はっく・あんど・すらっしゅ! 作:Crimson Wizard
俺はアラームの音で飛び起きる。
「今何時だ!?」
慌ててアラームを止めてスマホで時間を確認すると、昨日事前に休みを取った記憶を思い出した。
……今日は休みだったかー。当然、本意ではない。何故仕事を休む事をこれ程までに恐れるのか。
きくりさんの事を駄目人間駄目人間と言っているが、俺も駄目人間だからだ。
一日休む度に休む事への忌避感が無くなり、遂には仕事を辞めてしまう。俺は本来根っからの社会不適合者なのだ。
なので、どれだけキツくても熱が出たりしない限りは休まないようにしていた。
それを、曲げてしまった。……これは非常に不味い。一度休むと休む事へのハードルが下がってしまう。
仮に明日、少しでも頭痛があったりしたら俺は迷わず仕事を休んでしまう自信がある。
不味い、不味いぞ……きくりさんを見て反面教師にしなくては……!
「んぁ?おはよーきょうくん。」
ううむ。今日は、まだそこまで酔ってなさそうだな。とはいえ、こうして平日にのびのび過ごしている所を見ると羨ましいと思ってしまう。
……駄目だぁ、俺はもう既に明日休む理由探しを始めてしまっている。
「きくりさん養ってー」
「うぇっ!?」
軽く冗談を言ったつもりがきくりさんは真っ赤になってしまった。ちょ、ちょっとは可愛い所もあるじゃねえか。(謎の上から目線)
というか、仮にも女性に養ってはどうなんだろうか。……俺ってこんなクズだったっけ。
「あ〜死にてぇ。異世界転生して田舎でスローライフ送りたい。」
「どういう独り言!?」
……いよいよヤバい。何せあのきくりさんがツッコミに回ってしまっているのだ。これは青天の霹靂。明日は槍が降る。主に俺のせいだが。
「ってか、なんできくりさんがウチに居るんだっけ?」
「えぇ……きょうくん今日少しおかしいよ?どうかしたの?」
どうかしたのって、お前のせいだよ!(逆ギレ)お前が俺が仕事してる時間ものびのび酒飲んでるんだろうなって考えたら働きたくなくなったんだよ!
俺は逆に他人が汗水垂らして働いてる中コーヒーでも飲みながらそれを眺めていたいタイプなのにっ!(ド畜生)
とはいえ当然こんな事口に出せないので適当に誤魔化すしかない。
「あー、仕事辞めようかなー」
「そうだそうだ!仕事なんかやめちゃえ〜!何時から私達は労働しなくちゃ文句を言われるようになったんだ!」
昔から働かざる者食うべからずという言葉がありますが。
「マジで迷ってるんだよなぁ……もうホント、生活出来るお金有るなら働く必要無くね?なんで俺睡眠時間削ってまで働いてんの?」
上司の小言に取引先の無茶振りに客からのクレーム。全てがストレス。一時期クレーム酷すぎて禿げたくらいだわ。
「よし決めたァ!仕事なんか辞めてやるぜぇー!」
「よっ!キミはよく分かってる。そうだよ〜!私たちはっ!社会の歯車なんかじゃ無いんだよっ!」
一度も社会の歯車になった事の無さそうな彼女が言うと説得力に欠けるが……まあいいか!
辞表出した時の上司の反応が少し怖いが、とりあえず連絡しよう。えーと、会社の番号はっと……
「あ、はい。山田です、お疲れ様です。え、今から出社出来るか?……すみません、実はその、仕事辞めようかと思ってまして……」
給料上げるし不満点があるなら改善するから残って欲しい?……そ、そんな事言われても俺の考えは変わらないぞ!
何時でも戻ってきて良いからねって?ああ。心が痛むからやめてくれ。優しくしないで……
「……罪悪感えぐい」
「えー!?きょうくん勢いでホントに辞めちゃった……これは志麻に連絡しなくちゃ!」
……それ連絡する意味あるのか?友達が無職になった途端それを知り合いに広める性格悪い奴じゃん。
はあ……これで俺も無職か。いや?贅沢しなければ10年は余裕で暮らせる金額があるんだから、ネオニートなのかもしれない。
そうだ!俺はネオニート!金のあるニートだ。現時点でも印税は入ってくるから収入のあるニートなのだ。
そこいらのただの無職とは訳が違う。選ばれしニート。伝説の特権階級・ネオニートなのだ。
よし、今日から肩書きはこれにしよう。ネオニート……素晴らしい響きである。
なんて事を考えているとロインの着信が……誰だ?
……野草少女だ。
「もしもし?」
『あっ出た』
「なんか用?」
『お金無くなったからご飯奢って欲しい』
?????
「今なんて?」
『お金が無くなったのでご飯奢ってください。』
……どういう神経をしているのだろうか。俺とは一度しか会ったことがなく、その初対面で奢られている。あのパスタで味をしめたのか?
「あー、俺仕事辞めて今日から節約するからごめんだわー」
『分かった、じゃあ家の場所教えて?』
……??????何故?いや、別に教えてもいいんだけど何をする気?来ても飯作らないよ?
とりあえず、言われるがまま住所を送ると既読だけが付き返信はない。スマホを見ると既に通話は切れている。
「今のだれ〜?」
「野草少女」
きくりさんは頭にハテナを浮かべているが、残念ながら俺は事実しか言っていない。
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それから数十分程経つと、インターホンが鳴ったのでドアを開けると、当然のように草を食っている野草少女。
「よ」
「……また草食ってる。」
とりあえず中に入れると、野草少女はきくりさんを見て目を見開いた。
「な、なぜ……廣井きくりが此処に……」
「んぅ?もしかしてわたしのファンの子~?」
彼女達は数分で打ち解け、仲良くソファーに腰掛け駄べり、家主の俺は放置プレイである。俺外行っていいかな?
「あ、そういえば野草少女」
「ん、それ私のこと?」
むしろお前以外に誰が居る。
「今日平日でしょ?学校は?」
「サボった」
……かなりロックな少女だぜ。
「そっちこそ、今日は仕事いいの?」
「ついさっき仕事やめた。」
「……じゃあ無職だね」
フン、俺はその程度の口撃には動じないぜ。何せ、俺は伝説の特権階級・ネオニートだからな。
「ハッ!俺をそこら辺の無職と一緒くたにしないで貰おうか?俺は伝説の特権階級・ネオニートだぜ?何もしなくても収入が入ってくる。」
「……闇営業?」
「ち、違わい!……実は俺、今まで正体を隠してたんだ。」
「まだ会ったの二回目だし正体もクソもないと思うけど」
確かに。
「野草少女よ、君は音楽は好きかい?」
「え、うん。バンドやってるし」
ふふ、ならば俺の正体に慄くといい。
「伝説のビジュアル系ロックバンドといえば?」
「XJA○AN」
ごめんなさいたかがインディーズの分際で調子乗りました。
「ゴ、ゴホン。インディーズで有名なビジュアルロック系バンドは?」
「タイム。活動期間は?」
「ん?えーと、一昨年までは活動してたぞ。」
それを聞くと考え込む様な仕草をする野草少女、これで外されたら恥ずかしいのでそろそろ当てて欲しい。……切実に
「分かった……答えは、H&S!」
「ふっ……正解だ。実はそのボーカルがこの俺なのだよ。」
俺がそう言うと野草少女は怪訝な顔をして俺の顔をジロジロと眺めてくる。……もしかして疑われてる?
「言っとくけど嘘じゃないぞ!ボーカルの名前見たら分かるだろ?」
「うん、でも顔が違う」
そこはほら、ビジュアル系バンドなんだから当然……こいつ本気で疑ってるな?
「そうだ!きょうくんがメイクすれば完璧じゃん!」
ときくりさん。……確かに、今日は休みだから別にメイクしても……って。俺もう無職だったわ。
「そこまで言うのなら良いだろう。ただ、メイクには2時間くらい掛かるのでそれまで君達は時間を潰していたまえ。」
そういうときくりさんは再びおにころをちゅーちゅーし始めた。野草少女は俺のiP○dを勝手に操作している。
「これパスワードなに?」
……こいつ本当に大物だな。