はっく・あんど・すらっしゅ! 作:Crimson Wizard
「……あの、すみませんスマホの充電器貸して貰えますか?充電無くてバンド仲間と連絡取れなくて。」
……まさか酒が無いと会話もままならないって嘘じゃなかったのか?てか酒でコミュ障誤魔化してたのか?
きくりさんって酒が抜けるとまじでこんな感じなんだな。……こっちの方がいいと思うけど。
「いいよ、俺が連絡するから番号教えて。」
「あ、はい。」
そうしてバンドメンバーとやらの電話番号を教えて貰った訳だが……
「この人の名前は?」
「あ、志麻……さんです。」
昨日あんなに絡んできたのに、きくりさん緊張でガチガチなんだが。頑なに目を合わせないし。本当に酒が無いと生きていけないんだなぁ。
そんな事を考えながら教えて貰った番号に掛けると
『はい、岩下です。』
……岩下?さっき志麻って言ってなかったか?
『あ、お忙しいところすみません。廣井きくりさんのバンドメンバーの方でお間違いなかったですか?』
『?……はい、そうですけど。』
『その、昨日仕事帰りに道端で倒れてる酔っ払いを拾いまして、迎えのアテはあるのか確認した所この番号を教えて貰ったといいますか……』
『またか……ご迷惑をお掛けしてすみません。すぐに迎えに行きます。住所を教えて貰っていいですか?』
『あ、はい。〇✕町の〇△番地です。〇△マンションの403号室です。』
『ありがとうございます、今から向かいます。』
……割と常識的な方だったな。きくりさんのメンバーという事でかなり破天荒な人かと思ってたんだが。
「って事できくりさん。迎え来るから準備しな。その服はもうあげるから自分の分は持って帰ってくれ。でこれ没収しといた鬼ころ。……呑むなよ?」
「あ、はい。……え、あ、はい。」
と、それから数十分後……チャイムが鳴ったので扉を開けると、スカジャンを羽織った黒髪美人が現れた。
「すみません、岩下です。この度はウチの廣井がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。これ、お詫びです。つまらない物ですが。」
「ああ、いえこちらこそ急にお呼びしてすみません。これは……恐縮ですが、ありがとうございます。後ほど頂きます。」
菓子折りまで持って来てくれた。なんていい人なんだ!
「おい廣井!お前あれ程人様に迷惑掛けるなって言ったよな!?」
「!あ、はい。申し訳ありません。」
「……驚いた。今は酔ってないのか。」
バンドメンバーに驚かれるくらい素面のきくりさんってレアなのか?なんか目を瞑ってビクビクしてるけど。
「では、私はこいつを連れて帰りますので、これで失礼します。」
「はい、ではお気を付けて。」
と、こうして平和な日常が帰ってきた訳だが。……なんか急に静かになると少し寂しいな。
とはいえ、毎日あのテンションで話し掛けられたらそれはそれでうざいからまあ仕方ない。
んー。でも昨日のきくりさんの演奏で久しぶりにギターでも弾いてみたくなったな。
メンテからやらないとだなぁ。弦も張り替えた方がいいだろうし。
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よーし、チューニングもこれでよし、と。とりあえず前やってたバンドの曲でも弾いてみるか。
と、一通り前やってた曲を弾き終わったんだが……
全ッ然駄目だ!驚く程弾けなくなってる。あと指の皮が柔らかくなっててコードチェンジする度に痛い。
まあ一応弾けてるは弾けてるが、めっちゃミスった。まさかここまで酷いとは思ってなかったな。
これは、運指練習からやり直さなきゃ駄目だな……はぁ。感覚を取り戻すまでどれだけ掛かる事か。
と、軽く自分の衰え具合にドン引きした後、せっかくの休日な事を思い出して前やってたバンドのMVやライブ映像を見る事にした。
「……あぁ。」
……やっぱり俺辞めたくなかったんだよな。あのメンバーでバンド続けたかった。
そうは思うが、もう終わった話だ。連絡は取れるが、メンバーの中で東京に住んでるのは俺だけだ。
会って遊ぶ事は出来ても、皆もうバンドに未練はないんだろう。というか、皆の予定合わせるだけでも一苦労だ。
一応、俺はボーカルだったから勧誘してきたレーベルに連絡すればボーカリストとしてメンバーを紹介して貰えるかもしれないし、
ソロだったらメジャーデビューも出来るかもしれない。というか、今の時代ネットがあるんだから活動したければ極論俺一人でも出来る。
でもなぁ……仕事の疲れを言い訳にして、趣味に逃げてる今の俺じゃ前ほど音楽に対して真摯になれない。
一応ボイトレは欠かさないようにしているとはいえ、家で出来る簡易的な内容とたまにカラオケに行ってるくらいだしな。
遂にはギターの腕すら錆び付いちまった。
「でもなぁ……やっぱり音楽やりたいなぁ。」
と、前のバンドを思い出して少し感傷的になってしまう。俺は未練を断ち切るかのように被りを振ってスマホを見る。
「はぁ……少し外でも出歩くか。」
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「へぇ……ここ良いな。」
今は気分転換に服でも買おうと下北沢を散策中だ。うーん。このデザインは好きなんだが、俺あんまり古着買わないんだよなぁ。
と、服を探すのに夢中になっていると誰かと肩がぶつかった。
「あ、すみません。」
「……ん?」
……俺の見間違いか?いやそうだよなまさか店の中で草食ってる奴なんている筈が
「いや待て!おいちょっと、何食べてるんだあんた!?」
「……?草だけど。」
草だった……え?何、俺が知らないだけで普通に飯食うのは時代遅れなの?今どき主食は酒とか草が主流なの?
「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着こうか。」
「いや私は落ち着いてる。」
そうだった。うん、確かに君は落ち着いてるな。草食ってるけど。
「えーと、ごめん。何で草食ってるの?」
「お金ないからだけど。」
お前もかーい!どうなってるんだ東京は!?最先端の街じゃなかったのか?それとも草を食うのが最先端ってか!んなわけあってたまるかい!
「……身体壊すからやめた方がいいと思うよ。」
「じゃあなんか奢って。」
「え?なんで?」
「だって、私は草しか食べるものが無いから仕方なく食べてる。お腹が空いてるから。それを食うなって言ったのはお兄さんの方。
だから、私に草を食べるのをやめて欲しかったらなんか奢って。」
正論、なのか?いやまあ確かに草を食べない方がいいよとは言ったけども。
「んー、まあ今日休みだしいいよ。何が食べたい?」
「お兄さんフットワーク軽すぎ。私の身体目当て?」
ハッ!?確かに、この子は見るからに学生……そんな子を飲食店に連れ込んだら、パパ活やってるって思われるんじゃ!?
「……やっぱり奢るのはなしで、それじゃ。」
と背を向けて逃げようとすると襟を掴まれた。
「冗談冗談、冗談だからなんか奢って。」
とか言いながらまだ草食ってるし。無表情でむしゃむしゃと。……なんか最近出会う奴皆して癖すごいな。
「……まあいいか。で、何がいい?」
「叙々苑」
「おい少しは遠慮しろ!ファミレスとかでいいじゃんか。」
「えーじゃあこの店は?」
そう言ってスマホを見せられる。
「ふむふむ。ランチメニューがお手頃価格で超絶品、店主のイチオシは海鮮パスタか。」
うーん。ギリギリランチの時間には間に合いそうだな。
「じゃあここにしようか。」
「ふふ、タダ飯ゲットだぜ。」
本人の前でよく言うなコイツ。面の皮が厚いとかいうレベル越えてんな。
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「はい、お待たせしました。こちら、ランチメニューの海鮮パスタがお二つですね。」
おー、美味そう。
「「いただきます。」」
まずはサラダから、と思って付いてきたサラダを食っていると目の前の少女はパスタをずるずると美味しそうに啜っていた。
あ、野菜が好きだから草食ってんのかと思ってたけど本当にお金なかっただけなのね。
「これ、食べてみたかったやつ。まあまあ美味しい。」
まあまあって。奢ってもらう分際で偉そうな奴だな。
「てか、君名前なんていうの?」
「人に名前を聞く時はまず自分から名乗るもの。」
コイツムカつくな。
「山田京だ。」
「え、凄い偶然」
「なになに?君も山田だったり?」
「うん、山田リョウ」
oh……まさかの一文字違い。こんな偶然があるのか。これって最早運命では?
「まさに奇跡」
「まあ山田って苗字自体はかなり多いからなー。下の名前まで一文字違いなのは凄いけど。」
それからはなんだかんだ暇つぶしになったのでロインを交換してそのまま帰宅したんだが。
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「うぇーい!きょうく〜ん!お礼しに来たよぉ〜」
……なんか家の前にきくりさん居るんだが。ちょっと待ってくれ、俺明日仕事なんだが。