「う、ん」
暗闇に沈んでいた意識が表層に引き戻され、壬生は瞳を開く。
体を起こし、痛む体を擦ると、
「目を覚ましたようね」
「七草先輩!?」
壬生は驚きながら真由美の顔を見る。
「覚えてる?」
真由美にそう問われ、思い出そうとするが、マルガムになった影響か、前後の記憶が朧気だ。
「確か私はマルガムにされたような」
「司波さんの証言に嘘はなさそうね」
真由美がそう言って振り返ると、そこには深雪や摩利達もいた。
「渡辺摩利!」
「ん?」
壬生の叫びに、摩利は驚いた顔をすると、
「摩利知り合いだったの?」
「あ、あぁ。入学してすぐの壬生と手合わせしたことがあったのだが」
「そんで恨み買うようなことしたわけか」
ボソッと毒を吐いたエリカに、摩利は表情を強張らせた。
その行動に思わず宝太郎は、
「なぁ、前から思ってたんだけどエリカって渡辺先輩への当たり強くね?」
「やっぱそうだよな?俺も思ってた」
理由を聞いても教えてくれないのだが、それでも何でだ?となる。と宝太郎とレオはこっそり言い合う。
そんな中、摩利は咳払いをして、
「壬生。私がお前に何かしたのか?」
「ふざけないで!私の気持ちを踏みにじっておいて!」
『え?』
「待て待て待て」
壬生の言葉に、思わず皆で摩利を見た。真由美はアラアラという顔をしている。
そんな状態に摩利は慌ててストップを掛け、
「私が何をしたって?」
「とぼけないでください!試合をしたとき、私は貴女に負けました。それ自体はいいんです。きちんとした勝負の上のことですから。でも貴女は試合の終わったあと、またお願いしたら、お前では相手にならないから別のやつにしろと言ってきたじゃないですか!」
「そりゃ恨みを買うわけね」
待て待てエリカ。と摩利は言い、
「私はそんなことは言っていないぞ」
「嘘よ!」
「落ち着け壬生。私があの時言ったのは、私ではお前の相手にならないから、別のやつにしとけと言ったんだ」
「え?」
「あの時点で純粋な剣の勝負ではギリギリだったんだ。そりゃあ魔法も込みなら負けるつもりはないが、すぐにでも私を追い越していただろう。と言うか実際、何度かお前の試合を見させてもらったが、とっくに私を超えていたぞ」
摩利は嘘をついているような顔には見えない。壬生は改めてあの時のことを思い出そうとするが、何故か靄がかかったようにハッキリとしない。
今の今まで摩利へ怒りを感じていたはずなのに、それすらもはっきりしなくなっていた。
「どういう……こと?」
「やはりそうでしたか」
「お兄様!?」
困惑する壬生を見ていた皆の背後から、達也の声が聞こえ、皆は振り返る。
そこには、十文字もいた。
「ちょうどそこで会ってな。色々話しながらきた」
「どういうこと?十文字君」
真由美の問いに、十文字は頷くと、
「先程調べた結果、今回の騒ぎの首謀者である司甲にはマインドコントロールの兆候が見られた」
『え!?』
「恐らくですが、今回の一件の裏にある組織。それが絡んでると思われます」
達也はそう言い、壬生を近づく。
「壬生先輩。エガリテと言う名に心当たりは?」
「エガリテ……えぇと確か司先輩が紹介してくれたような」
壬生はまたハッキリしない記憶を手繰り寄せ答える。
「魔法師同士の差別撤廃を掲げる団体だって」
「残念ですが。そんな組織じゃないですよ」
達也はそう言い、
「エガリテは反魔法師団体です。魔法師の優遇措置撤廃を掲げてはいますが、大元はブランシュと呼ばれる組織の下部組織ですよ」
「達也くん。何でブランシュの名前を。それは報道規制がされてるのよ」
真由美は達也の発言に驚くが、
「噂なんて言うのは幾ら規制しても拡がるものですよ」
と言って、背を向けて歩き出す。
「どこ行く気だ?司波」
「これからエガリテの拠点に乗り込みます」
十文字からの問いに、達也はなんてことないように答えた。
「もうどこから突っ込めば良いんだ?」
「最初からかな」
「相手の本拠地まで掴んでるって達也さんすごいねぇ」
3人でボソボソ喋りながら、達也を見ていると、
「一人で行かせるわけにはいかない。俺も同行しよう」
「十文字君!?」
十文字の提案に、真由美は驚く。
「待って、これ以上は警察の領分よ」
「警察を待っている時間はない。そうだろう?司波」
「はい」
達也が十文字の言葉に頷くと、
「なら私も」
「だめだ七草。お前は生徒会長だ。学校が有事の際に離れるわけにはいかない。同じ理由で風紀委員の渡辺もだ」
バレたか。と摩利は目を逸らす。すると、
「なら俺たちも行くぜ」
「アタシも」
レオとエリカが手を挙げ、
「勿論私も同行します」
深雪もそれに続く。
「皆さん気をつけてくださいね」
そんな皆を心配し、ほのかが声を掛ける中、
「宝太郎」
「分かってるよ」
雫に声をかけられ、宝太郎が頷くと、
「あ、やばい」
「どうした?」
「お、お腹がー!」
じゃあ皆気をつけていってきてなー!っと心配してきた達也を尻目に宝太郎はトイレにダッシュ。
今回の襲撃にはケミーが使われた。つまり、相手の本拠地にもケミーがいるかもしれない。そう判断し、宝太郎もこっそりついていくことにした。
なので個室に籠もると、
「よーし」
《ガッチャードライバー!》
宝太郎はドライバーを装着し、
《ホッパー1!スチームライナー!》
「変身!」
《ガッチャーンコ!スチームホッパー!》
こうして変身した宝太郎は、トイレの窓からこっそり出て行くのだった。
因みに、
「行っちゃったわね」
達也たちを見送り、真由美達はいった方向を見ていたのだが、
「ってか瀬乃のやついつまでトイレ行ってるんだ?」
『さ、さぁ?』
摩利の言葉に、冷や汗を掻きながらそっぽを向く二人がいたのだが、それは余談である。