ヴァルキューレ警察学校本校舎中央
「報告します。初任補修科第49期生全66名、訓練用旧型防具
ヴァルキューレ警察学校本校舎所属の1年生である66人の生徒全員が、黒い防護装備と大盾を片手に運動場へと並ぶ。
そして、その生徒全員が整列したことを報告するのは同じく防具を身に纏い大隊補佐に指名された尾刃カンナであった。
「そうか、分かった」
そんなカンナの報告を指揮杖を手に、傍に立てかけられた大盾を見つめていたおまわりさんは一度目を閉じた後、報告したカンナやその背後に並んだ各分隊長を中心に整列した生徒たちへと視線を向ける。
「……教官」
いつもと違う、遥かにピリ付いた雰囲気を纏う教官を前に戸惑いがちにカンナが声を掛ける。
「……大丈夫だ、少し
生徒から掛けられた声に、少しハッとしたおまわりさんは少し気まずそうな表情をカンナに見せつつ眉間を揉む。警備実施の訓練は生徒もそうだが、おまわりさん自身も
何もかも足りず余裕がない防衛出動、それでもどうにかしなければと……誰もが足掻いていた十数分前の出来事を思い出していた。
十数分前、首都D.U.ヴァルキューレ警察学校本校舎臨時治安対策本部作戦室
《皆さん、お集まりいただきありがとうございます。ではただいまから今回の首都圏で発生した大規模暴動──D.U.暴動事件の鎮圧作戦会議を行います》
多くの警察学校の生徒が慌ただしく駆け回る対策本部司令室の隣室、幾人かの警察学校でも
なお、参加者は以下の通り
連邦生徒会統括室主席行政官代行
連邦生徒会防衛室室長
連邦生徒会防衛室副室長
連邦生徒会交通室副室長
SRT特殊学園SNAKE小隊隊長
SRT特殊学園D-DOG小隊隊長
SRT特殊学園FOX小隊隊長
ヴァルキューレ警察学校理事長
ヴァルキューレ警察学校顧問*1
ヴァルキューレ警察学校公安局局長
ヴァルキューレ警察学校公安局副局長
ヴァルキューレ警察学校警備局局長
ヴァルキューレ警察学校警備局副局長
ヴァルキューレ警察学校生活安全局局長
ヴァルキューレ警察学校生活安全局副局長
ヴァルキューレ警察学校交通局局長
ヴァルキューレ警察学校情報通信局局長
人数こそ多いが連邦生徒会・SRT特殊学園組は音声のみでの参加*2であり、警察学校側も既に管区機動隊は全て動員済み。予備機動隊も現在非常呼集が行われており、機動隊以外の警察官は所属の局を超えて首都圏全域での避難誘導の真っ只中である。
《防衛室、状況説明を》
《はい。暴動は首都圏南部の旧第4工業地区、現在再開発地区に指定されている第66廃棄港湾地区にて発生。最初は数人のレッドウィンター工務部部員と港湾地区を根城にしていた幾つかのヘルメット団が確認されていましたが、サンクトゥムタワーへと前進を開始して以降他の地区の不良生徒が徐々に集結。現在、防衛室で確認している限り参加者は7つのヘルメット団に9つのスケバングループ、その他廃校となった旧自治区の生徒を含めその総数は5千は下らないと試算されています》
「5千……」
防衛室がかき集めた情報から推定されるサンクトゥムタワーに迫る暴動の数、その数── 5千。現在進行形で参加者を増やしつつあるその暴徒の数は、下手な弱小自治区どころか警察学校全生徒数をも上回る勢いであった。
《更に暴動は旧式とはいえ巡航戦車や装甲車を前衛に押し立て前進しており、その背後にはブラックマーケットの支援があると考えられます》
更に生徒は
《我が方の戦力は?》
「即応部隊として管区・予備機動隊が合計10個隊、装甲放水車が14台と戦闘ヘリ13機、輸送ヘリ8機を動員しています」
「ただ……暴動側も
状況は正に「最悪」の一言で表せるほどに最悪だと言える。
地の利はともかく、
兵力に劣る治安維持側にとって装甲放水車以外の、虎の子の戦闘ヘリと兵力の緊急展開が可能となる輸送ヘリがAAMで牽制されるというのは余りに辛い状況といえる。
「それでも、成さねばなりません」
しかし、たったそれだけで折れるほど治安維持側も
「ええ、
「その脇を第三と第四が、後方を第五機動隊が固め、予備機動隊は避難誘導が済み次第各機動隊の間にある幾つかの支線の封鎖、或いは各重要施設の防衛を担当してもらいます」
《SRTは遊軍として個々に進撃を続ける暴動集団間の連絡線や補給線を切断、各個撃破を目指す。同時に今回の暴動の首謀者の逮捕も、だ》
勇将の下に弱卒無し
近年のSRTの勃興により連邦生徒会の最強の矛でこそなくなったが、混沌とした三大校を筆頭とした列強諸自治区を除くキヴォトス過半の自治区で治安維持を営々と務め続ける組織。その血脈を未だ色濃く継ぐ警察学校上層部は、生来の生真面目とともに普段表に出さないだけでかなり
「増援は?」
《各地に点在するヴァルキューレ支所各管区機動隊、並びに現在調整中ですが治安維持支援を提案してきた
「3日後……」
そしてこれほど最悪な状況であっても「希望」はある。キヴォトス全土に点在する警察学校支所で編成されている各管区機動隊と予備機動隊の首都集結と、
《おまわりさん》
「はっ!」
《貴方の教え子である予備第十機動隊、その指揮官として貴方自身も出動する……その意思は変わりませんか?》
その後、防衛室が考案した首都警備計画の説明を行った後。会議も終わりに近づいた頃、参加していた連邦生徒会の主席行政官代行──七神リンは会議直前に防衛室経由で上げられた報告、おまわりさん自身が示した防衛出動の意思の如何について問う。
「勿論、変わりません」
そんなリンの問いに、会議の場にいても幹部ですらなかったが故に特に発言することもなかったおまわりさんはこの時初めて是と言葉を発する。
「……おまわりさん、いくらおまわりさんが大人とはいえ……ヘイローがない貴方はたった1発の弾丸であっても死んでしまいかねません。後方に下がられた方が……」
「……警備局長のいう通りかと、私も思います。おまわりさん、貴方に代わりはいません。どうかご再考を」
口々に挙げられる警察学校の生徒たちのその声は、しかし決しておまわりさんを邪険にするためでなく、純粋にその身を案じて彼に翻意を促す。
しかし、
「それでも、私はこの防衛出動に参加すべき……いえしなければならないんです。大人として、警察官として、そして──「教官」として」
おまわりさんの答えに、その確固たる意思を変えることができないと理解した警察学校の生徒たちやリンは、その説得を諦めざるを得なかった。
《……分かりました。ではもし貴方が折れなかった場合、お伝えするよう連邦生徒会長から伝言を預かっています。「私たちに貴方は必要な存在です。どうか、死なないでください」と》
時は戻り、ヴァルキューレ警察学校本校舎中央運動場にて。
たった十数分前の出来事を回顧していたおまわりさんは、ふと過去から現実に戻ってくると眼前に並んだ初めての生徒たちを眺める。
訓練未了、装備も個々が日頃使用している制式装備の小火器以外は全て旧式というお粗末さだが、本来戦闘の前面にどころか展開さえされないハズの訓練部隊に出撃命令が下っているのだから当たり前である。
「総員傾注!
既に第一から第五までの管区機動隊は先遣隊として首都各主要幹線道路を掌握のため出動。二年生以上の警備局員以外で編成された予備第六から第九機動隊は市民の避難誘導が完了次第各重要施設配置場所に移動予定だ」
眼下に並んだ生徒たちの視線一身に受け、おまわりさんは生徒ひとりひとりを見渡しつつ宣言する。
「よって我々、
そうだ、やらねばならない。
個人の生命、身体及び財産の保護し、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ること──それこそが
「市民の安全を守るべく、各員奮励奮起努力せよ!────予備第十機動隊、出動!」
キヴォトスで最も長い1週間が始まろうとしていた。