首都D.U.シラトリ地区第3業務地区幹線道路上
───午後3時23分
《
《装甲放水車2台、現場着。放水いつでもいけます!》
《業務地区内の一般市民の97%退避完了。残りの3%を避難急がせます!》
《時間がない!残りは本署に避難させろ!》
本来ならば多くの人と車が行き交うオフィス街の
《
「RZリーダー、了解。これより防衛を開始する」
《HQ、了解。既に他の機動隊も交戦状態にあります。
土嚢と盾、そして文字通り「人」により
「来ました!6時の方向、距離1200!」
大隊補佐であるカンナが張り上げた声が摩天楼の狭間に響き渡る。
遂に来た、各々様々な武器を手に幹線道路を北上しつつある500もの武装集団。
数で負け、訓練も未了。装備の大半は旧式で身を守るものといえば盾か土嚢が精々と散々な初陣を迎える羽目になった彼ら彼女らだが、決してその瞳は死んでなどいなかった。
「来るぞ!全体密集!訓練通り、盾の間に隙間を開けるな!
指揮官であるおまわりさんの号令に従い、直線上で鱗のように連ねて重ね構えられた盾の壁。投石は勿論、盾の素材的には
「っ⁉︎暴徒が撃ってきました!煉瓦の投石も、来ます!」
「一列目は下段に、二列目は盾を上段に構え!裾を払え、角度を忘れるな!」
その直後、目の前に陣取る
「被害報告!」
「損害、軽微!貫通ナシ!」
降り注ぐ瓦礫と
「今度は手榴弾と火炎瓶⁈来ます!」
そんな崩れぬ
「教官!貴方は退避を!」
割れた瓶から溢れた燃料が直接身体に掛かって引火すればまだしも、裾を払い角度を付けた盾さえあれば火炎瓶だけでなく手榴弾の爆発の直撃さえも含めて
故に、天を舞い頭上に降り注ぎつつあるそれらを目にしたカンナを筆頭に
「チィッ!」
「え"っ⁉︎」
「きょっ、教官⁈」
しかし思わず振り返り無理矢理にでも保護しようとしたカンナが目にしたのは、咄嗟に指揮杖を手放し肩越しに背負っていた
「狼狽えるな!盾を構えろ、前が倒れれば後ろに後送しつつ二列目が前に出て隙間を埋めろ!」
割とキヴォトスでもとんでもないことをしでかしているおまわりさんの姿に、思わず唖然とした表情をしている彼女たち。
「その盾の後ろには共に戦う戦友と守るべき市民、そして誰かの日常がそこにあることを忘れるな!」
そんな彼女たちに向け、その原因であるおまわりさんは一喝し活を入れる。
幾つもの、幾たびの銃撃や爆発に晒されながらも、少女たちが持つ盾が大きく崩れることはない。
たた、
「放水車!目標、暴動集団前衛。薙ぎ払え!」
《了解!》
《放水開始!》
守備位置にて隊列を堅持する機動隊と、じわじわと前進しその距離を詰めつつある暴徒。
両者の距離が50mを切った時点でおまわりさんは事態を回天させ得る切り札──放水車による放水──を切る。
「暴徒の列が崩れました!今です!」
装甲化された放水車から絶えず吐き出される毎分500リットルもの質量攻撃。いくらキヴォトス人とて、並の銃弾や爆発には耐えられてもその全身を薙飛ばす質量までは抗えない。
「前進する!目標前方暴動集団!」
「「「了解!」」」
一転攻性、これからは攻守は反転する。
「行くぞ!」
「「「行くぞ!」」」
叫ぶ。
「行くぞ‼︎」
「「「行くぞ‼︎」」」
腹の底から、その声で以って相手を威し圧するが如く。
「──前進!」
「「「おぉぉおおぉぉっっつっ‼︎」」」
号令を受け、解き放たれた「猟犬」たちが盾を片手に突撃する。
「逮捕ぉおぉおぉっっ!」
「放せぇえっ⁉︎」
「取り押さえろ!抵抗を許すな!」
今まで一方的に撃たれていた鬱憤を晴らすが如く目の前の「獲物」に喰らい付いた彼女たちは、放水に薙ぎ払われたことで集団を乱され混乱する相手に対し碌な抵抗さえ許さず鎮圧・拘束し始める。
「こんにゃろっ!?」
「っ‼︎盾で殴ってでも止めろ!」
「手錠!急いで!」
「1名、確保!」
敵味方入り乱れての大混戦。ある者は盾で相手を殴り飛ばし、ある者は徒手にて相手を投げ飛ばす。飛び交う銃弾なんてなんのその、文字通り目の鼻の先にいるゼロ距離でそんなもの恐ろしくなどカケラもない。
「姉御!」
「むっ!?はあぁぁぁあぁっ!」
「ひぇっ……あべばぁっ⁈」
至近距離故に銃火器でなく逮捕術を修めた警察側が優勢だが、特に早々に盾を相手に投げ付け、制式拳銃の
「第一列、盾構え!放水車、瓦解した暴徒が再結集できないよう牽制放水!」
相変わらず警察側優勢の状況ではあったが、それでも引き際は弁えている。幾ら頑丈かつ日頃鍛えている警察官とはいえ5分以上全力で戦って、それ以上十全に力を発揮できる訳でも無事でいられる訳でもない。無理矢理にでも暴徒との距離を取らせるべく下された命令に、放水の集中砲火を受けた暴徒たちは統制もなく三々五々どころか散り散りとなって逃走を始める。
「はぁ、はぁ……追撃は?」
「……不要だ、負傷者は?」
逃げ散る敗残兵の背に銃口を向けつつ、側に寄って来て追撃の有無を尋ねるカンナに追撃不要と答えたおまわりさんは目の前の惨状──水浸しでボロボロとなった道路と敵味方を問わず倒れ伏す何人もの少女の姿にそう尋ねる。
「少々お待ち下さい……報告によりますと第3小隊が壊滅、第2・第6・第7小隊が半壊。ただ大半が気絶もしくは打ち身擦り傷打撲程度ですぐにでも復帰可能です。ただ当たりどころが悪く重症者が6名ほど……」
今も盾を構え前衛を張る者や逮捕者を拘束する者、負傷者の手当てをする者について、各小隊長から報告を受けたカンナが改めて情報をまとめおまわりさんに報告する。
「……」
「教官」
「……分かっている。今は、大丈夫だ」
報告を受け何処か後悔を滲ませた雰囲気を見せたおまわりさんにカンナは声を掛ける。彼女の気遣いに「大丈夫」と答えたおまわりさんは、地面に落ちていた誰かの
「HQより連絡がありました。先の交戦で一時的に航空優勢の確保に成功、それにより負傷者は軽傷者を除き輸送ヘリにより中央病院に移送。逮捕者も全てシラトリ支所内の留置場でなく特例として直接連邦矯正局へと移管します」
そんなおまわりさんの姿を見つつ、報告を続けるカンナ。
「……部隊は早期警戒班を残し、一時シラトリ支所に撤収。食事や治療などの休養に入るように、次がいつになるか分からない。カンナくんも休めるうちに休め」
「……了解」
指示を下しHQとの連絡のため指揮所へと戻るおまわりさんの背を見ながら彼女は思う。
「…………やはり教官、貴方は───」
───本当に、優し過ぎます
地域を守る
誰かを