それは、角が長くなっているという事だ。
深夜にも関わらず灯りが多く点いている、キヴォトスの都市。
そびえ立つビル群はこの学園都市の経済力と発展の大きさを如実に証明している。多くの学園やその部活・委員会が政治的権力を持ち、ロボットや獣人・生徒などが生活を送っている。その地では銃撃戦などが多く起きているが、この町の住人は体が頑丈であるためこの地の住人からすれば銃撃戦は日常の喧嘩みたいなもの。そのため時々銃撃戦が起きているのだ。
この超巨大学園都市のビルの上に、ある4人が堂々と立っていた。
「ふふっ………… 今日の依頼もキッチリと完遂するわよ!」
「何時も張り切っているけど、今日は随分と張り切っているね?」
「今回の依頼の報酬はお高いからね~♪」
「いやいや、そういう訳じゃないわよ」
「アル様、依頼を遂行する為に頑張ります!」
ビルの上に立つ人物達は、皆大人びたような雰囲気を出している。
一人は銀髪の小悪魔のような雰囲気を出す幼い少女、浅黄ムツキ。一人は銀髪と黒髪の少女、鬼方カヨコ。一人は紫髪のおどおどしている少女、伊草ハルカ。
そして最後の一人は、頭部の側部から角を生やす桃色の髪の女性、陸八魔アル。
彼女達4人はゲヘナ学園の不良生徒から成る零細企業「便利屋68」のメンバーだ。
「さて、そろそろ行きましょうか…… 便利屋68の出番よ!」
今日のアルは随分と気合が入っている。それは何時もの事であるのだが、今日は随分と張り切っている。その様子は大人びたような雰囲気とカリスマ性を持っているように見えるだろう。
普段アルはカリスマ性を持っているように見える…… のだが実際は抜けた所が多いポンコツで、見栄を張る事が多い。いざという時はリーダーシップを如何せん発揮するのだが、基本は少し見栄っ張り…… な人物だ。
では、何故此処まで自信があるのか。
それは、陸八魔アルの“とある変化”にある。
「相手は悪事を行う企業…… ふふっ、相手に不足は無いわね!」
陸八魔アルの頭部の側部から角が生えている。その角はまるで鬼が生やしていそうな角に見える。
普段のアルの角は10センチメートル程の長さだ。
だが、今のアルの角の長さは、
50センチメートルという長さだ。
こうなる前に時間を遡る。
『あれ? アルちゃん、角が少し長くなったような?』
『気付いたかしら? そうよ! 先月よりも1センチメートル伸びたのよ!』
『社長の角って、伸びるんだ……』
『凄いです! アル様! かっこよくなってます!』
便利屋68のオフィスでアルが何やら騒いでいたので、何事かと思い駆け付けてみると、そこには鏡の前で角に定規を当てているアルがいたのだ。定規を使っているのだから何かを測っているのだろうが…… 何を測っているのか?
アルは髪の長さを測っているのだろうか?
違った。
角の長さを測っていたのだ。
『最近少しずつ伸びるようになったのよ! 便利屋を始める前は1日で0.002ミリメートル位伸びていたんだけど、最近は1日で0.3ミリメートルも伸びるようになったわ!』
『定規で測れる長さじゃないでしょ……、社長…………』
『アルちゃん、テキトーな長さを言ってるんじゃない?』
『そそそそそ、そんな事無いわよ!』
『そこまで小さい長さを測れるなんて…… 流石はアル様です!』
アル曰く最近角が伸びるようになったらしい。キヴォトスでは角が生えている生徒は別に珍しくない。それどころか動物の耳や翼・尻尾を生やす生徒だっている。角位では別に驚く事ではない。現にカヨコは腰から片翼を生やしている。
そういう事もあってカヨコ達はアルの角を気にするなんて事は無かった。だからこそ角が伸びた事を喜んでいるアルを見て「何時ものアル(社長)だなぁ」とハルカ以外は思っているのだ。
その後、日が進む度にアルの角は少しずつ伸びていく。10センチメートル、15センチメートル、20センチメートル…… 少しずつ伸びていく。最近急に伸びる速度が早くなっている。それはカヨコ達も直ぐに分かった。角がどんどん伸びていく内にアルの見た目の威厳がどんどん増していく。
『ふふっ……、この長き角…… 正にアウトローと言うべき重圧を放っているわ! 多くの敵もこの角を見れば恐怖でのた打ち回るわ!』
『何か社長、少し大げさに言っているような……』
『そんな事は無いわ、この深淵を覗くかの如き黒と富を象徴するかのような金色の角は見る者を驚かせるのに十分よ! ふふ……、私も遂に至高のアウトローに到達する日は近いわね!』
『…………、何か無駄にかっこいいような…………』
『アルちゃん、自信あり過ぎ~』
『何だか何時もと雰囲気が違いますね…… 以前よりもかっこよくなっているような……』
角が伸びる度にアルの雰囲気も少しずつ変わってきている。大人びていて、少し高圧的な態度になっている…… 気がする。カヨコ達からすれば、何時ものカッコいい振りをしている…… と思ったが、そんな風に見えない。寧ろフリではなく“元”で言っているように見えるのだ。
『さぁ、今夜も行こうじゃないの…… 依頼と言う名のパーティーにね!』
『何だか、態々カッコいいように言ってないかな?』
『厨二病って奴かな?』
『えぇと…… かっこいいですけど、かっこ良過ぎて少しアル様らしくないような……』
角が長くなる度にアルの態度は大人びた、威厳を感じる喋り方になって来た。もしかしたら角の長さがアルの態度や威厳さに比例しているのだろうか。もしかしてアルってそういう種族や体質なのか? カヨコ達は薄っすらとそう思い始めた。
「今日も灯りが彩るこのキヴォトスで盛大にいこうじゃないの! さぁ! 金を貰えば何でも行い、最高のアウトローたる便利屋68! 任務を始めるわよ!」
そして現在に至る。もう直ぐ依頼による任務を実行しようとしているアルは自信満々だ。角が長く伸びてからは大体こんな調子だ。最初カヨコ達は少し戸惑いがあったものの、なんやかんやで慣れてしまった。
調子や態度が変わっただけではなく、戦闘能力も上がっているようだ。アル自身戦闘能力は決して低くないのだが、角が長くなってからは更に上がっているように感じる。指揮能力も上がっている事もあり、最近は依頼の成功が多くなったのだ。結果として最近は依頼成功による報酬のおかげで食事や賃貸料の支払いに困っていない。
それは嬉しい事ではあるのだが…… カヨコ達からすれば、何時ものアルではないように見えるので少し複雑な気分だ。
こうして、今回の依頼はすんなりと終わった。カヨコ達の実力の高さもあるが、アルの指揮能力や戦闘能力のおかげで直ぐに依頼は終わった。
「今日も依頼成功ね。ふふっ、相手はそこまで強くなかったわね…… その程度の実力で私達を迎え撃とうなんて100年早いわ。牢屋の中でじっくり反省しなさい」
「うぐぐ…… おのれ~! 便利屋68!!」
「その内此処にヴァルキューレが来るでしょう。まぁ、今からなら逃げても間に合わないでしょうけどね?」
「う、うウウゥゥゥぅ…………!」
こうして、依頼は終わった。依頼によりこの違法な銃を製造していた企業のお偉いさんは地に膝をつくしか出来なかった。依頼通りこの企業の鎮圧に成功し、違法の証拠も入手済み、騒ぎが大きかったのでヴァルキューレもそろそろ来るだろう。とはいえ便利屋68自体はお尋ね者なので直ぐに撤退予定だが。
「さて、帰りましょう!」
「は~い!」
「じゃあそこの裏道を通ろう。まだそこは安全だし」
「アル様、この会社はどうしますか? 爆破しちゃいますか?」
「その必要は無いわ。どのみちヴァルキューレが此処に来るから、後はヴァルキューレに任せましょう。悪事の証拠も把握してくれるでしょうしね。これ位叩いておけば、証拠を隠滅する隙を無くしたも同然だわ」
ハルカの質問に流暢かつ冷静に答えているアル。その様子は凛々しいかつ大物感を出している。角が長いから威圧感も中々のものだ。
(慣れたとはいえ、やっぱり何時もの社長っぽくないなぁ……)
(こういうアルちゃんは悪くは無いんだけど、アルちゃんらしくない感じだな~)
(何だかアル様、変わったように見えます~……)
少し雰囲気の変わったアルを見て、少々複雑な気分を感じながら、この場を後にした。
「なにこれええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
朝、便利屋68のオフィスでアルの大声が響いた。カヨコ達はその声を聞いて何事かと思いアルがいる部屋に入って来る。朝早い事もあり、皆パジャマを着ている。当然アルも着ている。
「その声だと敵襲じゃないね。一体どうしたの?」
「もしかしてゴキブリとか出た~?」
「アル様に纏わり付く虫なら、この私が消してみせます!」
当初は虫か何かが出たと思い、そこまで深刻にとらえていない。ただ、ハルカは爆弾とそのスイッチを持っている。どうやら虫を爆弾で吹き飛ばそうとしているようだ。アルの為なら即断即決する彼女であれば本当に爆破させかねないので、カヨコとムツキはそっと彼女を宥めた。
一体何故アルは大声で叫んだのか。
それは…………
「寝返ったら角が折れたわああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「…………………………………………?」」」
角が折れた?
アルの頭部の側部を見てみると、
アルの角が根元の近くでポッキリと折れていた。
「せ、せっかくの角が~…………」
「ていうか、何で折れたの?」
「寝ている時に何度か寝転んだら、バキッて音がして、鏡で見て見たらこうなってたわ…………」
「寝転んで折れる物なの……?」
確かアルの角はそこまで脆い物ではない…… 筈だ。もし脆かったら角が伸びる前の頃に折れてもおかしくないのだから。もしかすると、角が長くなる程脆くなる性質でもあるのだろうか?
「うぅ………… これじゃあ一流のアウトローに見えないわぁ…………」
「あ、アル様! 私が接着剤で直ぐにくっつけます!」
「今オフィスに接着剤ってあったっけ?」
「無いと思う。丁度切らしているし…… テープならあるけど」
「テープで付けたくないわ~!! カッコ悪いわ~!」
ハルカは接着剤を使って角をくっ付ける方法を提案するが、運悪く今は接着剤が無い。テープで付ける方法も拒否している。つまり、角を付ける手段は無いという事だ。
「うぅ…………、こんな惨めな姿で仕事は出来ないわ…………」
「だったらさ? やすりを使って角の折れた部分を削ってみたらどう? 上手く擦れば鋭い角に変えられるかも?」
「うぅ…… もうそれで良いわぁ…………」
「わ、分かりました! 早速持って来ます!」
(それで良いんだ…………)
鋭い角だったら刺さるのでは? と内心思いながら、カヨコはアル達の様子を少し冷めたような、しかし温かさがある目つきで見ていた。ある意味何時もの便利屋だな、と心の中で呟いた。
「んっ? 待って…… 鋭い角って、考えてみると結構威圧感が出るかも……?」
「多分ね…………」
「ヒナ委員長? どうしたのですか?」
「角が1センチ伸びた…… ふふっ、もう少しで……!」
「はぁ…………?」
「私の角が以前より伸びたぞ! この調子で伸びるがいい!」
「マコト先輩ー? なんだかたのしそー?」
他にも角がある人達は、アルのように角が長く伸びる事を楽しみにしていた。
ブルアカ世界の獣耳や角や尻尾を触ってみたいです。