)は守れない」

 

何処か「諦観」とも、鬼気迫るような「覚悟」ともとれる向けられた生徒会長の強い視線に、俺はごくりと唾を呑む。同時に執務机の引き出しから()()を取り出した彼女は、まるで愛しむような、尊い物に触れるかのような手付きでソレを机に置く。

 

「お預かりしていた、貴方の「大人の責任(誇り)」です」

 

コトリと、執務机に置かれたのは預けてあった警察手帳と手錠。そして、自分が貸与されていた……であろう回転式拳銃(リボルバー)、M60ニューナンブであった。

 

「銃身、弾薬に至るまで全て検査しましたが()()()()()()()()()()()()。正真正銘、普通の拳銃です」

 

一線に出て以降の相棒となった「サクラ」はともかく、警察学校では射撃訓練を含め長くを共にしたソレは。「警察の職務」を胸に抱かせる警察手帳と共に初めて銃を手にした感情を、初心を思い起こさせるモノであった。

 

「どうか、どうかお願いします。「外」から来た貴方にとって厚かましい願いであることは理解しています。どうかキヴォトスを守る力を貸して下さい」

 

目の前で頭を下げる少女たち。年端もいかない少女たちが国家運営の重責を背負い、そこに住まう市民の安寧を願い苦悩する……そこにいる「大人」を差し置いて、子供だけが責務を担っている。

「大人」として、それは正しいのだろうか。

「警察官」として、正しいのだろうか。

ひとりの「人間」として、正しいのか。

 

「誇りと使命感、か」

 

外の常識とキヴォトスの常識は違う。

そんなことは理解している、それが()()()警察官として正しいことかどうかなんて分かりきっている。

それでも──俺は机の上に置かれた警察手帳と拳銃に手を伸ばす。

 

 

 

 

 

「──ありがとうございます、おまわりさん。

 

 

 

貴方に辞令を下します。明日付でヴァルキューレ警察学校に赴任、教官に任命します」

 

 

 

 

 

そして俺は、この世界でも「警察官」であることを決めた。

 

 

 

*1
むしろ「大人」だからこそ

*2
あくまで全て治安維持組織の範疇に収まってしまうらしい

*3
救助に加え戸籍等の身分保障に就職先斡旋とそれどころではないが

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