魔法科高校の劣等生 ガッチャードクロス   作:ユウジン

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ゴルドダッシュ

「あっちぃ」

 

忙しく準備期間を過ごした暑さも真っ盛りの日。今日は遂に九校戦の日だ。厳密には、開催式がある日である。

 

明日から始まる九校戦の前に、代表が集まる式があるのだ。なので、今日はバスで代表選手や選手のCADの調整などを手掛けるエンジニアチームは、本日から現地入りし、応援などに行く在校生は、明日以降現地に向かう。

 

しかし宝太郎は、とある事情で別にではあるが、今日現地入りする予定だ。

 

「ほんと熱いねぇ」

「うん」

 

ほのかと雫も暑さのせいで元気がない。

 

魔法で風を起こしたり、空気を冷やしたりしてある程度涼しくしたり、汗など飛ばせるが、それでも暑いものは暑いのである。

 

「来たな」

 

そして、選手送迎用のバスの前には、達也が立っていた。相変わらず顔色一つ変えず……なんてことはなく、達也も少し暑そうだ。

 

「見送りか?」

「まぁな。後で俺もすぐ現地入りするけどな」

「そうか」

 

と言いつつ、雫が乗り込むのを見て、

 

「あれ?ほのかは?」

 

キョロキョロとほのかを探すと、パタパタと走りながらほのかが戻ってきた。どうやらバスで呑む飲み物をそこの自販機で買ったらしい。

 

「勝手に消えるなって」

「ごめんごめん。あ、これお見送りのお礼ね」

 

と言いながら、ほのかは宝太郎にジュースを渡してからバスに乗り込む。すると二人はバスから顔を出し、

 

「じゃあ後でね!」

「気を付けて」

「おう」

 

二人に手を振り返していると、

 

「最後の人が来たようだ」

「ん?」

 

走ってきたのは真由美だ。

 

「ごめんごめん。おまたせ」

「いえ、時間内ですよ」

 

聞いたところ、七草家からの呼び出しで遅れたらしい。十師族というのは忙しいようだ。

 

「達也君もお疲れ様」

「ありがとう御座います」

 

真由美の言葉に、達也は素直に礼を言う。しかし真由美の格好。サマードレスと言われるそれは、腕の露出が少し激しい格好だ。更に真由美は小柄だが、出るところはでているタイプなので、宝太郎は視線を逸らす。

 

「どうかな?達也君」

 

真由美はクルリと回り、達也にポーズ。非常に愛らしく、年頃の少年としては結構目に毒だ。と思いながら目を逸らした宝太郎の視線の先には、バスの窓が映り、

 

「っ!」

 

ビクッと後ずさった。何せその先には、ガラス越しにも分かる程、目を開いた。雫とほのかがいたからだ。

 

しかしそんな事は露知らず達也は、

 

「疲れてるんですね」

「へ?」

「バスではゆっくりお休みください」

 

と軽く流し、そのままバスに押し込んでしまった。

 

「これで全員だな」

「お前すげぇな」

 

顔色一つ変えず行った達也に、宝太郎は思わず褒めると、達也は何のことだ?という顔をした。

 

そんな事をしている間にバスは発進。それを見送ってから達也も、

 

「俺もエンジニアチームのバスで行く。それじゃあ後でな」

「気を付けてな」

 

宝太郎の言葉に、達也は頷き、後方のバスに乗り込むと、バスが動き出す。それも宝太郎は見送ってから、近くのベンチに腰を下ろした。

 

隣には()()()()()()が置いてあるそれは、日陰になっていて幾分涼しい。そこで涼を取りつつ、ジュースを一口。甘さが口いっぱいに拡がり、初めて飲んだが中々美味しい……って、

 

「ちょっとまてぇい!」

 

宝太郎は隣にあった荷物を見る。それは間違いなくほのかの物だ。

 

「あー。成程」

 

大体予想はついた。大方飲み物を買うため、一度ここに置いて買いに行き、慌てて飛び乗ったためそのまま忘れていったのだろう。実にほのからしいミスだ。うんうん。っと納得していたところに、ほのかから電話だ。それに宝太郎は出ると、

 

「アホほのかー!略してアホかぁああああああ!」

【ごめぇえええええええん!】

 

宝太郎の叫びが空に響く。さてどうしたものかと考えていると、

 

「お困りのようですね」

「うわっ!黒沢さん!?」

 

驚きながら声の方を見ると、そこにはバイクに跨る黒沢がいた。

 

「直接お会いするのはお久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

「そうですね」

 

彼女は黒沢知恵理。北山家のハウスキーパーにして、雫のお世話係。宝太郎も幼い頃からお世話になっている女性だ。

 

「雫お嬢様からほのか様が忘れ物をしたとお聞きし、宝太郎様がお困りかと思いこちらに直接来ました」

「流石仕事が早いね」

 

と言うと黒沢は笑い、

 

「丁度こちらを宝太郎様にお渡ししたく、ご自宅の方に向かっている最中でしたので」

 

宝太郎に見せるように、黒沢は体を横にずらす。

 

「アレを?」

「はい。宝太郎様はバイクの免許をお取りになってますよね?」

「入学する前に取りました」

 

昔は違ったようだが、現在は大型のバイクも、十五歳で取ることが出来る。厳密には十六歳だが、今年十六歳になる年であれば問題はない。

 

「でしたら問題ありません。まぁあれはケミーなので免許もいらないのですが」

「へ?」

 

宝太郎が黒沢の発言に驚いた瞬間、

 

「ゴルドダーッシュ!」

「ビークル属レベルナンバー7。ゴルドダッシュです」

「えぇ!?」

 

慌てて宝太郎が近寄ると、確かにケミーだ。

 

「すっごい。こんなケミーもいるんだ」

「更にですが」

 

黒沢は何枚かのケミーカードを取り出し、宝太郎に手渡す。

 

「インセクト属レベルナンバー2。ピカホタル。同じくレベルナンバー4バクオンゼミ。ジョブ属レベルナンバー1オドリッパ。ビークル属レベルナンバー4ゲキオコプター。アニマル属レベルナンバー3メカニッカニ。レベルナンバー7ツッパリヘビー。アーティファクト属レベルナンバー3ミテミラー。レベルナンバー8スマホーン。エンシェント属レベルナンバー1ナンモナイト。そしてゴルドダッシュの計10体のケミーを我が社のエージェントが捕獲に成功しました。こちらも宝太郎様にお渡しします」

「へへ。ありがとう黒沢さん。そして皆もよろしくね」

 

と宝太郎は言うと、ほのかの荷物を背負い、

 

「じゃあ行くね黒沢さん。あ、後で家にある俺の荷物を持ってきてもらえます?」

「お任せください」

 

ありがとう!と宝太郎はゴルドダッシュに跨ると、

 

「それとこちらは旦那様からのプレゼントです」

 

とヘルメットを渡してきた。

 

「潮さんには今度お礼言わなくちゃな」

 

宝太郎はそう言って、ヘルメットを装着すると走り出す。

 

「って待ってゴルドダッシュ。駄目だよそんなにスピード出したら。速度違反になっちゃう」

「ダーッシュ……」

 

何ていう二人のやり取りが、あったとかないとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~。良かったぁ」

「全くほのかは」

 

雫はやれやれと言った風に肩を竦めた。すると、

 

「噂の幼馴染君かな?」

「ヒューヒュー!」

 

後ろの席から声を掛けられ振り返ると、

 

「うん。そうだよスバル。エイミィ」

 

同級生でクラスメイトの里見スバルと、明智英美だ。エイミィと呼ばれる彼女は、外国人とのクォーターである。

 

二人共気さくで話しやすい良きクラスメイトだ。

 

「でもヒューヒューって別にそういう関係ってわけじゃないんだよ?」

「うっそぉ!だって二人がいつも一緒に登下校してる男の子がいるって有名だよ」

 

いつの間に……と二人は頰を掻くが、

 

「別に住んでる場所が隣なだけだよ?」

「あれ?でもほのかって一人暮らしじゃなかっけ?」

「うん。実家を出て一人暮らしをし始めるときに、近くの方が安心だよねって言われて隣になったの」

「そして私は良くほのかの家に入り浸ってるから一緒に登下校するほうが効率的」

 

と言うほのかと雫に、エイミィとスバルは顔を見合わせ、

 

「それは世間一般的に半同棲と言われるやつでは?」

「寝るときは自分の部屋に戻ってるもん」

 

それ言い換えれば寝る時以外は入り浸っているということでは?とエイミィとスバルは思うものの、

 

「な、仲いいんだね」

「そうだね。ずっと一緒だったから」

 

そういう雫だがスバルは、

 

「寧ろ逆になぜ何も無いんだ?」

「ってか両手に花って奴だよね?」

 

と言われ、雫とほのかの二人は空を見る。するとエイミィは、

 

「でも気づかない鈍感系主人公機ってのもいるか」

「エイミィ。それは漫画やアニメだけだ。現実にいるわけ……ないよな?」

 

スバルの問いかけに、益々二人は遠い目をした。

 

「そんなやつが現実にいるとは……」

 

スバルまで思わず天を仰いだが、

 

「で、でも良いところもあるんだよ?作った料理好き嫌いせず食べてくれるし」

「優しいし」

 

と援護する二人だが、

 

「手料理まで作ってもらってるのに全く気づかないってヤバくない?」

『ごふぅ』

 

エイミィの言葉に、雫とほのかが血を吐いた。その時、

 

『っ!』

 

突然の急ブレーキに、皆が大勢を崩しそうになる。

 

「なんだっ!」

 

克人は立ち上がり、他の皆も続いて外を見る。そこにいたのは、

 

「マルガム!?」

 

誰かの叫びに、皆は動揺。

 

(鳥みたいな形態のマルガム。ってことは恐らくホークスター!アニマル属レベルナンバー6の!)

 

雫は素早く黒沢にメールを打つ。宝太郎は今向かっているならば、出発したであろう時間を考えてもそんなに離れていないはずだ。

 

だが直接電話はここではできないので、黒沢を経由して宝太郎に電話をかけてもらうしかない。

 

後は宝太郎が来てくれるのを願うだけだ。

 

「ホォオク!」

 

だがマルガムが待ってくれるわけはなく、突っ込んでくる。

 

「ぬん!」

 

しかしそれを十文字家の魔法である、ファランクスが止める。

 

マルガムに魔法は効きにくい。だが十師族クラスの魔法力ならば、どうにかなる。

 

「どうするの?」

 

そう問う真由美に克人は、

 

「ここでは逃げ道がない。どうにか退けなければ」

 

と言った次の瞬間。

 

「ゴルドダーッシュ!」

 

後ろから炎を上げ、爆走してきたゴルドダッシュが後ろから来る。

 

「十文字先輩!ファランクスを解除してください!」

「っ!」

 

その声に、克人は素早く魔法を解除。ファランクスという壁がなくなり、そのままゴルドダッシュの体当たりをぶちかました。

 

「ホォオク!」

 

吹き飛ばされ転がるマルガムに、既に変身していた宝太郎はゴルドダッシュから降りながら見る。

 

「あれって新歓の時にも現れた!」

 

バスの中で誰かが叫び、宝太郎はサムズアップで応える。

 

「あ、これ!」

 

と宝太郎はバックを持って、窓からほのかに渡す。

 

「忘れ物!」

「何で君がほのかの荷物を?」

 

とスバルが問うと、

 

「あ、ええと……ホータロークンガコマッテタカラカワリニモッテキタンダ!」

 

そんじゃ倒してきまーす!っと宝太郎はマルガムに向かって走り出し、

 

(嘘が……)

(下手すぎるよぉ)

 

と雫とほのかが頭を抱えたのは秘密である。

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